条文原文
(勤務条件に関する措置の要求)
第四十六条 職員は、給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、人事委員会又は公平委員会に対して、地方公共団体の当局により適当な措置が執られるべきことを要求することができる。
(審査及び審査の結果執るべき措置)
第四十七条 前条に規定する要求があつたときは、人事委員会又は公平委員会は、事案について口頭審理その他の方法による審査を行い、事案を判定し、その結果に基いて、その権限に属する事項については、自らこれを実行し、その他の事項については、当該事項に関し権限を有する地方公共団体の機関に対し、必要な勧告をしなければならない。
(要求及び審査、判定の手続等)
第四十八条 前二条の規定による要求及び審査、判定の手続並びに審査、判定の結果執るべき措置に関し必要な事項は、人事委員会規則又は公平委員会規則で定めなければならない。
趣旨・立法背景
地方公務員は、地方公務員法五十二条以下により労働基本権が制限されている。職員団体を組織する権利は認められているものの、労働協約締結権は認められず、争議行為も禁止される。この制限に対する代償措置として設けられた制度の一つが、本条以下に定める勤務条件に関する措置の要求である。
制度の骨格は、職員個人が給与、勤務時間その他の勤務条件について、人事委員会又は公平委員会という第三者的行政機関に対し、地方公共団体の当局が適当な措置を執るべきことを要求できるという点にある。人事委員会又は公平委員会は要求を受けて審査を行い、判定を下し、自らの権限に属する事項は実行し、それ以外は権限を有する機関に対して勧告する。
この制度は、労働基本権制限の代償措置であるとともに、職員の勤務条件について専門的かつ中立的な第三者機関が関与することにより、人事行政の公正を確保する機能も担っている。第四十八条は、要求、審査、判定の具体的な手続を人事委員会規則又は公平委員会規則という下位規範に委任しており、各地方公共団体において実務上の細目を定める根拠となっている。
用語解説
措置要求 職員が給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、当局が適当な措置を執るべきことを人事委員会又は公平委員会に求める行為をいう。要求できるのは職員本人に限られ、退職した者や職員団体は要求主体になれない。
勤務条件 給与、勤務時間、休憩、休日、休暇その他職員が勤務するについて存する諸条件のうち、職員が自らの勤務を提供するかどうかの決心をするに当たり一般に考慮の対象となるべき利害関係事項をいう。組織に関する事項、行政の企画立案及び執行に関する事項、職員定数及びその配置に関する事項など、いわゆる管理運営事項は、原則として勤務条件そのものではないため対象から除かれる。
管理運営事項 地方公共団体の組織、運営、行政の企画立案及び執行に関する事項など、当局の権限に属する経営判断的事項をいう。判例上、管理運営事項に該当する事項であっても、それが職員の勤務条件に密接に関連する場合には措置要求の対象となり得るとされている。
口頭審理 人事委員会又は公平委員会が事案の事実関係を確認するために行う審査方法の一つであり、要求者や関係者から口頭で事情を聴取する手続をいう。書面審査のみによらず、必要に応じて口頭審理その他の方法を組み合わせて審査が行われる。
判定 人事委員会又は公平委員会が、審査の結果を踏まえて、要求の当否について示す最終的な結論をいう。判定は行政処分としての性質を有し、これに不服がある場合には取消訴訟の対象となる。
国家公務員法との比較
国家公務員法にも同種の制度が置かれている。第八十六条は次のように定める。
第八十六条 職員は、俸給、給料その他あらゆる勤務条件に関し、人事院に対して、人事院若しくは内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長により、適当な行政上の措置が行われることを要求することができる。
第八十七条 前条に規定する要求のあつたときは、人事院は、必要と認める調査、口頭審理その他の事実審査を行い、一般国民及び関係者に公平なように、且つ、職員の能率を発揮し、及び増進する見地において、事案を判定しなければならない。
第八十八条 人事院は、前条に規定する判定に基き、勤務条件に関し一定の措置を必要と認めるときは、その権限に属する事項については、自らこれを実行し、その他の事項については、内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長に対し、その実行を勧告しなければならない。
地方公務員法四十六条から四十八条までと国家公務員法八十六条から八十八条までは、審査機関を国においては人事院、地方においては人事委員会又は公平委員会とする点を除き、要求の対象、審査及び判定の枠組み、勧告の仕組みにおいてほぼ同一の構造を採る。国家公務員法八十六条が対象を俸給、給料その他あらゆる勤務条件と定めるのに対し、地方公務員法四十六条は給与、勤務時間その他の勤務条件と定めており、文言上の対象範囲の記述は同旨と解されている。手続の細目についても、国家公務員法の場合は人事院規則十三―二により、地方公務員法の場合は各人事委員会規則又は公平委員会規則により定められる構造が対応している。
なお、国家公務員倫理法及び同規程には、勤務条件に関する措置要求に相当する規定は置かれていない。同法は職務に係る倫理の保持を目的とする別個の規律体系であり、本条の解説対象である措置要求制度との直接の対応関係はない。
判例・裁判例
最高裁判所第三小法廷昭和三十六年三月二十八日判決(民集十五巻三号五百九十五頁)は、地方公務員法四十六条に基づく措置要求の申立てに対する人事委員会の判定が、取消訴訟の対象となる行政処分に当たるかが争われた事案である。最高裁は、人事委員会の判定は取消訴訟の対象となる行政処分に当たると判示した。この判決により、措置要求に係る判定は単なる事実上の応答ではなく、法的効果を伴う処分として司法審査に服することが確立された。
名古屋高等裁判所平成四年三月三十一日判決(労働判例六百十二号七十一頁)は、管理運営事項と措置要求の対象適格性が争点となった事案である。同判決は、管理運営事項に該当する事項であっても、それが職員の勤務条件に密接に関連する場合には措置要求の対象となり得るとの判断枠組みを示した。この判断枠組みは、管理運営事項か否かの形式的な区分のみによらず、当該事項が職員の勤務条件に及ぼす実質的な関連性を踏まえて対象適格性を判断すべきことを示すものであり、その後の実務における解釈基準として参照されている。
国家公務員法八十六条に基づく行政措置要求に関する事案ではあるが、東京高等裁判所令和四年六月十四日判決は、夜間勤務の担当を求める行政措置要求に対する人事院の判定の適法性が争われた事案であり、行政措置要求の対象事項の判断や判定の審査密度をめぐる近時の裁判例として、地方公務員法四十六条の解釈にも参考となる。
実務上の留意点
措置要求の対象は、勤務条件に該当しない事項、地方公共団体の管理運営事項に該当する事項、当該地方公共団体の権限に属さない事項には及ばない。もっとも、上記の名古屋高裁判決が示すとおり、管理運営事項に形式的に分類される事項であっても、勤務条件との密接関連性が認められれば対象となり得るため、要求の受理に当たっては実質的な検討が必要である。
要求できる者は、一般職に属する職員であり、常勤・非常勤を問わない。臨時的任用職員や条件付採用期間中の職員も要求主体となり得る一方、退職した者は職員でなくなっているため要求を行うことができない。また、地方公営企業の企業職員、特定地方独立行政法人の職員、単純な労務に雇用される職員については、地方公営企業法三十九条、地方独立行政法人法五十三条等により本条から第四十九条までの規定の適用が除外される場合があるため、対象者の確認には注意を要する。
第四十七条に定める勧告は、人事委員会又は公平委員会が権限を有しない事項について、権限を有する機関に対して行うものであり、勧告を受けた機関に対して当該勧告の内容を法的に強制する効力までは認められていない。このため、勧告の義務付けを求める訴訟の可否が問題となることがあるが、勧告自体は処分性を欠くとされ、義務付け訴訟の対象とはならないと解されている。
第四十八条により定められる人事委員会規則又は公平委員会規則には、要求書の記載事項、提出方法、代理人選任の可否、口頭審理の実施方法、判定の通知方法等が定められる。各地方公共団体によって規則の細目に差異があるため、実際に要求を行う際又は要求を受理する際には、当該地方公共団体の人事委員会規則又は公平委員会規則を個別に確認する必要がある。
なお、令和八年四月一日施行の地方公務員法関連改正において、第四十六条から第四十八条までの規定自体に直接の改正は加えられていない。措置要求制度の基本的な枠組みは、制定当初からの構造を維持している。
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