1 「紐づけ」には二つの別制度がある

相談の場で「マイナンバーと口座が紐づけられると聞いたが」と尋ねられることがある。その返答の前提として、まずここでは、性格の異なる二つの制度が併存しているという点である。

制度根拠法目的登録できる口座数
公金受取口座登録制度公金受取口座登録法(令和3年法律第38号)給付金等の受取口座を国(デジタル庁)に登録する一人一口座
預貯金口座付番制度口座管理法(令和3年法律第39号)金融機関にマイナンバーを届け出て口座に付番する制限なし(金融機関単位)

デジタル庁も両者は別制度であると明示しており、公金受取口座を登録していても、それだけで預貯金口座に付番が行われることはない。多くの相談者はこの二つをほぼ確実に混同しているため、丁寧に2つの制度の違いを説明して、最初に切り分けて説明するようにしている。

2 口座管理法により何ができるようになったか

口座管理法は2024年4月から段階的に施行され、2025年4月1日に制度が拡充された。これにより、次の三つが可能となっている。

  1. 一つの金融機関の窓口またはマイナポータルから、預金保険機構を経由して複数の金融機関へ一括してマイナンバーを届け出ること(一括付番)
  2. 相続発生時に、相続人が被相続人名義の付番済み口座の所在を全金融機関横断で照会すること(相続時口座照会)
  3. 災害時に、本人が自らの付番済み口座の所在を確認すること(災害時照会)

相続実務にとって決定的に重要なのは2である。従来、「不動産は分かるが、預貯金がどこにあるか分からない」という案件では、心当たりのある金融機関に一行ずつ残高証明を請求するほかなかった。通帳レス口座やネット銀行の普及により、物理的な手がかりはむしろ減っている。相続時口座照会は、この財産調査の在り方を構造的に変える制度である。

3 相続時口座照会の実務ポイント

制度の枠組みは次のとおりである。

  • 申込先は金融機関の窓口である。マイナポータルからは申し込めない。
  • 申込みができるのは相続人(包括受遺者を含む)であり、相続人が複数いても、いずれか1名が代表して照会する。
  • 手数料は1回の申請につき5,060円(税込)である。口座が確認できなかった場合でも返金されない。
  • 照会可能期間は、被相続人の死亡から10年後までである。
  • 被相続人のマイナンバーの提示は不要である。預金保険機構が住民基本台帳ネットワークから取得する。
  • 結果は預金保険機構から転送不要の書留で郵送される。申込み後に転居すると届かず、再申請と手数料の再負担が必要になる。
  • デジタル庁が指定する一部の金融機関は照会の対象外となる。対象外金融機関の一覧はデジタル庁サイトで随時更新されている(最新版は2026年4月1日付)。

実務上、最も注意すべき落とし穴

デジタル庁のFAQ(2026年3月31日更新)は、実務者が知っておくべき重要な注意喚起を行っている。

被相続人のマイナンバーは、申請書に記載された氏名・住所・生年月日をもとに住基ネットから取得される。この際、他人の番号を誤って取得しないよう厳格な一致確認が行われるため、提出した本人特定事項が正しくても番号を取得できず、照会が空振りに終わる事象が現に確認されている。

そのうえでFAQは次の点を指摘している。

  • 住所は表記揺れが生じないよう、確認書類の記載どおりに転記すること(「一丁目一番地一号」と「1-1-1」、「霞が関」と「霞ヶ関」、「髙」と「高」など)
  • 法定相続情報一覧図は、申請者が住民票の除票等を目視で転記して作成するため、かえって表記揺れのリスクがあること
  • 住基ネットの登録情報と一致する可能性が最も高い書類は、住民票の除票であること

法定相続情報一覧図は相続手続の万能キーだという常識が、この場面では逆に働く。相続時口座照会の申請にあたっては、住民票の除票を取得し、その記載を一字一句そのまま転記するというのが実務上の正解である。この一点を押さえているかどうかで、依頼者の5,060円と数週間が無駄になるかどうかが決まる。

4 生前の付番申出をどう案内するか

相続時口座照会は、被相続人が生前に付番していた口座しか捕捉できない。ここが制度の最大の限界である。現時点で高齢の被相続人が全口座を付番していた例はまだ少数であり、従来型の残高照会を代替するものではなく、あくまで補助的手段と位置づけるべきである。

裏を返せば、生前対策の提案項目として付番申出を組み込む意義は大きい。案内にあたっては次の点を押さえておく。

  • 届出はあくまで任意である。口座開設時や店頭での100万円超の国外送金時には金融機関から届出の意向を確認されるが、本人の届出なく付番されることはない。
  • 届出をきっかけに金融機関が国に残高を知らせることはない。国が口座情報を確認できるのは、従来どおり法令に基づく社会保障の資力調査や税務調査等の場合に限られる。
  • 付番する金融機関は選べるが、その金融機関内のどの口座に付番するかを個別に選ぶことはできない。休眠口座など一部の口座が付番されない場合がある。
  • 原則として、付番完了後に付番を取り消すことはできない。
  • 付番申請の際は、可能な限り自らマイナンバーを届け出た方がよい。番号を届け出ずに本人特定事項だけで申請すると、住基ネットからの番号取得に失敗する事象が確認されている。
  • 金融機関に登録されている氏名・住所・生年月日が最新でないと付番に失敗する。転居後に住所変更を届け出ていない口座は要注意である。

最後の一点は、実務では住所変更未了の口座があぶり出される契機にもなる。エンディングノートや財産目録の作成支援と組み合わせて案内すると、自然な流れで話が進む。

5 「国に資産を把握されるのではないか」という懸念への応対

70代・80代の相談者からは、ほぼ確実にこの質問が出る。事実関係として答えられるのは次のとおりである。

  • 現行制度において付番は任意であり、罰則もない。
  • 付番により残高や取引履歴が自動的に国へ共有される仕組みにはなっていない。
  • 税務調査における預貯金の調査は、マイナンバーの付番の有無にかかわらず従来から行われている。付番によって新たな調査権限が生じたわけではない。

一方で、預貯金口座への付番義務化や、資産を勘案した社会保障負担の議論は継続して存在する。この点を伏せずに、「現行制度はこうであり、将来の制度変更は別途議論されている」と正確に線を引いて説明している。断定的にものを言う自称専門家に要注意だ。

6 相続税・贈与税申告におけるマイナンバー

税務面の取扱いは制度開始当初から整理されており、実務の勘所は次のとおりである。

  • マイナンバーの記載が必要なのは、平成28年1月1日以降の相続または遺贈により財産を取得した者に係る相続税の申告書(平成28年分以降用)からである。
  • 記載が必要なのは申告をする相続人等の番号であり、被相続人のマイナンバーの記載は不要である(平成28年10月以降に提出する申告書から。第1表の被相続人の個人番号欄は削除されている)。
  • 番号を記載した申告書の提出時には、番号確認書類と身元確認書類の写しの添付が必要となる。
  • 相続税の申告書は連記式であるため、各相続人が自らの番号を記載した申告書を他の相続人に回すことになるが、これは番号法上の「特定個人情報の提供」には該当しないとされている。

実務上の遅速要因は、相続人全員分の番号確認書類・身元確認書類の収集である。疎遠な相続人がいる案件では、これだけで申告期限を圧迫する。遺産分割の交渉と並行して、初期段階で書類収集の依頼をかけておくのが定石である。

7 死亡後のマイナンバーカードの取扱い

遺品整理や死後事務の現場でよく問われる点である。

  • 死亡届の提出により住民票が消除されると、マイナンバーカードの効力は失われる。
  • カードの返納は義務ではない。市区町村窓口で返納することもできるが、原則は手元保管でよい。
  • 相続税申告、準確定申告、年金・保険金請求などの場面で被相続人の番号や記載事項が必要になることがあるため、諸手続が完了するまでは保管しておくのが合理的である。
  • 健康保険証としての利用登録は自動では終了しない。勤務先または市区町村の医療保険担当窓口で、死亡による資格喪失の手続が別途必要である。

遺品整理の受任時に、カード類を「とりあえず捨てる/返す」のではなく「手続が済むまで保管する」よう案内している。

8 財産調査の「照会三点セット」として整理する

相続時口座照会は単独で使うものではない。分野横断の名寄せ制度を組み合わせて初めて、財産調査の網羅性が担保される。相談時には次の表で全体像を示す。

調査対象制度・照会先費用(税込)
預貯金口座相続時口座照会(預金保険機構/金融機関窓口)5,060円
上場株式・投資信託等証券保管振替機構(ほふり)への開示請求6,050円(法定相続情報一覧図の写しを提出する場合は4,950円)
生命保険契約生命保険協会 生命保険契約照会制度WEB申請6,000円/書面申請7,000円(2026年4月改定。改定前は3,000円)

生命保険契約照会制度で分かるのは契約の有無のみであり、保険金額や受取人までは判明しない。契約が判明した保険会社へ個別に請求手続を行う必要がある。また共済は対象外である。

費用や取扱いは改定されうるため、受任時には必ず各機関の公式案内で最新の条件を確認したうえで見積りを提示すべきである。しばしば、これは依頼者に説明の難しい費用になることがある。昔は、自らの足でやっていたからだ。私もなるべくマメな法律家としてそうしている。

9 行政手続全体のデジタル化の動向

デジタル庁は「死亡・相続手続のオンライン・デジタル化」を政策として掲げ、死亡届・死亡診断書の提出のオンライン化、法定相続人の特定に係る遺族の負担軽減策について、厚生労働省・法務省とともに検討を進めている。2023年の死亡数は157万人を超え、調査開始以来最多となっており、社会全体の手続負担の増加が背景にある。

自治体レベルでは「おくやみコーナー」「おくやみ窓口」の設置が広がり、死亡届提出後の各種手続をまとめて処理できる体制が整いつつある。相談者には、まず市区町村の窓口に予約を入れるところから案内するとよい。

相続おもいやり相談室では言わずも名がであるが、制度が整備されればされるほど、単なる書類作成の代行としての価値は相対的に下がる。逆に、複数制度の全体像を示し、順序と落とし穴を含めて設計できる専門家の価値は上がる。相続時口座照会における住民票の除票の話は、その典型例である。


参考資料・参考サイト

※本稿の手数料・制度内容は執筆時点のものである。制度改正および料金改定の可能性があるため、実際の手続にあたっては各公式サイトで最新情報を確認されたい。

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