本稿は、令和8年(2026年)4月1日現在の現行地方公務員法に基づく解説である。第55条から第56条までは、職員団体と当局との関係を規律する三か条であり、第9節「職員団体」の締めくくりに当たる。第52条(職員団体の定義)、第53条(登録)を受けて、登録職員団体が現実にどのような活動をなしうるかを定める部分である。
1 条文原文
第55条(交渉)
第五十五条 地方公共団体の当局は、登録を受けた職員団体から、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、及びこれに附帯して、社交的又は厚生的活動を含む適法な活動に係る事項に関し、適法な交渉の申入れがあつた場合においては、その申入れに応ずべき地位に立つものとする。
2 職員団体と地方公共団体の当局との交渉は、団体協約を締結する権利を含まないものとする。
3 地方公共団体の事務の管理及び運営に関する事項は、交渉の対象とすることができない。
4 職員団体が交渉することのできる地方公共団体の当局は、交渉事項について適法に管理し、又は決定することのできる地方公共団体の当局とする。
5 交渉は、職員団体と地方公共団体の当局があらかじめ取り決めた員数の範囲内で、職員団体がその役員の中から指名する者と地方公共団体の当局の指名する者との間において行なわなければならない。交渉に当たつては、職員団体と地方公共団体の当局との間において、議題、時間、場所その他必要な事項をあらかじめ取り決めて行なうものとする。
6 前項の場合において、特別の事情があるときは、職員団体は、役員以外の者を指名することができるものとする。ただし、その指名する者は、当該交渉の対象である特定の事項について交渉する適法な委任を当該職員団体の執行機関から受けたことを文書によつて証明できる者でなければならない。
7 交渉は、前二項の規定に適合しないこととなつたとき、又は他の職員の職務の遂行を妨げ、若しくは地方公共団体の事務の正常な運営を阻害することとなつたときは、これを打ち切ることができる。
8 本条に規定する適法な交渉は、勤務時間中においても行なうことができる。
9 職員団体は、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程にてい触しない限りにおいて、当該地方公共団体の当局と書面による協定を結ぶことができる。
10 前項の協定は、当該地方公共団体の当局及び職員団体の双方において、誠意と責任をもつて履行しなければならない。
11 職員は、職員団体に属していないという理由で、第一項に規定する事項に関し、不満を表明し、又は意見を申し出る自由を否定されてはならない。
第55条の2(職員団体のための職員の行為の制限)
第五十五条の二 職員は、職員団体の業務にもつぱら従事することができない。ただし、任命権者の許可を受けて、登録を受けた職員団体の役員としてもつぱら従事する場合は、この限りでない。
2 前項ただし書の許可は、任命権者が相当と認める場合に与えることができるものとし、これを与える場合においては、任命権者は、その許可の有効期間を定めるものとする。
3 第一項ただし書の規定により登録を受けた職員団体の役員として専ら従事する期間は、職員としての在職期間を通じて五年(地方公営企業等の労働関係に関する法律(昭和二十七年法律第二百八十九号)第六条第一項ただし書(同法附則第五項において準用する場合を含む。)の規定により労働組合の業務に専ら従事したことがある職員については、五年からその専ら従事した期間を控除した期間)を超えることができない。
4 第一項ただし書の許可は、当該許可を受けた職員が登録を受けた職員団体の役員として当該職員団体の業務にもつぱら従事する者でなくなつたときは、取り消されるものとする。
5 第一項ただし書の許可を受けた職員は、その許可が効力を有する間は、休職者とし、いかなる給与も支給されず、また、その期間は、退職手当の算定の基礎となる勤続期間に算入されないものとする。
6 職員は、条例で定める場合を除き、給与を受けながら、職員団体のためその業務を行ない、又は活動してはならない。
第56条(不利益取扱の禁止)
第五十六条 職員は、職員団体の構成員であること、職員団体を結成しようとしたこと、若しくはこれに加入しようとしたこと又は職員団体のために正当な行為をしたことの故をもつて不利益な取扱を受けることはない。
読替えに注意すべき附則
附則第20項 第五十五条の二の規定の適用については、職員の労働関係の実態にかんがみ、労働関係の適正化を促進し、もつて公務の能率的な運営に資するため、当分の間、同条第三項中「五年」とあるのは、「七年以下の範囲内で人事委員会規則又は公平委員会規則で定める期間」とする。
第55条の2第3項の本文には「五年」とあるが、実際に適用される期間はこの附則により読み替えられる。多くの団体が平成9年4月1日付けで期間を7年と定める規則を制定しており、たとえば秋田市公平委員会規則第2号は、読替え後の期間を7年と定めている。条文だけを読んで「在籍専従は5年まで」と答えると誤りになるため、昇任試験の受験者はここを押さえておきたい。
2 趣旨・立法背景
2-1 労働基本権制約の代償としての交渉制度
憲法第28条は勤労者に団結権・団体交渉権・団体行動権を保障する。しかし地方公務員のうち一般職の非現業職員については、第37条第1項が争議行為を全面的に禁止し、第58条第1項が労働組合法・労働関係調整法・最低賃金法の適用を除外している。団体交渉権も、協約締結権を伴わない形に切り縮められている。
この制約が合憲とされる根拠は、制約に見合う代償措置が用意されている点に求められる。最高裁大法廷判決昭和48年4月25日(全農林警職法事件、刑集27巻4号547頁)は、国家公務員の争議行為禁止について、勤務条件が法律と予算により定められること、人事院による給与勧告制度が置かれていることを挙げ、代償措置が講じられていることを合憲判断の柱とした。地方公務員についても構造は同じで、人事委員会の給料表報告・勧告(第26条)、勤務条件に関する措置の要求(第46条)、不利益処分についての審査請求(第49条の2)と並んで、第55条の交渉制度が代償措置群の一角を占める。
したがって第55条は、単なる手続規定ではなく、憲法上の権利制約を正当化する仕組みの一部である。当局が形式的な理由で交渉を拒み続ければ、代償措置が空洞化するという評価につながる。
2-2 昭和40年改正による職員団体制度の整備
現在の第52条から第56条までの構造は、昭和40年法律第71号による全面改正で成立した。同法は、ILO第87号条約(結社の自由及び団結権の保護に関する条約)の批准に対応するもので、職員団体の登録制度を整えるとともに、第55条の次に第55条の2を加え、あわせて附則に在籍専従期間の特例規定を置いた。
第55条の2が新設された背景には、それまで在籍専従が明文の根拠を欠いたまま慣行的に行われ、勤務時間中の組合活動と職務専念義務(第35条)との関係が不明確であったという事情がある。同条は、原則禁止・例外許可という形で、団結権の実質的保障と公務能率の確保を調整した。
2-3 各項の立法趣旨
第1項(応諾義務)
当局は「その申入れに応ずべき地位に立つ」。労働組合法第7条第2号のような、誠実交渉義務を正面から課す文言ではないが、適法な申入れがあれば交渉のテーブルに着く法的地位に立たされる。交渉権を持つのは登録職員団体に限られ、未登録団体との交渉は禁じられないものの、当局に応諾義務は生じない。
第2項(協約締結権の否定)
勤務条件は条例で定めなければならない(第24条第5項)。議会の議決権と抵触しないよう、労働協約による勤務条件の直接規律を排除した。
第3項(管理運営事項の除外)
行政の企画・立案・予算編成といった、当局が自らの判断と責任において執行すべき事項を交渉対象から外す。昭和40年8月12日付け各都道府県知事あて自治事務次官通知は、この趣旨を明らかにしている。
第4項(交渉当事者たる当局)
交渉事項を適法に管理し、または決定できる当局が相手方となる。権限のない機関を相手に交渉しても実効性を欠くためである。
第5項・第6項(予備交渉と指名)
議題・時間・場所・員数をあらかじめ取り決める、いわゆる予備交渉を義務づけた。交渉が無秩序に長時間化し、庁舎の正常な運営を妨げる事態を防ぐ趣旨である。第6項は、専門的知見を要する議題について、役員以外の者を委任状によって指名する道を開いた。
第7項(打切り)
手続違反、他の職員の職務遂行の妨害、事務の正常な運営の阻害があれば、当局は交渉を打ち切ることができる。
第8項(勤務時間中の交渉)
職務専念義務の例外を法律で認めた規定である。第35条が「法律又は条例に特別の定がある場合を除く外」と定めていることに対応する。
第9項・第10項(書面協定)
団体協約ではないため法的拘束力を持たないが、双方に誠意と責任をもって履行する義務が課される。道義的責任にとどまるとされる一方、正当な理由なく履行しない態度は、その後の交渉の誠実性を疑わせる事情として評価されうる。
第11項(非組合員の意見表明の自由)
職員団体に加入していない職員が、給与や勤務時間について不満や意見を述べる自由を確保した。オープンショップ制(第52条第3項)と表裏をなす。
2-4 第55条の2の趣旨
第1項は、給与を受けながら職員団体の業務に専従することを原則として禁じる。ただし書は、登録職員団体の役員に限り、任命権者の許可を条件に専従を認める。許可は任命権者の裁量に委ねられており(第2項)、職員に許可請求権はない。
第5項が定める効果は重い。専従期間中は休職者とされ、いかなる給与も支給されず、退職手当の算定基礎となる勤続期間にも算入されない。専従は職員団体の活動として行われるものであり、公務の対価を受ける立場にないという整理である。
第6項は、専従に至らない日常的な組合活動についても、原則として給与を受けながら行うことを禁じる。ただし条例で定める場合は例外となる。この条例が、いわゆる「ながら条例」である。
2-5 第56条の趣旨
労働組合法第7条第1号に相当する規定である。ただし地方公務員には労働組合法が適用されないため(第58条第1項)、労働委員会による救済命令の仕組みは働かない。救済は、不利益処分に当たる場合は人事委員会・公平委員会への審査請求(第49条の2)、勤務条件に関する事項であれば措置要求(第46条)、それ以外は国家賠償請求または民事訴訟による。救済経路の違いが、第56条の最大の特徴である。
3 用語解説
「登録を受けた職員団体」とは、第53条に基づき人事委員会または公平委員会に規約と申請書を提出し、登録を受けた職員団体をいう。登録は職員団体の要件審査であり、認可ではない。登録により、交渉応諾義務の相手方となる地位(第55条第1項)、在籍専従許可の対象となる地位(第55条の2第1項ただし書)、法人格取得の申出資格を得る。
「勤務条件」とは、職員が地方公共団体に対し勤務を提供するについて存する諸条件で、職員が自己の勤務を提供し、またはその提供を継続するかどうかの決心をするに当たり、一般的に当然考慮の対象となるべき利害関係事項をいう。給与、勤務時間、休日、休暇、安全衛生、災害補償が典型である。
「管理運営事項」とは、地方公共団体の事務の管理および運営に関する事項で、当局が自らの判断と責任において処理すべきものをいう。行政の企画、立案、予算の編成のほか、組織の設置改廃、職員定数、職員の配置、条例案の企画、懲戒処分・分限処分の決定が挙げられる。
「団体協約」とは、労働組合法第14条にいう労働協約、すなわち規範的効力を持つ労使間の協定をいう。第55条第2項はこの締結権を否定する。
「書面による協定」(第55条第9項)は、法令・条例・規則・規程に抵触しない範囲でのみ成立し、規範的効力を持たない。協定に反する内容の条例が制定されても、条例が優先する。
「予備交渉」とは、本交渉に先立ち、議題・時間・場所・出席員数を取り決める協議をいう。第55条第5項後段が法定した。予備交渉が調わないまま行われる交渉申入れについては、当局に応諾義務が生じないと解されている。
「在籍専従」とは、職員としての身分を保有したまま、職員団体の役員として専らその業務に従事することをいう。第55条の2第1項ただし書に根拠を持つ。
「ながら条例」とは、第55条の2第6項の委任を受けて制定される「職員団体のための職員の行為の制限の特例に関する条例」の通称である。給与を受けながら職員団体の業務を行える場合を限定列挙する。
「ヤミ専従」とは、許可も職務専念義務の免除も受けないまま、勤務時間中に給与を受けながら職員団体の業務に従事する行為をいう。第35条違反であるとともに、第55条の2第1項・第6項に違反する。
4 判例・裁判例
4-1 管理運営事項の範囲
大阪高等裁判所判決昭和61年7月29日(京都市教協事件)は、管理運営事項と交渉事項の線引きが争われた事案として、政府の公務員制度検討資料でも参照されている。この分野で確立している考え方は次のとおりである。管理運営事項そのものは交渉の対象にできないが、管理運営事項の処理によって影響を受ける勤務条件は交渉の対象となる。たとえば組織改編の可否そのものは交渉できないが、改編に伴う勤務時間や配置の変更は交渉事項となる。
この区別は観念的には明快だが、現場では最も争いが起こりやすい。当局が「管理運営事項である」と述べれば交渉を回避できるという運用に傾くと、代償措置としての交渉制度が機能しなくなる。
4-2 管理運営事項を理由とする交渉拒否が否定された事例
大阪高等裁判所判決令和4年2月4日(大島眞一裁判長)は、大阪市が組合事務所の供与を議題とする団体交渉の申入れを、管理運営事項(地方公務員法第55条第3項)と労使関係条例を理由に拒否した事案について、大阪府労働委員会の救済命令を維持した一審判決を支持し、市の控訴を棄却した。大阪市は上告を断念し、判決は確定している。
この事件は、労働組合法が適用される職員を含む組合が申立人であったため労働委員会の審査手続によったが、当局が援用した根拠が第55条第3項であった点で、地方公務員法の解釈に直接関わる。便宜供与のあり方や不供与の理由の説明は、それ自体が組合の団結に関わる事項であり、管理運営事項の一言で交渉を拒める性質のものではないという判断が示された。
4-3 便宜供与の廃止と司法・労働委員会の判断の分岐
大阪市が庁舎内の組合事務所の使用を不許可とした処分について、大阪高等裁判所判決平成27年6月26日(志田博文裁判長)は、平成24年度の不許可のみを違法とし、労使関係条例の制定後である平成25年度・平成26年度の不許可は適法と判断した。一審の大阪地方裁判所は、条例の運用に団結権を侵害する意図があったとしていずれの処分も違法としていたが、控訴審はこれを改めた。最高裁は平成29年2月1日に組合側の上告を退け、組合は平成29年3月に事務所を明け渡した。
他方、中央労働委員会は平成27年11月26日、同じ事務所不許可について不当労働行為に当たると認定し、市に誓約文の手交を命じた。市長の政治的動機を主要な理由とする不許可に合理性はないという判断であった。
また、チェックオフ(組合費の給与天引き)の一方的な廃止通告については、東京高等裁判所が平成30年8月に支配介入に当たると判断し、最高裁は平成31年4月に市の上告を退けた。
同一の便宜供与をめぐって、行政訴訟と不当労働行為救済手続とで結論が分かれた。実務担当者は、条例を根拠に据えれば適法性が担保されるわけではないこと、動機と手続的配慮が判断を左右することを読み取るべきである。
4-4 ヤミ専従をめぐる近時の裁判例
神戸市では、市職員労働組合の役員が給与を受けながら長年にわたり組合活動に専従していた実態が平成30年に発覚した。市は平成30年9月18日に弁護士による第三者委員会を設置し、平成31年2月6日に組合幹部ら189人を懲戒処分とした。前執行委員長と前副委員長は停職1月、現職職員のうち19人が減給、31人が戒告となり、市長は給与を3か月間30パーセント減額した。
市は令和2年、退職手当の過払分合計4696万円の返還を求めて元組合役員8人を提訴した。神戸地方裁判所は請求権の時効消滅を理由に請求を棄却したが、令和4年の大阪高等裁判所判決は受給の違法性について判断していないとして原判決を破棄し差し戻した。元役員側の上告は令和5年に棄却され、差戻審の神戸地方裁判所判決令和7年3月5日(河本寿一裁判長)は、退職手当の算定方法は違法であったとしつつ、受給者が違法性を認識していたとは認められないとして市の請求を棄却した。
在籍専従の許可を取らずに専従状態を作り出せば、職員個人の懲戒責任、管理職の監督責任、公金支出の適法性という三方向の問題が同時に生じる。しかも過払金の回収は、時効と受給者の主観という壁に阻まれ、必ずしも成功しない。事後の回収より事前の管理が決定的に重要であることを、この一連の裁判は示している。
4-5 「不利益な処分」の意義
最高裁判所第一小法廷判決昭和61年10月23日は、地方公務員法上の不利益な処分を、当該地方公務員の身分などに変動を生じさせ、その結果として不利益な結果をもたらす処分を指すとした。第56条違反を審査請求で争えるかどうかは、問題の措置がこの意味の処分に当たるかで決まる。単なる配置換えのように、身分・俸給に法的効果としての変動を生じさせない措置は、審査請求の対象にならないと解されている。この場合、措置要求(第46条)または国家賠償請求によることになる。
5 改正の状況
第55条、第55条の2、第56条のいずれも、昭和40年法律第71号による整備以降、実質的な改正を受けていない。平成26年法律第34号(人事評価制度の導入と退職管理の適正確保)、平成29年法律第29号(会計年度任用職員制度の導入、令和2年4月1日施行)、令和3年法律第63号(定年の段階的引上げ、令和5年4月1日施行)のいずれにおいても、この三か条の文言は改められていない。令和8年4月1日時点でも同様である。改正がないことは、この分野の制度設計が昭和40年の枠組みのまま維持されていることを意味しており、その是非は公務員制度改革の議論の対象であり続けている。
条文が動いていない一方で、適用対象と運用は変化している。
第一に、会計年度任用職員は一般職の地方公務員であるから、第52条の職員団体を結成し、または加入することができ、第55条の交渉と第56条の保護が及ぶ。令和2年度の制度導入以降、会計年度任用職員の勤務条件が交渉議題となる場面は増えている。令和6年4月1日からは勤勉手当の支給が可能とされ、給与に関する交渉の幅が広がった。
第二に、運用面では総務省の技術的助言が繰り返し発出されている。平成21年3月27日付け総行公第21号・総財公第46号(総務省自治行政局公務員部公務員課長、自治財政局公営企業課長)通知は、「職員団体・労働組合に係る職務専念義務の免除等に関する調査結果」を踏まえ、勤務時間中の有給での活動は適法な交渉を行う場合に限られるべきこと、組合休暇は無給とすべきことを示し、不適切な制度・運用の速やかな是正を求めた。この通知は、地方公務員法第59条(総務省の協力及び技術的助言)と地方自治法第245条の4(技術的な助言)に基づくものである。
先行する通知として、平成18年1月18日付け総行公第6号(公務員部長通知)、ながら条例に関する昭和41年6月21日付け自治公第48号(行政局長通知)、昭和43年10月15日付け自治公一第35号(行政局長通知)、昭和43年10月17日付け自治公一第37号(公務員第一課長通知)がある。
第三に、条例準則との乖離が具体的な数値で把握されている。平成21年9月30日現在で、ながら条例は都道府県47団体、政令指定都市18団体、市区町村1721団体において制定されていた。総務省の調査は、適法な交渉のための移動時間について、交渉の場所に参集するのに要する20分から30分程度の時間を除き、「適法な交渉」の範囲には含まれないという解釈を示している。この基準を超えて有給扱いとしている運用は、条例準則の範囲を超えるものとして是正対象とされた。
6 国家公務員法との比較
対応する規定は、交渉が国家公務員法第108条の5、在籍専従が同法第108条の6、不利益取扱いの禁止が同法第108条の7である。構造はほぼ同一で、協約締結権の否定、管理運営事項の除外、予備交渉の義務づけ、勤務時間中の交渉の許容という骨格を共有する。
差異として押さえるべきは次の二点である。第一に、国家公務員の在籍専従期間は国家公務員法第108条の6第3項が7年以下の範囲内で人事院規則の定める期間としているのに対し、地方公務員は本則が5年、附則第20項の読替えにより7年以下の範囲内で人事委員会規則または公平委員会規則の定める期間となる。結果としての上限は同じでも、根拠の置き方が異なる。第二に、国では人事院規則17-2(職員団体のための職員の行為)が全国一律の基準を定めるのに対し、地方では各団体の条例に委ねられるため、団体間で運用に差が生じやすい。総務省が繰り返し是正を求めてきたのは、この構造に由来する。
なお、国家公務員倫理法および地方公共団体の職員倫理条例は、利害関係者との関係を規律するものであり、職員団体との交渉や在籍専従を対象とする定めを置いていない。本項の三か条について倫理法制と対比すべき論点はない。
7 実務上の留意点
予備交渉を記録に残す
議題・時間・場所・出席員数の取決めは、後日の紛争で交渉の適法性を判断する基礎資料となる。取決め内容と、それが遵守されたかどうかを文書化しておく。第7項による打切りを行う場合、打切りの理由が第5項・第6項違反なのか、事務の正常な運営の阻害なのかを特定して記録する。
管理運営事項を交渉拒否の万能の理由にしない
管理運営事項に該当するかどうかは、議題ごとに個別に判断する。組織改編や定数見直しの決定そのものは交渉対象外でも、それに伴う勤務時間、配置、給与上の取扱いは交渉対象となる。大阪高等裁判所判決令和4年2月4日が示したとおり、条文の名を借りた一律の拒否は、後に違法と評価される。
書面協定と条例の関係を説明できるようにする
協定は法令・条例・規則・規程に抵触しない範囲でのみ有効であり、議会の議決を拘束しない。この点を交渉の場で明示しないまま協定を結ぶと、条例化の段階で対立が再燃する。第10項の履行義務は誠意と責任のレベルにとどまるが、履行しない態度が支配介入と評価される余地は残る。
ながら条例の運用を条例準則と照合する
自団体の条例が、有給で認める範囲を「適法な交渉を行う場合」に限定しているかを確認する。「準備行為」といった広い文言を残していれば、大会や執行委員会への出席まで有給扱いされる余地が生まれ、ヤミ専従の温床となる。移動時間の取扱いも、参集に要する20分から30分程度を超えて有給としていないかを点検する。
在籍専従の許可事務を形式で終わらせない
許可には有効期間を定める必要がある(第2項)。期間中は休職者として給与を支給せず、退職手当の勤続期間にも算入しない(第5項)。役員でなくなれば許可は取り消される(第4項)。通算期間は職員としての在職期間全体で計算するため、過去の専従歴と、地方公営企業等の労働関係に関する法律第6条第1項ただし書による労働組合専従歴を控除する処理が必要になる。人事記録に専従期間を確実に記載しておく。
職務専念義務免除の申請と実績を突合する
ヤミ専従は、申請と実態の突合が行われていない職場で発生する。免除の申請書、勤務時間管理の記録、職員団体側の活動記録を照合できる体制を整える。管理職が黙認すれば監督責任を問われ、神戸市の例のように市長の給与減額にまで至る。
第56条違反の救済経路を誤らない
懲戒処分や降任のように身分に変動を生じさせる措置であれば、審査請求(第49条の2)で争う。配置換えのように法的効果としての不利益変動を伴わない措置は審査請求の対象にならず、措置要求(第46条)または国家賠償請求による。相談を受けた人事担当者は、この振り分けを誤らないことが求められる。
管理職員等の範囲を明確にしておく
第52条第3項ただし書の管理職員等は、管理職員等以外の職員と同一の職員団体を組織できない。その範囲は人事委員会規則または公平委員会規則で定める(同条第4項)。範囲が曖昧なままだと、当該団体が職員団体に当たらないという主張が生じ、交渉の適法性そのものが揺らぐ。
会計年度任用職員の取扱いを整理する
一般職である以上、職員団体への加入も交渉も第56条の保護も及ぶ。任期の定めがあることを理由に交渉を拒む対応は成り立たない。
8 昇任試験での問われ方
係長・課長昇任試験では、次の点が繰り返し問われる。
- 交渉応諾義務の相手方が登録職員団体に限られること(第55条第1項)
- 団体協約締結権がないこと(第55条第2項)と、書面協定の効力(第55条第9項・第10項)の区別
- 管理運営事項は交渉対象外だが、その処理により影響を受ける勤務条件は交渉対象となること(第55条第3項)
- 予備交渉の法定(第55条第5項後段)
- 適法な交渉は勤務時間中でも可能であること(第55条第8項)と、それが職務専念義務の法律上の例外であること
- 在籍専従は原則禁止・任命権者の許可により例外的に可能であり、休職者として無給、退職手当の勤続期間に不算入であること(第55条の2)
- 在籍専従期間の上限が附則第20項の読替えにより7年以下の範囲内であること
- 第56条違反に対する救済が労働委員会ではなく人事委員会・公平委員会または裁判所によること
論文では、条文の暗記だけでなく、代償措置としての交渉制度という位置づけと、自団体の運用課題(ながら条例の見直し、職務専念義務免除の管理)を結びつけて論じられるかが差になる。
9 参考資料・参考サイト
- 総務省「職員団体・労働組合に係る職務専念義務の免除等に関する調査結果」(平成21年3月27日報道資料) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02gyosei11_000001.html
- 「職員団体及び労働組合の活動に係る職務専念義務の免除等について(通知)」(平成21年3月27日付け総行公第21号・総財公第46号) https://www.soumu.go.jp/main_content/000013853.pdf
- 総務省「職員団体・労働組合に係る職務専念義務の免除等に関する調査結果について」 https://www.soumu.go.jp/main_content/000051799.pdf
- 総務省「公務員の労働基本権」 https://www.soumu.go.jp/main_content/000035137.pdf
- 行政改革推進本部「国家公務員・地方公務員における交渉制度」 https://www.gyoukaku.go.jp/senmon/dai8/siryou6.pdf
- 行政改革推進本部「交渉事項の範囲に関する論点について」 https://www.gyoukaku.go.jp/koumuin/kentou/working/dai22/siryou2.pdf
- 人事院規則17-2(職員団体のための職員の行為)の運用について https://www.jinji.go.jp/seisaku/kisoku/tsuuchi/17_shokuindantai/1701000_S43shokukumi961.html
- 自由法曹団通信第1771号(大阪市労組団交拒否事件・大阪高判令和4年2月4日の解説) https://www.jlaf.jp/03dantsushin/2022/0623_1228.html
- 厚生労働省「労働委員会関係 命令・裁判例データベース」 https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/h_index.html
- 自治総研「公務員労働裁判例回顧」(小川正) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jichisoken/48/524/48_47/_pdf/-char/ja
◆自治体研修850回超の行政書士が、係長・課長昇任試験の論文を1本から添削します。 https://compliance21.com/promotion-examination-lg/


