序 八か条の位置づけ
消防組織法第3章は、第14条から第17条までで消防職員に関する規律を置き、これに続く第18条から第25条までで消防団に関する規律を置く。両者は条文構造上、次のように対応している。
| 消防職員 | 消防団 | 規律の対象 |
|---|---|---|
| 第10条 | 第18条第1項・第2項 | 設置・名称・区域・組織 |
| 第11条 | 第19条 | 構成員の設置と定員 |
| 第12条 | 第20条 | 長の職とその権限 |
| 第14条 | 第21条 | 職務遂行の基本原則 |
| 第15条 | 第22条 | 任命 |
| 第16条 | 第23条 | 身分取扱い、階級・訓練・礼式・服制 |
| — | 第18条第3項 | 消防長・消防署長との関係 |
| — | 第24条・第25条 | 公務災害補償・退職報償金 |
対応しない部分にこそ制度の性格が表れる。消防職員側には第13条(消防署長)と第17条(消防職員委員会)があり、消防団側にはこれに相当する規定がない。逆に消防団側には第18条第3項(所轄)、第24条、第25条という固有の規定がある。消防団員の大半が非常勤の特別職地方公務員であり、地方公務員法による包括的な身分保障の枠外に置かれていることが、この非対称の背景にある。
消防団は第9条により市町村が設けるべき消防機関の一つとされる。消防本部・消防署と異なり、常備消防が整備された市町村においても消防団が廃止されることはほとんどなく、令和7年4月1日現在で全国に2,169団が存在する。
第1章 条文原文
以下は令和8年9月現在施行されている条文である(昭和22年法律第226号)。
第18条
(消防団) 第十八条 消防団の設置、名称及び区域は、条例で定める。 2 消防団の組織は、市町村の規則で定める。 3 消防本部を置く市町村においては、消防団は、消防長又は消防署長の所轄の下に行動するものとし、消防長又は消防署長の命令があるときは、その区域外においても行動することができる。
第19条
(消防団員) 第十九条 消防団に消防団員を置く。 2 消防団員の定員は、条例で定める。
第20条
(消防団長) 第二十条 消防団の長は、消防団長とする。 2 消防団長は、消防団の事務を統括し、所属の消防団員を指揮監督する。
第21条
(消防団員の職務) 第二十一条 消防団員は、上司の指揮監督を受け、消防事務に従事する。
第22条
(消防団員の任命) 第二十二条 消防団長は、消防団の推薦に基づき市町村長が任命し、消防団長以外の消防団員は、市町村長の承認を得て消防団長が任命する。
第23条
(消防団員の身分取扱い等) 第二十三条 消防団員に関する任用、給与、分限及び懲戒、服務その他身分取扱いに関しては、この法律に定めるものを除くほか、常勤の消防団員については地方公務員法の定めるところにより、非常勤の消防団員については条例で定める。 2 消防団員の階級並びに訓練、礼式及び服制に関する事項は、消防庁の定める基準に従い、市町村の規則で定める。
第24条
(非常勤消防団員に対する公務災害補償) 第二十四条 消防団員で非常勤のものが公務により死亡し、負傷し、若しくは疾病にかかり、又は公務による負傷若しくは疾病により死亡し、若しくは障害の状態となつた場合においては、市町村は、政令で定める基準に従い条例で定めるところにより、その消防団員又はその者の遺族がこれらの原因によつて受ける損害を補償しなければならない。 2 前項の場合においては、市町村は、当該消防団員で非常勤のもの又はその者の遺族の福祉に関して必要な事業を行うように努めなければならない。
第25条
(非常勤消防団員に対する退職報償金) 第二十五条 消防団員で非常勤のものが退職した場合においては、市町村は、条例で定めるところにより、その者(死亡による退職の場合には、その者の遺族)に退職報償金を支給しなければならない。
第2章 趣旨・立法背景
2-1 消防組から消防団へ
消防団の前身は、江戸期の町火消に淵源をもち、明治期以降は消防組として警察の統制下に置かれた組織である。昭和22年法律第226号による自治体消防の発足は、消防を警察から分離独立させ、内務大臣の指揮監督下にあった消防を市町村の責任に移管するものであった。制定当時の提案理由は、市町村長が消防を管理し、消防団のほか専任消防職員を置き、消防本部・消防署・訓練機関を設置するという設計を、民主化と地方分権の徹底として説明している。
もっとも制定時の条文は、消防団の位置づけについて必ずしも明快ではなかった。制定時の第9条は「市町村の消防事務を処理するため、市町村に、消防団の外、その必要に応じ、左に掲げる機関の全部又は一部を設けることができる」という書き方であり、消防団の存在を前提としつつも、その設置・組織・団員の身分に関する規定は乏しかった。
2-2 昭和26年法律第18号による基盤整備
消防団に関する規律の骨格が据えられたのは昭和26年法律第18号である。同法の提案理由は三点を挙げる。第一に、消防団、消防署、消防本部などの消防機関に法的根拠を与え、市町村に対してこれらの設置を義務付けること。第二に、非常勤の消防団員に対する災害補償制度を確立すること。第三に、消防団員の公職立候補禁止を解除することである。あわせて消防吏員の階級基準の統一化と消防団長の任命形式の整備が行われた。
第二点の説明が、現行第24条の理解にとって鍵となる。非常勤消防団員は特別職として地方公務員法の適用外に置かれるため、一般職の公務員災害補償制度が及ばない。この空白を埋めるため、消防組織法自身が補償義務を規定するという構成が採られた。第23条第1項が非常勤団員の身分取扱いを条例に委ね、その一方で第24条・第25条が補償と退職報償金だけは法律上の義務として市町村に課しているのは、この経緯による。
第三点も現在に通じる。消防団員は地域社会で信望を集める者が多く、公職の候補者となる例が少なくない。現行の公職選挙法においても、非常勤消防団員は在職のまま立候補できる扱いが維持されている。
2-3 昭和38年法律第89号による条文整序
昭和38年法律第89号は、消防職員に関する第14条の2から第14条の4までの新設と対をなす形で、消防団に関する規定を第15条から第15条の8までに整理した。
- 第15条 消防団の設置・名称・区域は条例、組織は規則、消防長・消防署長の所轄
- 第15条の2 消防団員の設置と定員
- 第15条の3 消防団長
- 第15条の4 消防団員の職務
- 第15条の5 消防団長は消防団の推薦に基づき市町村長が任命
- 第15条の6 身分取扱い、階級・訓練・礼式・服制
- 第15条の7 非常勤消防団員に対する損害補償等
- 第15条の8 非常勤消防団員に対する退職報償金
この八か条が、条番号の繰下げを経てそのまま現行の第18条から第25条までとなっている。消防職員側の三か条(第14条の2から第14条の4まで)と消防団側の八か条が同一の改正法で並置されたことにより、両者の対称性が条文上明示された。
2-4 平成18年法律第64号による条番号の繰下げ
平成18年法律第64号(平成18年6月14日公布・同日施行)は、消防組織法の全条文にわたって見出しおよび項番号を付し、枝番号を整理した。消防団関係の対応は次のとおりである。
| 改正前 | 改正後 | 見出し |
|---|---|---|
| 第15条 | 第18条 | 消防団 |
| 第15条の2 | 第19条 | 消防団員 |
| 第15条の3 | 第20条 | 消防団長 |
| 第15条の4 | 第21条 | 消防団員の職務 |
| 第15条の5 | 第22条 | 消防団員の任命 |
| 第15条の6 | 第23条 | 消防団員の身分取扱い等 |
| 第15条の7 | 第24条 | 非常勤消防団員に対する公務災害補償 |
| 第15条の8 | 第25条 | 非常勤消防団員に対する退職報償金 |
第24条については見出しの文言も改められた。改正前の第15条の7は「非常勤消防団員に対する損害補償等」であり、改正後は「非常勤消防団員に対する公務災害補償」となっている。消費税法施行令第14条第17号の引用箇所でも、同日付の政令改正により「損害補償等」が「公務災害補償」に置き換えられた。条文本体の実質は変わらないものの、制度の性格をより正確に表す用語へ統一されたものといえる。
同日の政令・省令・条例例の整理では、市(町村)非常勤消防団員に係る退職報償金の支給に関する条例(例)第1条の「第15条の8」が「第25条」に、市(町村)消防団員等公務災害補償条例(例)第1条の「第15条の7第1項」が「第24条第1項」に改められた。自治体側の関係例規を点検する際の起点となる日付である。
2-5 消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律
消防団に関する現在の政策枠組みを規定しているのが、平成25年法律第110号(消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律)である。東日本大震災を踏まえ、議員立法として成立した。消防組織法を改正するものではなく、これと並立する別個の法律として、国・地方公共団体の責務と施策の方向を定める構成を採る。
消防団に関する主な規定は次のとおりである。
- 第8条 消防団の強化。消防団が将来にわたり地域防災の中核として欠くことのできない代替性のない存在であることに鑑み、その抜本的な強化を図るための措置。
- 第9条 消防団への加入の促進。
- 第10条 公務員の消防団員との兼職に関する特例。一般職の国家公務員または一般職の地方公務員から報酬を得て非常勤の消防団員と兼職することを認めるよう求められた場合、任命権者は、職務の遂行に著しい支障があるときを除き、これを認めなければならない。この場合、国家公務員法第104条の許可または地方公務員法第38条第1項の許可を要しない。
- 第11条 事業者の協力。従業員の消防団への加入および活動が円滑に行われるよう配慮し、消防団活動のための休暇取得等を理由とする不利益な取扱いを禁じる。
- 第12条 大学等の協力。学生の消防団活動への理解と、適切な修学上の配慮その他の自主的な取組の促進。
- 第13条 消防団員の処遇の改善。出動、訓練その他の活動の実態に応じた適切な報酬および費用弁償の支給。
- 第14条 消防団の装備の改善等。
- 第15条 消防団の装備の改善に係る財政上の措置。
- 第16条 消防団員の教育訓練の改善および標準化。
第10条の兼職特例は、消防団員の約7割が被用者である実態に対応する規定である。第13条は、後述する令和3年の報酬基準策定の直接の根拠として引用されている。
2-6 令和3年の処遇改善
消防庁が令和3年4月13日付消防地第171号(消防庁長官通知)により「非常勤消防団員の報酬等の基準」を策定した背景には、団員数の急減がある。通知は、令和2年4月1日時点の消防団員数が81万8,478人と2年連続で1万人以上減少する状況にあること、特に20代の入団者数が10年間で約4割減少したこと、災害が多発化・激甚化する中で消防団の役割が多様化し団員一人ひとりの負担が大きくなっていることを挙げている。
基準の骨格は次のとおりである。報酬を年額報酬と出動報酬の二種類とし、年額報酬は「団員」階級の者について年額36,500円を標準とする。出動報酬は災害に関する出動について1日当たり8,000円を標準とする。これらの報酬とは別に、出動に係る費用弁償を交通費として措置する。報酬・費用弁償とも、活動記録等に基づいて市町村から団員個人に直接支給する。基準は令和4年4月1日から適用された。
通知は、団員個人に直接支給すべき経費と、団・分団の運営に必要な経費(装備・被服に係る経費、維持管理費、入団促進や広報に係る経費等)を適切に区別し、それぞれを市町村において予算措置すべきことも求めている。報酬を分団に一括交付して運営費に充てる従前の慣行を是正する趣旨である。
第3章 文理解釈
3-1 第18条
第1項は、消防団の設置、名称および区域を条例事項とする。第10条第1項が消防本部・消防署について同様の定めを置くのと並行する。市町村内に複数の消防団を置くことも、区域を分けて設置することも可能である。特別区の存する区域については、特別区の消防団の設置等に関する条例(昭和38年東京都条例第53号)が第18条第1項に基づく条例として機能している。
第2項は組織を市町村規則事項とする。団本部、分団、部、班といった内部編成がここで定められる。分団の名称・区域を規則の別表で列挙する例が一般的である。
第3項は、消防本部を置く市町村における消防団と常備消防との関係を定める。「消防長又は消防署長の所轄の下に行動するものとし」という文言が用いられている点に注意を要する。第12条第2項・第13条第2項が消防長・消防署長について「指揮監督する」と明記するのとは異なる表現である。
所轄とは、一般に、組織上の統轄関係の下に置かれることを意味し、個別の職務命令によって細部まで支配する指揮監督よりも緩やかな関係を指す。消防団は消防長の補助機関ではなく、市町村長が管理する消防機関として消防本部・消防署と並列に置かれている(第9条各号)。第18条第3項は、災害現場における行動の統一を確保するために両者の関係を調整した規定であり、消防団を消防本部の内部組織に組み込むものではない。第20条第2項が消防団長に所属団員の指揮監督権を与えていることと合わせて読めば、消防団内部の指揮系統は消防団長を頂点として完結し、消防長・消防署長はその外側から統轄的な地位に立つという構造が読み取れる。
同項後段は、消防長または消防署長の命令があるときの区域外行動を認める。第39条(市町村の消防の相互の応援)とは別に、同一市町村内で消防団の管轄区域を越えて行動する場合を想定した規定である。
3-2 第19条
第1項は消防団に消防団員を置くことを定める。第2項は定員を条例事項とする。
ここで第11条第2項との文言の差異が生ずる。消防職員について「消防職員の定員は、条例で定める。ただし、臨時又は非常勤の職については、この限りでない」とただし書が置かれているのに対し、第19条第2項にはただし書がない。消防団員は非常勤が原則であるから、ただし書を置けば定員規制が空洞化する。全団員が条例定数の対象となるという帰結は、実務上も意味をもつ。消防団員退職報償金支給責任共済契約の掛金は、消防団員等公務災害補償等責任共済等に関する法律施行令第4条第3項により、各年度について19,200円に前年度10月1日現在における非常勤消防団員の条例定員を乗じて得た額とされる。実員ではなく条例定員が課金基礎である以上、条例定数と実員が大きく乖離したまま放置されると、市町村は過大な掛金を負担し続けることになる。
令和7年4月1日現在の全国の条例定数は862,625人、実員数は732,223人であり、充足率は約85パーセントである。都道府県別には、条例定数と実員の乖離がより大きい地域もある。
3-3 第20条
第1項は消防団の長を消防団長とし、第2項は消防団長が消防団の事務を統括し所属の消防団員を指揮監督すると定める。第12条の消防長に対応する。
消防長については第13条が消防署長を置き、消防署長が消防長の指揮監督を受ける旨を定めるが、消防団についてはこれに相当する規定がない。副団長、分団長、部長、班長といった中間の職は、第18条第2項に基づく市町村規則と第23条第2項に基づく階級の定めにより設けられる。
3-4 第21条
「消防団員は、上司の指揮監督を受け、消防事務に従事する」という条文は、第14条と一字一句同一である。消防団員についても、職制上その職務を指揮監督する地位にある者の命令に従う義務が確認されている。
ただし根拠の構造は消防職員と異なる。消防職員については第16条第1項により地方公務員法第32条が適用され、本条は確認規定にとどまる。非常勤消防団員は特別職であって地方公務員法の適用を受けないため、服従義務の実定法上の根拠は第21条と、第23条第1項に基づく条例の服務規定に求めるほかない。第21条は、非常勤団員との関係では確認規定を超えた意味をもつ。
3-5 第22条
消防団長は「消防団の推薦に基づき」市町村長が任命する。消防団長以外の消防団員は、市町村長の承認を得て消防団長が任命する。
後段は第15条第1項後段と同じ構造であり、任命権者は消防団長、市町村長の承認は効力要件と解される。
前段が第15条第1項前段と異なる。消防長は市町村長が単独で任命できるのに対し、消防団長の任命には消防団の推薦という要件が加わる。消防団が地域の自発的な組織を母体とし、団員の多くが非常勤の地域住民であることを踏まえ、団の自律性を制度的に担保した規定である。
「消防団の推薦」の主体と手続は法律上明示されていない。実務上は、団本部会議、分団長会議、団員による投票など、市町村規則や消防団の内規で定めた方法によっている。推薦を欠く任命は違法であるが、その瑕疵が任命の無効をもたらすかは別論であり、この点も条文上は空白である。
3-6 第23条
第1項は、消防団員の身分取扱いについて三層の規律を置く。
- 「この法律に定めるもの」 第22条(任命)、第23条第2項(階級等)、第24条(公務災害補償)、第25条(退職報償金)が該当する。
- 常勤の消防団員 地方公務員法による。一般職の地方公務員であり、任用、給与、分限、懲戒、服務の各規定がそのまま適用される。
- 非常勤の消防団員 条例による。地方公務員法第3条第3項第5号が「非常勤の消防団員及び水防団員の職」を特別職として掲げているため、同法の適用がない。
平成29年法律第29号による会計年度任用職員制度の導入(令和2年4月1日施行)に際し、地方公務員法第3条第3項第3号の特別職の範囲は専門的な知識経験等を要する職に限定されたが、第5号の非常勤消防団員の職はそのまま維持された。会計年度任用職員への移行の対象とはならず、従前どおり条例で身分取扱いを定める枠組みが続いている。
報酬および費用弁償の根拠は、地方自治法第203条の2(普通地方公共団体の非常勤の職員に対する報酬及び費用弁償)である。令和3年の消防庁長官通知も、同条第1項および第3項に規定する報酬および費用弁償に係る基準として定められている。
第2項は、消防団員の階級ならびに訓練、礼式および服制を、消防庁の定める基準に従い市町村規則で定めるものとする。第16条第2項と並行するが、対象が「消防吏員」ではなく「消防団員」である点が異なる。消防団員の階級の基準(昭和39年消防庁告示第5号)第1条は、団長、副団長、分団長、副分団長、部長、班長および団員の7階級を掲げる。ほかに消防訓練礼式の基準(昭和40年消防庁告示第1号)、消防団員服制基準(昭和25年国家公安委員会告示第1号)がある。服制基準は令和6年7月5日消防庁告示第10号により改正されている。
3-7 第24条
非常勤消防団員が公務により死亡・負傷・疾病にかかり、または公務による負傷・疾病により死亡し、もしくは障害の状態となった場合の市町村の補償義務を定める。
規範の階層は「政令で定める基準に従い条例で定める」である。第15条第3項の参酌基準とは異なり、「従い」であるから拘束力が強い。政令の基準を下回る条例は違法となる。対応する政令が非常勤消防団員等に係る損害補償の基準を定める政令(昭和31年政令第335号)であり、療養補償、休業補償、傷病補償年金、障害補償、介護補償、遺族補償、葬祭補償の各給付を定める。補償額の算定基礎となる補償基礎額は、階級および勤務年数に応じて政令別表で定められ、給与水準の改定に合わせてほぼ毎年改正されている。
補償の実施主体は市町村であるが、その費用負担を平準化するため、消防団員等公務災害補償等責任共済等に関する法律(昭和31年法律第107号)に基づき、市町村は消防団員等公務災害補償等共済基金または指定法人との間で消防団員等公務災害補償責任共済契約を締結し、基金等が補償に要する経費を支払う仕組みが設けられている。同法の適用対象は非常勤消防団員に限られず、消防作業従事者、救急業務協力者、非常勤の水防団長・水防団員、水防従事者、応急措置従事者も含む。消防法第29条第5項による消防作業従事命令を受けた一般市民や、同法第35条の10第1項による救急業務協力者がここに含まれる点は、消防機関側からは見落とされやすい。
第2項は福祉事業の努力義務を定める。法的義務として行う損害補償を補完する付加的給付であり、外科後処置、補装具、リハビリテーション、療養生活の援護、介護の援護、就学の援護等が実施されている。共済契約を締結している市町村については、基金等がこれらの事業を市町村に代わって行う。
3-8 第25条
非常勤消防団員が退職した場合の退職報償金の支給義務を定める。死亡による退職の場合は遺族に支給する。
第24条と異なり、政令基準に従う旨の規定がない。支給額は市町村が条例で自由に定めうる建前である。もっとも実際には、消防団員等公務災害補償等責任共済等に関する法律第4条により市町村は消防団員退職報償金支給責任共済契約を締結するものとされ、同法施行令別表が定める支払額表が事実上の全国的な水準を形成している。条例がこの支払額表を上回る額を定めれば、差額は市町村の自己負担となる。
支払額は階級と勤務年数の組合せで定まる。令和6年政令第394号(令和6年12月27日公布、令和7年4月1日施行)により「35年以上」の勤務年数区分が新設された。改正後の支払額は、勤務年数5年以上10年未満の団員で200,000円、35年以上の団長で1,079,000円である。同日以後に退職した非常勤消防団員について適用され、同日前に退職した者については従前の例による。
第4章 用語解説
消防団 市町村が消防事務を処理するために設ける消防機関の一つ(第9条第3号)。法人格を有しない市町村の機関であり、任意団体ではない。後援会やOB会といった周辺の任意団体とは法的性格を異にする。
所轄 組織上の統轄関係の下に置かれること。個別の職務命令による支配を含意する「指揮監督」より緩やかな関係を指す。第18条第3項が消防団と消防長・消防署長との関係について用いる。
特別職 地方公務員法第3条第3項各号に掲げる職。同項第5号が「非常勤の消防団員及び水防団員の職」を掲げる。同法第4条第1項により、同法の規定は一般職に属するすべての地方公務員に適用されるから、特別職である非常勤消防団員には適用がない。
機能別消防団員・機能別分団 全ての災害対応・活動に参加する基本団員と異なり、入団時に決めた特定の活動・役割を担う消防団員および分団。大規模災害に限り出動する大規模災害団員、火災予防や広報活動のみに従事する団員などが例として挙げられる。令和7年4月1日現在、機能別団員は40,195人、機能別団員(分団)制度を導入している市区町村は803である。
年額報酬・出動報酬 非常勤消防団員の報酬等の基準(令和3年4月13日消防庁長官通知)が定める二種類の報酬。出動回数によらず年額で支払われるものと、出動に応じて支払われるものとを区別する。それまで市町村が「出動手当」の名称で支給していたものは、地方自治法上の性質としては報酬に整理された。
補償基礎額 非常勤消防団員等に係る損害補償の基準を定める政令が定める、各種補償額の算定基礎となる日額。階級および勤務年数に応じて区分される。
消防団員等公務災害補償等共済基金 消防団員等公務災害補償等責任共済等に関する法律に基づき設立された法人。市町村との共済契約により、公務災害補償と退職報償金の支給に要する経費を市町村に支払う。同法は総務大臣が指定した指定法人による事業実施も認めている。
消防団運営委員会 消防団の組織の整備を図り運営を円滑に行うために設置される附属機関。特別区の存する区域では、特別区の消防団の設置等に関する条例(昭和38年東京都条例第53号)により、都知事の附属機関として特別区ごとに置かれている。
第5章 改正沿革
5-1 法律の沿革
| 年 | 法令 | 内容 |
|---|---|---|
| 昭和22年 | 法律第226号 | 自治体消防の発足。消防団を市町村の消防機関として位置づけ |
| 昭和26年 | 法律第18号 | 消防機関の法定化と設置義務、非常勤消防団員の災害補償制度の確立、公職立候補禁止の解除、消防団長の任命形式の整備 |
| 昭和38年 | 法律第89号 | 第15条から第15条の8までへの整序。消防職員に関する規定と対称的な構成が完成 |
| 平成18年 | 法律第64号 | 第18条から第25条までへの繰下げ。見出し・項番号の付与。第24条の見出しを「損害補償等」から「公務災害補償」に変更 |
| 平成25年 | 法律第110号 | 消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律の制定(消防組織法とは別法) |
5-2 政令・告示の沿革
公務災害補償関係では、非常勤消防団員等に係る損害補償の基準を定める政令(昭和31年政令第335号)が補償基礎額の改定等に伴い頻繁に改正されている。直近では令和7年政令第37号(令和7年4月1日施行)、令和8年政令第10号(令和8年4月1日施行)がある。
退職報償金関係では、消防団員等公務災害補償等責任共済等に関する法律施行令(昭和31年政令第346号)別表の支払額表が、平成26年3月7日政令第56号(平成26年4月1日施行)、令和6年12月27日政令第394号(令和7年4月1日施行)により改定された。令和6年改正は、勤務年数区分に「35年以上」を追加したものであり、30年以上勤務した団員の支払額をさらに階層化する内容である。改正理由は非常勤消防団員の処遇改善と説明されている。
階級・服制関係では、消防団員の階級の基準(昭和39年消防庁告示第5号)が平成18年消防庁告示第12号により題名を「消防団員の階級準則」から改められた。消防組織法の条文が「基準」としているのに対し告示の題名が「準則」のままであった不整合を、平成18年の法改正に合わせて解消したものである。消防団員服制基準(昭和25年国家公安委員会告示第1号)は平成26年2月7日消防庁告示第1号、令和6年7月5日消防庁告示第10号により改正されている。
消防団の装備の基準(昭和63年消防庁告示第3号)は、東日本大震災の教訓を踏まえた消防団の装備充実の方針に基づき改正された。
5-3 報酬基準の沿革
令和3年4月13日、消防庁長官通知(消防地第171号)により「非常勤消防団員の報酬等の基準」が定められ、令和4年4月1日から適用された。令和4年3月23日付消防地第222号がこれを補足している。
適用状況は着実に改善している。年額報酬36,500円以上を定める団体の割合は、令和5年86.0パーセント、令和6年90.5パーセント、令和7年93.1パーセントと推移した。出動報酬8,000円以上を定める団体の割合は、同じく84.2パーセント、90.3パーセント、92.8パーセントである。直接支給についても、年額報酬で93.8パーセント、出動報酬で93.3パーセントの団体が対応済みとなっている。
裏を返せば、基準適用から3年を経てもなお1割弱の市町村が標準額に達していない。令和7年4月1日時点で年額報酬が2万円を下回る団体、出動報酬が1,000円台にとどまる団体も残っている。
第6章 法的性格と解釈上の論点
6-1 所轄と指揮監督の境界
第18条第3項の「所轄」が指揮監督と異なる概念であることは条文の文言から明らかであるが、その差異が災害現場でどこに現れるかは、条文だけでは決まらない。
実務上の帰結は次のように整理できる。消防長・消防署長は、消防団に対し、出動要請、部隊配置、任務付与といった活動の統一に必要な指示を行うことができる。他方、消防団員個人の服務、勤務時間の割振り、懲戒といった身分上の事項に立ち入ることはできない。これらは第22条により消防団長の任命権に属し、第23条第1項により条例の定めるところによる。
消防団員が火災現場で消防長の指示に従わなかった場合、消防長が直接に懲戒を行う権限はない。市町村長または消防団長が条例に基づく処分を行うことになる。指揮系統と懲戒系統が分離しているこの構造は、常備消防と消防団の連携における潜在的な摩擦要因であり、市町村規則および消防団に関する条例の設計にあたって意識すべき点である。
6-2 消防法上の権限主体としての消防団員
消防組織法が消防団員の職務を「消防事務に従事する」とだけ定めるのに対し、消防法は消防団員を個別の権限主体として名指ししている。
- 第4条の2 消防長または消防署長は、火災予防のため特に必要があるときは、消防対象物および期日・期間を指定して、当該管轄区域内の消防団員に立入検査・質問をさせることができる。消防本部を置かない市町村においては、非常勤の消防団員に限る。
- 第25条第3項 火災の現場において、消防吏員または消防団員は、関係者等に対し、消防対象物の構造、救助を要する者の存否その他必要な事項につき情報の提供を求めることができる。
- 第28条第1項 火災の現場において、消防吏員または消防団員は、消防警戒区域を設定して退去を命じ、出入を禁止し、または制限することができる。
- 第29条第1項 消防吏員または消防団員は、消火もしくは延焼の防止または人命の救助のために必要があるときは、火災が発生しようとし、または発生した消防対象物およびこれらのものの在る土地を使用し、処分し、またはその使用を制限することができる。
- 第29条第5項 消防吏員または消防団員は、緊急の必要があるときは、火災の現場附近に在る者を消防作業に従事させることができる。
これらはいずれも国民の権利義務に直接影響する公権力の行使である。非常勤の特別職が、消防警戒区域の設定や消防対象物の破壊処分という強力な権限を行使する構造になっている点は、他の行政分野にほとんど例を見ない。第29条第1項の破壊消防については、消防法第29条第3項にいう延焼防止のための緊急の必要が認められた事例として最判昭和47年5月30日がある。
第29条第5項による消防作業従事命令を受けた者が死傷した場合の補償は、消防法第36条の3が規定し、その実務は消防団員等公務災害補償等責任共済等に関する法律の枠組みで処理される。第24条の理解には、この横の広がりを押さえておく必要がある。
6-3 消防団の推薦を欠く消防団長任命の効力
第22条前段は消防団長の任命に消防団の推薦を要求する。推薦の主体・手続が法定されていないため、市町村規則や消防団の内規に委ねられる。
推薦を欠いたまま市町村長が消防団長を任命した場合、任命は違法である。しかし消防団長は消防法上の権限主体ではなく、その行為が直接に国民の権利義務を左右する場面は限られるため、処分の効力に波及する範囲は消防長の場合ほど広くない。むしろ問題となるのは、当該消防団長が行った団員の任命(第22条後段)の効力である。任命権者の地位に瑕疵がある場合でも、事実上の公務員の法理により団員の身分および公務災害補償の受給資格を維持する必要がある。
推薦手続を規則または条例に明記していない市町村は、この点を整備しておくべきである。
6-4 定員条例と実員の乖離
第19条第2項が全団員を条例定数の対象とすることの帰結は、前述のとおり退職報償金の掛金算定に及ぶ。掛金は条例定員に19,200円を乗じて算出されるため、実員が定員を大きく下回る状態が続けば、市町村は充足していない部分についても掛金を支払い続ける。
令和7年4月1日現在、全国の条例定数862,625人に対し実員は732,223人であり、差は13万人を超える。定員の見直しは団の規模縮小を意味するという心理的抵抗があるが、財政面からは無視できない論点である。もっとも、定員は災害時に必要な動員力の目標値でもあるから、単純な実員追随が適切とは限らない。機能別団員制度の活用により実員を回復させる方策と併せて検討すべき事項である。
6-5 非常勤性の限界と報酬の法的性質
消防団員は非常勤が原則であるが、活動の実態は必ずしも非常勤という言葉に収まらない。大規模災害時には連続して長期間の出動が求められる。東日本大震災では、公務災害等の認定を受けて殉職した消防団員は197人に上った。そのうち、殉職時に水門閉鎖作業をしていた団員は3人であるが、その直前に水門閉鎖または水門の状況確認をしていた団員を合計すると59人(29.9パーセント)が水門閉鎖等に関係していた。
こうした活動の対価としての報酬が、令和3年基準の適用前には年額数万円、出動手当数千円という水準にとどまっていた。令和3年基準による出動報酬の創設は、1日を7時間45分として予備自衛官等の類似制度を踏まえた額を設定するという考え方に立っており、労務対価としての性格を明確化するものといえる。
報酬の法的性質は地方自治法第203条の2の報酬であり、給与ではない。労働基準法の適用もない。最低賃金法の適用もない。この構造が維持される限り、報酬額の適正性を担保するのは市町村の条例と国の基準による誘導にとどまる。
6-6 報酬の直接支給と会計上の論点
令和3年基準が報酬等の団員個人への直接支給を徹底するよう求めたのは、分団への一括交付という従前の運用が広く見られたためである。この運用は、報酬の受給権者が団員個人であることと整合しない。分団に交付された報酬が団の運営費や慰労会費に充てられていた場合、団員の受給権を侵害するだけでなく、市町村の支出の適法性自体が問題となり得る。住民監査請求および住民訴訟の対象となる余地がある。
令和7年4月1日時点で、年額報酬の直接支給に対応していない団体は全国で約6パーセント残る。市町村としては、活動記録の整備、支給口座の把握、支給実績の記録保存を進めておく必要がある。
6-7 安全配慮義務の水準
市町村は消防団員に対して安全配慮義務を負う。その内容は、危難の現場との距離に応じて変動するというのが裁判例の立場である。宮崎市消防訓練事故事件(宮崎地判昭和57年3月30日)は、消防職員のように業務の性質上危難に立ち向かい身を曝さなければならない職員は、火災現場の消火活動や人命救助など現在の危難に直面した場合において使用者に自己の身を守るべき安全配慮義務を強く求めることはできないとしつつ、通常の火災予防業務、一般訓練、消防演習時などのように危難の現場から遠ざかるほど安全配慮義務が強く要請されるとして、危難との距離と安全配慮義務の濃淡が相関関係にあるという枠組みを示した。同時に、危難に立ち向かう職員が現場で臨機の行動をとりその職務を全うできるよう、使用者は十分な安全配慮をなした訓練を常日頃実施すべき義務があるとする。
この枠組みは消防団にもそのまま当てはまる。むしろ、消防団員は消防職員に比して訓練の量も装備の水準も劣ることが多いから、訓練場面および装備整備における安全配慮義務の要求水準はより高いと考えるべきである。消防操法訓練中の事故、車両の緊急走行中の事故、災害現場での退避判断の遅れは、いずれもこの文脈で評価される。
第7章 裁判例
7-1 消防団員に対する安全配慮義務
宮崎市消防訓練事故事件(宮崎地判昭和57年3月30日)
救助訓練中に訓練塔の足場から転落して死亡した消防職員の遺族が、市を被告として損害賠償を請求した事件である。地方公共団体は所属の地方公務員に対し、公務遂行のために設置すべき場所・施設・器具等の設置管理、または公務員が上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命および健康等を保護するよう配慮すべき義務を負うとした上で、その具体的内容は職種、地位および問題となる具体的状況によって異なるとした。危難との距離と安全配慮義務の濃淡が相関関係にあるという判示は、消防・防災分野の安全管理論の出発点となっている。
なお本件では、死亡した職員の上司である消防署長が業務上過失致死罪により罰金10万円の略式命令に処せられている(宮崎簡裁昭和53年1月6日)。安全用の網を張る等の措置をとり、それができない以上訓練は厳に差し控えるべき業務上の注意義務があったと認定された。訓練事故が刑事責任にまで及び得ることを示す事例である。
7-2 消防団幹部の警戒監視義務
繁藤災害国家賠償請求事件
昭和47年7月5日、高知県香美郡土佐山田町繁藤地区で、集中豪雨による土砂崩れで生き埋めになった消防団員1人の救出作業中に大規模な山腹崩壊が発生し、救出作業に従事していた者および見守っていた者等が生き埋めとなって、消防団員らを含む60人が死亡した災害である。消防団副団長らの不法行為責任が問われた。
第一審(高知地判昭和57年10月28日)は、消防団副団長には当時の集中豪雨の状況から十分な警戒監視体制をとり周到な避難措置を講じておくべき職務上の義務があったのにこれを怠ったとして責任を認めた。控訴審(高松高判昭和63年1月22日)は、当時の状況の下では大規模な地すべりの発生を予見することは困難であり、警戒監視体制をとり避難措置を講じておくべき義務はないとして、これを覆した。最高裁において平成3年9月5日に和解が成立している。
災害現場の指揮者が負う予見義務と結果回避義務の範囲について、第一審と控訴審で判断が分かれた事例であり、現在の消防団の安全管理を考える上でも参照価値がある。東日本大震災後に整備が進められた消防団の退避基準や安全管理マニュアルは、この種の予見可能性の問題を、個々の指揮者の判断に委ねるのではなく、事前に定めたルールにより処理しようとする発想に立つ。
7-3 消防団員の公務中の事故と市の責任
消防団消防自動車事故事件(名古屋地判昭和44年12月17日)
消防団員が火災現場に出場中、消防自動車に乗車していたところ、対向車を避けようとした同僚団員の運転の誤りにより車両が道路から約8メートル下の水田に転落し、その下敷きとなって死亡した事案である。判決は、市が消防自動車の運行供用者であり、運転していた者が市の特別地方公務員(消防団員)であって、事故が市の公務出動中に発生したものであるから、市は国家賠償法第1条第1項、自動車損害賠償保障法第3条、民法第715条による責任があるとした。
消防団員が特別職の地方公務員として国家賠償法第1条第1項の「公務員」に当たることを前提とする判断である。消防団員の行為により第三者に損害が生じた場合の市町村の責任、および消防団員相互間の事故における市町村の責任の双方に関わる。
7-4 消防活動と失火責任法
最判昭和53年7月17日
消防署職員の消火活動が不十分なため残り火が再燃して火災が発生した場合における公共団体の損害賠償責任について、失火ノ責任ニ関スル法律の適用があるとした。重過失がなければ責任を負わないという帰結になる。
消防団による消火活動についても同様に解される。消火活動の適否が事後に問われる場面において、責任判断の枠組みを画する先例である。
7-5 四類型の関係
以上は次のように整理できる。
- 市町村が消防団員に対して負う安全配慮義務(宮崎市消防訓練事故事件)
- 消防団幹部が現場で負う警戒監視義務と予見可能性の限界(繁藤災害事件)
- 消防団員の公務中の事故に対する市町村の賠償責任(消防団消防自動車事故事件)
- 消防活動の不備に対する責任の限定(最判昭和53年7月17日)
1と2が組織内部に向けた責任、3と4が対外的な責任という対比になる。消防団の法務は、この四つの軸のいずれかに整理して考えると見通しが立ちやすい。
第8章 実務上の留意点
8-1 条例・規則の体系の点検
消防団に関する市町村の例規は、次の四層で構成される。第18条から第25条までの各項がどの層に委任しているかを正確に対応させて整備する必要がある。
| 根拠 | 形式 | 内容 |
|---|---|---|
| 第18条第1項 | 条例 | 消防団の設置、名称、区域 |
| 第19条第2項 | 条例 | 消防団員の定員 |
| 第23条第1項 | 条例 | 非常勤消防団員の任用、給与、分限、懲戒、服務その他身分取扱い |
| 第24条第1項 | 条例 | 公務災害補償(政令基準に従う) |
| 第25条 | 条例 | 退職報償金 |
| 第18条第2項 | 規則 | 消防団の組織 |
| 第23条第2項 | 規則 | 階級、訓練、礼式、服制(告示基準に従う) |
条例と規則の振り分けを誤っている例が散見される。組織を条例で定めていたり、定員を規則で定めていたりする場合は是正を要する。
8-2 令和6年政令改正への対応
退職報償金の勤務年数区分に「35年以上」が追加され、令和7年4月1日から適用されている。消防庁は令和6年12月27日付消防地第644号によりこの旨を通知し、施行までに条例改正を遺漏なく進めるよう求めた。
条例が旧区分のままであると、35年以上勤務した団員に対して30年以上35年未満の額しか支給できない一方、基金からは新区分の額が支払われることになり、差額の帰属が問題となる。条例の別表を点検し、改正が漏れていないかを確認しておきたい。
8-3 報酬条例の水準確認
令和3年基準の標準額は、団員階級の年額報酬36,500円、災害出動に係る出動報酬1日当たり8,000円である。基準は標準額を上回る報酬額を否定する趣旨ではなく、基準適用日前に標準額を上回る額を定めていた団体は、処遇改善という趣旨に照らして検討することとされている。
団員より上位の階級にある者や機能別団員等の年額報酬については、市町村において業務の負荷や職責等を勘案し、標準額と均衡のとれた額を定める。機能別団員の報酬を基本団員と同額にするか、活動範囲に応じて減額するかは市町村の判断に委ねられるが、活動実態との対応関係を説明できる設計にしておく必要がある。
出動報酬を車両単位で支給している例、出動した人数に応じて額が変動する例、出動報酬を年額で支給している例が令和7年調査でも報告されている。いずれも基準の趣旨と整合しないため、見直しの対象となる。
8-4 直接支給の実務
報酬および費用弁償は、活動記録等に基づいて市町村から団員個人に直接支給する。実務上は次の整備が必要となる。
- 出動、訓練、警戒等の活動記録を、個人単位で記録・保存する体制
- 団員個人の口座情報の把握と更新
- 団・分団の運営に必要な経費(装備・被服、維持管理費、入団促進・広報経費等)を報酬とは別に予算計上すること
- 分団が従前プールしていた資金の取扱いを整理し、団員個人の報酬に由来する部分を切り分けること
分団の懇親会費等を報酬から徴収する運用が残っている場合、団員の同意の有無にかかわらず、市町村の支出としての適法性に疑義が生ずる。
8-5 公務災害補償の事務
公務災害の認定は市町村が行う。補償の実施も市町村の責任である。共済契約を締結している場合でも、基金等は経費を支払うにとどまり、認定権限は市町村にある。
公務遂行性の判断で問題となりやすいのは、活動の前後に付随する行為である。消防基金の公務災害認定事例集は、機械器具・消防施設等の点検・整備などの準備行為と、消防団活動終了後に行う同種の後始末行為を、消防業務を円滑に遂行するために行う必要行為として公務に付随する行為と位置づけている。訓練終了後のホース乾燥作業、水利調査および防火水槽の除雪作業からの帰路などが公務上と認定された事例がある。
他方、活動終了後の飲食を伴う会合については、その性格により判断が分かれる。市町村としては、公務として実施する行事の範囲を消防団の年間計画等で明確にしておくことが、事後の判断を容易にする。
補償の対象は非常勤消防団員に限られない。消防法第29条第5項による消防作業従事者、同法第35条の10第1項による救急業務協力者も同じ枠組みで補償される。一般市民が消火作業に協力して負傷した場合の処理手順を、あらかじめ整理しておきたい。
8-6 団員確保と機能別制度
団員数は令和7年4月1日現在732,223人であり、前年比14,458人(1.9パーセント)の減少である。入団者37,757人に対し退団者52,215人という構図が続いている。年齢構成では30代以下が33.5パーセントにとどまり、60歳以上が10.2パーセント(うち65歳以上4.5パーセント)を占める。
一方で、重点的な取組の対象とされてきた区分は増加している。女性団員29,478人(前年比883人増)、学生団員7,568人(同446人増)、機能別団員40,195人(同2,615人増)である。女性団員がいる消防団は1,775団で、全体の81.8パーセントに達した。機能別団員(分団)制度を導入している市区町村は803である。
制度設計上、機能別団員も第19条第2項の条例定数に含まれ、第23条第1項の条例による身分取扱いに服し、第24条・第25条の適用を受ける。活動範囲を限定することと、身分上の取扱いを基本団員と区別することは別問題であるから、条例において機能別団員の任用要件、活動範囲、報酬額を明確に規定しておく必要がある。
8-7 兼職と事業者の協力
消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律第10条により、一般職の国家公務員・地方公務員が報酬を得て非常勤消防団員と兼職することを求められた場合、任命権者は職務の遂行に著しい支障があるときを除き、これを認めなければならない。国家公務員法第104条または地方公務員法第38条第1項の許可は不要である。
被用者である消防団員の割合が高い状況において、同法第11条が事業者に対し、従業員の消防団活動のための休暇取得等を理由とする不利益な取扱いを禁じている点も、団員の相談を受ける場面では押さえておきたい。ただし同条は事業者に対する努力義務および禁止規定であって、私法上の効力や罰則を伴うものではない。
参考資料
法令
- 消防組織法(昭和22年法律第226号) e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000226
- 地方公務員法(昭和25年法律第261号) 特に第3条第3項第5号、第4条、第38条
- 地方自治法(昭和22年法律第67号) 第203条の2
- 消防法(昭和23年法律第186号) 第4条の2、第25条第3項、第28条、第29条、第36条の3
- 消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律(平成25年法律第110号) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/18520131213110.htm
- 消防団員等公務災害補償等責任共済等に関する法律(昭和31年法律第107号) https://laws.e-gov.go.jp/law/331AC0000000107
- 非常勤消防団員等に係る損害補償の基準を定める政令(昭和31年政令第335号) https://laws.e-gov.go.jp/law/331CO0000000335/
- 消防団員等公務災害補償等責任共済等に関する法律施行令(昭和31年政令第346号)
- 消防団員等公務災害補償等責任共済等に関する法律施行規則 https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50000002005/
制定・改正法の原文
- 法律第226号(昭和22年12月23日) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/00119471223226.htm
- 消防組織法の一部を改正する法律(昭和26年法律第18号) 名古屋大学法令データベース https://jahis.law.nagoya-u.ac.jp/lawdb/l/326a0018/compare/326a0018en
- 法律第89号(昭和38年4月15日) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/04319630415089.htm
- 消防組織法の一部を改正する法律(平成18年法律第64号) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/16420060614064.htm
告示
- 消防団員の階級の基準(昭和39年消防庁告示第5号)
- 消防訓練礼式の基準(昭和40年消防庁告示第1号)
- 消防団員服制基準(昭和25年国家公安委員会告示第1号) https://www.fdma.go.jp/laws/kokuji/post18/
- 消防団の装備の基準(昭和63年消防庁告示第3号)
- 消防庁告示一覧 https://www.fdma.go.jp/laws/kokuji/
通知・行政資料
- 消防団員の報酬等の基準の策定等について(令和3年4月13日消防庁長官通知・消防地第171号) https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/030413_chibou_2.pdf
- 「消防団員の処遇等に関する検討会」中間報告書及び消防庁長官通知(令和3年4月13日) https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/210413_chibou_01.pdf
- 消防団員の処遇改善について(令和3年5月28日 消防庁国民保護・防災部地域防災室) https://www.soumu.go.jp/main_content/000758697.pdf
- 消防組織法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整理に関する政令等の施行等について(平成18年6月14日消防総第328号ほか) https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/assets/180619syo328.pdf
- 消防団員等公務災害補償等責任共済等に関する法律施行令の一部を改正する政令の公布(令和6年12月27日) https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/80c06c812b5933029c5cb8870723ea547119ce45.pdf
- 消防団の組織概要等に関する調査(令和7年度)の結果(令和7年8月29日 総務省消防庁) https://www.soumu.go.jp/main_content/001025061.pdf
- 消防団員の処遇について(消防団オフィシャルウェブサイト) https://www.fdma.go.jp/relocation/syobodan/welcome/pay/
- 受傷事故発生に伴う責任に関する判例(消防庁検討会資料) https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento251_28_siryo2.pdf
- 公務災害認定事例集(消防団員等公務災害補償等共済基金) https://www.syouboukikin.jp/intro/pdf/saigai001.pdf
- 消防団員退職報償金支給責任共済のしくみ(消防団員等公務災害補償等共済基金) https://www.syouboukikin.jp/intro/post_4.html
- 東日本大震災時の水門閉鎖作業による消防団の関連死について(内閣府資料) https://www.bousai.go.jp/kaigirep/pdf/210129_sanko02.pdf
裁判例
- 最判昭和47年5月30日(消防法第29条第3項にいう延焼の防止のために緊急の必要があったと認められた事例)
- 最判昭和53年7月17日(消防署職員の消火活動が不十分なため残り火が再燃した場合と失火ノ責任ニ関スル法律の適用)
- 宮崎地判昭和57年3月30日(宮崎市消防訓練事故事件・安全配慮義務)、関連刑事事件として宮崎簡裁昭和53年1月6日略式命令
- 高知地判昭和57年10月28日、高松高判昭和63年1月22日(繁藤災害国家賠償請求事件。最高裁において平成3年9月5日和解成立)
- 名古屋地判昭和44年12月17日(消防団消防自動車事故事件・豊橋市)
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