序 市町村消防の原則に対する二つの修正

消防組織法第3章は、第6条で市町村が区域における消防を十分に果たすべき責任を有すると定めることから始まる。市町村消防の原則である。第7条が市町村長による管理を、第8条が市町村による費用負担を定め、第9条以下が消防機関の組織と人事を規律する。

第26条から第30条までは、この第3章の締めくくりに置かれ、市町村消防の原則に対する二つの修正を規定する。

第一の修正が特別区に関する特例である(第26条から第28条まで)。人口が高度に集中する大都市地域において、各特別区が個別に消防責任を負う形では消防力の一体性を確保できない。そこで特別区が連合して責任を負い、その消防を都知事が管理するという構成が採られた。

第二の修正が都道府県による補完である(第29条・第30条)。市町村が消防責任の主体であることを前提としつつ、市町村単独では対応が困難な領域について都道府県が事務をつかさどり、また航空機による支援を行う。

いずれの修正も、市町村消防の原則を覆すものではない。第36条が市町村の消防は消防庁長官または都道府県知事の運営管理・行政管理に服することはないと明記しており、第29条・第30条の事務も、この枠内で理解されるべきものである。


第1章 条文原文

以下は令和8年9月現在施行されている条文である(昭和22年法律第226号)。

第26条

(特別区の消防に関する責任) 第二十六条 特別区の存する区域においては、特別区が連合してその区域内における第六条に規定する責任を有する。

第27条

(特別区の消防の管理及び消防長の任命) 第二十七条 前条の特別区の消防は、都知事がこれを管理する。 2 特別区の消防長は、都知事が任命する。

第28条

(特別区の消防への準用) 第二十八条 前二条に規定するもののほか、特別区の存する区域における消防については、特別区の存する区域を一の市とみなして、市町村の消防に関する規定を準用する。

第29条

(都道府県の消防に関する所掌事務) 第二十九条 都道府県は、市町村の消防が十分に行われるよう消防に関する当該都道府県と市町村との連絡及び市町村相互間の連絡協調を図るほか、消防に関し、次に掲げる事務をつかさどる。
一 消防職員及び消防団員の教養訓練に関する事項
二 市町村相互間における消防職員の人事交流のあつせんに関する事項
三 消防統計及び消防情報に関する事項
四 消防施設の強化拡充の指導及び助成に関する事項
五 消防思想の普及宣伝に関する事項
六 消防の用に供する設備、機械器具及び資材の性能試験に関する事項
七 市町村の消防計画の作成の指導に関する事項
八 消防の応援及び緊急消防援助隊に関する事項
九 市町村の消防が行う人命の救助に係る活動の指導に関する事項
十 傷病者の搬送及び傷病者の受入れの実施に関する基準に関する事項
十一 市町村の行う救急業務の指導に関する事項
十二 消防に関する市街地の等級化に関する事項(消防庁長官が指定する市に係るものを除く。)
十三 前各号に掲げるもののほか、法律(法律に基づく命令を含む。)に基づきその権限に属する事項

第30条

(都道府県の航空消防隊) 第三十条 前条に規定するもののほか、都道府県は、その区域内の市町村の長の要請に応じ、航空機を用いて、当該市町村の消防を支援することができる。
2 都道府県知事及び市町村長は、前項の規定に基づく市町村の消防の支援に関して協定することができる。
3 都道府県知事は、第一項の規定に基づく市町村の消防の支援のため、都道府県の規則で定めるところにより、航空消防隊を設けるものとする。


第2章 趣旨・立法背景

2-1 特別区の特例(第26条から第28条まで)

第26条から第28条までは、昭和22年法律第226号の制定当時から置かれていた規定である。当時の条文は第16条から第18条までであり、内容は次のとおりであった。

第十六條 特別区の存する区域においては、特別区が連合してその区域内における第六條に規定する責任を有する。 第十七條 前條の特別区の消防は、都知事がこれを管理する。 2 特別区の消防長は、都條例に從い、都知事がこれを任命し、一定の事由により罷免する。 第十八條 前二條に規定するものの外、特別区の存する区域における消防については、特別区の存する区域を以て一の市とみなし、市町村の消防に関する規定を準用する。

第16条と第18条は、表記の現代化を除いて現行の第26条・第28条と同一である。制定当初から変更されていない数少ない条文に属する。

制定時の議論では、消防を警察から分離独立させ、内務大臣の指揮監督下にあった消防を市町村の責任に移管することが主眼とされた。特別区の存する区域については、旧東京市の区域が22区(当時)に細分されており、各区が個別に消防責任を負えば大都市の消防力が分断される。そこで特別区を単独の責任主体とせず「連合して」責任を負わせ、その管理を都知事に委ねる構成が採られた。

自治体消防制度が発足した昭和23年3月7日、特別区の存する区域の消防機関は当初「東京消防本部」として設置された。その直後、連合国軍総司令部の関係者と東京都・警視庁・東京消防本部の関係者による会議が開かれ、警察と消防は同格であり地位および待遇も同一であるべきだという考え方が示された。この意向を直接の契機として、同年5月に「東京消防庁」への名称変更が行われている。

国の機関の側では逆の動きがあった。「国家消防庁」は、その置かれた国家公安委員会が総理府の外局であったため国家行政組織法上の外局とはいえず、「庁」の名称を用いることは適当でないという意見があり、行政組織の簡素化の一環として昭和27年7月1日に「国家消防本部」に改められた。国が「庁」から「本部」へ、東京が「本部」から「庁」へ進んだこの交差は、当時の組織名称をめぐる考え方の揺れを示している。

第27条第2項は昭和38年法律第89号により改正された。改正前は「都條例に從い、都知事がこれを任命し、一定の事由により罷免する」であったものが、「特別区の消防長は、都知事が任命する。」と簡潔に改められた。都条例への従属と罷免に関する文言が削られ、任命行為のみを規定する形になっている。同じ改正で第15条(現行第15条第1項)の消防長の任命についても、条例に従うという文言が整理された。

2-2 都道府県の所掌事務(第29条)

制定時の消防組織法には、都道府県の消防に関する一般的な所掌事務規定が存在しなかった。第26条(現行第51条の前身)が消防職員・消防団員の訓練機関の設置を認めるにとどまり、都道府県は消防行政上ほとんど登場しない構成であった。市町村消防の原則を徹底した結果である。

この空白を埋めたのが昭和27年法律第258号である。同法は国家消防庁を国家消防本部に改組するとともに、第18条の次に第18条の2を加え、都道府県が消防に関してつかさどる事務を7号にわたり列挙した。あわせて次の規定が設けられている。

  • 第20条の2 都道府県知事は、必要に応じ、消防に関する事項について市町村に勧告し、市町村長または市町村の消防長から要求があった場合は、消防に関する事項について指導し、または助言を与えることができる。この場合における勧告、指導および助言は、国家消防本部長の行う勧告、指導および助言の趣旨に沿うものでなければならない。
  • 第24条の2 都道府県知事は、地震、台風、水火災等の非常事態の場合において、緊急の必要があるときは、市町村長、市町村の消防長または水防管理者に対して、災害防御の措置に関し必要な指示をすることができる。
  • 第26条 都道府県は、財政上の事情その他特別の事情のある場合を除くほか、単独にまたは共同して、消防職員および消防団員の訓練を行うために所要の機関を設置しなければならない(訓練機関設置の義務化)。

昭和27年のこの改正が、都道府県を消防行政の一翼に位置づけた出発点である。これらの規定は、現行の第29条、第38条、第43条、第51条へと引き継がれている。

昭和38年法律第89号は、第18条の2の柱書に「市町村の消防が十分に行なわれるよう消防に関する当該都道府県と市町村との連絡及び市町村相互間の連絡協調を図るほか」という文言を加えた。列挙された個別事務に先立って、連絡調整という包括的な役割を明示したものである。同時に号の整理も行われている。

その後、社会情勢の変化に応じて号が追加されてきた。第8号の緊急消防援助隊に関する事項は平成15年法律第84号により、第10号の傷病者の搬送および受入れの実施に関する基準に関する事項は平成21年法律第34号による消防法改正に伴って加えられたものである。

2-3 航空消防隊(第30条)

消防防災ヘリコプターの活用は、法制化に先行して実務から始まった。昭和55年に北海道が防災ヘリコプターを導入したのを皮切りに、都道府県の航空隊が順次発足していく。昭和61年5月には「大規模特殊災害時における広域航空消防応援実施要綱」が定められ、都道府県域を越えた応援活動の枠組みが整えられた。平成元年には消防審議会が「消防におけるヘリコプターの活用とその整備のあり方に関する答申」を取りまとめている。

法律上の根拠が置かれたのは平成15年法律第84号(消防組織法及び消防法の一部を改正する法律)である。同法は緊急消防援助隊を法制化した改正として知られるが、あわせて第18条の3として都道府県の航空消防隊に関する規定を新設し、第24条の7として航空消防隊が支援のため出動した場合の連携に関する規定(現行第48条)を設けた。実態が先行して積み上がった航空消防防災体制に、事後的に法的根拠を与えた立法である。

平成18年法律第64号により、第18条の3は第30条に繰り下げられた。同時に第2項・第3項に項番号が付されている。


第3章 文理解釈

3-1 第26条

「特別区が連合して」責任を有すると規定する。責任主体は都ではなく特別区であり、しかも個々の特別区ではなく特別区の連合体である。この連合体は、地方自治法上の一部事務組合や広域連合とは異なり、法人格を有しない。消防組織法が直接に創設した観念上の主体である。

責任の内容は第6条に規定する責任、すなわち区域における消防を十分に果たすべき責任である。

平成12年の地方分権一括法による都区制度改革により、特別区は基礎的な地方公共団体として位置づけられた(地方自治法第281条の2第2項)。他方で同条第1項は、人口が高度に集中する大都市地域における行政の一体性および統一性の確保の観点から都が一体的に処理することが必要と認められる事務を都が処理するものとしている。消防は同項が例示する事務として条文上명示されているわけではなく、消防組織法第26条から第28条までの特別規定によって処理主体が定まっている。都区制度改革の後も、消防については特例が維持された。

3-2 第27条

第1項は、第26条の責任に対応する消防の管理権を都知事に与える。第7条が市町村の消防を市町村長が管理すると定めるのに対応するが、第7条にある「条例に従い」という文言がない点が異なる。管理の準則を条例で定めるべきことは第28条の準用により導かれると解されるが、条文の書き分けとしては留意を要する。

第2項は特別区の消防長の任命権者を都知事とする。第15条第1項前段が消防長を市町村長が任命すると定めるのと同じ構造である。第28条の準用があるため第15条第2項・第3項も適用され、特別区の消防長の資格は都の条例で定めることになる。

特別区の消防長の階級は消防総監である。消防吏員の階級の基準(昭和37年消防庁告示第6号)第2条第1号が、消防総監の階級を用いることのできる者を第27条第2項の特別区の消防長としている。全国で消防総監の階級にあるのは一人だけである。

3-3 第28条

「特別区の存する区域を一の市とみなして、市町村の消防に関する規定を準用する」というみなし規定である。準用の結果、次のような読み替えが生ずる。

  • 第8条(費用負担) 特別区の存する区域における消防に要する費用を、その区域が負担する。実際の予算措置は都の一般会計で行われ、その財源は都区財政調整制度を通じて調整される。
  • 第9条・第10条 消防本部・消防署の設置、位置、名称、消防署の管轄区域は条例で定める。特別区の存する区域の消防本部が「東京消防庁」という名称を有するのは、この準用に基づく都の条例による。市町村の消防本部で「庁」の名称を用いる唯一の例である。
  • 第11条から第17条まで 消防職員の設置・定員・任命・身分取扱い・消防職員委員会の各規定が適用される。
  • 第18条から第25条まで 消防団に関する規定が適用される。特別区の消防団の設置、名称および区域は、特別区の消防団の設置等に関する条例(昭和38年東京都条例第53号)が定めている。同条例は、消防団の組織の整備を図りその運営を円滑に行うため、知事の附属機関として特別区ごとに消防団運営委員会を置く旨も規定する。

準用の及ばない範囲についても確認しておく必要がある。「前二条に規定するもののほか」とあるため、消防責任の主体と管理権者・消防長の任命権者については第26条・第27条が優先する。また第29条・第30条は都道府県の事務に関する規定であり、都はこれらの規定を特別区の存する区域を含む都域全体について適用する立場にある。

多摩地域の市町村の取扱いは第28条とは別の枠組みによる。多摩地域では市町村が消防責任を負うが、行政需要の増大に伴い、昭和35年以降、逐次都に消防事務を委託している。根拠は地方自治法第252条の14の事務の委託であり、受託した都が東京消防庁を通じて処理する。現在の受託市町村数は25市3町1村である。稲城市および島しょ部の町村は委託しておらず、稲城市は単独消防を維持している。

したがって東京消防庁の管轄区域は、第26条から第28条までに基づく特別区の存する区域と、地方自治法に基づく受託区域という、法的性格の異なる二つの部分から構成される。責任主体も、前者は特別区の連合体、後者は委託元の各市町村である。

3-4 第29条

柱書は二段構えである。前段が連絡調整、後段が個別事務の列挙である。

前段の「市町村の消防が十分に行われるよう」という文言は、第6条の「消防を十分に果たすべき責任」と呼応する。都道府県の役割は市町村消防を代替することではなく、それが十分に行われるよう環境を整えることにある。

各号の事務は、いずれも市町村や住民に対して権力的な規制を行うものではない。教養訓練(第1号)、人事交流のあっせん(第2号)、統計・情報(第3号)、指導・助成(第4号・第7号・第9号・第11号)、普及宣伝(第5号)、性能試験(第6号)はいずれも非権力的な作用である。第8号の消防の応援および緊急消防援助隊に関する事項、第10号の傷病者の搬送および受入れの実施に関する基準に関する事項が、比較的に法的効果を伴う領域に属する。

第10号は、消防法第35条の5以下の規定と対応する。同条は都道府県に実施基準の策定を義務づけ、同法第35条の8は協議会の設置を、同法第35条の7第1項は消防機関に実施基準の遵守義務を課している。都道府県が定める基準が市町村の消防機関を法的に拘束するという点で、第29条各号のなかでは例外的な性格をもつ。

第12号は、消防に関する市街地の等級化に関する事項について、消防庁長官が指定する市に係るものを除くとする。第4条第2項第2号が消防庁の所掌事務として同じ事項を掲げつつ「都道府県の所掌に係るものを除く」としており、両条が相互に補い合う形で管轄を分ける構造である。基準は消防に関する都市等級要綱(昭和44年消防庁告示第2号)が定める。

第13号は受け皿規定である。災害対策基本法、水防法、石油コンビナート等災害防止法など、他の法律により都道府県の権限に属するとされた消防関係の事務がここに含まれる。

3-5 第30条

第1項は都道府県による航空機を用いた市町村消防の支援を定める。「その区域内の市町村の長の要請に応じ」という要件が置かれている点が重要である。都道府県が自らの判断で市町村の区域に部隊を投入する構成ではなく、市町村長の要請を起点とする構成である。市町村消防の原則と、第36条が定める不服従原則との整合を図った書き方といえる。

第2項は、支援に関する都道府県知事と市町村長の協定を認める。個別の災害ごとに要請と応諾を繰り返すのでは機動性を欠くため、あらかじめ包括的な取決めを置くことを可能とする趣旨である。実務上は各都道府県が消防防災ヘリコプターの運航管理要綱等を定め、管内市町村との間で協定を締結している。

第3項は航空消防隊の設置を定める。「設けるものとする」という文言であり、義務的な規定と解される。設置の形式は都道府県の規則である。条例ではない点は、第10条第2項が消防本部の組織を市町村規則事項としているのと同じ考え方による。

航空消防隊は都道府県の機関であり、市町村の消防機関ではない。したがって航空消防隊に属する職員は市町村の消防職員ではなく、消防組織法第16条の適用もない。他方で、消防法第30条の2は、消防警戒区域の設定(同法第28条第1項・第2項)、消防対象物等の使用・処分・使用制限(同法第29条第1項)、消防作業従事命令(同条第5項)、火災現場における情報提供要求(同法第25条第3項)の各規定について、都道府県が航空機を用いて市町村の消防を支援する場合に準用し、これらの規定中「消防吏員又は消防団員」を「消防吏員若しくは消防団員又は航空消防隊に属する都道府県の職員」と読み替えるものとしている。航空消防隊員が現場で権限を行使する法的根拠は、消防組織法ではなく消防法側に置かれている。

支援出動時の関係については第48条が、当該航空消防隊は支援を受けた市町村の消防機関との相互に密接な連携の下に行動するものとすると定める。第47条が消防機関の職員の応援出動について「応援を受けた市町村の長の指揮の下に行動する」としているのと対比すると、航空消防隊については指揮下に入るのではなく連携にとどめられている。航空機の運航に関する判断は機長の専権に属し、地上の指揮権に服さしめることが飛行の安全と両立しないためである。


第4章 用語解説

特別区の連合 消防組織法第26条が用いる観念。特別区が個別にではなく全体として消防責任を負うことを表す。地方自治法上の法人格を有する団体ではない。

東京消防庁 特別区の存する区域における消防本部。第28条の準用により第9条第1号・第10条第1項に基づき都の条例で設置され、その名称が定められている。消防吏員数は約1万8千人で、単一の消防本部としては国内最大である。管轄は特別区の存する区域と、地方自治法第252条の14に基づく受託区域からなる。

消防総監 消防吏員の階級の基準(昭和37年消防庁告示第6号)第1条が掲げる階級のうち最上位のもの。同基準第2条第1号により、消防組織法第27条第2項の特別区の消防長がこの階級を用いる。

都区財政調整制度 地方自治法第282条に基づき、都と特別区および特別区相互間の財源の均衡化を図る制度。特別区の存する区域において都が市町村事務として処理する消防に要する費用は、この制度の枠組みのなかで財源配分が調整される。

事務の委託 地方自治法第252条の14に基づき、普通地方公共団体がその事務の一部を他の普通地方公共団体に委託し、受託団体の長等が管理・執行する制度。委託された事務の権限は受託団体に移り、委託団体はその事務を執行する権限を失う。多摩地域29市町村と都との消防事務委託がこれに当たる。

航空消防隊 消防組織法第30条第3項に基づき、都道府県の規則で定めるところにより設けられる都道府県の機関。実務上は消防防災航空隊、防災航空隊などの名称が用いられる。

運航団体 消防防災ヘリコプターの運航に関する基準(令和元年消防庁告示第4号)が用いる概念。消防防災ヘリコプターを保有・運航する都道府県および消防機関を指す。令和7年4月1日現在で55団体である。

大規模特殊災害時における広域航空消防応援実施要綱 昭和61年5月に定められた要綱。都道府県域を越えた消防防災ヘリコプターの応援活動の枠組みを定める。緊急消防援助隊の航空小隊としての出動とは別系統の制度である。


第5章 改正沿革

5-1 特別区関係(第26条から第28条まで)

法令内容
昭和22年法律第226号第16条から第18条までとして制定。内容は現行とほぼ同一
昭和38年法律第89号第17条第2項を「特別区の消防長は、都知事が任命する。」に改正。「都条例に従い」および罷免に関する文言を削除
平成18年法律第64号第26条から第28条までに繰下げ。見出し・項番号の付与。第28条の「ものの外」を「もののほか」に、「以て一の市とみなし」を「一の市とみなして」に改める

制定から約80年を経て実質的な改正が一度しか行われていない。条文の安定性という点では、消防組織法のなかでも際立っている。

5-2 都道府県の所掌事務(第29条)

法令内容
昭和27年法律第258号第18条の2として新設。7号の事務を列挙。あわせて第20条の2(都道府県知事の勧告・指導・助言)、第24条の2(非常事態における都道府県知事の指示)、第26条(訓練機関設置の義務化)を整備
昭和38年法律第89号柱書に連絡調整に関する文言を追加。号の整理
平成15年法律第84号緊急消防援助隊の法制化に伴い、消防の応援および緊急消防援助隊に関する事項を追加
平成18年法律第64号第29条に繰下げ。「相互応援」を「相互の応援」に改める
平成21年法律第34号消防法改正に伴い、傷病者の搬送および傷病者の受入れの実施に関する基準に関する事項を追加

5-3 航空消防隊(第30条)

事項
昭和55年北海道が防災ヘリコプターを導入。以降、都道府県航空隊が順次発足
昭和61年5月大規模特殊災害時における広域航空消防応援実施要綱の策定
平成元年消防審議会「消防におけるヘリコプターの活用とその整備のあり方に関する答申」
平成15年法律第84号により第18条の3として新設。第24条の7(現行第48条)もあわせて新設
平成18年法律第64号により第30条に繰下げ
令和元年9月24日消防防災ヘリコプターの運航に関する基準(令和元年消防庁告示第4号)を、消防組織法第37条に基づく消防庁長官の勧告として告示

令和元年の基準策定は、平成21年以降に消防防災ヘリコプターの墜落事故が4件発生し、合わせて26人が殉職した事態を受けたものである。直接の契機は平成30年8月10日の群馬県における墜落事故であり、その前には平成29年の長野県における事故があった。消防庁は長野県の事故を契機に「消防防災ヘリコプターの安全性向上・充実強化に関する検討会」を設置し、安全性向上策、航空消防防災体制の充実策、操縦士の養成・確保策を検討している。

基準の中核が第6条の二人操縦士体制である。型式限定資格取得者2名を乗り組ませることが求められるが、全運航団体が直ちに対応できるわけではないため、令和4年4月を施行日としつつ、型式限定資格取得訓練中の事業用操縦士資格取得者が副操縦士の代わりに乗務することを経過措置として認め、その期限を令和7年4月とする設計が採られた。第7条は機長および副操縦士の乗務要件を運航団体が定めるものとし、操縦士を専任機長・限定機長・副操縦士の3段階に区分する考え方が示されている。


第6章 法的性格と解釈上の論点

6-1 責任主体と管理権者の分離

第26条と第27条は、消防責任の主体(特別区の連合体)と消防の管理権者(都知事)を分離している。第6条・第7条が市町村と市町村長という同一団体内で完結するのとは構造が異なる。

この分離がもたらす帰結は複数ある。第一に、特別区の区長は消防の管理権をもたない。区域内で発生した火災の消防活動について、区長が指揮する立場にはない。第二に、消防に関する条例は都の条例として定められる。特別区の消防団の設置等に関する条例が東京都条例であることはその表れである。第三に、特別区の住民が消防行政に不服をもつ場合の相手方は都となる。

他方で、責任主体が特別区の連合体とされていることには意味がある。仮に都が責任主体であるとすれば、消防は都道府県事務ということになり、第6条の市町村消防の原則そのものの例外を認めることになる。特別区に責任を残したまま管理のみを都知事に委ねる構成は、市町村消防の原則を形式的に維持しつつ大都市の実情に対応するための技法である。

制度論としては、責任と権限の分離は説明が難しい部分でもある。特別区側から消防行政に関与する回路は、都区協議会(地方自治法第282条の2)における財政調整の協議を通じたものが中心であり、消防の運営そのものに対する制度的な発言権は限定されている。

6-2 東京消防庁の管轄区域の二重構造

前述のとおり、東京消防庁の管轄区域は法的性格の異なる二つの部分からなる。この二重構造は、いくつかの場面で実務的な差異を生む。

消防法上の処分権限について見ると、特別区の存する区域では消防総監が消防組織法第27条第2項の消防長として権限を行使する。受託区域では、地方自治法第252条の14による事務の委託の効果として、委託した市町村の権限が都に移り、都の機関である東京消防庁の消防長として権限を行使する。いずれの場合も処分庁は東京消防庁であるが、権限の由来が異なる。

消防団については取扱いが分かれる。消防組織法第31条の市町村の消防の広域化は「消防事務(消防団の事務を除く。)」を対象としており、消防団の事務は委託の対象外である。多摩地域の各市町村は、消防事務を都に委託しながらも消防団は自ら設置している。東京都内には特別区58団、多摩地区30団、島しょ地区10団の計98の消防団が組織されているが、このうち都の条例により設置されているのは特別区の58団のみである。

6-3 第29条の事務の非権力性と第36条

第36条は、市町村の消防は消防庁長官または都道府県知事の運営管理または行政管理に服することはないと定める。制定時の第19条(「市町村の消防は、国家消防庁の運営管理又は行政管理に服することはない」)を引き継いだ規定であり、自治体消防制度の基本原則を宣明するものである。

第29条各号の事務は、この原則の枠内で理解されなければならない。指導、助成、あっせん、普及宣伝といった非権力的な作用であることは条文の文言からも明らかであり、都道府県が市町村の消防機関に対して命令を発する権限を与えたものではない。

第38条(都道府県知事の勧告、指導及び助言)も同様である。同条は、都道府県知事が消防に関する事項について市町村に対して勧告し、指導し、または助言することができるとしつつ、これらが消防庁長官の行う勧告、指導および助言の趣旨に沿うものでなければならないと定める。

例外的な位置にあるのが第43条(非常事態における都道府県知事の指示)である。地震、台風、水火災等の非常事態の場合において緊急の必要があるときは、都道府県知事は市町村長、市町村の消防長または水防管理者に対し、災害の防御の措置に関し必要な指示をすることができる。非常時に限った権力的関与であり、第36条の原則に対する明文の例外である。

第29条を読む際には、この第36条・第38条・第43条との三者関係を併せて把握しておく必要がある。

6-4 「設けるものとする」の規範性と実態

第30条第3項は航空消防隊の設置を「設けるものとする」と定める。法制執務上、「するものとする」は原則としての義務を示す表現であり、「することができる」とは明確に区別される。第1項が「支援することができる」としているのと対比すれば、設置自体は義務的であると読むほかない。

ところが実態は条文の建前どおりではない。令和7年4月1日現在、消防防災ヘリコプターは沖縄県を除く46都道府県域に配備され、その内訳は消防庁保有5機、消防機関保有30機、道県保有42機(39道県)の計77機、運航団体は55である。未配備県域は沖縄県の1県域である。さらに、千葉県、神奈川県、京都府、大阪府、福岡県は管内の消防機関が保有しているのみで、府県自体はヘリコプターを保有していない。

府県が保有していない場合、第30条第3項の航空消防隊はどう理解されるのか。条文上の設置義務は都道府県知事に課されており、管内の政令指定都市の消防機関が航空隊を有していることは、この義務の履行にはならない。もっとも、府県内の航空消防防災体制が現に確保されているという実質を重視すれば、義務違反を問う実益は乏しい。

沖縄県については、平成30年3月に沖縄県消防防災ヘリコプター調査検討委員会が報告書を取りまとめるなど、導入に向けた検討が継続している。第30条第3項の義務規定が長期にわたり履行されていない状態が公然と続いている点は、法令解釈というより立法の実効性の問題として指摘しておくべきである。

6-5 運航基準を勧告として発した意味

消防防災ヘリコプターの運航に関する基準は、消防組織法第37条に基づく消防庁長官の勧告として告示された。

この形式選択には理由がある。第16条第2項(消防吏員の階級等)や第23条第2項(消防団員の階級等)は「消防庁の定める基準に従い」と規定し、消防庁告示に市町村規則を拘束する力を与えている。ところが第30条第3項は「都道府県の規則で定めるところにより」とするのみで、国の基準に従うべき旨を定めていない。航空消防隊の組織・運営について、消防庁が拘束力のある基準を定める法的根拠が存在しないのである。

そこで採られたのが、第37条の勧告という形式である。消防庁自身が、これを「助言より高い規範力を持つ」ものとして位置づけている。第37条は、消防庁長官が必要に応じ消防に関する事項について都道府県または市町村に対して助言を与え、勧告し、または指導を行うことができると定めており、勧告は助言・指導と並ぶ非権力的関与の一類型である。法的拘束力はないが、告示という形式で公示されることにより、事実上の規範として機能することが期待されている。

安全運航という、人命に直結し、かつ技術的な専門性を要する領域について、国が拘束力ある基準を設定できないという構造は、市町村消防の原則および都道府県の自主性尊重の帰結である。基準の遵守状況の確認と、遵守されない場合の対応をどう設計するかは、今後の検討課題として残る。

6-6 要請主義と実務の運用

第30条第1項は市町村長の要請を支援の起点とする。災害の初動においては、市町村側が被害の全容を把握する前に航空機による情報収集が必要となる場面が多く、要請を待っていては時機を失する。

この緊張を緩和する仕組みが第2項の協定である。多くの都道府県では、あらかじめ管内市町村との間で協定を締結し、一定の類型の災害については要請があったものとみなす、あるいは簡略な手続で要請を行えるようにする運用をとっている。実務上は、消防本部の指令センターから航空隊への直接の出動要請が行われ、事後に文書を整えるという流れが一般的である。

なお、都道府県域を越える応援については第30条の枠外である。大規模特殊災害時における広域航空消防応援実施要綱に基づく応援、または第44条以下の緊急消防援助隊としての出動によることになる。令和6年中の消防防災ヘリコプターの出動実績は全国で5,326件であり、総運航時間は1万8,589時間、その内訳は災害出動5,297時間(28.5パーセント)、訓練出動1万1,400時間(61.3パーセント)、その他の業務1,892時間(10.2パーセント)である。運航時間の6割を訓練が占めるという構成は、航空消防活動の技能維持に要する負荷の大きさを示している。


第7章 裁判例

第26条から第30条までの各条を直接の争点とする裁判例は乏しい。組織規範であり、国民の権利義務に直接の効果を及ぼす場面が限られるためである。もっとも、これらの条文により権限を与えられた機関が行う行為の法的性質については、参照すべき判例がある。

7-1 消防長の同意の法的性質

最判昭和34年1月29日(第一小法廷)

消防法第7条による消防長の建築許可の同意、同意の拒絶または同意の取消しが抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるかが争われた事案である。

判決は、抗告訴訟の対象となるべき行政庁の行為は、対国民との直接の関係においてその権利義務に関係あるものであることを要し、行政機関相互間における行為は、国民に対する直接の関係においてその権利義務を形成し、またはその範囲を確定する効果を伴うものでない限り抗告訴訟の対象とならないとした。そのうえで、消防長を被告としてその取消しないし無効確認を求める訴えは不適法であるとした原判決を是認している。

第28条の準用により、特別区の存する区域では消防総監が消防長として建築同意の権限を行使する。同意の相手方は建築主事等であって建築主ではないから、同意をめぐる紛争は建築確認処分の取消訴訟のなかで争われることになる。この構造は特別区でも他の市町村でも変わらない。

7-2 消防活動に伴う権限行使と責任

最判昭和47年5月30日(第三小法廷)

消防法第29条第3項にいう延焼の防止のために緊急の必要があったと認められた事例である。同項は、火災が発生しようとし、または発生した消防対象物およびその周辺の物件以外の消防対象物等について、延焼防止のためやむを得ないと認めるときの使用・処分・使用制限を認める。破壊消防の適法性が争われた場面における先例として参照される。

消防法第30条の2の準用により、航空消防隊に属する都道府県の職員も同法第29条第1項の権限を行使しうる立場にある。航空機からの散水や資機材の投下が第三者の財産に損害を与えた場合、その適法性は同様の枠組みで判断されることになる。

最判昭和53年7月17日

消防署職員の消火活動が不十分なため残り火が再燃して火災が発生した場合における公共団体の損害賠償責任について、失火ノ責任ニ関スル法律の適用があるとした。重過失がなければ責任を負わないという帰結になる。

消防活動の適否が事後に問われる場面一般に及ぶ判断であり、航空消防活動についても同様に解される。

7-3 参照の仕方

以上のとおり、第26条から第30条までに関連する裁判例は、これらの条文によって権限を与えられた機関の行為が争われる場面に現れる。組織規範そのものの解釈をめぐる判例の蓄積は薄く、条文の意味は立法沿革と行政実務の積み重ねから読み取るほかない。この点は、逐条解説を読む際に留意すべき限界である。


第8章 実務上の留意点

8-1 特別区の存する区域における例規の探し方

特別区の存する区域における消防関係の例規は、区の例規集ではなく東京都の例規集に収められている。消防組織法の各条が市町村の条例・規則に委ねている事項は、第28条の準用により都の条例・規則として制定されるためである。

主な例として、特別区の消防団の設置等に関する条例(昭和38年東京都条例第53号)、特別区の消防団員等の公務災害補償に関する条例、特別区の消防団員に係る退職報償金に関する条例、東京消防庁消防職員委員会規則がある。特別区に関する消防の事案を扱う際は、まず都の例規を確認するという手順を踏むことになる。

8-2 多摩地域の事案における権限の所在

多摩地域の事案では、当該市町村が都に消防事務を委託しているかどうかを最初に確認する必要がある。委託している場合、消防法上の処分権限は都(東京消防庁)にあり、委託した市町村には権限がない。不服申立てや取消訴訟の相手方も都となる。

他方、消防団に関する事項は委託の対象外であり、各市町村が自ら処理する。消防団員の公務災害補償、退職報償金、報酬の支給はいずれも当該市町村の事務である。同一の市町村について、常備消防は都、消防団は市町村という権限配分になる点は、初めて扱う者が誤りやすい箇所である。

8-3 都道府県における第29条各号の所管

第29条各号の事務は、都道府県の消防防災主管部局が所管するのが通例である。ただし第10号の傷病者の搬送および受入れの実施に関する基準については、消防法第35条の5以下の規定により医療部局との共管となる。実施基準は医療法第30条の4第1項の医療計画との調和が保たれるように定められなければならず(消防法第35条の5第3項)、既存のメディカルコントロール協議会を同法第35条の8の協議会として位置づけている県が多い。

実施基準は策定して終わりではない。同法第35条の7第1項は消防機関に遵守義務を課し、同条第2項は医療機関に尊重の努力義務を課している。策定後の運用状況の検証と改定を継続することが、第29条第10号の事務の実質である。

8-4 航空消防隊に関する規則の整備

第30条第3項は航空消防隊の設置を都道府県規則事項とする。規則で定めるべき事項としては、航空消防隊の設置、組織、隊員の配置、運航管理の体制、出動の要請および決定の手続が挙げられる。

これとは別に、運航要領、活動基準、安全管理規程等を要綱レベルで整備することが一般的である。消防防災ヘリコプターの運航に関する基準は、山岳救助、水難救助その他の特に安全の確保に配慮する必要があると認める航空消防活動の類型ごとに活動要領を定めることを求めており、第23条は耐空検査等により自団体のヘリコプターが運航できない場合に備えて、関係機関との間で協定等を締結するよう努めるものとしている。年間の運航可能日数は耐空検査や整備により相当程度制約されるから、この協定の有無は実際の対応力を左右する。

8-5 支援に関する協定の点検

第30条第2項の協定は、災害発生時の初動を左右する。点検にあたっては次の点を確認したい。

  • 要請権者と要請の伝達経路が明記されているか。市町村長名の要請を要件としつつ、緊急時には消防長が代行できる旨を定めているか。
  • 口頭による要請を認め、事後に文書で処理する手続が定められているか。
  • 出動の対象となる活動の類型(救急搬送、救助、火災、情報収集)が整理されているか。
  • 経費の負担区分が定められているか。第30条には第49条のような国庫負担・補助の規定がなく、支援に要する費用の分担は協定に委ねられる。
  • 支援を受けた市町村の消防機関との連携方法(第48条)が具体化されているか。地上部隊との無線周波数、離着陸場の確保、地上支援要員の手配といった事項を含むか。

8-6 訓練時間の確保と安全管理

令和6年中の総運航時間のうち訓練が61.3パーセントを占める。航空消防活動は、技能の維持そのものに多大な資源を要する分野である。二人操縦士体制の導入により必要な操縦士数が増え、養成にも時間を要する。

消防防災ヘリコプターの運航に関する基準は、運航団体が操縦士の養成訓練計画を定めることを求め(第11条)、機長の要件について養成訓練中の者に係る別枠の定めを認めている(第7条第2項)。人員計画と予算措置を伴う事項であり、規則・要綱の整備だけでは実現しない。都道府県の航空消防防災体制の議論は、条文解釈よりも人と予算の確保に帰着する。


参考資料

法令

  • 消防組織法(昭和22年法律第226号) e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000226
  • 消防法(昭和23年法律第186号) 第7条、第25条第3項、第28条、第29条、第30条の2、第35条の5から第35条の8まで
  • 地方自治法(昭和22年法律第67号) 第252条の14、第281条の2、第282条、第282条の2

制定・改正法の原文

告示

通知・行政資料

裁判例

  • 最判昭和34年1月29日(第一小法廷。消防法第7条による消防長の同意・同意の拒絶・同意の取消しと抗告訴訟の対象)
  • 最判昭和47年5月30日(第三小法廷。消防法第29条第3項にいう延焼の防止のために緊急の必要があったと認められた事例)
  • 最判昭和53年7月17日(消防署職員の消火活動が不十分なため残り火が再燃した場合と失火ノ責任ニ関スル法律の適用)

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