序 第5章の冒頭五か条

消防組織法第5章「各機関相互間の関係等」は第36条から第52条までを収める。その冒頭に置かれた第36条から第40条までの五か条は、市町村消防と国・都道府県との縦の関係、および市町村相互の横の関係を定める。

条見出し関係の方向
第36条市町村の消防と消防庁長官等の管理との関係縦(国・都道府県 → 市町村)の限界
第37条消防庁長官の助言、勧告及び指導縦(国 → 都道府県・市町村)
第38条都道府県知事の勧告、指導及び助言縦(都道府県 → 市町村)
第39条市町村の消防の相互の応援横(市町村 ⇔ 市町村)
第40条消防庁長官に対する消防統計等の報告縦(都道府県・市町村 → 国)

第36条が「服さない」という否定形で関係の限界を画し、第37条・第38条がその限界の内側で許される関与の形式を定め、第40条が情報の流れを定める。第39条は、上下関係によらない市町村相互の協力を規定する。

この五か条は、第43条(非常事態における都道府県知事の指示)、第44条(非常事態における消防庁長官等の措置要求等)、第44条の2以下(緊急消防援助隊)と対照して読む必要がある。平時は非権力的な関与にとどめ、非常時に限って指示・求めという強い関与を認めるという構造が、第5章全体を通じて採られているからである。


第1章 条文原文

以下は令和8年9月現在施行されている条文である(e-Gov法令検索・昭和22年法律第226号)。

第36条

(市町村の消防と消防庁長官等の管理との関係) 第三十六条 市町村の消防は、消防庁長官又は都道府県知事の運営管理又は行政管理に服することはない。

第37条

(消防庁長官の助言、勧告及び指導) 第三十七条 消防庁長官は、必要に応じ、消防に関する事項について都道府県又は市町村に対して助言を与え、勧告し、又は指導を行うことができる。

第38条

(都道府県知事の勧告、指導及び助言) 第三十八条 都道府県知事は、必要に応じ、消防に関する事項について市町村に対して勧告し、指導し、又は助言を与えることができる。この場合における勧告、指導及び助言は、消防庁長官の行う勧告、指導及び助言の趣旨に沿うものでなければならない。

第39条

(市町村の消防の相互の応援) 第三十九条 市町村は、必要に応じ、消防に関し相互に応援するように努めなければならない。 2 市町村長は、消防の相互の応援に関して協定することができる。

第40条

(消防庁長官に対する消防統計等の報告) 第四十条 消防庁長官は、都道府県又は市町村に対し、消防庁長官の定める形式及び方法により消防統計及び消防情報に関する報告をすることを求めることができる。


第2章 趣旨・立法背景

2-1 制定時の構成:国家消防庁は命令しない

昭和22年法律第226号の制定時、これら五か条の前身は第4章「雑則」の冒頭に置かれていた。

第十九條 市町村の消防は、國家消防廳の運営管理又は行政管理に服することはない。 第二十條 國家消防廳は、市町村長又は市町村の消防長から要求があつた場合は、消防に関する事項について助言を與え、及び設備、資材の斡旋をすることができる。 第二十一條 市町村長は、消防の相互應援に関して協定することができる。 第二十二條 市町村長は、國家消防廳の定める形式及び方法により、消防統計を、都道府縣知事を通じて、國家消防廳に報告しなければならない。

制定時の提案理由は、消防を警察から分離独立させ、内務大臣の指揮監督下にあった消防を市町村の責任に移管すること、国の機関として国家公安委員会の下に国家消防庁を置くが、市町村への指揮命令権は持たず試験研究や器具検定などを行うこと、これらにより民主化と地方分権を徹底することを説明している。

第19条は、この「指揮命令権を持たない」という設計を条文化したものである。第20条は、国家消防庁が市町村に働きかける手段を、市町村側から要求があった場合の助言とあっせんに限定していた。国の側から自発的に関与する途は、制定時には存在しなかった。

注目すべきは、国家消防庁が指揮命令権を持たない一方で、市町村長には消防統計の報告義務が課されていた点である(第22条)。国は命令しないが情報は集める、という非対称の設計であった。都道府県知事は報告の経由機関として登場するにすぎず、消防行政上の権限は何も与えられていない。

2-2 昭和26年改正:国の自発的な勧告の導入

最初の転機は昭和26年法律第18号である。同法は第20条を全部改め、次のように定めた。

第二十条 国家消防庁は、必要に応じ、消防に関する事項について都道府県又は市町村に勧告し、都道府県知事、市町村長又は市町村の消防長から要求があつた場合は、消防に関する事項について指導し、助言を与え、又は設備、機械器具及び資材の斡旋をすることができる。

関与の形式が二段に分かれた。勧告は「必要に応じ」国家消防庁の判断で行えるが、指導・助言・あっせんは依然として要求を要件とする。国の側から自発的に働きかける手段として勧告が初めて置かれ、名宛人に都道府県が加わった。

2-3 昭和27年改正:都道府県知事の登場と第36条の拡張

昭和27年法律第258号は、国家消防庁を国家消防本部に改組するとともに、都道府県を消防行政の一翼に位置づけた改正である。第18条の2(現行第29条)で都道府県の所掌事務を定めたことは前回までに述べたが、第5章関係では次の三点が重要である。

第一に、第19条中「国家消防庁」を「国家消防本部長又は都道府県知事」に改めた。運営管理・行政管理に服さない相手方に、都道府県知事が加えられたのである。

第二に、第20条の次に第20条の2を加えた。

第二十条の二 都道府県知事は、必要に応じ、消防に関する事項について、市町村に勧告し、市町村長又は市町村の消防長から要求があつた場合は、消防に関する事項について指導し又は助言を与えることができる。この場合における勧告、指導及び助言は、国家消防本部長の行う勧告、指導及び助言の趣旨に沿うものでなければならない。

第三に、第22条中「消防統計」の下に「及び消防情報」を加えた。

第一点と第二点は一体として理解すべきである。都道府県知事に勧告・指導・助言の権限を新たに与えるのと同時に、第19条の不服従原則の対象に知事を加えた。都道府県に役割を与えれば、都道府県が市町村消防の上級庁のように振る舞う危険が生ずる。その危険を、同じ改正のなかで封じたのである。現行第36条が「消防庁長官又は都道府県知事」と二者を並べているのは、この昭和27年改正の産物である。

同じ改正で第24条の2(非常事態における都道府県知事の指示。現行第43条)が設けられたことも見落とせない。平時の関与は勧告・指導・助言という非権力的な形式にとどめ、指示は非常事態に限る。この二層構造は、昭和27年に確立した。

2-4 昭和35年改正:消防庁と消防庁長官

昭和35年法律第113号は自治庁を自治省に改め、自治省の外局として消防庁を置いた。同法第7条は消防組織法の本則中「国家消防本部」を「消防庁」に、「国家消防本部長」を「消防庁長官」に改めている。第19条・第20条・第20条の2の名宛人・主体の表記は、ここで現行の「消防庁長官」となった。

2-5 昭和38年改正:要求要件の撤廃(国)と相互応援の努力義務

昭和38年法律第89号は、消防組織法の組織規定を全面的に整理した改正であるが、第5章関係でも二つの重要な改正を行った。

第一に、第20条中「勧告し、都道府県知事、市町村長又は市町村の消防長から要求があつた場合は、消防に関する事項について指導し、助言を与え、又は設備、機械器具及び資材の斡旋をすることができる」を「対して助言を与え、勧告し、又は指導を行なうことができる」に改めた。消防庁長官の指導・助言について要求要件が撤廃され、助言・勧告・指導の三つがいずれも「必要に応じ」行えるものとして並列された。あわせて、設備・機械器具・資材のあっせんが条文から消えている。

第二に、第21条を第2項とし、第1項として「市町村は、必要に応じ、消防に関し相互に応援するように努めなければならない」を加えた。制定時の第21条は市町村長が協定を結ぶことを認めるだけの授権規定であったが、協定の有無にかかわらず応援に努めるべきことが、市町村の努力義務として明記された。

2-6 平成18年改正:要求要件の撤廃(都道府県)

都道府県知事の指導・助言については、昭和38年の時点では要求要件が残された。これが撤廃されたのは、半世紀近く後の平成18年法律第64号である。

同法は第20条の2について、「、市町村に」を「市町村に対して」に改め、「市町村長又は市町村の消防長から要求があつた場合は、消防に関する事項について」を削り、「又は助言」を「、又は助言」に改め、同条を第38条とした。この改正により、都道府県知事も勧告・指導・助言をいずれも「必要に応じ」行えるものとなった。

平成18年法律第64号は市町村の消防の広域化に関する第4章を新設した改正であり、都道府県の役割を強化するという同法の趣旨の一環として、この要求要件の撤廃が位置づけられる。同法の成立時の第33条第5項は、都道府県知事が第38条の規定により広域化対象市町村に対して広域化に関する協議の推進に関し必要な措置を講じなければならない旨を勧告したときは、当該広域化対象市町村は講じた措置を知事に報告しなければならないと定めていた。第38条の勧告に、広域化の場面に限って報告義務という実効性担保を付したのである。

この報告義務は、現行の第33条には存在しない。地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(平成23年法律第37号。第1次一括法)により、推進計画の策定が努力義務化された際(令和元年版消防白書が明記している)に、あわせて削られたものとみられる。第38条の勧告は、平成18年から平成23年までの5年間に限り、広域化の文脈で報告義務と結びつけられていたことになる。

2-7 平成11年地方分権一括法と関与の一般ルール

消防組織法の条文自体とは別に、第37条・第38条・第40条の法的性格を大きく変えたのが、平成11年の地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第87号)による地方自治法の改正である。

同改正により、地方自治法第2編第11章に国と地方公共団体との関係に関する規定が整備された。普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律またはこれに基づく政令によらなければ国または都道府県の関与を受け、または要することとされることはないとする関与の法定主義(第245条の2)、関与は目的を達成するために必要な最小限度のものとし、普通地方公共団体の自主性および自立性に配慮しなければならないとする基本原則(第245条の3)が定められた。助言等の方式についても、書面の交付請求(第247条第1項)、助言等に従わなかったことを理由とする不利益取扱いの禁止(同条第3項)が規定されている。

第37条・第38条の助言・勧告・指導は、この地方自治法上の関与の一般ルールの下に置かれることになった。

第40条の報告についても、制定時は市町村長の報告義務(「報告しなければならない」)であったものが、現行では消防庁長官が報告を「求めることができる」という関与の形式になっている。この転換を行った改正法の改め文は本稿では確認できていない。関与の類型を整理した上記の地方分権一括法は消防組織法も改正対象としており、その際の整理である可能性が高いが、断定は控える。


第3章 文理解釈

3-1 第36条

「市町村の消防は、消防庁長官又は都道府県知事の運営管理又は行政管理に服することはない」。

主語 「市町村の消防」である。第6条の「当該市町村の区域における消防」、第7条の「市町村の消防」と同じく、市町村が責任を負う消防の全体を指す。消防本部・消防署・消防団のいずれの活動も含む。

相手方 「消防庁長官又は都道府県知事」に限られる。条文は、内閣、総務大臣、他の国の行政機関を名指ししていない。これは制定時の文言(「國家消防廳」)が消防を所管する国の機関を想定し、昭和27年に都道府県知事を追加したという経緯によるものであり、他の機関による運営管理・行政管理を許容する趣旨ではない。もっとも、後述する令和6年地方自治法改正の補充的指示との関係では、この名宛人の限定が解釈上の論点となる。

運営管理・行政管理 法律上の定義はない。制定時の構成と第42条第2項の用例から読み解く必要がある。

第42条第2項後段は、災害に際して消防が警察を応援する場合には「運営管理は警察がこれを留保し」と定める。応援を受ける警察が、応援に来た消防の活動を自らの管理の下に置く、という意味での用法である。ここでの運営管理は、実働部隊の運用に関する指揮命令の権限を指すと読める。

これに対置される行政管理は、組織・人事・予算・事務処理方法といった行政組織の管理運営に関する権限を指すと解される。すなわち第36条は、消防庁長官・都道府県知事が、市町村の消防の部隊運用に指揮命令を及ぼすこと(運営管理)も、市町村の消防の組織・人事・予算に命令を及ぼすこと(行政管理)も、いずれも否定する。

「服することはない」 否定の強い言い回しであり、義務を課す規定ではなく、権限の不存在を宣言する規定である。消防庁長官・都道府県知事に運営管理・行政管理の権限がないことを確認するとともに、市町村に対しては、そのような管理に服する義務がないことを示す。

明文の例外 第36条の原則には、消防組織法自身が例外を設けている。第43条は、非常事態において緊急の必要があるときに都道府県知事が市町村長等に対して災害の防御の措置に関し必要な指示をすることを認める。第44条は、大規模災害等において消防庁長官が都道府県知事または市町村長に対して必要な措置をとることを求め、同条第5項は一定の場合に緊急消防援助隊の出動のため必要な措置をとることを指示することを認める。これらは第36条の後に置かれた特別規定であり、その限りで第36条の原則が修正される。

3-2 第37条

主体と名宛人 主体は消防庁長官、名宛人は「都道府県又は市町村」である。昭和26年改正で都道府県が名宛人に加わった。

「必要に応じ」 消防庁長官の判断で行える。昭和38年改正前の要求要件は、現行法にはない。

助言・勧告・指導 三つの形式が並列されている。いずれも法的拘束力を伴わない非権力的な関与である。

  • 助言 参考となる情報・意見を提供すること。
  • 勧告 一定の措置をとるよう促すこと。助言より強く、名宛人に尊重義務が生ずると解されるが、従う法的義務はない。
  • 指導 一定の方向に導くこと。実務上は、通知による技術的助言と区別されずに用いられることも多い。

地方自治法第245条の4との関係 地方自治法第245条の4第1項は、各大臣または都道府県知事その他の都道府県の執行機関が、その担任する事務に関し、普通地方公共団体に対し技術的な助言もしくは勧告をし、または資料の提出を求めることができると定める。ここでいう「各大臣」は、内閣府設置法上の内閣総理大臣と国家行政組織法上の各省大臣であり、外局の長である消防庁長官は含まれない。

したがって、消防庁長官が自らの名で都道府県・市町村に助言・勧告を行うには、地方自治法第245条の4とは別の法律上の根拠が必要となる。関与の法定主義(地方自治法第245条の2)の下で、その根拠を提供しているのが第37条である。消防庁長官名の通知が「消防組織法第37条に基づく助言として発出するものであることを申し添えます」と結ばれるのは、このためである。総務大臣名で発出されるものであれば地方自治法第245条の4が根拠となる。発出者によって根拠条文が異なる点は、通知の法的性質を確認する際に意識しておく必要がある。

勧告の規範力 第37条の勧告には、特別の効果を付す規定がない。前回扱った消防防災ヘリコプターの運航に関する基準(令和元年消防庁告示第4号)は、消防組織法第37条に基づく消防庁長官の勧告として告示された。消防庁は、これを助言より高い規範力を持つものと位置づけている。勧告を告示の形式で公示するという手法は、法的拘束力のない関与に事実上の規範性を持たせる工夫といえる。

3-3 第38条

主体と名宛人 主体は都道府県知事、名宛人は市町村に限られる。消防庁長官と異なり、都道府県知事は他の都道府県に対して勧告等を行う権限をもたない。

形式の順序 第37条は「助言を与え、勧告し、又は指導を行う」、第38条は「勧告し、指導し、又は助言を与える」と、並べ方が異なる。第38条の順序は、昭和27年の第20条の2が「勧告し、……指導し又は助言を与える」と勧告を先に、要求を要件とする指導・助言を後に置いた構造の名残である。昭和38年改正で第37条の順序が組み替えられた一方、第38条は平成18年改正で要求要件を削る際に語順を維持した。条文の見出しも「消防庁長官の助言、勧告及び指導」と「都道府県知事の勧告、指導及び助言」で異なっている。現行法上、この順序の違いに意味の差はない。

後段の拘束 「この場合における勧告、指導及び助言は、消防庁長官の行う勧告、指導及び助言の趣旨に沿うものでなければならない」。都道府県知事の関与は、消防庁長官の関与の趣旨に従属する。都道府県知事が消防庁長官の方針と矛盾する勧告を行うことは許されない。

この後段は、都道府県知事の関与を制約するとともに、国の方針を都道府県を通じて市町村に浸透させる経路を法定したものでもある。消防庁長官の通知が「各都道府県知事におかれましては、貴都道府県内の市町村(消防の事務を処理する一部事務組合等を含む。)に対してもこの旨周知されるようお願いします」と結ばれるのは、この経路を用いるためである。

地方自治法との関係 都道府県知事の技術的助言・勧告は、地方自治法第245条の4第1項によっても行うことができる。第38条はその特別規定であり、消防に関する事項について消防庁長官の趣旨に沿うべきという拘束を付加している点に独自の意味がある。

3-4 第39条

第1項 「市町村は、必要に応じ、消防に関し相互に応援するように努めなければならない」。

努力義務の主体は市町村である。消防の相互応援は、市町村消防の原則を前提としつつ、単独の市町村では対応できない災害に備えるための仕組みである。昭和38年改正で追加された。

「必要に応じ」の判断は、応援を行う側の市町村に委ねられる。応援要請を受けても、自らの区域の消防力に支障がある場合には応援しないことができる。この点は、多くの協定が「管轄区域内の警備に支障のない範囲において応援隊を派遣するものとする」という条項を置くことに表れている。

第2項 「市町村長は、消防の相互の応援に関して協定することができる」。

協定の締結権者は市町村長である。制定時の第21条そのものであり、昭和22年から一貫して存在する規定である。

協定の法的性質は、地方公共団体間の行政上の合意である。地方自治法上の事務の委託(第252条の14)とは異なり、協定によって消防事務の権限が相手方に移転するわけではない。応援に出動した消防機関の職員は、第47条により、応援を受けた市町村の長の指揮の下に行動する。権限は受援市町村に残り、応援側は人員と資機材を提供するという構造である。

協定の締結について議会の議決を要する旨の規定は、消防組織法にも地方自治法にもない。協定が費用負担を伴う場合でも、それ自体は予算の範囲内での執行として処理されるのが通例である。

3-5 第40条

主体と名宛人 消防庁長官が都道府県または市町村に対して報告を求める。

「消防庁長官の定める形式及び方法により」 報告の様式と方法は消防庁長官が定める。これに基づくのが、火災報告取扱要領、火災・災害等即報要領(昭和59年10月15日消防災第267号)、救急事故等報告要領などの各種要領である。

「消防統計及び消防情報」 昭和27年改正で「消防情報」が加わった。統計が一定期間の集計データを指すのに対し、情報は個別の災害の発生状況のように即時性を要するものを含む。火災・災害等即報は後者の典型である。

「求めることができる」 消防庁長官の権限規定の形式をとる。市町村側の報告義務を直接定めているわけではない。もっとも、関与の法定主義の下で、報告を求める法律上の根拠を与えている点に意味がある。

制定時の第22条は、市町村長が都道府県知事を通じて国家消防庁に報告するという経由の仕組みを定めていた。現行第40条には経由の規定がない。火災・災害等即報要領が、都道府県を経由して報告する即報基準と、より迅速な報告を必要とする場合の直接即報基準の二本立てをとっているのは、条文上経由が義務づけられていないことを前提として、運用で経路を設計しているものである。


第4章 用語解説

運営管理 実働部隊の運用に関する指揮命令の権限。消防組織法第36条・第42条第2項に用例がある。

行政管理 組織、人事、予算、事務処理方法といった行政組織の管理運営に関する権限。消防組織法第36条に用例がある。

助言・勧告・指導 いずれも法的拘束力を伴わない非権力的な関与。勧告は助言より強く、名宛人に尊重が求められる。

関与の法定主義 普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律またはこれに基づく政令によらなければ国または都道府県の関与を受け、または要することとされることはないという原則(地方自治法第245条の2)。

技術的助言・勧告 地方自治法第245条の4第1項に基づき、各大臣または都道府県の執行機関が行う助言・勧告。消防庁長官は同項の「各大臣」に当たらないため、消防組織法第37条を根拠とする。

消防相互応援協定 消防組織法第39条第2項に基づき市町村長が締結する協定。現在、全ての都道府県において、各都道府県下の全市町村および消防の一部事務組合等が参加した消防相互応援協定(常備化市町村のみを対象とした協定を含む)が締結されている。

普通応援・特別応援 多くの相互応援協定が採用する区分。普通応援は、協定区域内の境界付近などで発生した災害について要請を待たずに出動するもの、特別応援は受援市町村長の要請に基づいて出動するものを指すのが一般的である。

火災・災害等即報要領 消防組織法第40条に基づき、災害の種別や規模に応じた報告の形式および方法を定めた消防庁の要領。都道府県を経由する即報基準と、直接消防庁に報告する直接即報基準がある。


第5章 改正沿革

5-1 条文ごとの沿革

第36条

年法令内容
昭和22年法律第226号第19条として制定。相手方は国家消防庁のみ
昭和27年法律第258号「国家消防庁」を「国家消防本部長又は都道府県知事」に改める
昭和35年法律第113号「国家消防本部長」を「消防庁長官」に改める
平成18年法律第64号見出しを付し、第36条とする。同条の前に「第五章 各機関相互間の関係等」の章名を付す

第37条

年法令内容
昭和22年法律第226号第20条として制定。要求があった場合の助言・あっせんのみ
昭和26年法律第18号全部改正。必要に応じた勧告と、要求があった場合の指導・助言・あっせんの二段構成に。名宛人に都道府県を追加
昭和27年法律第258号「国家消防庁」を「国家消防本部長」に改める
昭和35年法律第113号「国家消防本部長」を「消防庁長官」に改める
昭和38年法律第89号要求要件とあっせんを削り、助言・勧告・指導を「必要に応じ」行えるものとして並列
平成18年法律第64号「行なう」を「行う」に改め、見出しを付し、第37条とする

第38条

年法令内容
昭和27年法律第258号第20条の2として新設。勧告は必要に応じ、指導・助言は要求があった場合
昭和35年法律第113号「国家消防本部長」を「消防庁長官」に改める
平成18年法律第64号要求要件を削り、見出しを付し、第38条とする

第39条

年法令内容
昭和22年法律第226号第21条として制定。市町村長の協定締結権のみ
昭和38年法律第89号旧条文を第2項とし、第1項に市町村の相互応援の努力義務を追加
平成18年法律第64号「相互応援」を「相互の応援」に改め、見出しを付し、第39条とする

第40条

年法令内容
昭和22年法律第226号第22条として制定。市町村長が都道府県知事を通じて国家消防庁に報告する義務
昭和27年法律第258号「消防統計」の下に「及び消防情報」を加える
昭和35年法律第113号「国家消防本部」を「消防庁」に改める
(時期未確認)—消防庁長官が報告を求める形式に改められる
平成18年法律第64号見出しを付し、第40条とする

5-2 沿革から読み取れる流れ

五か条の沿革を並べると、二つの流れが見えてくる。

一つは、国・都道府県の関与が、要求を待つ受動的なものから、必要に応じて行う能動的なものへ拡大してきた流れである。国については昭和26年に勧告が、昭和38年に指導・助言が要求要件から解放された。都道府県については昭和27年に勧告が、平成18年に指導・助言が解放された。国と都道府県で約半世紀のずれがある。

もう一つは、関与の拡大と並行して、その限界を画する規定が維持・強化されてきた流れである。昭和27年に都道府県知事に関与の権限を与えたとき、同じ改正で第19条の相手方に知事を加えた。平成11年の地方分権一括法は、関与の法定主義と基本原則を地方自治法に書き込み、関与を行う側の自制を一般的に求めた。

消防組織法第5章冒頭の五か条は、関与の拡大と歯止めの強化を同時に進めてきた条文群である。


第6章 法的性格と解釈上の論点

6-1 第36条は訓示規定か

第36条は、消防庁長官・都道府県知事に運営管理・行政管理の権限がないことを宣言する。他の法令の規定で個別に指示権等が与えられている場合(第43条、第44条など)はその限りで修正されるが、そのような規定がない限り、消防庁長官・都道府県知事が市町村の消防に命令を発することは許されない。

この意味で、第36条は単なる訓示規定ではなく、権限の不存在を確認する規範的意味をもつ。消防庁長官が通知において「〜しなければならない」という表現を用いた場合でも、法律上の根拠がない限り、市町村はこれに従う法的義務を負わない。前回まで扱った各種の基準告示のうち、「消防庁の定める基準に従い」と法律が明記しているもの(第16条第2項、第17条第4項、第23条第2項など)と、第37条の勧告として発せられるものとでは、法的拘束力が異なる。この区別の根拠が第36条にある。

6-2 財政誘導と第36条・地方自治法第247条第3項

第36条と地方自治法第247条第3項(助言等に従わなかったことを理由とする不利益取扱いの禁止)を併せて読むと、前回扱った広域化の財政措置に関して一つの論点が浮かぶ。

広域化に関する財政措置は、都道府県の推進計画への記載を要件としている。推進計画の策定は努力義務であり、市町村が広域化するかどうかは市町村の自主的な判断に委ねられる。他方で、基本指針(消防庁告示)が示す組合せや期限に沿わなければ財政措置が受けられない。

この構造は、勧告に従わないことを理由とする不利益取扱いに当たるか。一般的な理解としては、財政措置の対象要件を定めることは、特定の地方公共団体を狙い撃ちにした不利益取扱いではなく、政策誘導のための制度設計であるから、地方自治法第247条第3項に直ちに抵触するものではないとされる。もっとも、最判令和2年6月30日(泉佐野市ふるさと納税事件)は、国の関与に関する法律の委任の範囲を厳格に解し、告示の一部を違法とした。財政措置の要件を告示で定める手法は、その要件の設定が法律の委任の範囲内にあるか、関与の基本原則に照らして必要最小限度といえるかという観点から検証されうる。

6-3 関与を争う途はあるか

第37条・第38条の助言・勧告・指導に不満がある市町村は、それを争うことができるか。

抗告訴訟については、行政機関相互間の行為は、国民に対する直接の関係において権利義務を形成し、またはその範囲を確定する効果を伴うものでない限り、抗告訴訟の対象とならないというのが判例である(最判昭和34年1月29日、最判昭和53年12月8日)。助言・勧告・指導は法的拘束力を伴わないから、処分性は否定される。

地方自治法上の国地方係争処理委員会への審査の申出(同法第250条の13)については、対象が「是正の要求、許可の拒否その他の処分その他公権力の行使に当たるもの」等に限られており、技術的助言・勧告は含まれない。

したがって、第37条・第38条の関与を法的に争う途は事実上存在しない。これは関与が非権力的であることの裏返しであり、市町村は従わなければよいという整理になる。地方自治法第247条第1項により、書面によらない助言等について書面の交付を求めることはできる。口頭での強い働きかけに対しては、この書面交付請求が、関与の内容と根拠を明確にさせる手段として機能する。

6-4 令和6年地方自治法改正の補充的指示と第36条

令和6年に成立した地方自治法の一部を改正する法律(令和6年法律第65号)は、地方自治法第2編に新たな第14章「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と普通地方公共団体との関係等の特例」を設けた。大規模な災害、感染症のまん延その他これらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、または発生するおそれがある場合において、各大臣が、生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため特に必要があるときは、閣議決定を経て、普通地方公共団体に対し必要な指示ができるとする、いわゆる補充的指示の制度である。成立に際しては、全国知事会をはじめ多くの地方議会から、地方自治の本旨や国と地方の対等な関係を損なうことへの懸念が示された。

この制度と第36条の関係は、現時点で論じられることの少ない論点である。

第一に、補充的指示の主体は「各大臣」であり、消防庁長官ではない。第36条は「消防庁長官又は都道府県知事」の運営管理・行政管理を否定するにとどまり、総務大臣は名指ししていない。文言上は、総務大臣が補充的指示として市町村の消防に指示を行うことは、第36条に正面から抵触しない。

第二に、補充的指示は「補充的」であり、個別法に指示の根拠がある場合には個別法による。消防組織法は第43条(都道府県知事の指示)、第44条(消防庁長官の求めと指示)、第44条の2以下(緊急消防援助隊)という固有の非常時の枠組みを備えている。この枠組みで対応できる事態について補充的指示が用いられる余地は小さい。

第三に、それでもなお、消防組織法の枠組みで対応できない事態において総務大臣が市町村の消防に補充的指示を行うことは、制度上は想定しうる。第36条が制定時から守ってきた「消防は国の指揮命令に服さない」という原則が、一般法である地方自治法によって、所管大臣を通じた経路から修正されうる状態になったといえる。

地方自治法第2編新第14章の運用については、総務省が「運用等の考え方」を定めて各府省に周知している。消防に関して補充的指示が検討される場面が生じた場合には、第36条の趣旨に照らして、その必要性と範囲が厳格に吟味されるべきである。

6-5 相互応援における指揮と責任の帰属

第39条による応援の法的構造は、第47条と一体で理解する必要がある。第47条第1項は、消防機関の職員が第39条の規定により応援のため出動した場合には、当該職員は応援を受けた市町村の長の指揮の下に行動するものとする。

応援出動中の事故で第三者に損害が生じた場合、国家賠償法第1条の責任を負う公共団体はどちらか。指揮権は受援市町村にあり、公務員の俸給等の費用は応援市町村が負担している。国家賠償法第3条第1項は、公務員の選任もしくは監督に当たる者と俸給・給与その他の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者もまた損害を賠償する責任を負うと定める。被害者から見れば、受援市町村と応援市町村のいずれに対しても請求しうる構造になりうる。

この点について、消防組織法第39条に基づく相互応援を直接扱った公表裁判例は見当たらない。実務は、協定に損害賠償の負担区分を定めることで対応している。たとえば北海道の広域消防相互応援協定は、応援隊の応援に伴い発生した事故の処理に要する土地・建物・工作物等に対する損害賠償および一般人の死傷に伴う損害賠償の経費は要請側の負担とし、ただし応援側の重大な過失により発生した損害賠償に要する経費は応援側の負担とし、要請側の負担額は応援側が加入する保険により支払われる金額を控除した金額とする旨を定めている。対外的な責任の所在は国家賠償法によって決まり、協定は内部の求償関係(同法第3条第2項)を事前に調整する機能を果たす。

6-6 協定に残る旧条番号

相互応援協定は、締結から数十年を経て改定されずに運用されているものが少なくない。そのため、協定中に旧条番号が残っている例がある。

宮城県の地域防災計画資料には、昭和48年に締結された消防相互応援協定が「消防組織法第21条の規定に基づき」相互に応援すると記載されている。締結当時は正しい引用であったが、平成18年以降は第39条である。他の協定には、応援隊の指揮について現行の第47条ではない旧条番号を引用しているものもある。

旧条番号の引用が協定の効力に影響することはない。しかし、協定の根拠や指揮関係を確認しようとする者が現行法と照合できないという不便は生ずる。同様の問題は消防庁の要領にもあり、平成26年2月の改正通知に掲げられた火災報告取扱要領の本文にも、同要領が「消防組織法(昭和22年法律第226号)第22条の規定に基づき消防庁長官が求める消防関係報告」の形式および方法を定める旨の記載が残っている。平成18年の条番号の繰下げ後も旧第22条(現行第40条)の引用が維持されていた例である。


第7章 裁判例

第36条から第40条までを直接の争点とする公表裁判例は見当たらない。関与が非権力的であり、国民の権利義務に直接の効果を及ぼさないためである。関連する枠組みを示す判例として、次の四類型が参照に値する。

7-1 行政機関相互間の行為の処分性

最判昭和34年1月29日(第一小法廷)

消防法第7条による消防長の建築許可の同意・同意の拒絶・同意の取消しが抗告訴訟の対象となるかが争われた。判決は、抗告訴訟の対象となる行政庁の行為は対国民との直接の関係においてその権利義務に関係あるものであることを要し、行政機関相互間における行為はその行為が国民に対する直接の関係において権利義務を形成しまたはその範囲を確定する効果を伴うものでない限り抗告訴訟の対象とならないとした。

最判昭和53年12月8日(第二小法廷、民集32巻9号1617頁。成田新幹線事件)

運輸大臣が日本鉄道建設公団に対して行った工事実施計画の認可について、行政機関相互の行為と同視すべきものであり、行政行為として外部に対する効力を有するものではなく、抗告訴訟の対象とならないとした。

この二つの判例は、国・都道府県から市町村への関与が抗告訴訟の対象とならない理由を示す枠組みとして参照される。消防庁長官の助言・勧告・指導を市町村が取消訴訟で争うことはできない。

7-2 私人に対する勧告の処分性との対比

最判平成17年7月15日(第二小法廷、民集59巻6号1661頁)

医療法に基づく病院開設中止の勧告について、これに従わない場合には相当程度の確実さをもって保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすものであり、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとした。

勧告という形式であっても、後続する不利益措置と結びついている場合には処分性が認められうることを示した判例である。第37条・第38条の勧告は地方公共団体を名宛人とするものであり、直ちにこの判例の射程が及ぶわけではない。しかし、勧告に従わないことが財政措置の不交付などと事実上結びつく場合には、その実質をどう評価するかという問題を考える手がかりとなる。

7-3 国の関与と法律の委任の範囲

最判令和2年6月30日(第三小法廷、民集74巻4号800頁。泉佐野市ふるさと納税事件)

総務大臣が地方税法の委任に基づいて定めた告示のうち、改正法施行前の寄附金の募集・受領の態様を理由として指定の対象外とする部分について、法の委任の範囲を逸脱したものとして違法・無効とした。国の関与は法律の根拠に基づかなければならず、告示によって法律の定める要件を実質的に加重することは許されないという判断である。

消防組織法の下でも、基本指針や各種基準が告示の形式で定められ、財政措置の要件として機能している。これらの告示が法律の委任の範囲内にあるかは、この判例の枠組みで検証されうる。

7-4 消防活動の責任の帰属

相互応援出動中の事故について、消防組織法第39条・第47条の下での責任の帰属を判断した公表裁判例は見当たらない。一般論としては、国家賠償法第1条・第3条の枠組みにより、指揮権をもつ受援市町村と費用を負担する応援市町村の双方が責任主体となりうる。消防活動そのものの過失については、失火ノ責任ニ関スル法律の適用を認めた最判昭和53年7月17日の枠組みが及ぶ。

7-5 参照の仕方

第36条から第40条までをめぐる紛争は、現実には訴訟ではなく、通知・協議・財政措置の場で調整される。条文の意味を確定するのは判例ではなく、制定時からの改め文の積み重ねである。本稿が沿革に紙幅を割いたのはそのためである。


第8章 実務上の留意点

8-1 通知の根拠条文を確認する

消防庁から発出される通知には、根拠条文が末尾に記載されていることが多い。確認すべき点は次のとおりである。

  • 消防庁長官名の通知で「消防組織法第37条に基づく助言」とあれば、法的拘束力はない。
  • 総務大臣名の通知で「地方自治法第245条の4第1項に基づく技術的な助言」とあれば、同様に法的拘束力はない。
  • 「消防組織法第37条に基づく勧告」とあれば、法的拘束力はないが、尊重が求められる。
  • 法律が「消防庁の定める基準に従い」と規定し、その基準を告示で定めている場合(消防吏員の階級の基準、消防職員委員会の組織及び運営の基準など)は、市町村規則はその基準に従わなければならない。
  • 第43条・第44条に基づく指示は、非常時に限り法的拘束力をもつ。

同じ「通知」という形式でも、根拠によって拘束の度合いがまったく異なる。消防本部の例規担当者は、通知を受けた際にまず根拠条文を確認し、それが従うべき基準なのか、参考とすべき助言なのかを整理する習慣をつけておきたい。

8-2 口頭の関与には書面を求める

都道府県の担当部局から電話等で強い働きかけを受けることがある。地方自治法第247条第1項により、市町村は書面によらない助言等について、その趣旨および内容を記載した書面の交付を求めることができる。関与の根拠と内容を明確にし、後日の検証を可能にするための手段として活用できる。

8-3 相互応援協定の点検

市町村の消防本部が締結している相互応援協定は、県内全市町村の協定、隣接市町村との個別協定、県境を越える協定、高速道路・港湾・空港に関する特殊協定など多層にわたる。平成26年4月1日現在の締結数は、同一都道府県内の市町村間で1,602、異なる都道府県域に含まれる市町村間で603、全国合計2,205であった。

点検にあたっては、次の事項を確認したい。

  • 根拠条文の表記が現行の第39条となっているか。旧第21条のままの協定は改定の機会に整理する。
  • 指揮関係の規定が第47条と整合しているか。応援出動隊は受援市町村の現場最高指揮者の指揮に従う旨が明記されているか。
  • 応援の区分(普通応援・特別応援)と出動基準が明確か。
  • 経費の負担区分が定められているか。人件費、燃料費、消耗品費、公務災害補償、損害賠償の各項目について、応援側・受援側のいずれが負担するかを明確にしておく。
  • 損害賠償条項が保険の適用を前提として設計されているか。応援側が加入する保険の範囲と、協定上の負担区分が整合しているか。
  • 広域化により協定の当事者が変わっていないか。組合設立や事務委託により消防本部が統合された場合、旧団体名義の協定の承継関係を整理しておく必要がある。

8-4 消防統計報告の運用

第40条に基づく報告は、火災報告、救急事故等報告、火災・災害等即報、消防防災・震災対策現況調査など多岐にわたる。これらの報告は全国の消防統計の基礎となり、消防白書の数値や、消防力の整備指針の充足率算定、財政措置の配分の基礎資料として用いられる。

報告の正確性は、消防本部自身の政策判断にも直結する。前回までに引用した消防職員の充足率、指令の共同運用の実績、消防団の条例定数と実員といった数値は、すべて第40条に基づく報告の集積である。報告に誤りがあれば、自らの消防力の評価も誤ることになる。

火災・災害等即報では、都道府県を経由する即報基準と、直接消防庁に報告する直接即報基準の区別を、指令センターの担当者が即座に判断できるよう、所内の手順書に落とし込んでおくことが求められる。

8-5 補充的指示への備え

令和6年地方自治法改正による補充的指示が消防に及ぶ場面は、現時点では想定しにくい。しかし制度上の可能性が生じた以上、消防本部としては、非常時に国から受ける可能性のある関与の類型を整理しておくことが望ましい。

  • 消防組織法第43条に基づく都道府県知事の指示
  • 同法第44条に基づく消防庁長官の求め・指示(緊急消防援助隊を含む)
  • 災害対策基本法に基づく国・都道府県の指示
  • 地方自治法第2編新第14章に基づく各大臣の補充的指示

それぞれについて、指示の主体、要件、名宛人、市町村側の対応手続を一覧にしておけば、非常時に受けた指示の法的根拠を即座に確認できる。第36条の原則を守ることは、指示の根拠を確認し、根拠のない指示には従う義務がないことを理解しておくことから始まる。


参考資料

法令

  • 消防組織法(昭和22年法律第226号) e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000226
  • 地方自治法(昭和22年法律第67号) 第245条、第245条の2、第245条の3、第245条の4、第247条、第250条の13、第252条の14、第2編第14章
  • 国家賠償法(昭和22年法律第125号) 第1条、第3条

制定・改正法の原文

通知・行政資料

裁判例

  • 最判昭和34年1月29日(第一小法廷。消防法第7条による消防長の同意と抗告訴訟の対象)
  • 最判昭和53年12月8日民集32巻9号1617頁(成田新幹線事件。行政機関相互の行為と処分性)
  • 最判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁(病院開設中止勧告の処分性)
  • 最判令和2年6月30日民集74巻4号800頁(泉佐野市ふるさと納税事件。告示と法律の委任の範囲)
  • 最判昭和53年7月17日(消防活動と失火ノ責任ニ関スル法律の適用)

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