序 第4章という独立した章

消防組織法は、第3章「地方公共団体の機関」で市町村消防の原則と消防機関の組織を定め、第5章「各機関相互間の関係等」で応援・援助や国の関与を定める。その間に置かれた第4章「市町村の消防の広域化」は、平成18年法律第64号によって新設された章である。

制定以来の条文が大半を占める消防組織法のなかで、この五か条だけが21世紀に入ってから作られた。内容も他の章とは性格が異なる。消防機関の組織や権限を定める組織規範ではなく、国・都道府県・市町村がそれぞれ計画を作り、段階的に施策を進めるための手続規範である。基本指針(第32条)、推進計画(第33条)、広域消防運営計画(第34条)という三層の計画体系を置き、国の援助と地方債への配慮(第35条)で締める構成は、この時期に量産された推進法・整備法の型を踏襲している。

条文だけを読んでも実務は動かない。実質的な規範は、第32条の委任を受けた市町村の消防の広域化に関する基本指針(平成18年消防庁告示第33号)に置かれており、同告示は平成25年、平成30年、令和6年の各改正を経て、推進期限や目標規模を書き換えてきた。第4章を読むということは、この告示の変遷を読むことにほぼ等しい。


第1章 条文原文

以下は令和8年9月現在施行されている条文である(昭和22年法律第226号)。

第31条

(市町村の消防の広域化) 第三十一条 市町村の消防の広域化(二以上の市町村が消防事務(消防団の事務を除く。以下この条において同じ。)を共同して処理することとすること又は市町村が他の市町村に消防事務を委託することをいう。以下この章において同じ。)は、消防の体制の整備及び確立を図ることを旨として、行われなければならない。

第32条

(基本指針) 第三十二条 消防庁長官は、自主的な市町村の消防の広域化を推進するとともに市町村の消防の広域化が行われた後の消防(以下「広域化後の消防」という。)の円滑な運営を確保するための基本的な指針(次項及び次条第一項において「基本指針」という。)を定めるものとする。 2 基本指針においては、次に掲げる事項について定めるものとする。 一 自主的な市町村の消防の広域化の推進に関する基本的な事項 二 自主的な市町村の消防の広域化を推進する期間 三 次条第二項第三号及び第四号に掲げる事項に関する基準 四 広域化後の消防の円滑な運営の確保に関する基本的な事項 五 市町村の防災に係る関係機関相互間の連携の確保に関する事項

第33条

(推進計画及び都道府県知事の関与等) 第三十三条 都道府県は、基本指針に基づき、当該都道府県の区域内において自主的な市町村の消防の広域化を推進する必要があると認める場合には、その市町村を対象として、当該都道府県における自主的な市町村の消防の広域化の推進及び広域化後の消防の円滑な運営の確保に関する計画(以下この条において「推進計画」という。)を定めるよう努めなければならない。 2 推進計画においては、おおむね次に掲げる事項について定めるものとする。 一 自主的な市町村の消防の広域化の推進に関する基本的な事項 二 市町村の消防の現況及び将来の見通し 三 前号の現況及び将来の見通しを勘案して、推進する必要があると認める自主的な市町村の消防の広域化の対象となる市町村(以下「広域化対象市町村」という。)の組合せ 四 前号の組合せに基づく自主的な市町村の消防の広域化を推進するために必要な措置に関する事項 五 広域化後の消防の円滑な運営の確保に関する基本的な事項 六 市町村の防災に係る関係機関相互間の連携の確保に関する事項 3 都道府県は、推進計画を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、関係市町村の意見を聴かなければならない。 4 都道府県知事は、広域化対象市町村の全部又は一部から求めがあつたときは、市町村相互間における必要な調整を行うものとする。 5 都道府県知事は、市町村に対し、自主的な市町村の消防の広域化を推進するため、この法律に定めるもののほか、情報の提供その他の必要な援助を行うものとする。

第34条

(広域消防運営計画) 第三十四条 広域化対象市町村は、市町村の消防の広域化を行おうとするときは、その協議により、広域化後の消防の円滑な運営を確保するための計画(以下この条及び次条第二項において「広域消防運営計画」という。)を作成するものとする。 2 広域消防運営計画においては、おおむね次に掲げる事項について定めるものとする。 一 広域化後の消防の円滑な運営を確保するための基本方針 二 消防本部の位置及び名称 三 市町村の防災に係る関係機関相互間の連携の確保に関する事項 3 広域化対象市町村が、広域消防運営計画を作成するため、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の二の二第一項の規定により協議会を設ける場合にあつては、当該協議会には、同法第二百五十二条の三第二項の規定にかかわらず、規約の定めるところにより、関係市町村の議会の議員又は学識経験を有する者を当該協議会の会長又は委員として加えることができる。

第35条

(国の援助等) 第三十五条 国は、都道府県及び市町村に対し、自主的な市町村の消防の広域化を推進するため、この法律に定めるもののほか、情報の提供その他の必要な援助を行うものとする。 2 広域化対象市町村が第三十三条第二項第三号の組合せに基づき市町村の消防の広域化を行つた場合において、当該広域化対象市町村が広域消防運営計画を達成するために行う事業に要する経費に充てるために起こす地方債については、法令の範囲内において、資金事情及び当該広域化対象市町村の財政状況が許す限り、特別の配慮をするものとする。


第2章 趣旨・立法背景

2-1 法制化前の広域化行政

市町村の消防の広域化は、平成18年に始まった施策ではない。消防本部の数は、常備消防の整備が進むにつれて増え続け、平成3年10月に過去最多の936本部に達した。その後、平成6年9月の「消防広域化基本計画について(通知)」により、消防庁は都道府県に対して消防広域化基本計画の策定を要請し、広域化の推進に舵を切る。

平成13年には、市町村合併の進捗に伴い、小規模消防本部の広域再編を進めるにあたって市町村合併との整合性を確保する必要がある旨を通知し、基本計画の見直しを要請した。平成15年には、合併の結果として従来の消防本部の管轄区域が縮小され小規模な消防本部が生ずるのは適当でない旨を指導している。

この時期の広域化行政は、法律上の根拠をもたない通知ベースの行政指導であった。消防本部数は平成6年4月1日の931本部から平成18年4月1日の811本部へと減少したが、その主因は市町村合併であり、合併以外の要因による広域化はあまり進まなかった。各都道府県が作成した基本計画のうち市町村の組合せを明記しないものが半分以上を占め、平成13年の見直し要請後に実際に見直しを行った都道府県は2団体にとどまった。行政指導の限界が露呈していたといえる。

2-2 消防審議会答申(平成18年2月1日)

平成17年11月24日、消防庁長官は消防審議会に「今後の消防体制のあり方」を諮問した。同審議会(会長・菅原進一)は、そのうち「市町村の消防の広域化の推進」について、平成18年2月1日に答申を行った。第4章の立法は、この答申を直接の基礎としている。

答申の骨格は次のとおりである。

市町村消防の原則の維持 消防は昭和22年の消防組織法制定以来、基礎的自治体である市町村がまずその任に当たる市町村消防の原則をとってきた。平成17年には常備化率が市町村数で98.0パーセント、人口の99.9パーセントが常備消防により守られる水準に達している。災害対策基本法上も防災に関する第一次的責任は市町村にあるから、今後とも市町村が一義的な消防の責務を担っていくことが必要である。他方で、安心・安全という国家の存立基盤について、国や都道府県が全国的な観点から補完的役割を発揮できる仕組みを構築することもまた必要とされている。

小規模消防本部の課題 答申は、管轄人口10万未満の小規模消防本部について具体的な数値を挙げて課題を指摘した。消防力の整備指針に基づき算定される職員数の充足率は、全国平均75.5パーセントに対し、管轄人口5万人以上10万人未満では66.4パーセント、5万人未満では63.6パーセントにとどまる。管轄人口10万人程度のモデル消防本部でも、単独で対応可能な火災の規模は125平方メートル程度と想定され、当該火災への対応で第1次出動においてほぼ全部隊が出払うため、2次出動以降や他の火災への対応が困難となる。はしご車、救助工作車等の高度な車両・資機材の導入にも困難を伴い、火災原因調査や立入検査といった予防行政の専門人材の養成・確保も難しい。

目標規模の引上げ 従来の広域化の目安は管轄人口10万規模であった。答申は、焼損面積375平方メートル規模の火災に対して10隊から18隊程度のポンプ隊による初動体制を確保できれば全国の火災の約97パーセントをカバーできること、火災原因調査の実施体制と専従調査員の確保はおおむね職員300人以上の本部で実現していることなどを根拠に、管轄人口30万規模以上を目標として設定すべきとした。

法的措置の要請 消防組織法を改正し、広域化における都道府県の役割を明確にするとともに、消防広域化の関係者による議論の枠組みを創ることが必要であるとした。国が基本指針を定め、都道府県が推進計画を定め、広域化対象市町村が広域消防運営計画を作成するという三層構造は、答申が示した設計そのものである。運営計画を定めるために地方自治法上の協議会を設ける場合に、規約により議会の議員、市町村長、学識経験者等を会長・委員に加えられるようにすべきという提言も、現行第34条第3項として実現した。

スケジュール 平成18年度前半に基本指針、平成18年度後半から平成19年度に推進計画を策定し、その後5年程度であるべき姿の実現を目指すことが考えられるとした。

消防団を対象外とすること 答申は、消防本部が専門性の高い常備の消防機関であり、消防団がより地域に密着した消防活動を実施するという特性上、消防団の広域化は行わず、引き続き構成市町村単位での設置を維持すべきであるとした。第31条の括弧書きが「消防団の事務を除く」としているのは、この判断の条文化である。

2-3 平成18年法律第64号

答申から4か月後の平成18年6月14日、消防組織法の一部を改正する法律(平成18年法律第64号)が公布・施行された。同法は第4章(第31条から第35条まで)を新設するとともに、消防組織法の全条文にわたって見出しおよび項番号を付し、枝番号を整理した。既報の各回で扱った第14条から第30条までの条番号繰下げは、この第4章新設に伴う整理である。

同日付で、消防庁長官通知(消防総第327号・消防消第78号)が改正内容を各都道府県知事・各指定都市市長に示している。

2-4 基本指針の四期にわたる改正

第32条に基づく市町村の消防の広域化に関する基本指針は、平成18年7月12日に消防庁告示第33号として告示された。以後の推移は次のとおりである。

期時期推進期限主な内容
第Ⅰ期平成18年7月 告示平成25年3月31日管轄人口おおむね30万以上を目標規模として設定
第Ⅱ期平成25年4月 一部改正平成30年4月1日消防広域化重点地域の制度を創設
第Ⅲ期平成30年4月 一部改正令和6年4月1日都道府県の主導的役割を強調、推進計画の再策定を要請
第Ⅳ期令和6年3月29日 告示第8号令和11年4月1日中心消防本部の制度を創設、特定小規模消防本部の概念を導入

推進期限が三度にわたり延長されている。当初は5年程度で「あるべき姿」を実現するという想定であったが、20年を超えてなお目標に達していない。

現行の基本指針は、その理由を率直に記述している。平成30年からの推進期間においては広域化の進捗がそれ以前と比べ鈍化しており、依然として広域化の必要性が高い小規模消防本部が残されている、と。

2-5 連携・協力という第二の経路

広域化が停滞するなかで、平成29年4月1日、消防庁は「市町村の消防の連携・協力に関する基本指針」を通知(消防消第59号)により示した。消防組織法に根拠をもつ告示ではなく、通知レベルの指針である。

その考え方は、消防の広域化が組織の統合に向けた調整が困難であるなどの理由で実現になお時間を要する地域において、消防事務の性質に応じて事務の一部について柔軟に連携・協力することにより消防力の強化に効果を生み出していこうというものである。令和4年3月31日の一部改正では、連携・協力実施計画に定める事項として将来的な広域化に向けた議論を進めていくことの明確化が義務づけられた。令和6年4月1日の一部改正(消防消第93号)では、推進期限が広域化と揃えて令和11年4月1日までとされている。

連携・協力の中核に位置づけられているのが、高機能消防指令センターの共同運用(指令の共同運用)である。現行の広域化基本指針は、平成31年以降に広域化した7地域のうち5地域が広域化前に指令の共同運用や消防用車両の共同整備といった連携・協力を実施していたことを挙げ、こうした取組が広域化を実現していくための下地となるとしている。


第3章 文理解釈

3-1 第31条

本条は、広域化の定義と理念を一条で定める。

定義 広域化とは、①二以上の市町村が消防事務を共同して処理することとすること、または②市町村が他の市町村に消防事務を委託すること、のいずれかをいう。

①は地方自治法上の一部事務組合(第284条第2項)、広域連合(第284条第3項)、協議会のうち管理執行協議会(第252条の2の2)、機関等の共同設置(第252条の7)を含みうるが、実務上は一部事務組合と広域連合が用いられる。②は地方自治法第252条の14の事務の委託である。

消防団の除外 括弧書きが「消防団の事務を除く」と明記する。前述の消防審議会答申を受けたものであり、現行基本指針も、広域化の対象はいわゆる常備消防であり消防団はその対象ではないと確認している。消防力の整備指針第37条は、市町村の合併等消防団の沿革その他の特段の事情がある場合を除き、一市町村に一団を置くものとしている。

この帰結として、広域化を行った地域では、常備消防は組合または受託市町村が担い、消防団は各構成市町村が引き続き設置するという分離が生ずる。第18条第3項は消防本部を置く市町村において消防団が消防長または消防署長の所轄の下に行動するものとしているから、組合の消防長が構成市町村の消防団を所轄するという関係になる。所轄する側とされる側が別個の地方公共団体に属するという、他に例を見ない構造である。

理念 「消防の体制の整備及び確立を図ることを旨として、行われなければならない」という書き方は、広域化それ自体を目的とするのではなく、消防体制の整備・確立という目的に仕える手段として位置づける趣旨である。基本指針は、これを受けて、広域化によって消防本部の対応力が低下するようなことはあってはならないと明言している。効率化や経費削減を理由として消防力を縮減する広域化は、第31条の理念に反する。

「自主的な」という限定 第31条には現れないが、第32条以下は一貫して「自主的な市町村の消防の広域化」という表現を用いる。国や都道府県が広域化を強制する仕組みではないことを、条文の文言自体が示している。

3-2 第32条

消防庁長官による基本指針の策定を定める。「定めるものとする」であるから義務的である。

第2項各号のうち第3号が技術的に重要である。「次条第二項第三号及び第四号に掲げる事項に関する基準」、すなわち都道府県が推進計画に定める広域化対象市町村の組合せと、その組合せに基づく広域化を推進するために必要な措置に関する事項について、基本指針が基準を示す。現行指針の三、2「推進計画に定める広域化対象市町村の組合せに関する基準」および三、5「自主的な市町村の消防の広域化を推進するために必要な措置に関する基準」がこれに当たる。

基準といっても法的拘束力を伴うものではない。第33条第1項が推進計画の策定を「基本指針に基づき」としつつ努力義務にとどめているため、基準からの乖離が直ちに違法となるわけではない。

基本指針は法令の形式としては告示であるが、第32条の委任に基づくものである点で、第37条の勧告として発せられる告示(消防防災ヘリコプターの運航に関する基準など)とは性質が異なる。法律の委任を受けた告示であり、推進計画の適法性を判断する際の基準として機能しうる。

3-3 第33条

第1項は推進計画の策定を「定めるよう努めなければならない」とする。努力義務である。しかも「推進する必要があると認める場合には」という判断の余地が前置されているから、二重に緩やかな規定となっている。

もっとも、財政措置の多くが推進計画への記載を要件としているため、実際には推進計画を定めなければ広域化を進められない。基本指針が挙げる財政措置のうち、市町村の消防の広域化に関するものは「都道府県の推進計画に定める市町村の組合せを構成する市町村の全部又は一部からなる地域の広域化に限る」とされている。第35条第2項の地方債への特別の配慮も、「第三十三条第二項第三号の組合せに基づき」広域化を行った場合に限られる。努力義務でありながら、財政誘導により事実上の必須手続となっている。

第2項は推進計画の記載事項を列挙する。「おおむね次に掲げる事項」という表現であり、第32条第2項の「次に掲げる事項」より緩い。

第3号の「広域化対象市町村の組合せ」が計画の核心である。どの市町村とどの市町村を組み合わせるかを都道府県が示す。基本指針は、管轄人口おおむね30万以上を一つの目標としつつ、地域の事情を十分に考慮すべきとし、他方で管轄人口10万未満の小規模消防本部および消防吏員数が100人以下の消防本部は可能な限り、消防吏員数が50人以下の特定小規模消防本部は原則として、広域化対象市町村に指定する方向で検討する必要があるとしている。

第3項は関係市町村の意見聴取を義務づける。「聴かなければならない」であり、第1項の努力義務とは規範の強さが異なる。推進計画を定め、または変更する場合に意見聴取を欠けば、手続上の瑕疵となる。

第4項は、広域化対象市町村の全部または一部から求めがあったときの都道府県知事による調整を「行うものとする」とする。市町村側からの求めが要件であり、知事が自らの判断で調整に乗り出す権限を定めたものではない。

第5項は情報提供その他の援助を「行うものとする」とする。「この法律に定めるもののほか」とあるのは、第29条各号の事務や第38条の勧告・指導・助言とは別に、広域化推進に特化した援助を行う趣旨である。

3-4 第34条

第1項は広域化対象市町村による広域消防運営計画の作成を定める。「その協議により」作成するものとされており、関係市町村の合意形成が前提となる。

第2項の記載事項は三つと少ない。基本方針、消防本部の位置および名称、関係機関相互間の連携の確保に関する事項である。基本指針は、これに加えて、組合方式の場合には負担金の額または負担割合等に係る基本的ルール、職員の任用・給与・教育訓練等に関する計画、中長期的な整備費用の見通しを含めた消防力の整備計画、部隊運用・指令管制等に関する計画、災害時の相互連絡・情報共有に関する計画、構成市町村間の連絡会議の定期的開催や消防長の専決対象の明確化、住民意見の反映の仕組みを、可能な限り組合の規約・規程等において定めることが有効であるとしている。事務委託方式の場合には、委託料に係る基本的ルール、災害時の相互連絡・情報共有に関する計画、住民意見の反映の仕組みが挙げられている。

第3項が、第4章のなかで唯一、他法の適用を修正する規定である。

地方自治法第252条の3第2項は、協議会の会長および委員を関係普通地方公共団体の職員のうちから選任しなければならないと定める。広域消防運営計画の作成のために同法第252条の2の2第1項の協議会を設ける場合には、この制限にかかわらず、規約の定めるところにより、関係市町村の議会の議員または学識経験を有する者を会長または委員として加えることができる。

職員以外の者を協議会の構成員としうるという例外は、消防審議会答申が「地域の消防について十分に議論する」ことを重視したことに由来する。広域化は消防本部の職員だけで決められる事柄ではなく、議会と住民の理解を要するという判断である。

なお、平成18年当時の第34条第3項は地方自治法第252条の2第1項を引用していた。平成26年法律第42号による地方自治法改正で連携協約の制度が同法第252条の2として新設され、従来の協議会の規定が第252条の2の2に繰り下げられたことに伴い、消防組織法第34条第3項の引用も改められた。現行の消防組織法が「平成26年11月1日施行」の版である理由は、この技術的改正にある。

3-5 第35条

第1項は国による情報提供その他の援助を「行うものとする」とする。第33条第5項の都道府県版と同じ構造である。

第2項は地方債への特別の配慮を定める。「法令の範囲内において、資金事情及び当該広域化対象市町村の財政状況が許す限り」という三重の留保が付されており、それ自体としては訓示的な規定にとどまる。実効性は、毎年度の地方財政措置によって担保される。

令和7年度の措置では、広域消防運営計画等に基づき必要となる消防署所等の増改築、再配置が必要と位置づけられた消防署所等の新築、消防署所等の統合による効率化等により機能強化を図る消防用車両等の整備について、緊急防災・減災事業債(充当率100パーセント、交付税算入率70パーセント)の対象とされている。連携・協力については、連携・協力実施計画に基づく消防指令センターの整備、消防用車両等の整備、訓練施設の整備が対象である。

条文が「地方債については……特別の配慮をするものとする」と書くにとどめ、具体的な起債の種類や充当率を法定していないため、財政措置の内容は毎年度の運用で変動する。緊急防災・減災事業債の事業年度が時限措置であることもあり、市町村側から見れば、条文よりも当該年度の通知を確認することが先決となる。


第4章 用語解説

市町村の消防の広域化 二以上の市町村が消防事務(消防団の事務を除く)を共同して処理することとすること、または市町村が他の市町村に消防事務を委託すること(第31条)。組織の統合を伴う点で、後述する連携・協力とは区別される。

小規模消防本部 管轄人口10万未満の消防本部。基本指針が用いる概念である。令和6年4月1日現在、全720消防本部のうち432本部(60.0パーセント)がこれに当たる。

特定小規模消防本部 消防吏員数が50人以下の消防本部。令和6年3月29日の基本指針改正で導入された概念であり、原則として広域化対象市町村に指定する方向で検討すべきものとされる。

消防広域化重点地域 都道府県知事が、広域化対象市町村のそれぞれの組合せを構成する市町村の全部または一部からなる地域のうち、広域化の取組を先行して重点的に取り組む必要があるものとして指定する地域。平成25年の基本指針改正で創設された。指定に当たってはあらかじめ関係市町村の意見を聴くものとされ、指定の際にはその旨と都道府県の支援内容を公表するものとされる。

中心消防本部 地域の核となり広域化の検討を主導する消防本部。令和6年3月29日の基本指針改正で創設された。当該消防本部の同意を得た上で推進計画に定める。周辺消防本部の意向確認、消防力の現況等の情報交換、広域化の効果の調査、協議会等の設置の呼びかけと事務局職員の派遣、論点整理・意見集約が主な役割とされる。

消防の連携・協力 消防事務の一部について柔軟に連携・協力を行うこと。組織の統合を伴わない。市町村の消防の連携・協力に関する基本指針(平成29年4月1日消防消第59号、令和6年4月1日最終改正)が定める。消防組織法上の根拠規定はない。

指令の共同運用 高機能消防指令センターの共同運用。連携・協力の類型のうち、広域化につなげる効果が特に大きいものとされる。現場に最先着できる隊に自動で出動指令を行う直近指令、出動可能な隊がなくなった場合に他消防本部の隊に自動で出動指令を行うゼロ隊運用といった高度な運用が想定されている。

全県一区 一の都道府県全体を一つの単位とした区域での広域化。基本指針は、これを理想的な消防本部のあり方の一つとも言えると評価している。

非常備町村 消防本部および消防署を設置していない町村。令和7年4月1日現在、7都県に29町村が存在し、そのうち1都3県の21町村(非常備町村全体の72.4パーセント)は島しょである。


第5章 改正沿革

5-1 法律

年法令内容
平成18年法律第64号第4章(第31条から第35条まで)を新設。平成18年6月14日公布・施行
平成26年法律第42号地方自治法改正に伴い、第34条第3項の引用条項を「第252条の2第1項」から「第252条の2の2第1項」に改める。平成26年11月1日施行

新設以来、実質的な改正は行われていない。第4章の運用は、専ら基本指針の改正によって調整されてきた。

5-2 基本指針および関連通知

年月日文書内容
平成6年9月消防広域化基本計画について(通知)法制化前の広域化推進
平成18年7月12日消防庁告示第33号基本指針の制定。推進期限 平成25年3月31日
平成25年4月1日消防消第70号基本指針の一部改正。推進期限を平成30年4月1日に延長
平成25年5月16日消防消第97号基本指針の一部改正
平成25年6月20日消防消第145号消防広域化重点地域の指定について
平成26年5月29日消防消第127号消防広域化重点地域の指定について
平成27年4月27日消防消第91号期限内の消防の広域化の推進について
平成29年4月1日消防消第59号市町村の消防の連携・協力に関する基本指針の制定
平成30年4月1日消防消第81号基本指針の一部改正。推進期限を令和6年4月1日に延長
令和4年3月31日—連携・協力基本指針の一部改正。将来的な広域化に向けた議論の明確化を義務づけ
令和6年3月29日消防庁告示第8号・消防消第92号基本指針の一部改正。推進期限を令和11年4月1日に延長。中心消防本部、特定小規模消防本部を導入
令和6年3月29日消防消第96号消防の広域化及び連携・協力の推進に係る地方財政措置について
令和6年4月1日消防消第93号連携・協力基本指針の一部改正。推進期限を令和11年4月1日に

5-3 到達状況の推移

時点消防本部数備考
平成3年10月936過去最多
平成6年4月1日931広域化行政の起点
平成18年4月1日811法制化時
平成24年4月1日791第Ⅰ期末が近い時期
平成29年4月1日732第Ⅲ期開始の前年
令和6年4月1日720第Ⅲ期末
令和7年4月1日720第Ⅳ期開始後1年

平成18年以降、令和6年4月1日までに59地域で広域化が実現した。管轄人口10万未満の小規模消防本部は、平成18年の487本部から432本部へと55本部減少したが、なお全体の60.0パーセントを占める。非常備町村は40町村のうち11町村が解消されたが、令和7年4月1日現在で29町村が残る。

連携・協力の側は進展が早い。指令の共同運用は、令和6年4月1日現在で55地域229消防本部、令和7年4月1日現在で61地域261本部に達している。1年で6地域32本部の増加であり、広域化本体の停滞と対照的である。


第6章 法的性格と解釈上の論点

6-1 努力義務と財政誘導の関係

第33条第1項の推進計画策定は努力義務である。策定しない都道府県があっても違法ではない。にもかかわらず全都道府県が推進計画を策定しているのは、財政措置が推進計画への記載を要件としているためである。

この構造をどう評価するかは論点となる。地方分権改革の文脈では、国による自治体への義務づけ・枠付けを縮減することが求められてきた。第4章が努力義務と計画策定という緩やかな手法を採ったのは、その要請に沿うものである。他方、財政誘導によって事実上の強制力を確保するという手法は、法形式上の自主性と実質的な誘導との乖離を生む。「自主的な市町村の消防の広域化」という条文の文言と、推進期限を区切って進捗を管理する運用との距離は、この乖離の表れである。

推進期限が三度延長されてきた事実も、この文脈で読める。期限は法律ではなく基本指針に定められており、告示改正のみで延長できる。法律で期限を切れば延長のたびに改正法を要するが、告示であれば消防庁限りの判断で足りる。柔軟性と規範性のトレードオフが意識的に選択されている。

6-2 一部事務組合方式と事務委託方式の法的差異

第31条が定義する二つの経路は、法的効果が大きく異なる。

一部事務組合・広域連合 地方自治法第284条に基づく特別地方公共団体が設立される。消防事務は組合の事務となり、組合の管理者が消防を管理し(消防組織法第7条の準用関係)、組合の消防長が消防職員を任命する。構成市町村は消防事務に関する権限を失うが、組合の議会と管理者を通じて意思決定に参画する。消防長は組合の職員であり、その任命権者は組合の管理者となる。

事務委託 地方自治法第252条の14に基づく。委託した市町村は、委託の範囲内において、委託した事務を管理し執行する権限を失う。受託した市町村が自己の事務として処理し、当該事務についての法令上の責任は受託市町村に帰属する。同法第252条の16により、受託市町村の当該委託された事務の管理・執行に関する条例、規則またはその機関の定める規程は、委託した市町村の条例、規則または規程としての効力を有する。

消防審議会答申は、一部事務組合方式については構成市町村間での効果的な意見集約に配慮すべきこと、事務委託方式については委託市町村側の消防防災体制への関与を確保すべきことを、それぞれの方式が抱える特徴として指摘した。

この差は住民の権利救済の場面に現れる。組合方式であれば、地方自治法第292条により住民監査請求・住民訴訟の規定が準用され、構成市町村の住民は組合の住民として組合の財務会計行為を争える。事務委託方式では、委託市町村の住民が受託市町村の財務会計行為を直接争う道はなく、委託市町村が支出する委託料の適否を争うことになる。消防職員の処分の取消訴訟についても、組合方式では組合が、事務委託方式では受託市町村が被告となる。

令和7年4月1日現在、一部事務組合または広域連合により設置されている消防本部は288本部(うち広域連合は22本部)であり、その構成市町村数1,114市町村は常備化市町村全体の65.9パーセントに相当する。事務委託をしている市町村は144市町村で、常備化市町村全体の8.5パーセントである。組合方式が圧倒的に多い。

6-3 第6条の消防責任は誰に残るのか

条文上、明示されていない論点がある。広域化を行った場合、第6条の「当該市町村の区域における消防を十分に果たすべき責任」は誰に帰属するのかという問題である。

事務委託の場合、委託市町村は消防事務を管理執行する権限を失う。しかし第6条の責任そのものが受託市町村に移転すると解することには無理がある。第6条は「市町村は、当該市町村の区域における消防を……」と規定しており、区域と市町村を結びつけている。受託市町村が他市町村の区域における消防責任を負うという読み方は、条文の文言と整合しない。

現実的な理解は、第6条の責任は委託市町村に残り、その責任を果たす手段として委託という形式を選択したというものである。基本指針が事務委託の方式による場合に「消防事務の運営に関し、住民の意見を反映できるようにすること」を規約等に定めるべきとし、消防審議会答申が委託市町村側の関与の確保を求めたのは、この理解を前提としている。

同じ問題は組合方式でも生ずる。組合は特別地方公共団体であって市町村ではないから、第6条の名宛人ではない。構成市町村に責任が残り、組合はその責任を共同して果たすための器であると解される。

この整理は、災害対策基本法上の市町村長の責務との接続においても意味をもつ。同法第5条は市町村に地域防災の責務を課し、同法第23条は市町村災害対策本部の設置を市町村長の権限とする。広域化によっても、災害対策本部の設置と運営は各構成市町村の権限のままである。消防本部が一元化されるのに災害対策本部は市町村ごとという構造は、広域化に伴う調整課題の中心に位置する。消防審議会答申が「消防長と市町村長の一体性の確保」を独立の項目として立て、平時・非常時を問わず直接に即時通報できる仕組みや協議・議論の場を設けることを求めたのは、この構造への対処である。

6-4 消防団との関係の二重性

第31条の括弧書きが消防団を除外したことの帰結は、実務上かなり込み入っている。

広域化後、消防団は各構成市町村が設置し(第18条第1項)、団員は市町村長の承認を得て消防団長が任命し(第22条)、非常勤団員の身分取扱いは市町村の条例で定める(第23条第1項)。公務災害補償と退職報償金も市町村の事務である(第24条・第25条)。他方で、消防団は組合または受託市町村の消防長・消防署長の所轄の下に行動する(第18条第3項)。

消防審議会答申は、この点について、委託・組合消防の場合も消防団は委託先の常備消防や組合消防の所轄の下に行動するが、災害時等においては、委託元の市町村長や組合管理者以外の構成市町村の市町村長が当該市町村に設置されている消防団にその考え方や意思を伝えることができる方策の確保にも留意する必要があると述べた。所轄権をもつ者(組合の消防長)と、消防団を設置し団員の身分を管理する者(構成市町村長)とが分離しているという構造を前提に、両者の意思疎通を制度的に確保せよという趣旨である。

基本指針が示す具体的方策は、常備消防の管轄区域内の複数の消防団の団長の中から連絡調整担当の団長を指名すること、平素からの合同訓練の実施、消防署所への消防団との連絡調整担当の配置と定例的な連絡会議の開催、連絡通信手段の確保である。いずれも規約や規程のレベルで手当てすべき事項であり、広域化の協議において見落とされやすい。

6-5 連携・協力の法的位置づけ

消防の連携・協力は、消防組織法に根拠規定をもたない。平成29年に通知により指針が示され、令和4年と令和6年に改正されてきた純然たる行政指導の産物である。

それにもかかわらず、連携・協力は広域化基本指針の本文に取り込まれている。現行指針は、推進計画に「連携・協力対象市町村」を定めることを求め(三、4)、推進計画に位置付けることが望ましい連携・協力の類型として、指令の共同運用、消防用車両・資機材等の共同整備、高度・専門的な違反処理や特殊な火災原因調査等の予防業務、特殊な救助等専門部隊の共同設置、専門的な人材育成の推進、訓練の定期的な共同実施、現場活動要領の統一の七類型を挙げる。

ここに解釈上の緊張がある。第32条第2項および第33条第2項が定める基本指針・推進計画の記載事項に、連携・協力は含まれていない。第33条第2項が「おおむね次に掲げる事項」としているため、列挙外の事項を定めること自体は妨げられないと解されるが、第32条第2項は「次に掲げる事項について定めるものとする」であり、より限定的な書き方である。法律の委任の範囲をめぐる議論の余地は残る。

実務上は、連携・協力を推進計画に位置づけなければ財政措置の対象とならないため、この整理は結論を左右しない。もっとも、連携・協力が広域化と並ぶ政策の柱となり、指令の共同運用が61地域261本部にまで広がっている現状に照らせば、消防組織法自体に根拠規定を置くことを検討すべき段階に来ているとも言える。

6-6 「消防の体制の整備及び確立を図ることを旨として」の規範的意味

第31条後段は、訓示規定と読むこともできるが、そうとは限らない。

広域化に伴って消防署所を統廃合し、結果として一部地域の到着時間が延びるという事態は現実に起こりうる。第31条は、そのような広域化を違法とする根拠になりうるか。

基本指針は、広域化によって消防本部の対応力が低下するようなことはあってはならないとしつつ、広域化に伴う現象として一部の地方公共団体が懸念する消防署所の配置替えによる一部地域での消防力低下や消防本部と市町村との関係の希薄化といった事実は認められない、と評価している。指針自身が問題の所在を認識していることの表れである。

理論的には、広域消防運営計画の内容が第31条の理念に反する場合、当該計画の作成に関する議会の議決や、それに伴う規約の制定・予算措置を住民訴訟で争う余地がある。もっとも、広域化により全体としての消防力が向上する一方で個別地域の水準が低下するという場合、第31条が禁ずる「体制の整備及び確立」に反する状態に当たるかの判断は容易ではない。市町村に広い裁量が認められるというのが穏当な理解であろう。

6-7 第34条第3項の特例が使われているか

第34条第3項は、広域消防運営計画の作成のために地方自治法第252条の2の2第1項の協議会を設ける場合に、議会の議員や学識経験者を会長・委員に加えることを認める。

実務上は、この法定協議会によらず、任意の協議会や研究会で計画を作成する例が少なくない。法定協議会は規約の制定に関係市町村の議会の議決を要し(地方自治法第252条の2の2第3項)、告示と届出も必要であるため、手続負担が重い。

しかし、任意の協議会では第34条第3項の特例を使う前提を欠く。議員や学識経験者を加えることは任意の協議会でも自由にできるから、特例を使う必要がないとも言えるが、法定協議会として設置すれば、事務の共同処理として規約に基づく正式な手続を踏むことになり、その議事と結論に手続的な重みが備わる。消防審議会答申が求めた「地域の関係者によって地域の消防について十分に議論する」という趣旨を実現する手段として、第34条第3項の活用余地は残されている。


第7章 裁判例

第31条から第35条までを直接の争点とする公表裁判例は見当たらない。計画策定に関する努力義務規定と国・都道府県の援助規定が中心であり、国民の権利義務に直接の効果を及ぼす行為を予定していないためである。広域化をめぐる法的紛争は、消防組織法ではなく地方自治法の共同処理制度の解釈として現れる。以下、参照の手がかりとなる枠組みを整理する。

7-1 事務の委託の効果に関する確立した解釈

事務の委託については、委託した地方公共団体が委託の範囲内において当該事務を管理し執行する権限を失い、受託した地方公共団体が自己の事務として処理することにより、委託した地方公共団体が自ら管理・執行した場合と同様の効果が生ずる、という解釈が確立している。当該事務についての法令上の責任は受託団体に帰属する。

この解釈は、国税庁の文書回答においても前提とされている。事務の委託に対して支出される委託料は、委託した団体が委託の範囲内で事務を管理執行する権限を失うとともに、受託した団体が委託団体の区域内において自らの名により自らの事務として管理執行を行う場合には、権限配分に伴う税財源の移転の性質を有するものとして、消費税法上の資産の譲渡等の対価に該当しないものと考えられるとされている。

消防事務を委託した市町村の住民が、消防行政の内容を争う場合、相手方は受託市町村である。委託市町村を相手にできるのは、委託料の支出や規約の締結に関する部分に限られる。

7-2 消防職員の処分をめぐる訴訟における当事者

消防職員の懲戒処分や分限処分の適法性をめぐる近年の最高裁判例は、いずれも単独消防本部を置く市の事案である。氷見市事件(最判令和4年6月14日)、長門市事件(最判令和4年9月13日)、糸島市事件(最判令和7年9月2日)がそれに当たる。

組合消防の場合、任命権者は組合の消防長(地方公務員法第6条第1項)であり、処分を行うのも組合の機関である。取消訴訟の被告は行政事件訴訟法第11条第1項により処分をした行政庁の所属する公共団体、すなわち組合となる。不利益処分についての審査請求(地方公務員法第49条の2)の相手方は、組合に置かれる公平委員会、または組合が事務を委託した都道府県人事委員会等である。

事務委託方式の場合は、受託市町村の消防長が任命権者となり、受託市町村が被告となる。委託市町村の住民である消防職員が、居住地とは別の市町村の職員として処分を受けるという構図になる。

7-3 広域化の協議をめぐる住民訴訟の枠組み

一部事務組合については、地方自治法第292条により、同法第242条(住民監査請求)および第242条の2(住民訴訟)の規定が準用される。構成市町村の住民は組合の住民として、組合の財務会計上の行為を争うことができる。

広域化の準備段階における負担金の支出、協議会への経費の支出、コンサルタントへの調査委託費の支出などは、各市町村の財務会計行為として当該市町村の住民が争うことになる。広域化の是非そのものを司法で争う道はないが、それに伴う支出の適否を通じて間接的に問題提起する余地は残されている。

7-4 参照の仕方

以上のとおり、第4章に関する法的紛争は、消防組織法の解釈としてではなく、地方自治法の共同処理制度および地方公務員法の適用問題として現れる。広域化の法務を扱う際には、消防組織法第4章を出発点としつつ、地方自治法第252条の2の2以下および第284条以下、ならびに地方公務員法第6条・第49条の2の適用関係を併せて確認する必要がある。


第8章 実務上の留意点

8-1 令和11年4月1日という期限の意味

現行の基本指針は、令和11年4月1日を期限として広域化に取り組むことが必要であるとし、各広域化対象市町村において広域消防運営計画の作成等を行い、同日までに広域化を実現することを求めている。

この期限は法律上のものではなく、告示に定められた行政上の目標である。期限を過ぎて広域化しても違法ではない。しかし財政措置の多くが期限を要件としており、たとえば消防署所等の整備に係る地方財政措置は「令和十一年四月一日までに行われるもの」に限定されている。期限内に広域化を実現するかどうかは、財政面で大きな差を生む。

広域化の協議には数年を要するのが通例である。令和8年の時点で検討を開始していない地域が期限内に実現することは、現実には難しい。

8-2 推進計画の確認

市町村側の実務では、まず自らが所在する都道府県の推進計画を確認することが出発点となる。確認すべき事項は次のとおりである。

  • 当該市町村が広域化対象市町村に位置づけられているか。位置づけられていなければ、第35条第2項の地方債への特別の配慮も、基本指針が挙げる財政措置も適用されない。
  • 広域化対象市町村の組合せがどう定められているか。段階を踏んだ組合せや複数の組合せが定められている場合、どの組合せを選ぶかで手続が変わる。
  • 消防広域化重点地域に指定されているか。指定されていれば、都道府県の支援が重点的に行われる。
  • 連携・協力対象市町村として位置づけられているか。連携・協力関連の財政措置は、推進計画への記載を要件とするものがある。
  • 中心消防本部が定められているか。定められている場合、検討の主導役が明確になる。

令和6年3月29日の基本指針改正を受けて、各都道府県は推進計画の変更・再策定を進めている。令和6年以前の版を参照していないか注意が必要である。

8-3 組合設立の手続

一部事務組合方式を採る場合の手続の流れは次のとおりである。

  1. 関係市町村間の事実上の協議と広域消防運営計画の作成
  2. 組合規約の協議。地方自治法第284条第2項により、関係市町村の議会の議決を経る
  3. 都道府県知事の許可申請および許可
  4. 組合の設立
  5. 組合議会の設置、管理者の選任、条例・規則の制定
  6. 職員の身分の承継
  7. 広域化の開始

規約の制定議決から広域化開始までに相当の期間を要する。組合設立と消防事務の開始を同時とするか、組合を先行して設立し準備期間を置くかは、地域により運用が分かれる。

規約に定めるべき事項として、基本指針が挙げるもののうち特に重要なのが、経常的経費と投資的経費それぞれについての構成市町村ごとの負担金の額または負担割合等に係る基本的ルールである。人口割・均等割・面積割の組合せをどう設計するか、消防署所の配置と負担割合の関係をどうするかは、協議が難航しやすい。

8-4 事務委託の手続

事務委託方式を採る場合は、地方自治法第252条の14第1項に基づき、関係市町村の協議により規約を定める。協議には関係市町村の議会の議決を要し(同条第3項による第252条の2の2第3項の準用)、規約を定めたときは告示するとともに都道府県知事に届け出る。

事務委託で見落とされやすいのが、地方自治法第252条の16の効果である。受託市町村の当該委託された事務の管理・執行に関する条例、規則、規程は、委託市町村の条例、規則、規程としての効力を有する。消防に関する市町村の条例・規則のうち、委託の範囲に含まれるものは、委託市町村において廃止または整理する必要が生ずる。組織規則、手数料条例、火災予防条例などの扱いを、規約の協議と並行して整理しておきたい。

消防団に関する条例・規則は委託の対象外であるから、委託市町村に残る。消防本部関係の例規だけを整理し、消防団関係を残すという作業になる。

8-5 消防長・消防署長の資格を定める条例

広域化により組合を設立する場合、組合は消防組織法第15条第2項の「市町村」に当たる。組合の条例で消防長および消防署長の資格を定めなければならない。市町村の消防長及び消防署長の資格の基準を定める政令(平成25年政令第263号)を参酌することになる。

組合設立時の例規整備において、この条例の制定が漏れる例がある。消防本部組織規則や消防職員委員会規則とともに、設立と同時に施行すべき例規として整理しておく必要がある。

また、消防吏員の階級を定める規則(第16条第2項)も組合規則として制定する。広域化により消防本部の規模が変わることで、消防吏員の階級の基準(昭和37年消防庁告示第6号)第2条が定める消防長の階級との対応関係が変わりうる。平成18年法律第64号の附則第2条は、広域化前日に消防長であった者について従前の階級を用いることができる特例を市町村規則で定めることを認めており、この特例の要否も検討事項となる。

8-6 消防団との連携体制の設計

広域化の協議では常備消防の統合に関心が集中し、消防団との関係が後回しになりがちである。次の事項を広域消防運営計画または規約・規程に落とし込んでおきたい。

  • 組合の消防長と各構成市町村の消防団長との連絡調整の仕組み。基本指針は、管轄区域内の複数の消防団の団長の中から連絡調整担当の団長を指名する方式を挙げる。
  • 消防署所への消防団連絡調整担当の配置と、定例的な連絡会議の開催。
  • 常備消防と消防団との連絡通信手段の確保。無線の周波数やデジタル化の状況が消防本部ごとに異なる場合、統合に伴う更新が必要となる。
  • 災害時に、組合の管理者以外の構成市町村長が当該市町村の消防団に意思を伝達する経路の確保。

8-7 防災・国民保護部局との連携

消防審議会答申および基本指針は、防災・国民保護業務は基本的に各構成市町村で実施すべきとしつつ、消防本部との連携強化を求めている。具体的方策として挙げられているのは次のとおりである。

  • 夜間・休日等における市町村の防災業務のうち、初動時の連絡体制に限定した消防本部への事務委託
  • 各構成市町村長および危機管理担当幹部と消防長・消防署長による協議会の設置
  • 各市町村の災害対策本部への消防署所の消防職員の派遣
  • 防災・国民保護担当部局と消防本部との人事交流
  • 防災行政無線の親機や遠隔操作機を消防本部の通信指令部門に設置することによる24時間体制の確保

初動時の連絡体制の事務委託は、消防事務の委託とは別個の事務委託であり、別の規約を要する。24時間体制をとる消防本部の機能を防災部局が活用する仕組みであり、広域化の副次的効果として実益が大きい。

8-8 連携・協力から広域化へという順序

広域化の合意形成が難しい地域では、先に連携・協力から入るという選択肢がある。基本指針は、平成31年以降に広域化した7地域のうち5地域が広域化前に指令の共同運用や消防用車両の共同整備を実施していたことを挙げ、連携・協力を広域化の下地として位置づけている。

指令の共同運用については、高機能消防指令センターの更新時期が検討の契機となる。システムの更新は10年から15年の周期で到来するため、複数の消防本部の更新時期が近接する時期を捉えて共同運用の協議を始めるのが定石である。令和5年度からは、広域化を前提として指令の共同運用に参画する消防本部が、共同運用に参画するために現行システムの更新時期を延長して運用する場合に、これに伴い生じた割増経費に対する特別交付税措置が講じられている。都道府県が策定する推進計画において連携・協力対象市町村として財政支援の対象となる市町村が定められていることが要件とされるため、推進計画への記載が前提となる。

基本指針は、指令の共同運用について、面積・人口等において標準的な規模の都道府県であれば原則として全県一区とする必要があるとしている。現状では、指令の共同運用を行う地域のうち半数を超える地域において直近指令やゼロ隊運用といった高度な運用が実施されていないため、共同運用の効果を最大限に生かすための高度な運用の実施も併せて検討することが求められている。


参考資料

法令

  • 消防組織法(昭和22年法律第226号) e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000226
  • 地方自治法(昭和22年法律第67号) 第252条の2の2、第252条の3、第252条の7、第252条の14、第252条の16、第284条、第291条の2、第292条
  • 地方公務員法(昭和25年法律第261号) 第6条、第49条の2
  • 市町村の消防長及び消防署長の資格の基準を定める政令(平成25年政令第263号)

制定・改正法の原文

告示・指針

審議会・通知・行政資料

裁判例・行政解釈

  • 第31条から第35条までを直接の争点とする公表裁判例は見当たらない
  • 事務の委託の効果(委託団体の権限喪失)に関する行政解釈 国税庁文書回答 https://www.nta.go.jp/about/organization/fukuoka/bunshokaito/shohi/20160105/besshi.htm
  • 消防職員の懲戒・分限をめぐる最高裁判例(いずれも単独消防本部の事案) 最判令和4年6月14日(氷見市事件)、最判令和4年9月13日(長門市事件)、最判令和7年9月2日(糸島市事件)

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