序 平時の関与から非常時の権限へ

前回扱った第36条から第40条までは、平時における市町村消防と国・都道府県との関係を定めていた。第36条が運営管理・行政管理への不服従を宣言し、第37条・第38条が助言・勧告・指導という非権力的な関与だけを認める。

第41条から第44条の2までは、その先にある。第42条が消防と警察という異なる行政組織の協力関係を定め、第43条以下が非常事態における権力的な関与を規定する。

条見出し性格
第41条警察通信施設の使用消防と警察の物的な協力
第42条消防、警察及び関係機関の相互協力等消防と警察の人的・組織的な協力と権限分界
第43条非常事態における都道府県知事の指示非常時の都道府県知事の権力的関与
第44条非常事態における消防庁長官等の措置要求等非常時の消防庁長官の求めと指示
第44条の2消防応援活動調整本部都道府県内の応援活動の総合調整

第41条と第42条は昭和22年の制定時から存在する。消防が警察から分離独立した直後の、両者の関係整理の産物である。第43条は昭和27年、第44条の原型は後年、第44条の2は平成20年に置かれた。制定から80年近くを一つの条文群として見渡すと、消防と警察の関係を整理することから始まった第5章が、大規模災害への全国的な部隊展開の仕組みへと重心を移してきた過程が読み取れる。


第1章 条文原文

以下は令和8年9月現在施行されている条文である(e-Gov法令検索・昭和22年法律第226号)。

第41条

(警察通信施設の使用) 第四十一条 消防庁及び地方公共団体は、消防事務のために警察通信施設を使用することができる。

第42条

(消防、警察及び関係機関の相互協力等) 第四十二条 消防及び警察は、国民の生命、身体及び財産の保護のために相互に協力をしなければならない。 2 消防庁、警察庁、都道府県警察、都道府県知事、市町村長及び水防法に規定する水防管理者は、相互間において、地震、台風、水火災等の非常事態の場合における災害の防御の措置に関しあらかじめ協定することができる。これらの災害に際して消防が警察を応援する場合は、運営管理は警察がこれを留保し、消防職員は、警察権を行使してはならない。これらの災害に際して警察が消防を応援する場合は、災害区域内の消防に関係のある警察の指揮は、消防が行う。

第43条

(非常事態における都道府県知事の指示) 第四十三条 都道府県知事は、地震、台風、水火災等の非常事態の場合において、緊急の必要があるときは、市町村長、市町村の消防長又は水防法に規定する水防管理者に対して、前条第二項の規定による協定の実施その他災害の防御の措置に関し、必要な指示をすることができる。この場合における指示は、消防庁長官の行う勧告、指導及び助言の趣旨に沿うものでなければならない。

第44条

(非常事態における消防庁長官等の措置要求等) 第四十四条 消防庁長官は、地震、台風、水火災等の非常事態の場合において、これらの災害が発生した市町村(以下この条から第四十四条の三までにおいて「災害発生市町村」という。)の消防の応援又は支援(以下「消防の応援等」という。)に関し、当該災害発生市町村の属する都道府県の知事から要請があり、かつ、必要があると認めるときは、当該都道府県以外の都道府県の知事に対し、当該災害発生市町村の消防の応援等のため必要な措置をとることを求めることができる。 2 消防庁長官は、前項に規定する場合において、当該災害の規模等に照らし緊急を要し、同項の要請を待ついとまがないと認められるときは、同項の要請を待たないで、緊急に消防の応援等を必要とすると認められる災害発生市町村のため、当該災害発生市町村の属する都道府県以外の都道府県の知事に対し、当該必要な措置をとることを求めることができる。この場合において、消防庁長官は、当該災害発生市町村の属する都道府県の知事に対し、速やかにその旨を通知するものとする。 3 都道府県知事は、前二項の規定による消防庁長官の求めに応じ当該必要な措置をとる場合において、必要があると認めるときは、その区域内の市町村の長に対し、消防機関(第九条に規定する機関をいう。以下同じ。)の職員の応援出動等の措置をとることを求めることができる。 4 消防庁長官は、第一項又は第二項の場合において、人命の救助等のために特に緊急を要し、かつ、広域的に消防機関の職員の応援出動等の措置を的確かつ迅速にとる必要があると認められるときは、緊急に当該応援出動等の措置を必要とすると認められる災害発生市町村のため、当該災害発生市町村以外の市町村の長に対し、当該応援出動等の措置をとることを自ら求めることができる。この場合において、消防庁長官は、第一項の場合にあつては当該応援出動等の措置をとることを求めた市町村の属する都道府県の知事に対し、第二項の場合にあつては当該都道府県の知事及び当該災害発生市町村の属する都道府県の知事に対し、速やかにその旨を通知するものとする。 5 消防庁長官は、第一項、第二項又は前項に規定する場合において、大規模地震対策特別措置法第三条第一項に規定する地震防災対策強化地域に係る著しい地震災害その他の大規模な災害又は毒性物質の発散その他の政令で定める原因により生ずる特殊な災害に対処するために特別の必要があると認められるときは、当該特別の必要があると認められる災害発生市町村のため、当該災害発生市町村の属する都道府県以外の都道府県の知事又は当該都道府県内の市町村の長に対し、第四十五条第一項に規定する緊急消防援助隊(以下この条から第四十四条の三までにおいて「緊急消防援助隊」という。)の出動のため必要な措置をとることを指示することができる。この場合において、消防庁長官は、当該災害発生市町村の属する都道府県の知事及び当該出動のため必要な措置をとることを指示した市町村の属する都道府県の知事に対し、速やかにその旨を通知するものとする。 6 都道府県知事は、前項の規定による消防庁長官の指示に基づき、その区域内の市町村の長に対し、緊急消防援助隊の出動の措置をとることを指示することができる。 7 前各項の規定は、大規模地震対策特別措置法第二条第十三号の警戒宣言が発せられた場合に準用する。 8 消防庁長官は、第一項、第二項若しくは第四項又は第五項の規定により、災害発生市町村のため、当該災害発生市町村以外の災害発生市町村において既に行動している緊急消防援助隊の出動のため必要な措置をとることを求め又は指示するときは、あらかじめ、当該緊急消防援助隊が行動している災害発生市町村(以下この項及び第四十四条の三第一項において「緊急消防援助隊行動市町村」という。)の長及び当該緊急消防援助隊行動市町村の属する都道府県の知事の意見を聴くものとする。ただし、当該災害の規模等に照らし緊急を要し、あらかじめ、意見を聴くいとまがないと認められるときは、この限りでない。

第44条の2

(消防応援活動調整本部) 第四十四条の二 一の都道府県の区域内において災害発生市町村が二以上ある場合において、緊急消防援助隊が消防の応援等のため出動したときは、当該都道府県の知事は、消防応援活動調整本部(以下この条及び次条第二項において「調整本部」という。)を設置するものとする。 2 調整本部は、次に掲げる事務をつかさどる。 一 災害発生市町村の消防の応援等のため当該都道府県及び当該都道府県の区域内の市町村が実施する措置の総合調整に関すること。 二 前号に掲げる事務を円滑に実施するための関係機関との連絡に関すること。 3 調整本部の長は、消防応援活動調整本部長(以下この条において「調整本部長」という。)とし、都道府県知事をもつて充てる。 4 調整本部長は、調整本部の事務を総括する。 5 調整本部に本部員を置き、次に掲げる者をもつて充てる。 一 当該都道府県の知事がその部内の職員のうちから任命する者 二 当該都道府県の区域内の市町村の置く消防本部のうち都道府県知事が指定するものの長又はその指名する職員 三 当該都道府県の区域内の災害発生市町村の長の指名する職員 四 当該都道府県の区域内の災害発生市町村に出動した緊急消防援助隊の隊員のうちから都道府県知事が任命する者 6 調整本部に副本部長を置き、前項の本部員のうちから、都道府県知事が指名する。 7 副本部長は、調整本部長を助け、調整本部長に事故があるときは、その職務を代理する。 8 調整本部長は、必要があると認めるときは、国の職員その他の者を調整本部の会議に出席させることができる。


第2章 趣旨・立法背景

2-1 警察からの分離という出発点

昭和22年法律第226号の制定時、第41条と第42条の前身は次のように置かれていた。

第二十三條 國家消防廳及び地方公共團体は、消防事務のために警察通信施設を使用することができる。 第二十四條 消防及び警察は、國民の生命、身体及び財産の保護のために相互に協力をしなければならない。 2 國家消防廳、國家地方警察、都道府縣知事及び市町村長は、相互間において、地震、颱風、水火災等の非常事態の場合における災害防禦の措置に関し豫め協定することができる。これらの災害に際して消防が警察を應援する場合は、運営管理は警察がこれを留保し、消防職員は、警察權を行使してはならない。これらの災害に際して警察が消防を應援する場合は、災害區域内の消防に関係のある警察の指揮は、消防がこれを行う。

この二か条は、消防を警察から分離独立させるという制定時の目的から直接導かれる。分離するからには、両者の協力関係と権限の境界を明示しておく必要がある。第23条は分離に伴う物的な手当て、第24条は組織的な関係整理である。

第23条の趣旨は実際的なものであった。自治体消防の発足時、市町村は独自の通信網をもたなかった。火災の受信も部隊への指令も、それまで警察の通信施設に依存していた。分離によってこれが使えなくなれば消防事務が回らない。そこで、消防が引き続き警察通信施設を使用できることを法律で確保した。同法の附則第33条が、消防の用に供する国有財産・都道府県有財産で国家地方警察に不必要なものを市町村に無償譲与すると定めたのと同じ趣旨の、過渡的な措置である。

第24条第2項の「運営管理は警察がこれを留保し、消防職員は、警察権を行使してはならない」という一文は、分離の意味を端的に示す。消防が警察を応援しても、それは警察の管理の下での応援であり、消防職員が警察官になるわけではない。逆に警察が消防を応援する場合には、災害区域内の消防に関係のある警察の指揮は消防が行う。応援を受ける側が指揮するという原則を、両方向について明記したものである。前回述べたとおり、第36条の「運営管理」という語の意味を読み解く手がかりも、ここにある。

2-2 警察制度の変遷への追随

第42条第2項の列挙は、警察制度の変遷に合わせて改められてきた。

昭和26年法律第18号は、第24条第2項中「国家地方警察、」の下に「自治体警察、」を加えた。旧警察法(昭和22年法律第196号)の下で、国家地方警察と自治体警察が併存していた時期の規定である。

昭和29年法律第163号(警察法の施行に伴う関係法令の整理に関する法律)は、第24条第2項中「国家地方警察、自治体警察」を「警察庁、都道府県警察」に改めた。新警察法(昭和29年法律第162号)により警察が都道府県警察に一元化されたことへの対応である。同時に、消防組織法第31条第1項(恩給法等の準用。現行の附則第2条)についても、「若しくは国家地方警察」を「、国家地方警察、警察庁若しくは都道府県警察」に改め、従前の国家地方警察職員の在職期間の通算を確保している。

「水防法に規定する水防管理者」がいつ加えられたかは、本稿では改め文を確認できていない。第43条の名宛人に水防管理者が含まれていることは昭和27年の第24条の2の新設時から明らかであるから、第42条第2項への追加も同時期以降と考えられる。

2-3 昭和27年改正:非常事態における知事の指示

第43条の前身である第24条の2は、昭和27年法律第258号により新設された。

第二十四条の二 都道府県知事は、地震、台風、水火災等の非常事態の場合において、緊急の必要があるときは、市町村長、市町村の消防長又は水防法に規定する水防管理者に対して、前条第二項の規定による協定の実施その他災害防禦の措置に関し、必要な指示をすることができる。この場合における指示は、国家消防本部長の行う勧告、指導及び助言の趣旨に沿うものでなければならない。

前回述べたとおり、同じ改正で都道府県の所掌事務(第18条の2)と都道府県知事の勧告・指導・助言(第20条の2)が設けられ、第19条(現行第36条)の不服従原則の相手方に都道府県知事が加えられた。平時は非権力的な関与にとどめ、非常事態に限って指示という権力的関与を認めるという二層構造が、この一つの改正法によって同時に作られている。

後段が「国家消防本部長の行う勧告、指導及び助言の趣旨に沿うものでなければならない」としているのは、第20条の2後段と同じ構造である。知事の指示であっても、国の方針から独立して行えるわけではない。

2-4 平成7年改正:阪神・淡路大震災と応援の特例

第44条の前身は第24条の3である。その新設時期は本稿では特定できていない。第7項が大規模地震対策特別措置法の警戒宣言への準用を定めていることから、同法(昭和53年法律第73号)の制定に前後する時期の改正によるものと考えられる。

条文が現在の骨格に近づいたのは、平成7年法律第121号(平成7年10月27日公布・同日施行)である。同法は、消防職員委員会の創設(第14条の5)とあわせて、第24条の3に二つの項を加えた。

第一に、都道府県知事の要請を待ついとまがない場合に、消防庁長官が要請を待たずに他の都道府県知事に対して必要な措置を求めることができるとする規定(現行第44条第2項)。

第二に、人命の救助等のために特に緊急を要し、かつ広域的に消防機関の職員の応援出動等の措置を的確かつ迅速にとる必要があると認められるときに、消防庁長官が災害発生市町村以外の市町村の長に対して自ら応援出動等を求めることができるとする規定(現行第44条第4項)。

いずれも同年1月17日の阪神・淡路大震災の教訓に基づく。被災地の都道府県が機能を失い、あるいは被害の全容を把握できない段階で要請が出せないという事態が現実に生じた。要請を待たない求め、都道府県を経由しない直接の求めという二つの経路を法定したのが、この改正である。緊急消防援助隊自体は、同年6月に全国の消防本部の協力を得て、要綱に基づく仕組みとして創設されていた。

2-5 平成15年改正:緊急消防援助隊の法制化

平成15年法律第84号(消防組織法及び消防法の一部を改正する法律)は、要綱に基づいて運用されてきた緊急消防援助隊を法律上の制度として位置づけた。東海地震、東南海・南海地震、首都直下地震等の切迫性やNBCテロ災害等の危険性が指摘され、被災地の市町村や当該都道府県内の消防力だけでは迅速・的確な対応が困難な場合が想定されることを背景とする。平成16年から施行された。

改正の主な内容は次のとおりである。

  • 緊急消防援助隊の法律上の明確な位置付け(第24条の4。現行第45条)
  • 消防庁長官の出動指示権の創設(第24条の3第5項。現行第44条第5項)
  • 総務大臣による緊急消防援助隊の編成及び施設の整備等に係る基本的な事項に関する計画(基本計画)の策定
  • 国の財政措置(消防庁長官の指示を受けた場合の出動経費を地方財政法第10条の国庫負担金とすること、施設整備への国庫補助)
  • 緊急消防援助隊用装備等の無償使用(現行第50条)

同じ改正で、都道府県の航空消防隊(第18条の3。現行第30条)と、航空消防隊が支援のため出動した場合の連携(第24条の7。現行第48条)も新設された。前回まで扱ってきた第30条・第48条と第44条・第45条は、同一の立法の産物である。

なお、この段階での消防庁長官の出動指示は、大規模な災害で2以上の都道府県の区域に及ぶもの、またはNBC災害等に限られていた。この指示が実際に行われたのは、平成23年の東日本大震災が初めてである。

2-6 平成18年改正:条番号の繰下げ

平成18年法律第64号は、第23条を第41条、第24条を第42条、第24条の2を第43条、第24条の3を第44条、第24条の4を第45条、第24条の6を第47条、第24条の7を第48条に繰り下げた。あわせて第42条第2項・第43条の「颱風」を「台風」に、「災害防禦」を「災害の防御」に、「予め」を「あらかじめ」に改めている。

前回述べたとおり、相互応援協定のなかには応援隊の指揮について旧第24条の4を引用したままのものが残る。平成15年改正の前は第24条の4が応援出動時の指揮に関する規定であり、同改正で緊急消防援助隊の規定が第24条の4に入り、指揮の規定が第24条の6に移り、平成18年改正で第47条となった。二度の条ずれを経ているため、協定の引用条文だけを見ても現行法に行き着かない。

2-7 平成20年改正:調整本部と指示要件の見直し

平成20年法律第41号(消防法及び消防組織法の一部を改正する法律。平成20年5月28日公布、平成20年8月27日施行)は、第44条の2および第44条の3を新設した。東海地震、東南海・南海地震、首都直下地震等の大規模地震に対する消防・防災体制の更なる強化を図り、緊急消防援助隊の機動力を強化することを目的とする。

改正の内容は三点である。

消防庁長官の出動指示要件の見直し 第44条第5項から「で二以上の都道府県に及ぶもの」を削った。従前は大規模な災害で2以上の都道府県の区域に及ぶものまたはNBC災害等に限られていた指示対象災害が、一つの都道府県のみで大規模な災害が発生した場合であっても、当該災害に対処するために特別の必要があると認められるときに拡張された。

都道府県知事の出動指示権の創設 第44条の3として、都道府県の区域内に災害発生市町村が2以上ある場合において、緊急消防援助隊行動市町村以外の災害発生市町村の消防の応援等に関し緊急の必要があると認めるとき、知事が当該緊急消防援助隊に対して出動を指示できるものとした。平成16年新潟・福島豪雨災害や平成16年新潟県中越地震において、県内で市町村境界を越える部隊の移動が行われたことを踏まえた制度整備である。都道府県境界を越える場合は2以上の都道府県に及ぶ調整となるため、消防庁長官が行うこととされた。

消防応援活動調整本部の設置 第44条の2として、知事の指示が円滑に行われるよう、緊急消防援助隊が消防の応援等のために出動したときに知事が調整本部を設置するものとした。

あわせて、第44条に第8項を加え、他の災害発生市町村で既に行動している緊急消防援助隊を転進させる場合の意見聴取を義務づけた。第47条には第2項を加え、市町村長が自らの緊急消防援助隊に対し、当該隊が行動している市町村以外の市町村への応援出動を命ずることを妨げない旨を明記している。第49条第1項には、第44条の3第1項の指示を受けて出動した場合の活動も国庫負担の対象に含める改正を行った。

平成31年3月には基本計画を改定し、指示対象災害となる大規模な災害の判断要素について、災害の状況、非常災害対策本部または緊急災害対策本部の設置状況、応援の必要性等と規定している。


第3章 文理解釈

3-1 第41条

主体 「消防庁及び地方公共団体」である。市町村に限られず、都道府県も含む。

「消防事務のために」 使用目的が限定される。消防事務以外の目的で警察通信施設を使用することはできない。

「警察通信施設」 警察が設置・管理する通信のための施設をいう。現在では、警察庁の警察通信施設と都道府県警察の通信施設が該当する。

「使用することができる」 権限規定であり、警察側に受忍義務を課す規定と解される。もっとも、警察通信施設の運用に支障を生ずるような使用まで認める趣旨ではない。

制定時、この規定は消防の通信手段を確保するための不可欠の措置であった。現在、その実際的な意味はほとんど失われている。市町村消防は消防救急無線(平成28年5月31日までにアナログ方式から260MHz帯デジタル方式へ移行)、消防本部の指令システム、都道府県と市町村を結ぶ防災行政無線を備え、国との間には消防庁の消防防災無線、全国瞬時警報システム等の経路がある。警察通信施設に依存する場面は想定しにくい。

条文としては制定時のまま残っているが、実務上ほとんど発動されない規定である。ただし、大規模災害で消防の通信インフラが全面的に途絶した場合に、法律上の根拠を欠くことなく警察通信施設を使える余地を残している点に意味がある。

3-2 第42条

第1項 「消防及び警察は、国民の生命、身体及び財産の保護のために相互に協力をしなければならない」。

主体が「消防及び警察」という組織の呼称で書かれている点が特徴的である。特定の機関の長ではなく、両制度そのものに協力義務を課す。訓示的な規定と解されるが、消防法や警察官職務執行法の個別規定を解釈する際の指針として機能する。

第2項前段 協定の当事者は、消防庁、警察庁、都道府県警察、都道府県知事、市町村長、水防法に規定する水防管理者である。消防側の当事者として「消防庁」と「市町村長」が挙げられ、消防長は含まれない。協定は災害の防御の措置に関するものであるから、消防機関の長ではなく地方公共団体の長が当事者とされている。

第2項中段 「これらの災害に際して消防が警察を応援する場合は、運営管理は警察がこれを留保し、消防職員は、警察権を行使してはならない」。

「運営管理は警察がこれを留保し」とは、応援を受ける警察が、応援に来た消防に対する運用上の指揮権を保持するという意味である。第36条の「運営管理」の用例として前回参照した部分である。

「消防職員は、警察権を行使してはならない」は、消防と警察の権限分界を明示する。消防職員は、警察を応援する場面であっても、犯罪捜査、逮捕、交通取締りといった警察固有の権限を行使することはできない。

第2項後段 「これらの災害に際して警察が消防を応援する場合は、災害区域内の消防に関係のある警察の指揮は、消防が行う」。

応援を受ける側が指揮するという原則が、逆方向についても定められている。ただし指揮の対象は「災害区域内の消防に関係のある警察」に限られる。災害区域外の警察活動や、消防に関係のない警察活動は含まれない。

消防法における権限分界 第42条第2項の権限分界は、消防法の火災調査に関する規定によって具体化されている。

  • 消防法第35条第1項 放火または失火の疑いのあるときは、その火災の原因の調査の主たる責任および権限は、消防長または消防署長にあるものとする。
  • 同条第2項 消防長または消防署長は、放火または失火の犯罪があると認めるときは、直ちにこれを所轄警察署に通報するとともに必要な証拠を集めてその保全に努め、消防庁において放火または失火の犯罪捜査の協力の勧告を行うときは、これに従わなければならない。
  • 同法第35条の2第1項 消防長または消防署長は、警察官が放火または失火の犯罪の被疑者を逮捕しまたは証拠物を押収したときは、事件が検察官に送致されるまでは、火災原因の調査をするため、その被疑者に対し質問をしまたはその証拠物につき調査をすることができる。
  • 同条第2項 前項の質問または調査は、警察官の捜査に支障を来すこととなつてはならない。
  • 同法第35条の4 本章の規定は、警察官が犯罪(放火および失火の犯罪を含む。)を捜査し、被疑者(放火および失火の犯罪の被疑者を含む。)を逮捕する責任を免れしめない。

火災原因の調査は消防の責任と権限、犯罪の捜査は警察の責任と権限である。両者は同じ火災について並行して行われるが、目的も権限も異なる。消防の調査は火災の原因を究明して予防に資することを目的とし、刑事責任の追及を目的とするものではない。消防組織法第42条第2項の「消防職員は、警察権を行使してはならない」という一文は、この分界の宣言でもある。

なお、制定時の消防組織法第4条第3号は国家消防庁の所掌事務として「防火査察(放火及び失火犯の捜査を含む。)制度の確立に関する事項」を掲げ、第4号は「放火及び失火犯の捜査技術の研究並びに捜査員の訓練に関する事項」を掲げていた。昭和38年法律第89号がこれを「失火の調査」「失火の調査技術」「調査員」に改めている。消防が扱うのは「捜査」ではなく「調査」であるという整理が、この段階で用語のうえでも確定した。

3-3 第43条

要件 「地震、台風、水火災等の非常事態の場合において、緊急の必要があるとき」。二重の要件である。非常事態であっても緊急の必要がなければ指示はできない。

名宛人 市町村長、市町村の消防長、水防法に規定する水防管理者。第38条の勧告等の名宛人が「市町村」であるのに対し、第43条は個々の機関の長を名指しする。消防長が直接の名宛人に含まれている点は、消防組織法のなかでも珍しい。

内容 「前条第二項の規定による協定の実施その他災害の防御の措置に関し、必要な指示」。第42条第2項の協定の実施が例示されているが、それに限られない。

指示の法的性格 「指示」は、名宛人に従うべき義務を生じさせる権力的関与である。第36条が定める運営管理・行政管理への不服従原則に対する、明文の例外である。地方自治法第245条第1号ニは、国の行政機関または都道府県の機関が行う関与の一類型として「指示」を掲げており、第43条はその法律上の根拠となる。

後段の拘束 「この場合における指示は、消防庁長官の行う勧告、指導及び助言の趣旨に沿うものでなければならない」。権力的な指示であっても、国の方針から独立ではない。

運用実績 第43条の指示が実際に発動された例は、公表資料からは確認できない。非常事態においては、災害対策基本法に基づく都道府県災害対策本部の設置と、同法第72条第1項による市町村長への指示が用いられることが多い。第43条は、消防と水防に特化した指示権として法律上は存在するが、現実の災害対応では災害対策基本法の枠組みに吸収されているのが実情である。

3-4 第44条

八つの項からなる長大な条文である。整理すると、消防庁長官が行う関与に「求め」と「指示」の二種類があり、その組合せが場面ごとに規定されている。

第1項 原則型の求め 災害発生市町村の属する都道府県の知事から要請があり、かつ必要があると認めるときに、消防庁長官が他の都道府県の知事に対して必要な措置をとることを求める。被災都道府県の要請が起点である。

第2項 要請を待たない求め 災害の規模等に照らし緊急を要し、要請を待ついとまがないと認められるときに、要請を待たずに求める。被災都道府県知事には速やかに通知する。平成7年改正で追加された。

第3項 都道府県知事から市町村長への求め 消防庁長官の求めに応じて措置をとる都道府県知事が、その区域内の市町村長に対して消防機関の職員の応援出動等の措置をとることを求める。国から都道府県、都道府県から市町村という段階を踏む経路である。

第4項 市町村長への直接の求め 人命の救助等のために特に緊急を要し、かつ広域的に応援出動等の措置を的確かつ迅速にとる必要があると認められるときに、消防庁長官が災害発生市町村以外の市町村の長に対して自ら求める。都道府県を飛ばす経路であり、平成7年改正で追加された。

第5項 緊急消防援助隊の出動指示 大規模地震対策特別措置法第3条第1項の地震防災対策強化地域に係る著しい地震災害その他の大規模な災害、または毒性物質の発散その他の政令で定める原因により生ずる特殊な災害に対処するために特別の必要があると認められるときに、消防庁長官が他の都道府県の知事または当該都道府県内の市町村の長に対して、緊急消防援助隊の出動のため必要な措置をとることを指示する。

第6項 都道府県知事から市町村長への指示 第5項の指示に基づき、知事がその区域内の市町村長に対して緊急消防援助隊の出動の措置をとることを指示する。

第7項 警戒宣言への準用 大規模地震対策特別措置法第2条第13号の警戒宣言が発せられた場合に準用する。災害が発生する前の段階で部隊を展開できる根拠である。

第8項 転進の際の意見聴取 既に他の災害発生市町村で行動している緊急消防援助隊を転進させるときは、あらかじめ当該市町村の長および都道府県知事の意見を聴く。緊急を要し意見を聴くいとまがないときは、この限りでない。平成20年改正で追加された。

「求め」と「指示」の違い 両者の法的効果の差は、第49条第1項の国庫負担と結びついている。第44条第5項に基づく指示を受けて出動した緊急消防援助隊の活動により増加し、または新たに必要となる費用のうち政令で定める経費は、国が負担する。指示を受けた場合には出動が法律上義務付けられるため、これに対応して国が費用を負担するという構造である。第44条の3第1項の都道府県知事の指示を受けて出動した場合の活動も、平成20年改正で国庫負担の対象に加えられた。

これに対し、第1項から第4項までの「求め」は義務を生じさせない。求めを受けた都道府県知事・市町村長は、自らの区域の消防力への影響を考慮して判断する。第39条第1項の相互応援の努力義務と同じ構造である。

「消防の応援又は支援」 第1項が「消防の応援又は支援(以下「消防の応援等」という。)」と定義する。応援は消防機関相互のものを、支援は第30条の都道府県の航空消防隊によるものを含意すると解される。第29条第8号が都道府県の所掌事務として「消防の応援及び緊急消防援助隊に関する事項」を掲げるのと対応する。

3-5 第44条の2

設置の要件 「一の都道府県の区域内において災害発生市町村が二以上ある場合において、緊急消防援助隊が消防の応援等のため出動したとき」。二つの要件を満たすと、知事は調整本部を「設置するものとする」。義務的な設置である。

災害発生市町村が一つだけの場合には設置義務がない。複数の被災市町村の間で部隊の配分を調整する必要が生じて初めて、調整本部が要請される。

所掌事務 第2項は二つを掲げる。第1号が当該都道府県および区域内の市町村が実施する措置の総合調整、第2号がそれを円滑に実施するための関係機関との連絡である。第2号の関係機関には、自衛隊、警察、海上保安庁、DMAT等が含まれる。

構成 本部長は都道府県知事である。本部員は四類型からなる。

  1. 都道府県の部内職員から知事が任命する者
  2. 区域内の市町村の消防本部のうち知事が指定するものの長またはその指名する職員
  3. 区域内の災害発生市町村の長の指名する職員
  4. 区域内の災害発生市町村に出動した緊急消防援助隊の隊員のうちから知事が任命する者

第2号の「知事が指定する消防本部」は、実務上、代表消防機関として平時から指定されている消防本部が充てられる。第4号により、応援に来た側の隊員も本部員となる点が特徴的である。受援側の調整機関に応援側が参画する構造は、部隊運用の実態を反映したものといえる。

第8項 「調整本部長は、必要があると認めるときは、国の職員その他の者を調整本部の会議に出席させることができる」。消防庁の職員、緊急消防援助隊の指揮支援部隊長、自衛隊・警察の連絡員等の出席を想定する。

指揮権との関係 調整本部は「総合調整」を行う機関であり、緊急消防援助隊に対する指揮機関ではない。第47条第1項により、応援出動した消防機関の職員は応援を受けた市町村の長の指揮の下に行動する。調整本部が行うのは、どの市町村にどの部隊を配分するかという広域的な調整であって、現場の消防活動の指揮ではない。

もっとも、第44条の3第1項により、知事は緊急消防援助隊行動市町村において行動している緊急消防援助隊に対し、他の災害発生市町村への出動を指示することができる。この指示をするときは、あらかじめ調整本部の意見を聴くものとされる(同条第2項)。調整本部は、知事の指示権を裏付ける審議機関としての性格も併せもつ。


第4章 用語解説

警察通信施設 警察が設置・管理する通信のための施設。消防組織法第41条により、消防庁および地方公共団体が消防事務のために使用できる。

運営管理 実働部隊の運用に関する指揮命令の権限。第42条第2項が、消防が警察を応援する場合に警察がこれを留保する旨を定める。

水防管理者 水防法第2条第2項が定める、水防管理団体である市町村または水防事務組合等の長。消防組織法第42条第2項の協定当事者、第43条の指示の名宛人に含まれる。

災害発生市町村 地震、台風、水火災等の非常事態において、これらの災害が発生した市町村(第44条第1項括弧書き)。

消防の応援等 消防の応援または支援(第44条第1項括弧書き)。

緊急消防援助隊 第44条第1項、第2項もしくは第4項の求めに応じ、または同条第5項の指示に基づき、消防の応援等を行うことを任務として、都道府県または市町村に属する消防に関する人員および施設により構成される部隊(第45条第1項)。

緊急消防援助隊行動市町村 緊急消防援助隊が既に行動している災害発生市町村(第44条第8項括弧書き)。

基本計画 総務大臣が策定する緊急消防援助隊の編成及び施設の整備等に係る基本的な事項に関する計画(第45条第2項)。平成16年2月に策定され、平成31年3月の改定で令和5年度末までの登録目標隊数をおおむね6,600隊とした。

指揮支援部隊 大規模災害または特殊災害の発生に際し、ヘリコプター等で緊急に被災地に赴き、災害に関する情報を収集して消防庁長官・関係都道府県知事等に伝達するとともに、被災地の市町村長またはその委任を受けた消防長による緊急消防援助隊に係る指揮が円滑に行われるよう支援活動を行う部隊。統括指揮支援隊、指揮支援隊、航空指揮支援隊により編成される。

都道府県大隊 当該都道府県または当該都道府県内の市町村に設置された都道府県大隊指揮隊、消火中隊、救助中隊、救急中隊、後方支援中隊、通信支援中隊、水上中隊、特殊災害中隊および特殊装備中隊のうち、被災地において行う消防の応援等に必要な中隊をもって編成される部隊。

受援計画 各都道府県が、自らが被災地となる場合を想定して、都道府県内の消防機関と協議のうえ策定する計画。調整本部および航空運用調整班の運営方法、応援等の要請、指揮体制、進出拠点、宿営場所、燃料補給基地等を定める。


第5章 改正沿革

5-1 条文ごとの沿革

第41条

年法令内容
昭和22年法律第226号第23条として制定
昭和27年法律第258号「国家消防庁」を「国家消防本部」に改める
昭和35年法律第113号「国家消防本部」を「消防庁」に改める
平成18年法律第64号見出しを付し、第41条とする

第42条

年法令内容
昭和22年法律第226号第24条として制定。協定当事者は国家消防庁、国家地方警察、都道府県知事、市町村長
昭和26年法律第18号第2項に「自治体警察」を加える
昭和27年法律第258号「国家消防庁」を「国家消防本部」に改める
昭和29年法律第163号第2項中「国家地方警察、自治体警察」を「警察庁、都道府県警察」に改める
昭和35年法律第113号「国家消防本部」を「消防庁」に改める
平成18年法律第64号第2項の「颱風」を「台風」に、「災害防禦」を「災害の防御」に、「予め」を「あらかじめ」に、「これを行う」を「行う」に改め、項番号を付し、見出しを付して第42条とする

第43条

年法令内容
昭和27年法律第258号第24条の2として新設
昭和35年法律第113号「国家消防本部長」を「消防庁長官」に改める
平成18年法律第64号「颱風」を「台風」に、「災害防禦」を「災害の防御」に改め、見出しを付して第43条とする

第44条

年法令内容
(時期未確認)—第24条の3として新設
平成7年法律第121号要請を待たない求め(現行第2項)および市町村長への直接の求め(現行第4項)を追加
平成15年法律第84号緊急消防援助隊の出動指示(現行第5項)等を整備
平成18年法律第64号項番号を付し、見出しを付して第44条とする
平成20年法律第41号第5項の指示対象災害から「で二以上の都道府県に及ぶもの」を削り、第8項(転進の際の意見聴取)を追加

第44条の2

年法令内容
平成20年法律第41号新設。平成20年8月27日施行

5-2 緊急消防援助隊の制度発展

時期事項
平成7年1月阪神・淡路大震災
平成7年6月緊急消防援助隊の創設(要綱に基づく運用)。発足当初1,267隊
平成7年10月消防組織法改正(法律第121号)。応援の特例を整備
平成13年1月消火部隊にも登録制を導入
平成15年6月消防組織法改正(法律第84号)。法制化
平成16年2月基本計画の策定
平成16年4月改正法施行
平成18年緊急消防援助隊設備整備費補助金による国庫補助措置
平成20年5月消防組織法改正(法律第41号)。機動力の強化
平成20年7月大規模地震発生時における迅速出動基準の運用開始
平成23年3月東日本大震災。第44条第5項の出動指示を初めて発動
平成23年度緊急防災・減災事業債の創設
平成31年3月基本計画の改定。登録目標をおおむね6,600隊に

5-3 出動実績

平成7年の創設から平成16年4月の改正消防組織法施行までの間に合計10回出動した。以降、平成16年新潟県中越地震、平成17年JR西日本福知山線列車事故、平成23年東日本大震災、平成28年熊本地震、平成29年7月九州北部豪雨、平成30年7月豪雨、令和元年東日本台風、令和2年7月豪雨、栃木県足利市林野火災、静岡県熱海市土石流災害、令和6年能登半島地震等、令和6年11月末までに合計35回出動している。

近年の主な活動は次のとおりである。

  • 栃木県足利市林野火災(令和3年2月) 東京消防庁統括指揮支援隊、福島県航空指揮支援隊および6都県の航空小隊が出動。7日間の活動
  • 静岡県熱海市土石流災害(令和3年7月) 10都県が出動。24日間の捜索・救助活動
  • 令和6年能登半島地震(令和6年1月) 21都府県が出動。52日間の捜索・救助活動等
  • 令和6年9月奥能登豪雨(令和6年9月) 10府県が出動。13日間の捜索・救助活動

登録状況は、令和6年4月1日現在で全国718消防本部(全国の消防本部の約99パーセント)等から6,661隊、令和7年4月1日現在で6,731隊、隊員数25,731人である。


第6章 法的性格と解釈上の論点

6-1 第36条の原則と第43条・第44条の例外関係

前回述べたとおり、第36条は市町村の消防が消防庁長官・都道府県知事の運営管理・行政管理に服さないことを宣言する。第43条の知事の指示と第44条第5項・第6項の指示は、この原則に対する明文の例外である。

例外の範囲は限定的に画されている。

第一に、要件が非常事態と緊急の必要(第43条)、または大規模・特殊災害と特別の必要(第44条第5項)に絞られている。

第二に、指示の内容が災害の防御の措置(第43条)、緊急消防援助隊の出動のため必要な措置(第44条第5項)に限られている。組織・人事・予算への介入は含まれない。

第三に、第44条第5項の指示の名宛人は「当該災害発生市町村の属する都道府県以外の都道府県の知事又は当該都道府県内の市町村の長」である。被災していない側に出動を指示するものであって、被災市町村の消防活動を指揮するものではない。国が被災地の消防活動そのものに命令を発する仕組みは、現行法に存在しない。

この三点を踏まえると、第43条・第44条は第36条の原則を覆すものではなく、その枠内で非常時の部隊融通を可能にするための最小限の例外と評価できる。

6-2 求めと指示の選択と国庫負担

第44条は、同じ場面について求めと指示の二つの手段を用意している。第1項から第4項までが求め、第5項が指示である。要件は重なり合う部分があり、どちらを用いるかは消防庁長官の判断に委ねられる。

選択の帰結は費用負担に現れる。第49条第1項により、第44条第5項の指示を受けて出動した緊急消防援助隊の活動によって増加し、または新たに必要となる費用のうち政令で定める経費は、国が負担する。求めに応じた出動には、この国庫負担がない。

出動する側の市町村から見れば、指示を受けた方が財政的に有利である。他方、指示は法的義務を生じさせるから、自らの区域の消防力への影響を理由に断ることができなくなる。

首都直下地震における緊急消防援助隊アクションプランは、同プランに基づく緊急消防援助隊の出動(受援都道府県内の消防本部に属する緊急消防援助隊を除く)を第44条第5項の指示とし、受援都道府県内の消防本部に属する緊急消防援助隊については第44条第4項の求めとする旨を定めている。区域外からの大規模投入には指示、区域内の部隊移動には求めという使い分けである。

6-3 指示権の不行使と国家賠償

第43条・第44条の指示は、いずれも「することができる」という裁量規定である。大規模災害において消防庁長官が出動指示を行わず、あるいは都道府県知事が指示を行わなかった結果、救助が遅れて人的被害が拡大した場合、その不作為が国家賠償法上違法となりうるか。

この点を直接扱った裁判例は見当たらない。もっとも、規制権限の不行使に関する判例の枠組みは参考になる。最判平成16年10月15日(水俣病関西訴訟)は、権限を定めた法令の趣旨・目的や権限の性質等に照らし、具体的事情の下において権限の不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使は国家賠償法第1条第1項の適用上違法となるとした。最判平成26年10月9日(泉南アスベスト訴訟)も同じ枠組みによる。

これを第44条に当てはめると、被害の重大性、予見可能性、指示によって被害を回避できた可能性、他の手段の有無といった要素が判断材料となる。緊急消防援助隊の出動が全国的な部隊運用を伴い、消防庁のオペレーション能力に依存することを考えると、裁量の幅は広いと解される。しかし、基本計画やアクションプランで出動基準が具体化されている現在、その基準から著しく逸脱した不作為が免責されるとは限らない。

6-4 調整本部の実効性

第44条の2は調整本部の設置を義務づけるが、その権限は総合調整と関係機関との連絡にとどまる。緊急消防援助隊に対する指揮権は、第47条により応援を受けた市町村長にある。

この構造は、災害対策基本法上の都道府県災害対策本部との関係でも整理を要する。同法第23条の2により知事が設置する都道府県災害対策本部は、災害応急対策全般を所掌する。調整本部は消防の応援等に特化した機関であり、両者は併存する。実務上は、都道府県災害対策本部の下に調整本部を置き、消防防災主管部局が事務局を担う設計が一般的である。

調整本部が機能するかどうかは、平時の準備に依存する。緊急消防援助隊の応援等の要請等に関する要綱(平成27年3月31日消防広第74号)は、都道府県に対し、都道府県防災訓練や緊急消防援助隊地域ブロック合同訓練等において関係機関と合同で調整本部の設置運営訓練を行うなど応受援体制の強化を図ること、都道府県知事・危機管理担当幹部等に常時連絡可能な体制を確保するとともに知事不在時の職務代理者を事前指定すること、調整本部の運営にあたる責任者等を庁舎近傍に居住させるなど緊急参集できる体制を整備することを求めている。

調整本部長が都道府県知事である以上、知事が参集できなければ本部は動かない。副本部長による職務代理(第7項)と職務代理者の事前指定が、実効性の要となる。

6-5 第41条は死文か

第41条は、実務上ほとんど発動されない規定である。制定時の過渡的な措置がそのまま残存したものと評価することもできる。

もっとも、死文と断ずるのは早い。大規模災害において消防救急無線、防災行政無線、携帯電話網が同時に途絶する事態は想定しうる。そのときに警察通信施設を使用する法律上の根拠があることは、意味をもつ。第42条第1項の相互協力義務とあわせて読めば、警察側にも協力すべき立場が生ずる。

同様の規定として、第50条(国有財産等の無償使用)がある。緊急消防援助隊の活動に必要な財産や物品について、単独の地方公共団体が整備・保有することが費用対効果の面から非効率なものを国が整備し、地方公共団体に無償で使用させる仕組みである。第41条は、通信という限られた分野について、これと同種の発想を制定時から採っていたことになる。

6-6 「消防及び警察」という主語

第42条第1項の主語は「消防及び警察」である。消防庁でも市町村でもなく、制度そのものを主語とする書き方は、消防組織法のなかでこの条文だけである。

この書き方は、制定時の状況を反映している。警察から分離した直後の消防にとって、警察との関係は組織間の個別の協定では処理しきれない、制度全体の位置づけの問題であった。協力すべきは個々の機関ではなく、消防という制度と警察という制度である、という宣言である。

実務上の帰結として、第42条第1項は、消防本部と警察署の間の日常的な協力の根拠として援用される。火災現場での交通規制、火災原因調査における情報交換、救急事案における協力、要救助者の身元確認といった場面で、明示の協定がなくても協力が行われるのは、この規定の存在による。


第7章 裁判例

第41条から第44条の2までを直接の争点とする公表裁判例は見当たらない。組織相互の関係と非常時の権限配分を定める規定であり、国民の権利義務に直接の効果を及ぼす場面が限られるためである。関連する枠組みとして、次の四類型が参照に値する。

7-1 消防活動の過誤と責任の限定

最判昭和53年7月17日

消防署職員の消火活動が不十分なため残り火が再燃して火災が発生した場合における公共団体の損害賠償責任について、失火ノ責任ニ関スル法律の適用があるとした。重過失がなければ責任を負わないという帰結になる。

緊急消防援助隊として出動した部隊の消火活動についても同じ枠組みが及ぶ。応援側と受援側のいずれが責任主体となるかは、前回述べたとおり国家賠償法第1条・第3条の適用問題として処理される。

7-2 緊急時の権限行使の適法性

最判昭和47年5月30日(第三小法廷)

消防法第29条第3項にいう延焼の防止のために緊急の必要があったと認められた事例である。同項は、火災が発生しようとし、または発生した消防対象物およびその周辺の物件以外の消防対象物等について、延焼防止のためやむを得ないと認めるときの使用・処分・使用制限を認める。

非常事態における緊急の権限行使が事後に争われる場面の先例として参照される。第43条の「緊急の必要があるとき」、第44条第5項の「特別の必要があると認められるとき」という要件の判断にも、事後の視点ではなく行為時の状況に即して評価すべきという考え方が及ぶ。

7-3 規制・是正権限の不行使と国家賠償

最判平成16年10月15日民集58巻7号1802頁(水俣病関西訴訟)

国および県が規制権限を行使しなかったことについて、権限を定めた法令の趣旨・目的や権限の性質等に照らし、具体的事情の下において権限の不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、国家賠償法第1条第1項の適用上違法となるとした。

最判平成26年10月9日民集68巻8号799頁(泉南アスベスト訴訟)

同じ枠組みにより、労働大臣が省令制定権限を行使しなかったことを違法とした。

第43条・第44条の指示権の不行使が争われる場合の判断枠組みとして参照される。

7-4 災害対応と行政の責任

最判昭和59年1月26日民集38巻2号53頁(大東水害訴訟)

未改修または改修途上の河川の管理の瑕疵の有無は、諸般の事情を総合的に考慮し、河川管理における財政的、技術的および社会的諸制約の下でのいわゆる過渡的な安全性をもって足りるとする判断枠組みを示した。

災害対応の体制が十分でなかったことをもって直ちに違法とすることはできないという考え方の基礎にある判例である。緊急消防援助隊の登録隊数、装備の充実度、受援体制の整備状況といった要素が争点となる場合の参考となる。

7-5 参照の仕方

第41条から第44条の2までに関する法的評価は、訴訟ではなく、災害ごとの検証作業のなかで行われるのが実情である。政府は令和6年能登半島地震について内閣官房副長官補を座長とする検証を行い、消防庁も部隊展開の経験を教訓として制度の見直しを進めている。条文の意味を確定するのは、判例よりもこうした検証の蓄積である。


第8章 実務上の留意点

8-1 求めと指示の区別を記録に残す

緊急消防援助隊の出動に際しては、それが第44条第1項・第2項・第4項の求めによるものか、第5項の指示によるものかを正確に記録する必要がある。国庫負担の対象となるか否かが分かれるためである。

消防庁からの連絡は、災害の初動段階では電話やファクシミリで行われることが多い。事後に文書で整理されるまでの間、現場の担当者が根拠条項を取り違えると、費用の精算段階で問題が生ずる。指令センターの受信記録に、求めか指示かの別と根拠条項を記載する運用としておきたい。

8-2 受援計画と調整本部の準備

調整本部の設置義務は、災害発生市町村が2以上あり、かつ緊急消防援助隊が出動したときに生ずる。大規模災害では、この要件はほぼ確実に満たされる。

都道府県の受援計画には、調整本部および航空運用調整班の運営方法、応援等の要請、指揮体制、進出拠点、宿営場所、燃料補給基地等を定める。点検すべき事項は次のとおりである。

  • 本部員のうち第44条の2第5項第2号の「知事が指定する消防本部」があらかじめ定められているか。代表消防機関との関係が整理されているか。
  • 本部長(知事)不在時の職務代理者が事前指定されているか。副本部長の指名手続が定められているか。
  • 調整本部の設置場所が都道府県災害対策本部と近接しているか。通信手段が確保されているか。
  • 第8項により出席させる国の職員その他の者の範囲があらかじめ想定されているか。指揮支援部隊長、自衛隊・警察・DMATの連絡員の席が確保されているか。
  • 訓練において調整本部の設置運営訓練が組み込まれているか。

各消防本部についても、都道府県の受援計画および都道府県地域防災計画と整合を図りつつ、都道府県内応援隊および緊急消防援助隊の都道府県大隊等の指揮体制、関係機関との連絡体制、受援訓練の実施等について受援計画を策定する必要がある。

8-3 転進の際の意見聴取

第44条第8項は、既に他の災害発生市町村で行動している緊急消防援助隊を転進させる場合に、当該市町村長および都道府県知事の意見を聴くことを義務づける。緊急を要し意見を聴くいとまがないときは、この限りでない。

被災市町村にとって、活動中の応援部隊を引き揚げられることは重大な影響をもつ。意見を聴かれた場合には、残存する被害の状況、自隊の消防力、他の応援の見込みを具体的に示すことが求められる。意見聴取の記録は、事後の検証において重要な資料となる。

同様の意見聴取は、第44条の3第2項により都道府県知事が調整本部に対しても行う。

8-4 火災調査と犯罪捜査の分界

第42条第2項の権限分界は、日常の火災調査の場面で具体化する。

  • 放火または失火の疑いがある火災について、原因調査の主たる責任と権限は消防長または消防署長にある(消防法第35条第1項)。
  • 犯罪があると認めるときは、直ちに所轄警察署に通報し、必要な証拠を集めて保全に努める(同条第2項)。
  • 警察官が被疑者を逮捕し、または証拠物を押収したときは、検察官への送致まで、調査のために被疑者への質問や証拠物の調査ができる(同法第35条の2第1項)。ただし警察官の捜査に支障を来してはならない(同条第2項)。
  • 消防の調査は、警察官の捜査責任を免れしめない(同法第35条の4)。

実務上の摩擦は、現場保存の範囲と証拠物の取扱いをめぐって生じやすい。消防本部と所轄警察署の間で、火災現場における役割分担、実況見分への立会い、資料の相互提供の手続をあらかじめ取り決めておくことが、双方の調査・捜査の質を高める。第42条第2項の協定を締結している例もあるが、多くは実務上の申合せによっている。

8-5 消防職員の権限の限界を周知する

「消防職員は、警察権を行使してはならない」という一文の意味は、現場では必ずしも意識されていない。消防吏員には消防法上の権限(消防警戒区域の設定、消防対象物の使用・処分・使用制限、消防作業従事命令、火災原因調査に係る資料提出命令・質問等)が与えられているが、これらは警察権とは別系統の権限である。

火災現場や救急現場で、消防職員が関係者の身体を拘束したり、所持品を検査したり、犯罪の嫌疑について取調べに類する質問をしたりすることは、いずれも権限の範囲を超える。消防法第35条の2の質問権は、警察官が被疑者を逮捕した後に、火災原因の調査のために行うものであり、犯罪捜査のための取調べではない。

ハラスメントや不祥事への対応が求められる時代にあって、職員研修において権限の限界を明示しておくことは、組織を守るうえでも意味がある。

8-6 第43条の位置づけを整理しておく

第43条の指示は、災害対策基本法第72条第1項による知事の市町村長への指示と併存する。実際の災害では後者が用いられることが多いが、消防と水防に特化した指示としては第43条が存在する。

都道府県地域防災計画において、第43条の指示を行う場合の手続(発動の判断者、伝達経路、記録)を定めている例は多くない。非常時に根拠条文を探すことのないよう、あらかじめ整理しておきたい。


参考資料

法令

  • 消防組織法(昭和22年法律第226号) e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000226
  • 消防法(昭和23年法律第186号) 第29条、第31条から第35条の4まで
  • 災害対策基本法(昭和36年法律第223号) 第23条の2、第72条
  • 大規模地震対策特別措置法(昭和53年法律第73号) 第2条第13号、第3条第1項
  • 地方財政法(昭和23年法律第109号) 第10条第27号
  • 国家賠償法(昭和22年法律第125号) 第1条、第3条

制定・改正法の原文

通知・行政資料

裁判例

  • 最判昭和47年5月30日(第三小法廷。消防法第29条第3項にいう延焼の防止のために緊急の必要があったと認められた事例)
  • 最判昭和53年7月17日(消防活動と失火ノ責任ニ関スル法律の適用)
  • 最判昭和59年1月26日民集38巻2号53頁(大東水害訴訟。河川管理の瑕疵と過渡的安全性)
  • 最判平成16年10月15日民集58巻7号1802頁(水俣病関西訴訟。規制権限の不行使と国家賠償)
  • 最判平成26年10月9日民集68巻8号799頁(泉南アスベスト訴訟)

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