親が小説を書いていた。絵を描いていた。大学で論文を発表していた。趣味で撮りためた動画がインターネット上で収益を生んでいた。こうした場合、遺された作品の権利はどうなるのか。預貯金や自宅の相続手続きに追われる遺族が見落としやすいのが著作権である。本稿では、創作者の相続に直面した遺族が最初に押さえるべき基礎を、条文に即して整理する。

1 著作権は相続財産である

民法896条は、相続人が相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定める。著作権は財産権であり、著作権法61条1項がその全部又は一部の譲渡を認めていることからも分かるとおり、移転可能な権利である。したがって著作権は、預貯金、不動産、株式と並ぶ相続財産として、当然に相続の対象になる。

対象となるのは、小説・随筆・論文などの言語の著作物、絵画・彫刻・書などの美術の著作物、楽曲、写真、映画、プログラムなど、著作権法10条が例示するあらゆる著作物の著作権である。プロの作家であるかどうかは関係がない。同人誌の漫画、ブログの記事、動画投稿サイトにアップロードした映像でも、創作性が認められる限り著作権は発生しており、作者の死亡によって相続される。

見落とされがちな点を一つ挙げる。作品そのもの(原稿、原画、彫刻といった有体物)の所有権と、作品に係る著作権は別個の権利である。絵画一枚を相続する場合、キャンバスという物の所有権と、その絵を複製・展示・出版する著作権は、遺産分割で別々の相続人に帰属させることもできてしまう。両者を意識して分けずに手続きを進めると、絵は長男の手元にあるのに複製の権利は相続人全員の共有のまま、という状態が生じる。この論点は本シリーズ第7記事で詳しく扱う。

2 相続されない権利―著作者人格権

著作権法59条は、著作者人格権が著作者の一身に専属し、譲渡できないと定める。公表権(18条)、氏名表示権(19条)、同一性保持権(20条)から成る著作者人格権は、民法896条ただし書の一身専属権に当たり、相続されない。著作者の死亡により消滅する。

ただし、消滅すれば死後は何をしてもよいことになるわけではない。著作権法60条は、著作者の死後においても、著作者が生存しているとしたならば著作者人格権の侵害となるべき行為を禁じている。
 116条は、この規定に違反する者に対し、遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹)が差止め等を請求できると定める。請求できる遺族の順位は同条2項が定めるが、著作者は遺言によってこの順位を変え、あるいは遺族に代えて請求できる者を指定することもできる(同条3項)。作品の改変や氏名の削除から死後の名誉を守る仕組みは、相続とは別の枠組みで用意されているのである。

遺族の立場からは、財産としての著作権の遺産分割と、人格的利益を守る116条の請求権者の確認という、二つの別の問題があると理解しておけばよい。

3 権利はいつまで続くか―死後70年

著作権の保護期間は、原則として著作者の死後70年である(著作権法51条2項)。平成30年12月30日施行の法改正により、それまでの50年から延長された。期間の計算は死亡した年の翌年の1月1日から起算する(57条)。令和8年に亡くなった作家の著作権は、原則として令和78年12月31日まで存続する。

この長さが、著作権相続の性質を決めている。70年の間には二次相続、三次相続が起こり、何もしなければ権利者は世代を追うごとに枝分かれして増えていく。祖父の著作権を孫やひ孫の世代の十数人が共有している、という状態は、古い文学作品や楽曲の利用許諾の現場で現実に生じている問題である。

4 誰に、どのように承継されるか―共有の落とし穴

相続人が複数いる場合、遺産分割が終わるまで、著作権は相続人全員の共有となる(民法898条参照)。ここに著作権法固有の制約が加わる。著作権法65条は、共有に係る著作権について、持分の譲渡には他の共有者の同意を要し(1項)、権利の行使には共有者全員の合意を要する(2項)と定める。

権利の行使とは、出版の許諾、重版の承認、電子書籍化、映像化、展覧会への出品許可などを指す。全員の合意がなければ、これらの一切ができない。相続人の一人と連絡が取れない、一人が反対している、というだけで、故人の作品は誰にも利用できないまま死後70年間眠ることになりかねない。出版社から重版の打診が来ているのに返事ができない、という事態は、遺産分割で著作権の帰属を決めていない相続に典型的に生じる。共有著作権の詳細は第2記事で扱うが、結論だけ先に述べれば、著作権は遺産分割協議で管理を担う一人に単独帰属させるのが実務上の原則である。

5 相続人がいない場合―著作権は消滅する

著作権法62条1項1号は、著作権者が死亡した場合において、その著作権が民法959条の規定により国庫に帰属すべきこととなるときは、著作権が消滅すると定める。相続人がなく、特別縁故者への分与もされなかった場合、著作権は国のものになるのではなく、消えてなくなる。作品は誰のものでもなくなり、公有に帰する。

身寄りのない創作者が「自分の作品を然るべき団体に託したい」と望むなら、遺言による遺贈が事実上唯一の手段になる。この論点はおひとりさまの終活と直結するため、第10記事で独立して扱う。

6 遺産分割協議書に著作権をどう書くか

著作権には、預貯金における銀行窓口、不動産における法務局のような、承継を届け出る一般的な窓口が存在しない。相続による著作権の移転は、文化庁への登録をしなくても第三者に対抗できる(著作権法77条1号かっこ書が相続その他の一般承継を除外している)。手続きの窓口がないからこそ、権利の帰属を証明する書面は遺産分割協議書だけになる。

協議書には、著作権を遺産として明記し、誰に帰属させるかを特定して記載する必要がある。作品名を列挙した目録を添付する方法が確実だが、把握しきれない作品や未発表の原稿が残ることも多いため、被相続人の有する一切の著作権及び著作隣接権を対象とする包括的な記載を併用するのが実務的である。印税の支払いを受けている出版社や、楽曲を管理団体に信託している場合には、協議書の成立後に各社・各団体へ死亡の通知と名義変更の手続きを行う(第5記事・第6記事参照)。

まとめ

著作権は相続財産であり、遺産分割の対象になる。著作者人格権は相続されないが、遺族が死後の人格的利益を守る制度は別にある。権利は死後70年続き、放置すれば共有状態のまま枝分かれし、誰も作品を利用できなくなる。相続人がいなければ権利は消滅する。創作者の相続では、預貯金や不動産と同じ遺産分割のテーブルに、著作権という見えない財産を最初から載せておくことが出発点になる。

次回は、相続によって生じる共有著作権の問題(著作権法65条)を掘り下げる。

参考資料


京都・乙訓で創作者の相続・終活のご相談は、相続おもいやり相談室(中川総合法務オフィス・行政書士中川恒信)へ。ご依頼いただくまで何回ご相談いただいても無料である。TEL 075-955-0307。

関連記事:第2記事(共有著作権)/第7記事(原稿・原画の所有権と著作権)/第9記事(創作者の遺言) 著作権法逐条解説:第51条・第59条・第61条・第62条・第65条の各記事

Follow me!