1 この改正で何が変わるのか

令和8年6月24日、二つの法律が公布された。

  • 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)
  • 民法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和8年法律第46号)

前者が本体であり、民法、任意後見契約に関する法律、後見登記等に関する法律、家事事件手続法、法務局における遺言書の保管等に関する法律の5本を改める。後者は、商法、戸籍法、民事訴訟法、会社法、信託法など合計61本の法律について、用語と引用条文を整える法律である。

改正の柱は二つある。

第一の柱は成年後見制度である。後見と保佐という二つの類型を廃止し、補助の制度に一元化する。判断能力の程度によって使える制度が自動的に決まる仕組みをやめ、本人が必要とする行為に限って支援の権限を設定する形に組み替えた。

第二の柱は遺言制度である。パソコンで作成した遺言データを法務局に預け、遺言書保管官の前で全文を口述することで成立する「保管証書遺言」を新設した。あわせて自筆証書遺言などの押印要件を任意化し、危急時の遺言に録音・録画を用いる方式を加えた

法律案の提出理由には、高齢化の進展と単身高齢者世帯の増加という社会経済情勢の変化が挙げられている。令和7年12月末時点の法定後見の利用者数は、後見18万0828人、保佐5万8162人、補助1万8078人である(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」)。利用者の約7割が、包括的な代理権と取消権をもつ後見に集中してきた。この偏りを解消することが、改正の出発点にある。


2 施行はいつか 三つの時期に分かれる

改正法の附則第1条は、施行日を三つに分けている。政令で具体的な日が定まるため、以下は上限の時期である。

対象施行時期遅くとも
遺言の押印任意化、証人・立会人の欠格事由の拡張、死亡危急時遺言と船舶遭難者等遺言の新方式、検認手続の整備公布から1年以内令和9年6月23日
成年後見制度の見直し全般(補助への一元化、特定補助人、任意後見、後見登記、家事事件手続)公布から2年6月以内令和10年12月23日
保管証書遺言の創設、自筆証書遺言書保管制度のデジタル化(遺言書保管法の改正)公布から3年以内令和11年6月23日

システム改修を伴う保管証書遺言が最も遅い。押印の任意化が最も早く動く。つまり、一般の方が最初に体感する変化は「遺言書にハンコが要らなくなる」という点になる。

なお附則第10条は、施行から3年経過後に施行状況を検討し、必要があれば所要の措置を講ずる旨を定めている。


3 成年後見制度の改正 補助への一元化

3-1 条文原文(改正後民法)

第7条(補助開始の審判)

精神上の理由により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、補助開始の審判を請求することができる者として公正証書によって本人の指定した者又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。
2 本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。ただし、本人がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。
3 補助開始の審判は、第九条第一項若しくは第十条第一項の規定による審判のいずれか又は第十一条第一項の規定による審判をする必要がある場合において、これらの審判と同時にしなければならない。
4 補助開始の審判を受けた者に、補助人を付する。

第9条第1項(補助人の同意を要する旨の審判等)

家庭裁判所は、次に掲げる場合において、必要があると認めるときは、補助開始の審判を受けた者が特定の行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。

第10条第1項(特定補助人を付する旨の審判等)

家庭裁判所は、次に掲げる場合において、補助開始の審判を受けた者(補助開始の審判を受ける者となるべき者を含む。次条第一項において同じ。)が精神上の理由により事理を弁識する能力を欠く常況にある者であり、かつ、必要があると認めるときは、その者のため第五項に規定する権限を有する補助人として特定補助人を付する旨の審判をすることができる。

第11条第1項(補助人に代理権を付与する旨の審判)

家庭裁判所は、次に掲げる場合において、必要があると認めるときは、補助開始の審判を受けた者のために特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。

第12条第1項・第2項(補助開始の審判等の取消し)

第七条第一項に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、同項に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、補助開始の審判を取り消さなければならない。
2 家庭裁判所は、必要がなくなったと認めるときは、第七条第一項に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、第九条第一項の規定による審判の全部又は一部を取り消すことができる。

旧民法第13条から第19条まで(保佐に関する規定)は削除された。第4編第5章は「未成年後見」となり、第6章は「補助」のみとなる。

3-2 趣旨・立法背景

現行制度は、事理弁識能力が「不十分」なら補助、「著しく不十分」なら保佐、「欠く常況」なら後見と、能力の程度で使える制度を画一的に法定してきた。後見が開始すると、成年後見人は本人の財産全般について包括的な代理権をもち、日常生活に関する行為を除くすべての法律行為を取り消せる。

問題は、利用のきっかけと効果が釣り合わないことにあった。たとえば「亡くなった親の遺産分割協議をする必要がある」という一点のために後見を申し立てると、遺産分割が終わった後も、本人の預金、不動産、契約のすべてが後見人の管理下に置かれ続ける。本人が自分で買い物や契約をする自由が、必要の範囲を超えて制限される。

さらに、後見・保佐は事理弁識能力が回復しない限り終了できなかった。認知症の場合、回復は現実的に想定しにくい。結果として、一度始めたら本人が亡くなるまで続く制度になっていた。後見人との相性が合わなくても交代が難しいという指摘も重なった。

障害の有無にかかわらず自己決定権を尊重するという理念の高まりを受け、法制審議会は令和6年2月の諮問から令和8年2月の答申まで、民法(成年後見等関係)部会で審議を重ねた。到達したのが、必要な行為について必要な期間だけ権限を設定するという設計である。

3-3 新しい仕組みの組み立て方

補助開始の審判(第7条)は、それ単独では効果をもたない。第7条第3項が、次の三つのいずれかと同時にしなければならないと定めている。

  1. 補助人の同意を要する旨の審判(第9条第1項)
  2. 特定補助人を付する旨の審判(第10条第1項)
  3. 補助人に代理権を付与する旨の審判(第11条第1項)

つまり、家庭裁判所に対して「本人のどの行為に、どの支援が必要か」を具体的に示すことが出発点になる。

第9条第2項は、同意権の対象にできる行為を11号にわたって列挙している。

一 預金又は貯金の預入又は払戻しの請求をすること
二 元本を領収し、又は利用すること
三 借財又は保証をすること
四 居住の用に供する建物の大修繕に関する工事の請負契約その他の重要な役務の提供に関する契約を締結すること
五 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
六 訴訟行為をすること
七 贈与、和解又は仲裁合意をすること
八 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること
九 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること
十 第602条に定める期間を超える賃貸借をすること
十一 前各号に掲げる行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること

現行の保佐の対象行為(旧第13条第1項)と比べると、第1号の預貯金の預入れ・払戻請求と第4号の居住用建物の大修繕契約が新たに加わっている。高齢者被害の典型である住宅リフォーム被害に対応する趣旨と読める。

家庭裁判所は、この11号の中から本人に必要なものを選んで定める。定められた行為を補助人の同意なくした場合、その行為は取り消せる(第9条第5項)。補助人が正当な理由なく同意しないときは、本人の請求により家庭裁判所が同意に代わる許可を与える(第9条第4項)。

3-4 特定補助人という受け皿

事理弁識能力を欠く常況にある方については、行為を一つずつ指定していく方式では対応しきれない場面がある。そこで第10条は、特定補助人という選択肢を用意した。

特定補助人が付されると、本人が第9条第2項各号の行為(日常生活に関する行為を除く)をした場合、それが当然に取消し可能となる(第10条第2項)。さらに家庭裁判所は、必要があると認めるときは、第9条第2項各号以外の特定の行為についても取消し可能とする審判ができる(第10条第3項)。

注意すべきは権限の内容である。第10条第5項は、特定補助人の権限を三つに限定している。

一 取り消すことができる行為についての取消権の行使
二 本人に対する意思表示の受領
三 本人の財産に関する保存行為

代理権は含まれていない。旧制度の成年後見人がもっていた包括的な代理権は、特定補助人にも与えられない。代理権が必要なら、第11条により行為を特定して個別に付与を受ける。ここが旧法との最大の断絶である。

なお、特定補助の利用にあたっては、医師二人以上の意見を聴いたうえで、明らかに必要がないときを除いて鑑定が行われる(家事事件手続法第119条)。

3-5 終了できる制度になった

第12条第1項は、原因が消滅したときの取消しを義務づける。加えて第2項から第5項までが、「必要がなくなったと認めるとき」に同意権・取消権・代理権の審判を全部または一部取り消せると定めた。そして第6項は、第9条・第10条・第11条の審判をすべて取り消す場合には、補助開始の審判自体を取り消さなければならないとしている。

判断能力が回復していなくても、当初の目的を果たし終えたら制度から抜けられる。法務省資料は、補助人に義務づけられる年1回の状況報告の際に家庭裁判所が職権で終了を判断する運用を想定している。

3-6 本人の意思を前面に出す改正

選任基準の見直しがある。家庭裁判所が補助人を選任する際に考慮すべき要素の冒頭に「本人の意見」が置かれた(第876条の2)。現行法では考慮要素の最後に置かれていた。

補助人の職務についても、第876条の11が新設された。補助人は事務を行うにあたり、本人の心身の状態に応じて、事務に関する情報を提供して本人の陳述を聴取するなどの適切な方法により、本人の意向を把握しなければならない。そのうえで、把握した意向を尊重し、心身の状態と生活の状況に配慮する義務を負う。

解任事由も広がった。第876条の5は、従来の「不正な行為」「任務に著しく反した」に加えて、「補助開始の審判を受けた者の利益のため特に必要があるとき」を第3号として追加した。横領などの不正がなくても、たとえば補助人が本人と面談を行わず適切な保護がされていない場合には交代を求められる。

報酬については、第876条の19が家庭裁判所の考慮要素として補助人が行った事務の内容等を明記した。報酬が認容された事案の実績を公表することが予定されており、費用の見通しが立てやすくなる。

3-7 あわせて設けられた仕組み

死後事務の権限(第876条の26) 補助人は、本人の死体の火葬・埋葬に関する契約の締結と、本人が死亡した当時の権限の範囲内での相続財産の保存に必要な行為ができる。施設利用料の支払について代理権を付与されていた補助人が、本人の死亡後に未払分を支払う場面が想定されている。現行法ではこの権限は成年後見人にしか認められていなかった。

意思表示の受領のための特別代理人(第98条の3) 意思表示の相手方が事理弁識能力を欠く常況にあり、その者のために意思表示を受ける者がないときは、家庭裁判所が表意者の請求により特別代理人を選任する。補助が本人に必要な場合にしか利用されない以上、法定代理人が存在しない相手方が生じうる。契約解除の通知一つ送れないという事態を避けるための受け皿である。この特別代理人は、必要に応じて補助開始や代理権付与の審判を請求し、補助人に引き継ぐことができる。

公正証書による申立権者の指定(第7条第1項・第8条) 本人が、将来自分について補助開始の審判を請求できる者をあらかじめ公正証書で指定できる。親族に限られない。自分の生活状況を把握している知人や支援者を指定しておけば、判断能力が低下したときに手続を動かしてもらえる。

家事事件手続の見直し(家事事件手続法第120条) 補助開始の審判、代理権付与の審判、同意を要する旨の審判などについて、原則として本人の陳述聴取が必要となった。また、家庭裁判所が必要と認める事案では、市区町村長その他適当な者に対し、本人の心身の状態や生活の状況について意見を求めることができる。医学的判断だけでなく生活実態を踏まえるという方向である。

3-8 任意後見制度

任意後見についても四点の見直しがある。

第一に、任意後見監督人の選任が必須ではなくなる。家庭裁判所が明らかに監督人による監督の必要がないと認めるときは、監督人を選任せず家庭裁判所が直接監督する(任意後見契約法第4条・第5条)。監督人報酬の負担が軽くなる。

第二に、本人が公正証書で指定した者も、任意後見契約を発効させる審判(任意後見開始の審判)の申立てができる(同法第5条・第6条)。現行法は申立権者を親族と任意後見受任者に限っていた。

第三に、任意後見人が死亡した場合などに備えて、複数の任意後見契約について効力発生の順序を定める合意ができる(同法第7条)。予備の任意後見人を用意しておける。

第四に、補助の利用を開始しても任意後見契約は終了しない。現行法では法定後見の開始により任意後見契約が終了していた。補助人の代理権の範囲を適切に設定して権限の重複を避けることを基本としつつ、調整が必要な場合に備えて任意後見契約の一部解除の規律が新設された。


4 遺言制度の改正

4-1 保管証書遺言の創設

条文原文(改正後民法)

第968条の2(保管証書遺言)

保管証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、遺言の全文(電磁的記録に記録された場合にあっては、遺言の全文及び氏名)が記載され、又は記録された証書について、署名又はこれに代わる措置として法務省令で定めるものを講ずること。
二 遺言者が、遺言書保管官の前で、その証書に記載され、又は記録された遺言の全文を口述すること。
2 前項の規定によりした遺言は、法務局における遺言書の保管等に関する法律の定めるところにより当該遺言に係る証書を保管しなければ、その効力を生じない。

第968条の3(保管証書遺言の方式の特則)

口がきけない者が保管証書によって遺言をする場合には、遺言者は、遺言書保管官の前で、遺言の全文を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第一項第二号の口述に代えなければならない。
2 前条第一項第二号及び前項の規定にかかわらず、遺言書保管官が保管証書と一体のものとして記載され、又は記録された相続財産の全部又は一部の目録を遺言者に閲覧させることその他の法務省令で定める措置を講ずるときは、その目録については、同号の口述又は同項の規定による通訳人の通訳による申述若しくは自書を要しない。

趣旨・立法背景

現在よく使われている遺言は、自筆証書遺言と公正証書遺言である。自筆証書遺言は、本文の全文を自書しなければならない。財産目録についてはパソコン作成が認められたものの(平成30年改正)、本文の手書きは残った。手が震える、長時間書けないという高齢者にとって負担が大きい。

自筆証書遺言書保管制度(平成30年創設)を使えば紛失や改ざんを防げるが、本人が法務局に出頭して対面で手続をする必要がある。遠方の方や外出が難しい方には使いにくい。

一方、公正証書遺言は公証人が関与する分、手数料と手間がかかる。

そこで、両者の中間に位置する第三の方式が設けられた。作成はパソコンで自由に行い、成立の確実さは法務局の関与で担保するという設計である。

制度の骨格

  • 作成方法 パソコン等で作成できる。手書きは不要。署名または署名に代わる措置(電子署名が想定される)を講ずる。
  • 保管申請 オンラインで申請できる。データそのものを申請することも、プリントアウトした書面を申請することもできる(遺言書保管法第7条)。
  • 全文の口述 遺言書保管官の前で遺言の全文を口述する。これが本人の真意に基づく遺言であることを担保する中核となる。財産目録については、遺言書保管官が目録を閲覧させるなどの措置を講ずれば口述を要しない。
  • ウェブ会議 遺言書保管官が相当と認めるときは、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話する方法で口述ができる(遺言書保管法第7条第7項)。本人確認についても同様の規定がある(同法第8条第2項)。
  • 効力発生 保管されなければ効力を生じない(民法第968条の2第2項)。作成と保管が一体である点が、自筆証書遺言書保管制度との決定的な違いになる。
  • 外国語 遺言の全文が外国語で記載されている場合、日本語訳の提供と口述の通訳などの措置が必要となる(遺言書保管法第7条第6項)。
  • 遺言書保管官の除斥 遺言書保管官本人やその配偶者・四親等内の親族が申請人であるとき、また遺言書保管官が推定相続人や受遺者であるときは、その職務を行えない(同法第5条)。
  • 相続開始後 相続人等は遺言書の証明書の交付請求ができる。証明書はデータでも書面でも選択でき、オンライン請求もできる。家庭裁判所の検認は不要である。
  • 通知 遺言者が指定した者に対し、遺言の存在が通知される。相続登記をはじめとする遺言執行が円滑になる。

自筆証書遺言書保管制度についても、オンライン申請、ウェブ会議の利用、指定者への通知が導入される(遺言書保管法第6条、第8条、第12条から第19条まで)。

4-2 押印の任意化

改正後民法第968条第1項は「自書しなければならない」となり、「これに印を押さなければ」の部分が削られた。加除訂正の場合の押印要件(同条第3項)も同様である。秘密証書遺言(第970条)、危急時遺言(第976条)、船舶遭難者等遺言(第979条)、遺言関係者の署名(第980条)についても押印要件が廃止された。第981条の見出しは「署名又は押印が不能の場合」から「署名が不能の場合」に改まる。

背景には、行政手続と商慣行における押印見直しの進展がある。公正証書遺言における遺言者等の押印要件は、令和5年の公証人法改正ですでに廃止されていた。押印を巡る慣行と法意識の変容が、民法にも及んだ形である。

押印は禁止されたわけではない。任意化であるから、これまでどおり押印しても遺言は有効である。

4-3 証人・立会人の欠格事由の拡張

改正後民法第974条第3号として、受遺者(推定相続人である者を除く)並びにその配偶者、直系血族および被用者(受遺者が法人である場合はその被用者および役員)が加えられた。第4号の「公証人の使用人」は「被用者」に改められている。

現行法では受遺者の従業員は欠格事由ではなかった。単身高齢者が増え、入所している高齢者施設等への遺贈が行われる例があることを踏まえた改正である。施設に遺贈する遺言について、その施設の職員が証人になることはできなくなる。

4-4 特別の方式の遺言

死亡危急時遺言(第976条の2 新設) 現行の危急時遺言は証人三人以上の立会いを要する。死の危急に迫った状況で三人を集めるのは容易でない。新設された方式は、次の状況を録音および録画を同時に行う方法で記録することを条件に、証人一人以上の立会いで足りるものとした。

一 証人の一人に遺言の趣旨を口授すること 二 口授を受けた証人が、遺言の趣旨および証人の氏名を書面に記載し、または電磁的記録に記録すること 三 その証人が、書面または電磁的記録の内容を表示したものを遺言者に読み聞かせ、または閲覧させ、遺言者がその記載または記録の正確なことを承認すること

証人の立会いは、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話できる方法、すなわちウェブ会議によることができる(同条第2項)。口がきけない者、耳が聞こえない者についての通訳規定も置かれた。

船舶遭難者等遺言(第979条改正・第979条の2新設) 第979条第1項に後段が加わり、船舶遭難の場合に加えて「天災その他避けることのできない事変」が発生した場合において、そこから生じた重大かつ急迫の危難を避けることが困難な場所にいて死亡の危急に迫った者も対象となった。大規模地震などが想定されている。

第979条の2は、二つの方式を追加した。

一 証人一人以上の立会いをもって、口頭で遺言をする状況を録音および録画を同時に行う方法により記録する方式
二 口頭で遺言をする状況を録音および録画を同時に行う方法により記録し、その使用する電子計算機を用いてその記録を特定の者に送信する方式

第二号の方式では証人の立会いを要しない。スマートフォンで自分の遺言を撮影し、特定の相手にメール等で送信すればよい。証人が死亡するリスク、遺言書が滅失するリスクへの対応でもある。

これらの遺言は、証人の一人、送信を受けた者または利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求して確認を得なければ効力を生じない(同条第5項)。

検認(第1004条) 検認の対象に「第979条の2第1項各号に規定する方法により記録された電磁的記録」が加わり、条文の見出しも「遺言書等の検認」となった。保管者が複数いる場合に一人が検認請求をすれば足りる旨の規定も新設された。

4-5 補助開始の審判を受けた者の遺言

第973条の見出しは「成年被後見人の遺言」から「補助開始の審判を受けた者の遺言」に改まった。対象は第10条第1項の審判を受けた者、すなわち特定補助人が付された者である。事理弁識能力を一時回復した時に遺言をするには、医師二人以上の立会いが必要という枠組みは維持されている。

立会医師の対応は方式ごとに分かれた。通常の遺言では遺言書に記載または記録して署名または署名に代わる措置を講ずる(第2項)。保管証書遺言では遺言書保管官に申述する(第3項)。秘密証書遺言では封紙に記載して署名する(第4項)。


5 用語解説

事理を弁識する能力 物事の道理をわきまえ、自分の行為の結果を判断できる能力。改正前は「精神上の障害により」とされていた文言が、改正後は「精神上の理由により」となった。

補助開始の審判 家庭裁判所が、本人に補助人を付けると決める裁判。本人以外の請求による場合は本人の同意が要る。

特定補助人 事理弁識能力を欠く常況にある方に付される補助人。取消権の行使、意思表示の受領、財産の保存行為の三つの権限をもつ。代理権は別に付与を受ける必要がある。

補助監督人 補助人の事務を監督する者。家庭裁判所が必要と認めるときに選任される(第876条の7)。補助人の配偶者、直系血族、兄弟姉妹は補助監督人になれない(第876条の8)。

制限行為能力者 改正後民法第9条第2項第11号が定義する。未成年者、および第9条第1項または第10条第1項の審判を受けた者を指す。「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」という呼称は法律上なくなる。

遺言書保管官 法務局の職員のうち、法務大臣が指定する者。遺言書保管法第4条に規定がある。保管証書遺言では、本人確認と全文の口述の受領を担う。

電磁的記録 電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるもの。遺言書保管法第2条第4号がこの定義を用いている。

保管証書遺言書 民法第968条の2の保管証書によってする遺言に係る遺言書。書面で作成されたものを書面保管証書遺言書、電磁的記録で作成されたものを電子保管証書遺言書という(遺言書保管法第2条)。

検認 家庭裁判所が遺言書の形状や内容を確認し、偽造・変造を防ぐ手続。遺言の有効・無効を判断するものではない。保管証書遺言と自筆証書遺言書保管制度を利用した遺言は検認が不要である。


6 参考となる判例・裁判例

改正法はまだ施行されていないため、直接の判例は存在しない。しかし、改正が何を解決しようとしているかを理解するうえで、次の判例が手がかりになる。

最判昭和54年5月31日(民集33巻4号445頁) 「昭和四拾壱年七月吉日」と記載された自筆証書遺言について、日付の記載を欠くものとして無効とした。日付は暦上の特定の日を表示するものでなければならないという判断である。方式の一点の不備が遺言全部を失効させる。保管証書遺言では遺言書保管官が関与するため、この種の形式的瑕疵は生じにくくなる。

最判昭和49年12月24日(民集28巻10号2152頁) 帰化していない英国人が日本で作成した自筆証書遺言について、押印を欠いていても有効とした。押印の慣行に親しまない者について、押印を絶対の要件としない解釈を示した先例である。今回の押印任意化は、この判例が示した方向を立法として一般化したものと位置づけられる。

最判平成28年6月3日(民集70巻5号1263頁) 自筆証書遺言に花押を書くことは、押印の要件を満たさないとした。押印の代替手段をめぐる争いが現実に起きていたことを示す。押印が任意化されれば、この論点自体が消える。

最判平成5年10月19日 カーボン紙を用いて複写の方法で記載された自筆証書遺言について、自書の要件を満たすとした。自書性の外縁をめぐる争いが繰り返されてきたことがわかる。保管証書遺言はパソコン作成を正面から認めるため、自書性の争いから解放される。

最決平成24年10月9日(刑集66巻10号981頁) 成年後見人が業務上占有する被後見人の財産を横領した場合、たとえ親族であっても刑法第244条第1項(親族相盗例)は準用されず、刑は免除されないとした。親族後見人による不正が現実の問題であることを示す判断である。今回の改正が解任事由に「本人の利益のため特に必要があるとき」を加えたのは、刑事責任を問える不正に至る前の段階で交代を可能にする趣旨と読める。

遺言能力に関する下級審裁判例 遺言無効確認訴訟では、遺言者の判断能力が争点になることが多い。裁判所は、診断書や介護記録、長谷川式簡易知能評価スケールの点数、遺言内容の複雑さ、遺言に至る経緯などを総合して判断してきた。保管証書遺言では、遺言者が遺言書保管官の前で全文を口述する。この口述の過程が、遺言者の理解の程度を示す事実として、後の紛争で意味をもつ可能性がある。


7 実務で予想される場面

事例1 遺産分割のためだけに後見を使ってきた家庭

父が亡くなり、母(認知症)と子二人で遺産分割をしたい。現行法では母について後見を申し立てるほかなく、分割が終わっても後見は続く。母の預金の出し入れは後見人が行い、家族が母に頼まれて代わりに買い物をすることも報告の対象になる。

改正後は、補助開始の審判と同時に、遺産分割についてのみ補助人に代理権を付与する審判を求める。分割が終われば、第12条第5項により代理権付与の審判の取消しを申し立てられる。すべての審判が取り消されれば補助開始の審判自体が取り消される(同条第6項)。必要な期間だけ制度を使う運用になる。

事例2 いま後見を利用している18万人はどうなるか

施行日前に後見開始の審判を受けた成年被後見人と成年後見人については、附則第2条第1項により、原則としてなお従前の例による。つまり何もしなければ現行の内容のまま続く。保佐についても附則第3条が同じ扱いを定める。

ただし、二つの規定だけは改正後の民法が適用される(附則第2条第2項・第3項)。一つは解任事由であり、成年後見人を補助人とみなして、本人の利益のため特に必要があるときの解任を可能とする。もう一つは意向把握・尊重義務であり、改正後民法第876条の11が適用される。制度に残る方にも、本人の意向を聴く義務と交代の道が開かれる。

新制度に移りたい場合は、本人、配偶者、四親等内の親族、成年後見人・保佐人等が補助開始の審判を申し立てる(附則第2条第4項)。家庭裁判所は、施行日前に後見開始の審判を受けたことを考慮しないで判断する(同条第5項)。補助開始の審判をする場合、家庭裁判所は従前の後見開始の審判を取り消さなければならない(同条第6項)。

制度の利用をやめたい場合は、後見開始・保佐開始の審判の取消しを申し立てられる(同条第7項)。

施行日前に補助を利用していた方は、附則第4条により、改正後の補助の内容でそのまま利用を継続できる。旧第17条第1項の同意を要する旨の審判は新第9条第1項の審判と、旧第876条の9第1項の代理権付与の審判は新第11条第1項の審判とみなされる。

施行日前にされた後見開始・保佐開始の審判の請求で、施行日までに審判が確定していないものは、補助開始の審判の請求とみなされる(附則第2条第8項、第3条第2項)。施行時期をまたぐ申立てには注意が要る。

事例3 施設に入っている親の遺言をどう作るか

遠方の施設に入所している母が、遺言を残したいと言っている。外出が難しく、公証人の出張を頼むと費用がかさむ。手が震えて長文の自書は困難である。

保管証書遺言が施行されれば、家族がパソコンで文案を整え、母が内容を確認して署名または電子署名を行い、オンラインで保管申請をする。遺言書保管官がウェブ会議の利用を相当と認めれば、施設からウェブ会議で全文を口述して手続を終えられる。

ただし全文の口述が要件である以上、口述に耐える体力と理解力が残っているうちに動く必要がある。財産目録の部分については、遺言書保管官が目録を閲覧させるなどの措置を講ずれば口述を要しない(第968条の3第2項)。財産が多い方でも口述の負担は抑えられる。

事例4 施設への遺贈と証人

施設に世話になったので、財産の一部を運営法人に遺贈したい。公正証書遺言を作るにあたって証人二人が必要になるが、改正後は、その法人の職員も役員も証人になれない(第974条第3号)。施設に証人を頼むという発想自体が使えなくなる。第三者に依頼する前提で準備することになる。

事例5 災害の現場で遺言を残す

大規模地震で建物に閉じ込められ、救助を待つ状況にある。改正後の第979条第1項後段により、船舶遭難でなくとも「天災その他避けることのできない事変」から生じた重大かつ急迫の危難を避けることが困難な場所にいて死亡の危急に迫った者は、口頭で遺言ができる。

第979条の2第1項第2号によれば、スマートフォンで自分が遺言する様子を録音・録画し、その記録を特定の者に送信すれば、証人の立会いなしに遺言が成立しうる。ただし遅滞なく家庭裁判所の確認を得なければ効力を生じない。送信を受けた者も確認請求の申立権者である。誰に送るかが、そのまま遺言の実現可能性を左右する。

事例6 連絡がつかない相手との契約解除

賃貸物件の借主が認知症で施設に入り、後見人も家族もいない。賃貸借契約を解除したいが、解除の意思表示を受け取る者がいない。

改正後は、貸主が表意者として家庭裁判所に第98条の3の特別代理人の選任を請求できる。選任された特別代理人が解除の意思表示を受領する。さらにこの特別代理人は、必要があると認めるときは補助開始の審判や代理権付与の審判を請求し、その後の対応を補助人に引き継げる(同条第3項)。空き家・空き室の滞留を防ぐ実務的な効果が見込まれる。

事例7 押印のない遺言が出てきた

施行後、押印のない自筆証書遺言が発見された。有効か。

附則第5条第1項が定めるとおり、押印任意化の施行日前にされた遺言については、なお従前の例による。つまり施行日前に作成された遺言は、押印がなければ従来どおり無効である。遺言がいつ作成されたかが分岐点になる。日付の記載が、これまで以上に効いてくる。


8 整備法(令和8年法律第46号)が及ぶ範囲

整備法は61本の法律を改める。内容は三つに整理できる。

第一に、後見の廃止に伴う整備である。成年被後見人を対象とする規定を削除するもの、特定補助人を付する処分の審判を受けた者を対象とする規定に置き換えるものがある。たとえば労働基準法第121条第1項ただし書の「成年被後見人」は「特定補助人を付する処分の審判を受けた者」に改まる。

第二に、保佐の廃止に伴う整備である。被保佐人を対象とする規定の削除や、補助人を対象とする規律への変更がある。

第三に、民事訴訟法における用語の見直しである。「訴訟無能力者」が「訴訟能力を欠く者」に改められる。

成年後見制度の利用の促進に関する法律も改正され、「成年後見人等」は「補助人等」に、「成年被後見人等」は「補助開始の審判を受けた者等」となる。

法の適用に関する通則法では、第5条の見出しが「補助開始の審判」となり、第35条は「未成年後見等」となる。

施行日は原則として令和8年法律第45号の施行の日である。


9 いま準備しておくこと

遺言を考えている方へ。押印の任意化は令和9年6月までに施行される。保管証書遺言は令和11年6月までである。作成を急ぐ事情がなければ、保管証書遺言の運用開始を待つ選択肢がある。ただし判断能力は待ってくれない。全文の口述ができる状態でなければ保管証書遺言は使えないため、現時点で不安がある方は、先に公正証書遺言を作っておき、新制度の開始後に作り直すという二段構えが現実的である。遺言はいつでも撤回・変更できる。

いま後見・保佐を利用している方へ。施行日まで2年半ほどの猶予がある。何もしなければ現在の状態が続く。補助に移るか、制度から抜けるか、そのまま続けるかの三択になる。本人にとって何が必要かを、家族と補助人候補者を交えて整理しておく時間はある。

これから成年後見の利用を考えている方へ。施行前に後見・保佐を申し立てると、原則として旧制度のまま利用が続く。急がない事案であれば、施行を待って補助を申し立てるほうが本人の自由度は高い。ただし施行日までに審判が確定しなければ補助開始の審判の請求とみなされるため、申立ての時期は慎重に選ぶ必要がある。

事業者・施設関係者へ。証人の欠格事由の拡張は令和9年6月までに施行される。入居者から遺贈の相談を受けた場合、自施設の職員を証人にする運用は取れなくなる。社内の手順書を見直しておく時期にある。


10 次回以降の予定

本シリーズでは、改正法を条文ごとに読み解いていく。次回は民法第7条(補助開始の審判)を扱う。申立権者の範囲、本人の同意、他の審判との同時性という三つの論点を、旧第7条(後見開始の審判)との対比で検討する。

その後、第8条(公正証書による指定)、第9条(同意を要する旨の審判)、第10条(特定補助人)、第11条(代理権付与)、第12条(取消し)と進み、第876条以下の補助の事務、任意後見契約法、遺言書保管法へと及ぶ。逐条解説の完了後は、遺言と補助それぞれについて実務適用編と事例編を用意する。


参考資料

  • 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号) 条文および附則
  • 民法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和8年法律第46号)
  • 民法等の一部を改正する法律案 新旧対照条文(民法、任意後見契約に関する法律、後見登記等に関する法律、家事事件手続法、法務局における遺言書の保管等に関する法律)
  • 法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)」概要資料(令和8年6月)
  • 法務省民事局「成年後見制度の見直し」各説明資料(令和8年1月・3月)
  • 法務省民事局「遺言制度の見直し」説明資料(令和8年1月)
  • 法制審議会民法(成年後見等関係)部会・民法(遺言関係)部会 各回議事録および部会資料
  • 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和7年1月~12月-」
  • 法務省ウェブサイト https://www.moj.go.jp/
  • 裁判所ウェブサイト 裁判例検索 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1

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