1 第2章の位置

第2章は「国の行政機関」と題され、第2条から第5条までの4か条で構成される。第1条が消防の任務を制度全体について定めた後、国の側の担い手として消防庁を置き(第2条)、その長を定め(第3条)、任務と所掌事務を列挙し(第4条)、教育訓練機関の設置を授権する(第5条)という順序をとる。

この4か条は、第3章以下の市町村消防に関する規定と対をなす。市町村が消防責任を負い(第6条)、市町村長が管理し(第7条)、市町村が費用を負担する(第8条)以上、国の機関である消防庁の役割は指揮命令ではありえない。第36条が市町村の消防は消防庁長官の運営管理又は行政管理に服することはないと定めるのは、第2章の帰結を確認したものである。第2章を読む際は、第36条を常に対置しておく必要がある。

2 第2条(消防庁)

条文

(消防庁)

第2条 国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第3条第2項の規定に基づいて、総務省の外局として消防庁を置く。

趣旨・立法背景

国の行政組織は、国家行政組織法第3条第2項により、府省の下に外局として庁及び委員会を置くことができる。庁は独任制、委員会は合議制であり、政治的中立性や利害調整の必要が高い分野に委員会が用いられる。消防庁は庁であるから、長官が単独で意思決定を行う組織形態をとる。

制定時の第2条は「国家公安委員会に国家消防庁を置く」であった。消防を内務大臣の指揮監督下にある警察から切り離しながら、国の側では合議制機関である国家公安委員会の下に置いた点に、当時の警察制度改革との連続性が表れている。国家消防庁は市町村への指揮命令権を持たず、試験研究や器具検定などを行う機関として構想された。

その後の組織変遷は三段階をたどる。昭和27年法律第258号は、行政機構の簡素化の一環として本則中の「国家消防庁」を「国家消防本部」に、「長官」を「本部長」に改め、管理局を廃止して消防研究所を附置する形に改めた。昭和35年法律第113号は自治庁設置法を自治省設置法に改めた法律であり、その附則第7条で消防組織法第2条及び第3条を全部改め、自治省の外局として消防庁を置く現在の形とした(昭和35年7月1日施行)。同法附則第9条は国家行政組織法別表第一の自治省の項に消防庁を加えている。平成13年1月6日の中央省庁再編により自治省が総務省に再編されたことに伴い、条文上の「自治省」が「総務省」となった。

文理解釈

「基づいて」の語は、国家行政組織法第3条第2項が外局の設置を法律事項としていることを受け、本条がその個別の設置法条であることを示す。国家行政組織法別表第一に総務省の外局として消防庁が掲げられているのも同じ構造による。

消防庁は、他の多くの外局と異なり固有の設置法を持たない。総務省設置法は、消防庁については消防組織法の定めるところによるとし、総務省の所掌事務として消防組織法第4条第2項に規定する事務を掲げるにとどめている。組織規定と所掌事務規定が消防組織法の中に置かれ、市町村消防に関する規定と同じ法律に同居している点は、消防制度が国と市町村の役割分担を一本の法律で描いていることの表れである。

用語解説

外局とは、府省に置かれる機関のうち、内部部局の外にあって特殊な任務を所管し、独自の所掌事務を法律で与えられるものをいう。内部部局である局や課が大臣の権限を分掌するにすぎないのに対し、外局はその長に法令上の権限が直接帰属する場合がある。消防組織法第37条の助言・勧告・指導や第44条の措置要求が「消防庁長官」の権限とされているのは、この違いによる。

3 第3条(消防庁長官)

条文

(消防庁長官)

第3条 消防庁の長は、消防庁長官とする。

趣旨・立法背景

国家行政組織法第6条は、庁の長は長官とすると定める。本条はこれを消防庁について確認するとともに、長官が消防庁を統括し職員を指揮監督する地位にあること(同法第10条)を前提づける。制定時の第3条は、国家消防庁に長官を置き、国家公安委員会が任命し、その指揮監督を受けて庁務を掌理すると定めていた。昭和27年法律第258号で「本部長」に、昭和35年法律第113号で現在の一文に改められている。任免や指揮監督系統に関する規定が姿を消し、一般の国家行政組織法制に委ねられたことになる。

文理解釈

本条は長官の権限を積極的に定めていない。長官が何をするかは、消防組織法の各所と個別の作用法に散在する。主なものを挙げる。

消防組織法上のものとして、市町村の消防の広域化に関する基本指針の策定(第32条)、都道府県及び市町村に対する助言・勧告・指導(第37条)、消防統計等の報告の要求(第40条)、非常事態における措置要求及び指示(第44条)、緊急消防援助隊の登録(第45条)、情報通信システムに関する事項の決定(第46条)がある。消防法上のものとして、火災原因調査(第35条の3の2)、危険物の流出等の事故の原因調査(第16条の3の2第4項)がある。

長官の任命について本条は触れていない。消防庁長官は一般職の国家公務員であり、任命権者は総務大臣である(国家公務員法第55条第1項)。平成26年の国家公務員法改正により幹部職員人事の一元管理が導入された後は、内閣官房長官による適格性審査と、任免に関する内閣総理大臣及び内閣官房長官との協議を経ることになる。

用語解説

指揮監督とは、上級機関が下級機関の権限行使について訓令や職務命令を発し、その適法性・妥当性を担保する作用をいう。消防庁長官の指揮監督は消防庁の職員に及ぶにとどまり、市町村の消防職員には及ばない。市町村の消防職員を指揮監督するのは消防長であり(第12条第2項)、その任命権は市町村長と消防長に配分されている(第15条)。

長官が発する文書の性質にも注意を要する。庁は独自の省令制定権を持たないため、法規命令たる省令は総務省令として発せられる。長官名で発せられる告示、訓令、通達は、法律又は政令の個別の委任がある場合を除き、行政組織内部の規範にとどまる。都道府県や市町村に宛てた通知は、地方自治法第245条の4の技術的助言としての性格を持ち、名宛人を法的に拘束しない。

4 第4条(消防庁の任務及び所掌事務)

条文

(消防庁の任務及び所掌事務)

第4条 消防庁は、消防に関する制度の企画及び立案、消防に関し広域的に対応する必要のある事務その他の消防に関する事務を行うことにより、国民の生命、身体及び財産の保護を図ることを任務とする。

2 消防庁は、前項の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。

一 消防制度及び消防準則の企画及び立案に関する事項

二 消防に関する市街地の等級化に関する事項(都道府県の所掌に係るものを除く。)

三 防火査察、防火管理その他火災予防の制度の企画及び立案に関する事項

四 火災の調査及び危険物に係る流出等の事故の原因の調査に関する事項

五 消防職員(消防吏員その他の職員をいう。以下同じ。)及び消防団員の教養訓練の基準に関する事項

六 消防職員及び消防団員の教育訓練に関する事項

七 消防統計及び消防情報に関する事項

八 消防の用に供する設備、機械器具及び資材の認定及び検定に関する事項

九 消防に関する試験及び研究に関する事項

十 消防施設の強化拡充の指導及び助成に関する事項

十一 消防思想の普及宣伝に関する事項

十二 危険物の判定の方法及び保安の確保に関する事項

十三 危険物取扱者及び消防設備士に関する事項

十四 消防に必要な人員及び施設の基準に関する事項

十五 防災計画に基づく消防に関する計画(第29条において「消防計画」という。)の基準に関する事項

十六 人命の救助に係る活動の基準に関する事項

十七 救急業務の基準に関する事項

十八 消防団員等の公務災害補償等に関する事項

十九 消防に関する表彰及び報償に関する事項

二十 消防の応援及び支援並びに緊急消防援助隊に関する事項

二十一 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)、大規模地震対策特別措置法(昭和53年法律第73号)、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)、南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(平成14年法律第92号)、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(平成16年法律第27号)及び首都直下地震対策特別措置法(平成25年法律第88号)に基づく地方公共団体の事務に関する国と地方公共団体及び地方公共団体相互間の連絡に関する事項

二十二 石油パイプライン事業の用に供する施設についての工事の計画及び検査その他保安に関する事項

二十三 石油コンビナート等災害防止法(昭和50年法律第84号)第2条第2号に規定する石油コンビナート等特別防災区域に係る災害の発生及び拡大の防止並びに災害の復旧に関する事項

二十四 国際緊急援助隊の派遣に関する法律(昭和62年法律第93号)に基づく国際緊急援助活動に関する事項

二十五 武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(平成16年法律第112号)に基づく住民の避難、安否情報、武力攻撃災害が発生した場合等の消防に関する指示等に関する事項並びに同法に基づく地方公共団体の事務に関する国と地方公共団体及び地方公共団体相互間の連絡調整に関する事項

二十六 所掌事務に係る国際協力に関する事項

二十七 住民の自主的な防災組織が行う消防に関する事項

二十八 前各号に掲げるもののほか、法律(法律に基づく命令を含む。)に基づき消防庁に属させられた事項

趣旨・立法背景

第1項の任務規定と第2項の所掌事務規定という書き分けは、中央省庁等改革によって国家行政組織法に導入された形式である。任務は行政機関の存在理由を包括的に示し、所掌事務は任務を達成するために行う具体的な事務の範囲を画する。所掌事務に掲げられていない事務を行うことはできず、逆に所掌事務に掲げられていても、それだけでは国民や地方公共団体に対する権限の根拠にはならない。

第1項が国の役割を「制度の企画及び立案」と「広域的に対応する必要のある事務」で代表させている点は、市町村消防の原則との整合を図ったものと読める。制度の設計と、一市町村では対応できない広域の調整という二つの領域に国の関与を集約し、個別の消防活動そのものは市町村の手に残す構造である。

第2項の沿革は、消防行政の守備範囲の拡大をそのまま映している。制定時は10号にすぎず、市街地の等級化、消防準則の研究立案、防火査察制度、放火・失火犯の捜査技術の研究、消防操法訓練の基準、出版、統計、指導員の養成、設備・機械器具の検定、試験研究が並んでいた。昭和27年法律第258号は第2号を「消防制度及び消防準則の企画及び立案」に、第5号を「消防職員及び消防団員の教養訓練」に改め、消防施設の強化拡充の指導助成、消防思想の普及宣伝、法律に基づき権限に属する事項の3号を追加した。以後、救急業務、危険物、消防設備士、石油パイプライン、石油コンビナート、国際緊急援助隊、緊急消防援助隊、国民保護、自主防災組織が順次加えられ、現在の28号に至る。

近年の主なものを挙げると、第20号の緊急消防援助隊は平成15年法律第84号による法制化を受けたものであり、第25号は同16年の国民保護法制の整備に対応する。第21号に掲げる法律の一覧は、地震防災の特別措置法が制定されるたびに追加されており、首都直下地震対策特別措置法(平成25年法律第88号)が最後に加わっている。

文理解釈

「つかさどる」は、当該事務が消防庁の分掌に属することを示す語であり、規制権限を創設する語ではない。第2項第3号に「防火査察」が掲げられていても、立入検査を行う権限は消防法第4条が消防長又は消防署長に与えたものであって、消防庁が独自に立入検査を行えるわけではない。所掌事務規定と作用法上の権限規定を混同しないことが、本条を読む際の出発点になる。

28の号は、性質によっていくつかの群に整理できる。

制度の企画立案に関するもの(第1号、第3号、第12号、第13号)は、消防法令の改正作業そのものを指す。基準の設定に関するもの(第5号、第14号から第17号まで)は、消防庁告示の形で具体化される。消防力の整備指針(平成12年消防庁告示第1号)、消防水利の基準(昭和39年消防庁告示第7号)、市町村消防計画の基準(昭和41年消防庁告示第1号)、消防救助操法の基準(昭和53年消防庁告示第4号)がこれに当たる。

調査に関するもの(第4号)は、消防法第35条の3の2の火災原因調査と、同法第16条の3の2第4項の危険物流出事故の原因調査に対応する。検定・試験に関するもの(第8号、第9号、第13号)は、日本消防検定協会による型式承認・型式適合検定や、指定試験機関として指定された消防試験研究センターによる危険物取扱者試験・消防設備士試験の運営と結び付く(昭和59年自治省告示第232号、第233号)。教育訓練に関するもの(第6号)は、次条の教育訓練機関に受け渡される。

第28号は包括条項である。消防法をはじめとする個別法によって消防庁又は消防庁長官に与えられた事務が、この号を通じて所掌事務に取り込まれる。

用語解説

消防準則とは、市町村が消防の組織や運営を定めるにあたって参照すべき標準をいう。制定時から用いられている語で、現在は消防庁告示や通知の形で示される基準類を広く指す。

市街地の等級化(第2号)は、市街地の火災危険度を区分し、消防力の配置や損害保険料率の算定の基礎とする作業を指す。都道府県の所掌に係るものは除かれ、第29条第12号で都道府県の事務とされている(消防庁長官が指定する市に係るものを除く)。

第21号の「連絡」と第25号の「連絡調整」は、いずれも国と地方公共団体、地方公共団体相互の間で情報を媒介する事務を指し、指揮命令を含まない。国民保護の局面で消防庁長官が行う指示は、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律に個別の根拠を持つものであり、本号から導かれるわけではない。

実例

火災原因調査の例として、令和3年12月17日に発生した大阪市北区のビル火災がある。消防庁は消防法第35条の3の2に基づく長官の火災原因調査を行い、消防研究センター及び予防課が所轄の大阪市消防局と共同で調査を実施した。結果は令和4年6月21日に報告書として公表され、自動火災報知設備の鳴動状況、避難経路の構成、消防用設備等の維持管理状況の検証を経て、直通階段が一つの防火対象物に対する防火・避難対策の見直しにつながった。長官調査を行う場合の刑事捜査との関係については、平成15年6月12日付けの警察庁と消防庁の申合せ(警察庁丁捜一発第60号・消防予第166号)が、通知の手順と相互協力を定めている。

令和6年1月1日の能登半島地震において発生した輪島市の大規模火災についても、消防研究センターが長官の火災原因調査を実施し、屋内電気配線に溶けた痕跡が認められたことなどから、地震の影響により電気に起因した火災が発生した可能性が示された。市町村の消防本部が単独では担いにくい大規模火災の延焼動態の解析に国の研究機関が関与する点に、第4条第1項が掲げる「広域的に対応する必要のある事務」の実質が現れている。

第20号の緊急消防援助隊についても、同じ地震で運用の転換点があった。消防庁災害対策本部は発災当日16時30分に応援都道府県に対して出動の求めを行い、被害の甚大さを踏まえて17時30分にこれを指示に切り替えた。都道府県知事からの要請を待たずに行う求め(第44条第2項)は、このときが初の運用である。緊急消防援助隊は1月1日から2月21日までの52日間活動し、地元消防本部と合わせて多数の救助・搬送を実施した。

5 第5条(教育訓練機関)

条文

(教育訓練機関)

第5条 消防庁に、政令で定めるところにより、国及び都道府県の消防の事務に従事する職員又は市町村の消防職員及び消防団員に対し、幹部として必要な教育訓練を行い、あわせて消防学校又は消防職員及び消防団員の訓練機関の行う教育訓練の内容及び方法に関する技術的援助をつかさどる教育訓練機関を置くことができる。

趣旨・立法背景

本条は、消防庁に施設等機関としての教育訓練機関を置く授権規定である。これを受けた政令が総務省組織令(平成12年政令第246号)第152条であり、消防庁に消防大学校を置くと定める。国家行政組織法第8条の2が、法律の定める所掌事務の範囲内で法律又は政令により文教研修施設等を置くことができるとしていることに対応し、法律で枠を与え政令で具体化する形をとっている。

沿革は屈折している。制定時の第5条は、国家消防庁に消防研究所及び管理局を置き、所長一人、局長一人その他の職員を置くと定めるものであった。昭和27年法律第258号で管理局が廃止され、消防研究所を附置する形に改められた。昭和35年法律第113号の附則第7条は第5条を削除し、消防大学校等の設置規定は第4条の2以下に移された。その後、中央省庁等改革に伴う組織規定の整理を経て、現在の教育訓練機関に関する規定が第5条に置かれ、平成18年法律第64号による条文整理の際に見出し「(教育訓練機関)」が付されている。

実体としての機関の歴史は、昭和23年の消防講習所の創設に始まる。昭和34年に消防大学校となり、平成13年の中央省庁再編で総務省消防庁消防大学校となった。研究部門は平成13年4月に独立行政法人消防研究所として分離されたが、独立行政法人の見直しにより平成18年4月に廃止され、消防大学校に消防研究センターとして移管された。前掲の大阪市北区ビル火災や輪島市大規模火災の調査に消防研究センターが関与しているのは、この経緯による。

文理解釈

本条の教育訓練機関には二つの機能が与えられている。一つは幹部として必要な教育訓練を自ら行うこと、もう一つは消防学校等が行う教育訓練の内容及び方法について技術的援助を行うことである。「あわせて」の語が両者を結んでおり、後者は前者に付随する事務ではなく、並列の任務として位置付けられている。

対象者の範囲は「国及び都道府県の消防の事務に従事する職員」と「市町村の消防職員及び消防団員」である。市町村の職員のみならず、都道府県の消防事務に従事する職員も含まれる点は、第29条が都道府県に市町村相互の連絡調整や教養訓練に関する事務を負わせていることと対応する。

「置くことができる」は裁量的な表現であるが、都道府県及び指定都市の消防学校について「設置しなければならない」と定める第51条第1項と対比すると、国の側の機関設置を政令に委ねる趣旨と読むのが自然である。実際には消防大学校が継続して置かれている。

教育訓練の全体像は、第5条、第51条、第52条の三か条で構成される。初任教育と専科教育を都道府県及び指定都市の消防学校が担い、幹部教育を消防大学校が担い、消防学校の教育訓練は消防庁が定める基準を確保するよう努めるものとされる(第51条第4項)。この基準が消防学校の教育訓練の基準(平成15年消防庁告示第3号)及び消防学校の施設、人員及び運営の基準(平成15年消防庁告示第4号)である。第52条第1項は、消防職員及び消防団員に対し、職務に応じて消防大学校又は消防学校の教育訓練を受ける機会が与えられなければならないと定め、本条の機関を受講機会の保障の側から支えている。

用語解説

技術的援助とは、教育内容の設計、教材、指導方法について助言や情報提供を行うことをいい、消防学校の運営を指揮する権限を含まない。消防大学校が実施する新任消防長・学校長科は、消防学校の校長に対する教育を通じてこの機能を果たす例である。

消防学校(第51条)は学校教育法上の学校ではなく、都道府県が単独又は共同で設置する消防職員・消防団員の教育訓練機関である。指定都市は単独又は都道府県と共同して設置することができ、それ以外の市町村は訓練機関を設置することができる。

6 法的性格をめぐる論点

第2条から第5条までは組織規定であり、直接に国民の権利義務を規律しない。したがってこれらの条を根拠に処分の取消しを求めることはできず、条文の解釈が正面から争われた裁判例も見当たらない。実務上争点となるのは、これらの条が生み出す行政作用の性格である。

第一に、消防庁長官が定める基準や発する通知の効力である。消防組織法第16条第2項、第17条第4項、第23条第2項のように、法律が「消防庁の定める基準に従い」市町村規則で定めると規定している場合には、市町村は基準に従う法的義務を負う。これに対し、消防力の整備指針のように第4条第2項第14号の所掌事務に基づいて示される基準は、地方自治法第245条の4の技術的助言としての性格を持ち、市町村を法的に拘束しない。もっとも、消防力が指針を大きく下回る状態が続いている場合、消防活動をめぐる国家賠償訴訟において注意義務の水準を判断する事情として参照される余地はある。法的拘束力の有無と、訴訟上の意味を持つかどうかは別の問題である。

第二に、消防庁長官の火災原因調査の結果とその公表の性格である。調査は事実行為であり、報告書の公表も処分ではない。調査結果に不利益を受けたと考える関係者が救済を求める場合は、国家賠償による構成をとることになる。調査対象となった建物の関係者が、調査結果を根拠として市町村長から命令を受けた場合には、その命令が争訟の対象となる。

第三に、第44条の指示と第36条の関係である。消防庁長官の指示は緊急消防援助隊の出動という限定された局面に法律が特に設けた例外であり、市町村消防に対する一般的な指揮監督を認めるものではない。第36条が定める非管理の原則は、非常事態における個別の授権によって修正されるにとどまる。

7 実務上の留意点

消防本部が消防庁の通知を受け取ったときは、その根拠が個別の法律による委任か、所掌事務に基づく技術的助言かを区別して整理しておくべきである。前者であれば市町村規則や訓令への反映が義務となり、後者であれば地域の実情に照らした判断の余地が残る。この区別を怠ると、条例・規則の改正を要する場面を見落とすか、逆に助言にすぎないものを義務と誤認して過剰な事務負担を招く。

長官の火災原因調査は、消防長からの求めがある場合と、消防庁が特に必要と認める場合に行われる。大規模火災や死傷者の多い火災が発生した際に要請を検討する手順、警察との調整の窓口、現場保存の範囲をあらかじめ定めておくと、初動の混乱を避けられる。平成14年5月16日の消防安第13号は要請の手続を、平成15年の警察庁との申合せは捜査との関係を扱っており、両者を併せて内規に落とし込む価値がある。

緊急消防援助隊に関しては、能登半島地震で要請を待たない求めが初めて用いられたことを踏まえ、受援側の体制整備が課題となる。応援を受ける市町村長の指揮の下で行動するという第47条第1項の原則を前提に、受援計画、活動拠点、通信手段、後方支援の分担を平時に定めておく必要がある。

教育訓練については、消防大学校の課程が消防本部の抱える課題に合わせて更新されている点に留意したい。近年はハラスメント対策、メンタルヘルス、惨事ストレス対策、危機管理、広報、訴訟対応、女性活躍推進コースなどが加えられている。第52条第1項は受講機会の付与を義務の形で定めており、人員不足を理由に特定の職員に受講が偏る運用は、この規定の趣旨と整合しない。

次回は第6条から第8条まで、市町村の消防責任、管理及び費用負担に関する規定を扱う。

参考資料

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