一 条文原文
指定試験機関の組織(第13条の8〜第13条の14)
第十三条の八 第十三条の五第一項の規定により指定試験機関にその危険物取扱者試験事務を行わせることとした都道府県知事(以下「委任都道府県知事」という。)は、当該指定試験機関の名称、主たる事務所の所在地及び当該危険物取扱者試験事務を取り扱う事務所の所在地並びに当該指定試験機関に危険物取扱者試験事務を行わせることとした日を公示しなければならない。
② 指定試験機関は、その名称、主たる事務所の所在地又は危険物取扱者試験事務を取り扱う事務所の所在地を変更しようとするときは、委任都道府県知事(危険物取扱者試験事務を取り扱う事務所の所在地については、関係委任都道府県知事)に、変更しようとする日の二週間前までに、その旨を届け出なければならない。
③ 委任都道府県知事は、前項の規定による届出があつたときは、その旨を公示しなければならない。
第十三条の九 指定試験機関の役員の選任及び解任は、総務大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。
② 総務大臣は、指定試験機関の役員が、この法律(この法律に基づく命令又は処分を含む。)若しくは第十三条の十二第一項の試験事務規程に違反する行為をしたとき、又は危険物取扱者試験事務に関し著しく不適当な行為をしたときは、指定試験機関に対し、その役員を解任すべきことを命ずることができる。
第十三条の十 指定試験機関は、総務省令で定める要件を備える者のうちから危険物取扱者試験委員を選任し、試験の問題の作成及び採点を行わせなければならない。
② 指定試験機関は、前項の危険物取扱者試験委員を選任し、又は解任したときは、遅滞なくその旨を総務大臣に届け出なければならない。
③ 前条第二項の規定は、第一項の危険物取扱者試験委員の解任について準用する。
第十三条の十一 指定試験機関の役員若しくは職員(前条第一項の危険物取扱者試験委員を含む。次項において同じ。)又はこれらの職にあつた者は、危険物取扱者試験事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
② 危険物取扱者試験事務に従事する指定試験機関の役員及び職員は、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。
第十三条の十二 指定試験機関は、総務省令で定める危険物取扱者試験事務の実施に関する事項について試験事務規程を定め、総務大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
② 指定試験機関は、前項後段の規定により試験事務規程を変更しようとするときは、委任都道府県知事の意見を聴かなければならない。
③ 総務大臣は、第一項の規定により認可をした試験事務規程が危険物取扱者試験事務の適正かつ確実な実施上不適当となつたと認めるときは、指定試験機関に対し、これを変更すべきことを命ずることができる。
第十三条の十三 指定試験機関は、毎事業年度、事業計画及び収支予算を作成し、当該事業年度の開始前に(第十三条の五第一項の規定による指定を受けた日の属する事業年度にあつては、その指定を受けた後遅滞なく)、総務大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
② 指定試験機関は、事業計画及び収支予算を作成し、又は変更しようとするときは、委任都道府県知事の意見を聴かなければならない。
③ 指定試験機関は、毎事業年度、事業報告書及び収支決算書を作成し、当該事業年度の終了後三月以内に、総務大臣及び委任都道府県知事に提出しなければならない。
第十三条の十四 指定試験機関は、総務省令で定めるところにより、危険物取扱者試験事務に関する事項で総務省令で定めるものを記載した帳簿を備え、保存しなければならない。
監督と終了(第13条の15〜第13条の22)
第十三条の十五 総務大臣は、危険物取扱者試験事務の適正な実施を確保するため必要があると認めるときは、指定試験機関に対し、危険物取扱者試験事務に関し監督上必要な命令をすることができる。
② 委任都道府県知事は、その行わせることとした危険物取扱者試験事務の適正な実施を確保するため必要があると認めるときは、指定試験機関に対し、当該危険物取扱者試験事務の適正な実施のために必要な措置をとるべきことを指示することができる。
第十三条の十六 総務大臣は、危険物取扱者試験事務の適正な実施を確保するため必要があると認めるときは、指定試験機関に対し、危険物取扱者試験事務の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、指定試験機関の事務所に立ち入り、危険物取扱者試験事務の状況若しくは設備、帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。
② 委任都道府県知事は、その行わせることとした危険物取扱者試験事務の適正な実施を確保するため必要があると認めるときは、指定試験機関に対し、当該危険物取扱者試験事務の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、当該危険物取扱者試験事務を取り扱う指定試験機関の事務所に立ち入り、当該危険物取扱者試験事務の状況若しくは設備、帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。
③ 前二項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があつたときは、これを提示しなければならない。
④ 第一項又は第二項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
第十三条の十七 指定試験機関は、総務大臣の許可を受けなければ、危険物取扱者試験事務の全部又は一部を休止し、又は廃止してはならない。
② 総務大臣は、指定試験機関の危険物取扱者試験事務の全部又は一部の休止又は廃止により危険物取扱者試験事務の適正かつ確実な実施が損なわれるおそれがないと認めるときでなければ、前項の規定による許可をしてはならない。
③ 総務大臣は、第一項の規定による許可をしようとするときは、関係委任都道府県知事の意見を聴かなければならない。
④ 総務大臣は、第一項の規定による許可をしたときは、その旨を、関係委任都道府県知事に通知するとともに、公示しなければならない。
第十三条の十八 総務大臣は、指定試験機関が第十三条の六第二項各号(第三号を除く。)のいずれかに該当するに至つたときは、その指定を取り消さなければならない。
② 総務大臣は、指定試験機関が次のいずれかに該当するときは、その指定を取り消し、又は期間を定めて危険物取扱者試験事務の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。
一 第十三条の六第一項各号の要件を満たさなくなつたと認められるとき。
二 第十三条の十第一項、第十三条の十三第一項若しくは第三項、第十三条の十四又は前条第一項の規定に違反したとき。
三 第十三条の九第二項(第十三条の十第三項において準用する場合を含む。)、第十三条の十二第三項又は第十三条の十五第一項の規定による命令に違反したとき。
四 第十三条の十二第一項の規定により認可を受けた試験事務規程によらないで危険物取扱者試験事務を行つたとき。
五 不正な手段により第十三条の五第一項の規定による指定を受けたとき。
③ 総務大臣は、前二項の規定により指定を取り消し、又は前項の規定により危険物取扱者試験事務の全部若しくは一部の停止を命じたときは、その旨を、関係委任都道府県知事に通知するとともに、公示しなければならない。
第十三条の十九 委任都道府県知事は、指定試験機関に危険物取扱者試験事務を行わせないこととするときは、その三月前までに、その旨を指定試験機関に通知しなければならない。
② 委任都道府県知事は、指定試験機関に危険物取扱者試験事務を行わせないこととしたときは、その旨を公示しなければならない。
第十三条の二十 委任都道府県知事は、指定試験機関が第十三条の十七第一項の規定により危険物取扱者試験事務の全部若しくは一部を休止したとき、総務大臣が第十三条の十八第二項の規定により指定試験機関に対し危険物取扱者試験事務の全部若しくは一部の停止を命じたとき、又は指定試験機関が天災その他の事由により危険物取扱者試験事務の全部若しくは一部を実施することが困難となつた場合において総務大臣が必要があると認めるときは、第十三条の五第三項の規定にかかわらず、当該危険物取扱者試験事務の全部又は一部を行うものとする。
② 総務大臣は、委任都道府県知事が前項の規定により危険物取扱者試験事務を行うこととなるとき、又は委任都道府県知事が同項の規定により危険物取扱者試験事務を行うこととなる事由がなくなつたときは、速やかにその旨を当該委任都道府県知事に通知しなければならない。
③ 委任都道府県知事は、前項の規定による通知を受けたときは、その旨を公示しなければならない。
第十三条の二十一 前条第一項の規定により委任都道府県知事が危険物取扱者試験事務を行うこととなつた場合、総務大臣が第十三条の十七第一項の規定により危険物取扱者試験事務の廃止を許可し、若しくは第十三条の十八第一項若しくは第二項の規定により指定を取り消した場合又は委任都道府県知事が指定試験機関に危険物取扱者試験事務を行わせないこととした場合における危険物取扱者試験事務の引継ぎその他の必要な事項は、総務省令で定める。
第十三条の二十二 指定試験機関が行う危険物取扱者試験事務に係る処分又はその不作為については、総務大臣に対し、審査請求をすることができる。この場合において、総務大臣は、行政不服審査法第二十五条第二項及び第三項、第四十六条第一項及び第二項、第四十七条並びに第四十九条第三項の規定の適用については、指定試験機関の上級行政庁とみなす。
保安講習(第13条の23)
第十三条の二十三 製造所、貯蔵所又は取扱所において危険物の取扱作業に従事する危険物取扱者は、総務省令で定めるところにより、都道府県知事(総務大臣が指定する市町村長その他の機関を含む。)が行なう危険物の取扱作業の保安に関する講習を受けなければならない。
解任命令(第13条の24)
第十三条の二十四 市町村長等は、危険物保安統括管理者若しくは危険物保安監督者がこの法律若しくはこの法律に基づく命令の規定に違反したとき、又はこれらの者にその業務を行わせることが公共の安全の維持若しくは災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがあると認めるときは、第十二条の七第一項又は第十三条第一項に規定する製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者に対し、危険物保安統括管理者又は危険物保安監督者の解任を命ずることができる。
② 第十一条の五第四項及び第五項の規定は、前項の規定による命令について準用する。
関係する罰則
第四十一条の二 第十三条の十一第一項(第十七条の九第四項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
第四十一条の三 第十三条の十八第二項(第十七条の九第四項において準用する場合を含む。)の規定による危険物取扱者試験又は消防設備士試験の実施に関する事務の停止の命令に違反したときは、その違反行為をした第十三条の五第一項又は第十七条の九第一項の規定による指定を受けた者の役員又は職員は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
第四十三条の二 次のいずれかに該当するときは、その違反行為をした第十三条の五第一項又は第十七条の九第一項の規定による指定を受けた者の役員又は職員は、三十万円以下の罰金に処する。 一 第十三条の十四(第十七条の九第四項において準用する場合を含む。)の規定に違反して帳簿を備えず、帳簿に記載せず、若しくは帳簿に虚偽の記載をし、又は帳簿を保存しなかつたとき。 二 第十三条の十六第一項又は第二項(第十七条の九第四項において準用する場合を含む。)の規定による報告を求められて、報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又はこれらの規定による立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき。 三 第十三条の十七第一項(第十七条の九第四項において準用する場合を含む。)の規定による許可を受けないで、危険物取扱者試験又は消防設備士試験の実施に関する事務の全部を廃止したとき。
出典:e-Gov法令検索「消防法」(昭和23年法律第186号)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC1000000186
二 趣旨・立法背景
第13条の5から第13条の22までの十八の条は、一つのまとまりをなしている。都道府県知事が行うべき危険物取扱者試験の事務を、総務大臣の指定を受けた法人に行わせるための仕組みであり、法人の内部の組織から、監督、事務の終了、不服申立てまでが一連の条文として書かれている。消防法の中でこれほど長い法人規律は、第三章の二の危険物保安技術協会と第四章の三の日本消防検定協会に並ぶ。
この長さは、委ねる行為の性質から説明できる。第11条の3は、屋外タンク貯蔵所に係る審査を危険物保安技術協会に委託することを一つの条で定めている。委託されるのは審査であり、許可の権限は市町村長等に残る。これに対し第13条の5は試験事務そのものを移し、第3項で「都道府県知事は……危険物取扱者試験事務を行わないものとする」と定める。都道府県知事の手元に残るのは免状の交付だけである。公の事務を丸ごと民間法人に移すのであれば、その法人が公正かつ確実に事務を行うことを、法律の側で担保しなければならない。役員の選任・解任の認可、試験委員の選任、秘密保持義務とみなし公務員の規定、試験事務規程と事業計画の認可、帳簿、監督命令、報告徴収と立入検査、休止・廃止の許可、指定の取消しと停止命令、委任の解除、都道府県知事による代行、引継ぎ、審査請求という項目が並ぶのは、この担保の必要から来ている。
制度の根拠は昭和58年12月10日に公布された行政事務の簡素合理化及び整理に関する法律(昭和58年法律第83号)であり、国立国会図書館の日本法令索引は、同法第58条による消防法の改正として記録している。同索引によれば、昭和59年に消防法を改正した法律はない。一般財団法人消防試験研究センターの沿革が指定試験機関の制度を「昭和59年12月の消防法改正」によるものとしているのは、制度の施行と指定の時期を指したものと見られる。
指定は昭和59年12月20日に行われた。同月28日の自治省告示第232号が危険物取扱者試験について、同第233号が消防設備士試験について、それぞれ「財団法人消防試験研究センター」の名称、主たる事務所の所在地(東京都千代田区霞が関一丁目四番二号)及び指定の日を公示している。二つの試験の指定が同じ日に同じ法人に対して行われたことから、両制度が一体として設計されたことが分かる。同センターは昭和60年4月から両試験の業務を行っており、平成25年4月1日に一般財団法人へ移行した。
この一体性は条文の作り方にも現れている。第17条の9第4項は、消防設備士試験について、第13条の6の規定を指定について、第13条の7、第13条の9から第13条の18まで及び第13条の22の規定を指定を受けた者について、第13条の8、第13条の19及び第13条の20の規定を事務を行わせることとした都道府県知事について、第13条の21の規定を事務の引継ぎその他の必要な事項について、それぞれ準用している。同じ制度を二度書かない処理であり、「危険物取扱者試験事務」を「消防設備士試験の実施に関する事務」と読み替えるなどの読替規定が長く連なる原因にもなっている。
第13条の24は昭和63年法律第55号の新設である。同法の改め文は「第十三条の二十三の次に次の一条を加える」とし、市町村長等が危険物保安統括管理者又は危険物保安監督者の解任を命ずることができるものとした。同じ改正が第13条第2項の「危険物の保安の監督をする者」を「危険物保安監督者」に改めている。昭和50年法律第84号の附則が設けた危険物保安統括管理者と、第13条の保安監督者を一つの条で並べて扱えるようになったのは、呼称が揃ったからである。
保安講習の規定が第13条の23に置かれていることについては、実施細目を定める告示が昭和62年消防庁告示第4号「危険物の取扱作業の保安に関する講習の実施細目」であることから、少なくとも昭和62年の時点で現行の位置にあったことが確認できる。昭和63年法律第55号は第13条の23を改めておらず、第13条の24を置く位置の基準として参照しているだけである。
三 文理解釈
二つの公示と二つの届出
指定の事実と委任の事実は、別の行政庁が別に公示する。第13条の7第1項は総務大臣が指定をしたときの公示を定め、第13条の8第1項は委任都道府県知事が試験事務を行わせることとしたときの公示を定める。公示される事項も異なり、前者は名称、主たる事務所の所在地及び指定の日であるのに対し、後者はこれに加えて試験事務を取り扱う事務所の所在地と、行わせることとした日を含む。
変更の届出も二方向に向かう。名称又は主たる事務所の所在地を変更しようとするときは、第13条の7第2項により総務大臣に、第13条の8第2項により委任都道府県知事に、それぞれ変更しようとする日の二週間前までに届け出る。試験事務を取り扱う事務所の所在地については、関係委任都道府県知事に届け出る。総務大臣に対する届出の対象にこの事務所の所在地が含まれていないのは、国の指定が法人そのものに向けられており、個々の事務所の配置は委任した都道府県知事の関心事であるという整理によるものと読める。
役員と試験委員の扱いの差
役員の選任及び解任は総務大臣の認可を受けなければ効力を生じない(第13条の9第1項)。認可は効力要件である。これに対し試験委員は、指定試験機関が総務省令で定める要件を備える者のうちから選任し、選任し又は解任したときに遅滞なく総務大臣に届け出る(第13条の10第1項・第2項)。事前の認可は要らない。
もっとも、解任命令については両者が揃えられている。第13条の9第2項は役員について、この法律若しくは試験事務規程に違反する行為をしたとき、又は試験事務に関し著しく不適当な行為をしたときの解任命令を定め、第13条の10第3項がこれを試験委員の解任について準用する。選任の段階では認可と届出に差があるが、不適切な行為があった後の措置は同じ強度になる。試験委員は問題の作成及び採点を行う者であるから、その職務の性質上、事後の排除の経路を確保しておく必要があったのであろう。
役員が第13条の9第2項の解任命令によって解任され、その日から二年を経過しない者が役員のうちにあることは、第13条の6第2項第4号ロにより指定の欠格事由となる。解任命令は個人に対する排除にとどまらず、法人の指定の資格にも跳ね返る。
秘密保持とみなし公務員
第13条の11第1項の秘密保持義務は、役員、職員及び試験委員と、これらの職にあった者に及ぶ。退職後も義務が続く。違反した者は第41条の2により一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処される。
第2項は、試験事務に従事する役員及び職員を、刑法その他の罰則の適用について法令により公務に従事する職員とみなす。みなし公務員とされることで、収賄の罪などの適用対象となる。注意すべきは、第2項が「試験事務に従事する」役員及び職員に限られ、第1項の括弧書きによって試験委員が含まれることである。問題の作成に当たる試験委員も、職務に関して賄賂を受け取れば刑法の適用を受ける。
第41条の2の法定刑は、第13条第1項に違反して危険物保安監督者を定めないで事業を行った者に対する第42条第1項第6号の法定刑(六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金)より重い。試験の公正に対する侵害が、危険物施設の保安体制の不備より重く扱われていることになる。試験の公正が崩れれば、免状という資格の信頼そのものが失われ、個別の施設の違反とは違う広がりを持つという判断が働いていると見ることができる。
監督の二系統
監督の権限は総務大臣と委任都道府県知事の双方に与えられるが、その強さが違う。第13条の15第1項は総務大臣に「監督上必要な命令」を認め、第2項は委任都道府県知事に「必要な措置をとるべきことを指示」することを認める。命令と指示という語の違いは、法律上の義務を課すかどうかの違いである。第13条の18第2項第3号は、第13条の15第1項の命令に違反したことを指定の取消し又は停止命令の事由として掲げているが、第2項の指示に従わないことは事由に挙げられていない。
報告徴収と立入検査についても同じ構造がある。第13条の16第1項の総務大臣の権限は指定試験機関の事務所全体に及ぶのに対し、第2項の委任都道府県知事の権限は「当該危険物取扱者試験事務を取り扱う指定試験機関の事務所」に限られる。自らが委任した事務を取り扱う事務所に限って検査できるという整理である。
第4項は、立入検査の権限が犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないと定める。同じ文言は、危険物保安技術協会に対する立入検査(第16条の48第3項)、販売業者等に対する立入検査(第21条の14第3項)、日本消防検定協会に対する立入検査(第21条の43第3項)、登録検定機関に対する立入検査(第21条の55第3項)にも置かれている。法人の業務に対する行政調査について、行政調査と犯罪捜査を区別する立法技術が共通して用いられている。
事務が止まるときの備え
試験事務が止まる経路は複数ある。指定試験機関が自ら休止又は廃止する場合(第13条の17)、総務大臣が指定を取り消し又は停止を命ずる場合(第13条の18)、委任都道府県知事が試験事務を行わせないこととする場合(第13条の19)、天災その他の事由により実施が困難となる場合(第13条の20)である。
休止と廃止は許可制である。第13条の17第2項は、試験事務の適正かつ確実な実施が損なわれるおそれがないと認めるときでなければ許可をしてはならないと定める。一法人に事務が集中している以上、その法人の都合で事務が止まれば試験が実施されなくなる。許可の要件をこのように定めることで、事務の継続性が確保されている。第3項が関係委任都道府県知事の意見聴取を求めているのも同じ趣旨である。
第13条の19が委任都道府県知事に三月前の通知を求めているのは逆方向の配慮である。委任を解くのは都道府県知事の判断であるが、突然に解けば指定試験機関の側の体制が崩れる。
第13条の20は、試験事務が止まった場合に委任都道府県知事が「第十三条の五第三項の規定にかかわらず」自ら試験事務を行うものとすると定める。第13条の5第3項が都道府県知事は試験事務を行わないものとしているため、その効果を解除する明文が必要になった。「行うものとする」であって、行うことができるという規定ではない。試験の実施義務は第13条の3第3項によって都道府県知事に課されているのであり、受託者が止まったからといって試験が行われない状態は許されない。
審査請求の経路
第13条の22は、指定試験機関が行う試験事務に係る処分又はその不作為について総務大臣に審査請求をすることができるものとし、総務大臣を行政不服審査法の一定の規定の適用について指定試験機関の上級行政庁とみなす。みなしの及ぶ範囲は、執行停止(第25条第2項・第3項)、裁決による取消し等(第46条第1項・第2項、第47条)及び裁決の拘束力に関する規定(第49条第3項)に限定されている。
この規定が置かれていること自体に意味がある。指定試験機関は行政庁ではないが、その試験事務に係る行為のうち処分に当たるものについて、国への不服申立てが用意されている。委任したのは都道府県知事であるのに、不服申立ての相手は総務大臣である。指定をしたのが総務大臣であり、監督命令の権限も総務大臣にあることと整合する設計である。
保安講習の対象と期限
第13条の23の義務を負うのは「製造所、貯蔵所又は取扱所において危険物の取扱作業に従事する危険物取扱者」である。免状を持っているだけでは義務が生じない。取扱作業に従事していない者は受講義務の対象外である。
受講の時期は危険物の規制に関する規則第58条の14が定める。新たに従事することとなった者は、従事することとなった日から一年以内に受講する(同条第1項)。ただし、従事開始日の前二年以内に免状の交付を受けているか講習を受けている場合は、その交付又は受講の日以後における最初の四月一日から三年以内となる(同項ただし書)。継続して従事している者は、講習を受けた日以後における最初の四月一日から三年以内ごとに受講する(同条第2項)。起算点が受講日そのものではなく、受講日の後に来る最初の四月一日であることが、実務上の間違いが生じやすい点である。
講習を行うのは都道府県知事であり、総務大臣が指定する市町村長その他の機関を含む。実際には各都道府県の危険物安全協会が都道府県から委託を受けて運営している例が多い。講習の科目や時間などの細目は昭和62年消防庁告示第4号が定める。
第13条の23には罰則がない。第42条にも第44条にも掲げられていない。もっとも、東京消防庁が公表する危険物取扱者制度の説明は、講習を受けなかった場合が第13条の2第5項の免状の返納命令の対象となるとしている。受講義務の違反は「この法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反しているとき」に当たるという理解である。罰則のない義務の違反が、資格の剥奪という重い帰結に接続している。
解任命令の名宛人
第13条の24第1項の命令は、危険物保安統括管理者又は危険物保安監督者に対してではなく、製造所等の所有者、管理者又は占有者に対して発せられる。解任するのは選任した者であるから、命令の相手方も選任した者になる。要件は二つで、これらの者がこの法律若しくはこれに基づく命令の規定に違反したとき、又はこれらの者にその業務を行わせることが公共の安全の維持若しくは災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがあると認めるときである。後者は違反の有無を問わない評価的な要件である。
第2項は第11条の5第4項及び第5項を準用し、命令をしたときの公示と標識の設置を求める。この命令に違反した場合の罰則はないが、第12条の2第2項第4号により、市町村長等は期間を定めて使用の停止を命ずることができる。
四 用語解説
指定試験機関 第13条の5第1項の規定による指定を受けた者をいう(第13条の7第2項)。昭和59年12月20日に財団法人消防試験研究センターが指定され、同月28日の自治省告示第232号により公示された。同法人は平成25年4月1日に一般財団法人消防試験研究センターへ移行している。
委任都道府県知事 第13条の5第1項の規定により指定試験機関にその危険物取扱者試験事務を行わせることとした都道府県知事をいう(第13条の8第1項)。関係委任都道府県知事は、特定の事務所又は事項に関係する委任都道府県知事を指す。
危険物取扱者試験委員 指定試験機関が総務省令で定める要件を備える者のうちから選任し、試験の問題の作成及び採点を行わせる者をいう(第13条の10第1項)。第13条の4の都道府県の条例に基づく危険物取扱者試験委員とは別の制度である。
試験事務規程 指定試験機関が総務省令で定める試験事務の実施に関する事項について定め、総務大臣の認可を受ける規程をいう(第13条の12第1項)。これによらないで試験事務を行ったことは、指定の取消し又は停止命令の事由となる(第13条の18第2項第4号)。
保安講習 製造所等において危険物の取扱作業に従事する危険物取扱者が受けなければならない、危険物の取扱作業の保安に関する講習をいう(第13条の23)。実施細目は昭和62年消防庁告示第4号が定める。
解任命令 市町村長等が、製造所等の所有者、管理者又は占有者に対し、危険物保安統括管理者又は危険物保安監督者の解任を命ずる処分をいう(第13条の24第1項)。
五 改正の経緯と内容
| 改正法令 | 主な内容 |
|---|---|
| 昭和58年法律第83号(行政事務の簡素合理化及び整理に関する法律)第58条 | 都道府県知事が総務大臣(当時の自治大臣)の指定する者に危険物取扱者試験事務を行わせることができる制度(第13条の5から第13条の22まで)を創設。消防設備士試験についても同様の仕組み(第17条の9)を整備 |
| 昭和59年12月20日の指定・同月28日自治省告示第232号及び第233号 | 財団法人消防試験研究センターを危険物取扱者試験及び消防設備士試験の指定試験機関として指定し、名称、主たる事務所の所在地及び指定の日を公示。同センターは昭和60年4月から両試験の業務を開始 |
| 昭和62年消防庁告示第4号 | 「危険物の取扱作業の保安に関する講習の実施細目」を定める。第13条の23の保安講習が同時期に現行の位置にあったことが確認できる |
| 昭和63年法律第55号 | 第13条の23の次に第13条の24(危険物保安統括管理者又は危険物保安監督者の解任命令)を新設。あわせて第13条第2項の「危険物の保安の監督をする者」を「危険物保安監督者」に改正し、二つの職を一つの条で並べて扱えるようにする |
| 平成14年法律第30号 | 第13条の24第2項として第11条の5第4項及び第5項(公示と標識)を準用する規定を追加。あわせて第12条の2第2項第4号の引用を「第十三条の二十四第一項」に整理 |
| 平成25年4月1日 | 財団法人消防試験研究センターが一般財団法人消防試験研究センターへ移行 |
| 令和4年法律第68号 | 刑法等の一部を改正する法律の施行に伴い、第41条の2、第41条の3等の「懲役」を「拘禁刑」に改正 |
六 法的性格と解釈上の論点
委ねる行為の性質が立法量を決めること
第11条の3の協会への審査委託は一条で足り、第13条の5以下の指定試験機関は十八条を要した。この差は、委ねられる行為が処分の手前の判断材料にとどまるか、事務そのものであるかによる。審査を委託しても処分の責任は市町村長等に残るため、受託者の内部規律を法律で定める必要は小さい。試験事務を移せば、法人の行為がそのまま受験者の地位に影響する。だから法人の組織、会計、記録、監督、終了、争訟までを法律が書くことになる。
同じ観点から、指定試験機関の制度には危険物保安技術協会にはない仕組みが見られる。協会については第16条の36が正当な理由なく委託を拒めないとしているが、指定試験機関については受託を拒めないとする規定がない。代わりに第13条の17の休止・廃止の許可制と、第13条の20の委任都道府県知事による代行が置かれている。事務の継続を、受託義務ではなく、離脱の制限と代行の仕組みによって確保する設計である。
監督の権限と事実を把握する立場の分離
委任都道府県知事は第13条の5第3項により試験事務を行わないものとされる。試験の実施に立ち会わず、答案も採点結果も手元にない。したがって試験事務の不適正を自ら把握する立場にない。他方で、監督命令の権限は総務大臣にあり、委任都道府県知事には指示の権限しか与えられていない。事実を知りうる者と、強い権限を持つ者と、委任の当事者が、いずれも一致しない構造になっている。
この構造が現実に働いた例がある。平成24年10月13日に実施された乙種第四類の試験で、採点機が解答カードの一部を誤読し、マークのない欄をマークがあるものと判定したため、正解をマークしていた受験者が不合格とされた。同年10月の中央試験センター分で36名の追加合格者が判明し、調査により平成23年10月23日に実施された兵庫県支部の試験でも33名の追加合格者が出た。消防庁は平成24年12月18日、消防法第13条の15第1項に基づき財団法人消防試験研究センターに対する業務改善命令を発出した旨を公表している。
是正は総務大臣の監督権限によって行われた。委任都道府県知事の指示によるものではなく、受験者の訴訟によるものでもない。採点という内部の作業の誤りは、事務を行っている法人が自ら調査しなければ明らかにならず、その調査を命じるのは国である。制度の設計がそのまま是正の経路として現れている。
あわせて、指定が全国で一法人に対して行われていることの帰結もここに現れる。採点の仕組みが共通であるため、誤りは全国同時に生じ、過去の回にも及ぶ。委任都道府県知事ごとに別の法人が事務を行う制度であれば、影響は局所にとどまる。事務の集中は効率を生む一方で、誤りの影響範囲も集中させる。
事務の帰属と責任の所在
処分の権限そのものを民間法人に移した制度について、最高裁は建築基準法の指定確認検査機関に関する決定で、その確認に関する事務は地方公共団体の事務であり、確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体に帰属するとした。この整理を消防法にあてはめると、試験事務は本来都道府県知事が行うべき事務であるから、その事務は都道府県に帰属すると考える余地がある。
もっとも、消防法は不服申立ての相手方を総務大臣としている(第13条の22)。監督命令も総務大臣の権限である。指定をするのが国であり、監督するのも国であるという構造は、事務の帰属を都道府県に求める理解と緊張しうる。指定試験機関の試験事務に起因して損害が生じた場合に、誰を相手に賠償を求めるべきかという問題は、条文からは一義的に導けない。この点について判断を示した裁判例は見当たらない。
罰則の配分
この一群の規定に付された罰則は、いずれも指定試験機関の側に向けられている。秘密保持義務の違反は第41条の2により一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金、試験事務の停止命令への違反は第41条の3により同じ法定刑で、違反行為をした役員又は職員が処罰される。帳簿の不備、報告の拒否・虚偽、立入検査の拒否、無許可の廃止は第43条の2により三十万円以下の罰金である。
法人そのものに対する罰金刑は定められていない。第45条の両罰規定にこれらの条は掲げられていない。制裁は、個人に対する刑罰と、法人に対する指定の取消し又は停止命令(第13条の18)に分かれている。法人に罰金を科すよりも、事務を行う資格を失わせることのほうが実効的であるという判断であろう。ただし指定を取り消せば試験が実施できなくなるため、第13条の20が委任都道府県知事による代行を用意している。制裁の発動が制度の機能停止を招かないよう、受け皿が同時に置かれている。
罰則のない受講義務と資格の剥奪
第13条の23の受講義務に罰則がないことと、未受講が免状の返納命令の対象となり得ることの組合せは、独特の帰結を生む。罰則による制裁がない代わりに、資格そのものを失う可能性がある。返納命令は行政手続法第13条第1項第1号ロの資格をはく奪する不利益処分に当たるから聴聞を要し、命令に違反すれば第44条第9号の罰則が働く。
実務上の難しさは、受講の有無を誰が把握するかにある。返納命令を発することができるのは免状を交付した都道府県知事に限られる(第13条の2第5項)。受講の記録は講習を実施した都道府県又はその委託先にあり、就業先の所在地と免状の交付地が異なることは珍しくない。違反を認めた都道府県知事が交付した都道府県知事に通知する経路(同条第6項)が用意されているのは、この分散に対応するためである。もっとも、未受講という事実は立入検査の場で現認されるものであり、把握の端緒は製造所等の所在地を管轄する消防機関にある。情報が消防機関、都道府県、交付地の都道府県という三つの層を経て動くことになる。
資格に対する処分と職に対する処分の分離
第13条の24の解任命令は、職から外すことを命ずるにとどまる。解任された者の免状は失われない。他の製造所等で危険物取扱者として作業に従事することも、要件を満たせば別の施設の保安監督者になることも、条文上は妨げられない。資格に対する処分は第13条の2第5項の返納命令であり、職に対する処分は第13条の24の解任命令である。二つは別の行政庁が別の要件で行う。免状を交付した都道府県知事と、製造所等について権限を持つ市町村長等である。
同一の行為が両方の要件を満たすことはあり得る。保安監督者が貯蔵の技術上の基準に違反する取扱いを続けていれば、第13条の24第1項前段の法令違反に当たり、同時に第13条の2第5項の返納命令の要件にも当たる。二つの処分が並行して検討される場面では、事実認定の資料が共有されることになるが、手続は別に進む。解任命令は所有者等を名宛人とする処分であり、返納命令は本人を名宛人とする処分であるから、聴聞又は弁明の機会を与えられる相手も異なる。
七 裁判例
この一群の規定について、公表された裁判例は見当たらない。制度の作りから、争訟が成立しにくい事情がいくつも重なっている。
第一に、試験の合否の判定は司法審査の対象とならない。最高裁判所第三小法廷昭和41年2月8日判決(昭和39年(行ツ)第61号、民集第20巻2号196頁)が、国家試験における合格、不合格の判定は学問又は技術上の知識、能力、意見等の優劣、当否の判断を内容とする行為であるから、その判断の当否を審査し具体的に法令を適用して争いを解決調整できるものとはいえないとした。危険物取扱者試験の合否を裁判所で争うことはできない。第13条の22が総務大臣への審査請求の経路を用意しているのは、司法審査の及ばない領域に行政内部の是正手段を置くためである。
第二に、指定に関する処分の相手方が一者に限られる。指定の取消し、停止命令、休止・廃止の許可、役員の解任命令はいずれも指定試験機関に対する処分であるが、申請者であり被処分者となり得る法人は一般財団法人消防試験研究センターのみである。処分の件数自体が生じにくく、生じたとしても監督官庁との協議によって処理される。
第三に、保安講習の受講義務には罰則がなく、解任命令にも罰則がない。義務の違反が刑事手続に乗らないため、刑事判例として現れない。解任命令は取消訴訟の対象となる処分であるが、名宛人は所有者等であり、解任されることになる本人は名宛人ではない。本人が原告適格を有するかという問題が生じ得るものの、この点を判断した裁判例は見当たらない。
参考になる判断としては、処分の権限そのものを民間法人が行う制度について、その事務が地方公共団体の事務として当該地方公共団体に帰属するとした最高裁判所第二小法廷平成17年6月24日決定(平成16年(行フ)第7号)がある。建築基準法の指定確認検査機関に関するものであり、本シリーズでは第11条の3の解説で、審査のみを委託する消防法の方式との対比として取り上げた。試験事務そのものを移す第13条の5以下については、この決定の整理と、不服申立てを国に向ける第13条の22の構造との関係が、なお検討を要する論点として残っている。
実際に生じた不適正が是正された例は、裁判ではなく監督の経路によるものであった。平成24年の採点機の誤読の事案では、追加合格という形で結果が是正され、消防法第13条の15第1項に基づく業務改善命令が発出されている。司法審査が及ばない領域について、行政内部の監督がどこまで機能するかが、この制度の実効性を決めることになる。
八 実務上の留意点
保安講習の受講期限の管理
受講期限の計算は、起算点の取り方で誤りやすい。継続して従事している者の期限は、前回の受講日から三年ではなく、受講日の後に来る最初の四月一日から三年である。令和2年10月1日に受講した者であれば、起算日は令和3年4月1日となり、期限は令和6年3月31日である。受講月によって実質的な猶予期間が最大で一年近く変わる。
新たに従事することとなった者は、従事開始から一年以内が原則である。ただし従事開始日の前二年以内に免状の交付を受けているか講習を受けている場合は、その日の後に来る最初の四月一日から三年以内となる。新規に免状を取得した者を配置する場合、交付の時期によって最初の受講期限が大きく動く。採用時や配置転換時に、免状の交付年月日と過去の受講歴を確認して期限を算定し、名簿に記録しておくことが必要になる。
危険物の取扱作業に従事していない期間は義務の対象外である。従事を離れた者を再び配置する場合、前二年以内に受講していなければ従事開始から一年以内という原則に戻る。配置の履歴を残しておかないと、どちらの期限が適用されるか判断できなくなる。
未受講が見つかった場合
受講義務の違反に罰則はないが、免状の返納命令の対象となり得る。立入検査で未受講が指摘された場合、速やかに直近の講習を受講することが第一の対応である。返納命令は免状を交付した都道府県知事の権限であり、現認した消防機関から都道府県を経て交付地の都道府県知事に情報が渡る経路をたどる。是正の事実も同じ経路で伝わるため、受講した証明を現認した消防機関に提出しておくことが実務上の備えになる。
試験の申請と不服申立て
受験の申請、受験票の交付、合否の通知は指定試験機関が行う。試験事務に係る処分又はその不作為に不服がある場合、審査請求の相手方は総務大臣である(第13条の22)。委任した都道府県知事や、免状を交付する都道府県知事ではない。これに対し、免状の交付や返納命令は都道府県知事の処分であるから、不服申立ての経路が別になる。試験に関する不満と免状に関する不満で相手方が変わる点は、窓口を誤りやすいところである。
もっとも、合否の判定そのものの当否は審査請求でも司法でも覆し難い。採点の誤りを疑う場合に実効性があるのは、個別の不服申立てよりも、同種の事案が複数生じているという情報が監督官庁に届くことである。平成24年の事案も、個別の争訟ではなく機関の調査によって過去の回にまで是正が及んだ。
解任命令を受けた場合
解任命令は所有者、管理者又は占有者に対する処分であるから、意見陳述の手続の相手方は事業者である。解任される本人には手続上の地位が与えられていない。事業者の側は、聴聞又は弁明の機会において、違反の事実関係と、業務を行わせることが支障を及ぼすおそれの評価について主張することになる。
解任を命じられた場合、後任の保安監督者を選任しなければ第13条第1項の違反となる。解任と後任の選任は連続して行う必要があり、選任・解任の届出(第13条第2項)も遅滞なく行う。解任命令に違反すれば第12条の2第2項第4号により使用停止命令の対象となるため、命令の履行を先に済ませたうえで、不服があればその後に争う判断になる。
解任された本人の免状は失われない。ただし同一の違反が第13条の2第5項の返納命令の要件にも当たり得るため、交付地の都道府県知事による別の手続が並行することがある。事業者としては、解任命令への対応と、本人に対する返納命令の可能性を切り離して考える必要がある。
指定試験機関の体制に依存する実務
試験の日程、会場、受験申請の方法はいずれも指定試験機関が定める。委任都道府県知事は試験事務を行わないため、日程の調整を都道府県に求めることはできない。計画的に資格者を確保する必要がある事業所では、各都道府県支部が公表する年度の試験日程を早い段階で確認し、受験させる従業者の配置と重ならないよう調整することになる。
試験事務が休止又は停止された場合には、委任都道府県知事が自ら試験事務を行うものとされる(第13条の20第1項)。この場合の実施方法は通常と異なる可能性があるため、公示(同条第3項)に注意を払うことになる。前回までに見た第13条の3第3項の「毎年一回以上」という実施義務は都道府県知事に課されたままであり、受託者の事情によって試験が行われない年が生じることは制度上想定されていない。
参考文献・資料
- e-Gov法令検索「消防法」(昭和23年法律第186号)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC1000000186
- e-Gov法令検索「危険物の規制に関する政令」(昭和34年政令第306号)https://laws.e-gov.go.jp/law/334CO0000000306
- e-Gov法令検索「行政手続法」(平成5年法律第88号)https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000088
- 国立国会図書館日本法令索引「消防法」(改正法令の沿革)https://hourei.ndl.go.jp/simple/detail?lawId=0000040301
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- 衆議院制定法律「法律第八十三号(昭五八・一二・一〇)」(行政事務の簡素合理化及び整理に関する法律)https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/10019831210083.htm
- 消防庁告示「消防法第十三条の五第一項の規定に基づく指定試験機関」(昭和59年12月28日自治省告示第232号)https://www.fdma.go.jp/laws/kokuji/post89/
- 消防庁告示「消防法第十七条の九第一項の規定に基づく指定試験機関」(昭和59年12月28日自治省告示第233号)https://www.fdma.go.jp/laws/kokuji/post90/
- 消防庁「財団法人消防試験研究センターへの業務改善命令」(平成24年12月18日報道資料)https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/h24/2412/241218_1houdou/02_houdoushiryou.pdf
- 消防庁検討会資料「危険物施設の保安講習に係る検討の進め方について」(保安講習の制度概要、受講期間、受講者数)https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/post-43/01/shiryou1-3.pdf
- 総務省「危険物取扱者試験事務」(所管事務・事業の概要)https://www.soumu.go.jp/menu_sosiki/syokan/gyoumu_jigyou/pdf/kikenbutu.pdf
- 一般財団法人消防試験研究センター「沿革」https://www.shoubo-shiken.or.jp/org/history.html
- 東京消防庁「危険物取扱者制度概要」(保安講習と免状の返納命令)https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/content/000019603.pdf
- 一般社団法人全国危険物安全協会「保安講習の受講期限について」https://www.zenkikyo.or.jp/znk-w/wp-content/uploads/2023/10/faq_kousyuukigen.pdf
- 京都市消防局「危険物Q&A集(危険物取扱者保安講習)」https://www.city.kyoto.lg.jp/shobo/cmsfiles/contents/0000215/215688/p-gaiyou-b-10.pdf
- 最高裁判所第三小法廷昭和41年2月8日判決(昭和39年(行ツ)第61号)判例情報 https://www.courts.go.jp/hanrei/53947/detail2/index.html
- 最高裁判所第二小法廷平成17年6月24日決定(平成16年(行フ)第7号)RETIO判例検索システム掲載 https://www.retio.or.jp/wp-content/uploads/2024/12/889.pdf
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