条文原文

地方公務員法第36条(政治的行為の制限)

職員は、政党その他の政治的団体の結成に関与し、若しくはこれらの団体の役員となつてはならず、又はこれらの団体の構成員となるように、若しくはならないように勧誘運動をしてはならない。

2 職員は、特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、次に掲げる政治的行為をしてはならない。ただし、当該職員の属する地方公共団体の区域(当該職員が都道府県の支庁若しくは地方事務所又は地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市の区若しくは総合区に勤務する者であるときは、当該支庁若しくは地方事務所又は区若しくは総合区の所管区域)外において、第一号から第三号まで及び第五号に掲げる政治的行為をすることができる。

一 公の選挙又は投票において投票をするように、又はしないように勧誘運動をすること。

二 署名運動を企画し、又は主宰する等これに積極的に関与すること。

三 寄附金その他の金品の募集に関与すること。

四 文書又は図画を地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎(特定地方独立行政法人にあつては、事務所。以下この号において同じ。)、施設等に掲示し、又は掲示させ、その他地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること。

五 前各号に定めるものを除く外、条例で定める政治的行為

3 何人も前二項に規定する政治的行為を行うよう職員に求め、職員をそそのかし、若しくはあおつてはならず、又は職員が前二項に規定する政治的行為をなし、若しくはなさないことに対する代償若しくは報復として、任用、職務、給与その他職員の地位に関してなんらかの利益若しくは不利益を与え、与えようと企て、若しくは約束してはならない。

4 職員は、前項に規定する違法な行為に応じなかつたことの故をもつて不利益な取扱を受けることはない。

5 本条の規定は、職員の政治的中立性を保障することにより、地方公共団体の行政及び特定地方独立行政法人の業務の公正な運営を確保するとともに職員の利益を保護することを目的とするものであるという趣旨において解釈され、及び運用されなければならない。

趣旨・立法背景

第36条は、地方公務員の政治的行為を制限する規定である。第30条は服務の根本基準として職員が全体の奉仕者であることを定めるが、第36条はこの根本基準を政治活動の場面において具体化したものという位置づけになる。

規制の目的は3点ある。第1に職員の政治的中立性の保障、第2に地方公共団体の行政及び特定地方独立行政法人の業務の公正な運営の確保、第3に職員自身の利益の保護である。この3点は第5項に明文化されている。職員が政党や政治団体の構成員資格をめぐって勧誘や圧力を受けない地位にあることは、職員自身の身分保障につながるという理解が第3の目的の背景にある。

第36条の規制内容は、国家公務員法第102条及び人事院規則14-7と比較すると相当に緩やかである。差異は4点に整理できる。第1に、人事院規則14-7第6項は17号にわたる行為類型を列挙するが、第36条第2項は4号の行為類型を自ら規定し、第5号で条例委任の形をとる。第2に、国家公務員法には罰則規定があるが、第36条には罰則規定がなく、違反に対する制裁は懲戒処分にとどまる。第3に、第36条の禁止は職員が所属する地方公共団体の区域内に限られ、区域外で行う政治的行為は原則として自由である(第4号の庁舎・施設利用等を除く)。第4に、第36条第2項が定める政治的目的は、特定の政党等の支持・反対、特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関の支持・反対、公の選挙又は投票における特定の人又は事件の支持・反対の2類型に限定されており、人事院規則14-7第5項のように政治的目的を広範に定義していない。

地方公務員法の制定過程において、政治的行為違反に罰則を設けず懲戒処分にとどめたのは、国家公務員と異なり地方公務員の職務は地域の住民に密着しており、刑事罰という強い制裁まで設ける必要はないという判断があったためである。大阪市が条例で政治的行為違反に刑事罰を科す規定を設けようとした際、政府は閣議決定により、地方公務員法に違反し許容されないとの見解を示し、総務省も同様の見解を大阪市に伝えた。地方公務員法が罰則を設けなかったことには、地方公務員の政治活動違反については懲戒処分をもって足りるという立法者意思が含まれており、これと異なる内容の条例を制定することは、地方自治法上条例が法律の範囲内で定められなければならないという制約に反するためである。

第5項は、本条全体の解釈運用の指針を定める規定であり、政治的中立性の保障、行政の公正な運営の確保、職員の利益の保護という3つの目的に沿って第36条を限定的に解釈すべきことを明らかにしている。これは後述する堀越事件等の最高裁判決が示した「公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる行為」に限って規制が及ぶという解釈枠組みと整合的な規定である。

用語解説

政治的団体 政党に限らず、政治的な目的を有する団体を広く含む。労働組合が選挙運動の一環として組織的に行動する場合も、その活動が政治的団体の活動としての性格を帯びることがある。

政治的目的 第2項が定める政治的目的は、①特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的、②公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的の2類型である。政治的目的をもってなされる行為に限り、第2項各号の禁止が及ぶ。政治的目的の有無は個々の事案の内容により判断される。

内閣 現在及び将来における内閣を指し、過去の内閣は含まれない。

地方公共団体の執行機関 地方公共団体の機関で、その所掌事務を独立して執行する権限を有するものをいう。長、選挙管理委員会、監査委員、教育委員会等が該当する。

特定の政党その他の政治的団体 現実に存在していることが必要である。「特定」とは、対象の固有の呼称が明示されている場合に限らず、客観的にみて何人も容易にその対象を判断できる場合も含む。

勧誘運動 第2項第1号の「投票をするように、又はしないように勧誘運動をすること」は、特定の候補者や議案について他人に投票を働きかける行為をいう。

そそのかし・あおる(第3項) 「そそのかし」とは、政治的行為を行う決意を生じさせることをいい、「あおる」とは、既に生じている決意を強化させることをいう。第3項は職員に限らず何人にも適用される規定であり、相手方が職員であることを要する。

特定地方独立行政法人 地方独立行政法人のうち、その業務の停滞が住民の生活、地域社会若しくは地域経済の安定に直接かつ重大な影響を与え、又は与えるおそれがあるものとして地方独立行政法人法に定められたものをいう。第2項第4号及び第5項は、特定地方独立行政法人の庁舎・施設及び業務についても地方公共団体と並べて規定しており、政治的中立性の確保が地方公共団体の行政運営に限らず特定地方独立行政法人の業務運営にも及ぶことを示している。

国家公務員法・人事院規則14-7との比較

国家公務員法第102条第1項は次のように定める。

「職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。」

同項の委任を受けた人事院規則14-7第6項は、政治的目的のための地位利用、政党結成への関与、政党の機関紙の発行・配布、文書図画の掲示等、17号にわたる行為類型を定める。違反に対しては、国家公務員法上の罰則規定(現行では同法第111条の2)により刑事罰の対象となる。

地方公務員法と国家公務員法を比較した場合の主要な相違点は、趣旨・立法背景の項で述べた4点に整理される。要約すると、地方公務員は禁止行為の範囲が条文上限定され、区域外での適用も限定され、制裁も懲戒処分にとどまる点で、国家公務員よりも規制が緩やかな制度設計になっている。

ただし、後述する堀越事件・世田谷事件の最高裁判決が示した「公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる行為」という限定解釈の枠組みは、国家公務員法上の刑罰規定に関する解釈にとどまるものではなく、地方公務員に対する懲戒処分の場面にも基本的に妥当するという見方が学説上示されている。地方公務員法第36条第2項が定める政治的行為の類型は4つに限定されており、人事院規則14-7のように多数の行為類型を列挙していないため、解釈上の射程が問題となる場面は国家公務員の場合よりも限られるが、第5項の解釈運用規定は、この限定解釈の考え方を地方公務員法の条文上にも反映させたものと位置づけられる。

なお、地方公務員のうち教育公務員については教育公務員特例法第18条が、地方公営企業職員及び単純労務者については地方公営企業法及び地方公営企業等の労働関係に関する法律が、それぞれ別個の規律を置いており、これらの職員には国家公務員に準じた規制が及ぶ場合がある点に留意が必要である。

国家公務員倫理法及び国家公務員倫理規程は、職員と利害関係者との贈与・接待等を規律する法令であり、政治的行為の制限に対応する規定を置いていない。したがって本条の解説において国家公務員倫理法を参照する必要はない。

判例・裁判例

猿払事件(最高裁大法廷判決昭和49年11月6日)

北海道猿払村の郵便局に勤務していた郵政事務官が、労働組合協議会の決定に従い、特定政党の候補者の選挙用ポスターを掲示・配布したことが、国家公務員法第110条第1項第19号、第102条第1項、人事院規則14-7第6項第13号に違反するとして起訴された事件である。第一審・第二審は無罪としたが、最高裁大法廷は破棄し、有罪・合憲の判断を示した。

最高裁は、公務員の政治的中立性を損なうおそれのある政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむを得ない限度にとどまる限り憲法の許容するところであるとした上で、禁止の目的、目的と禁止される行為との関連性、禁止により得られる利益と失われる利益との均衡という3点から審査する枠組みを採用した。この基準は学説上「合理的関連性の基準」と呼ばれる。最高裁は、禁止が職種・職務権限・勤務時間の内外・国の施設利用の有無等を区別せず、行政の中立的運営を直接具体的に損なう行為のみに限定されていないとしても、禁止目的との合理的関連性は失われないとした。

堀越事件(最高裁第二小法廷判決平成24年12月7日)

旧社会保険庁の年金審査官であった厚生労働事務官が、衆議院議員総選挙に際し、勤務時間外に特定政党の機関紙号外を配布したことが、国家公務員法第110条第1項第19号、第102条第1項、人事院規則14-7第6項第7号・第13号に違反するとして起訴された事件である。

最高裁は、国家公務員法第102条第1項の趣旨を、公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し、これに対する国民の信頼を維持することにあると解した上で、同項にいう「政治的行為」とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められる行為を指すという解釈を示した。その判断にあたっては、当該公務員の地位、職務の内容や権限等、当該行為の性質、態様、目的、内容等の諸般の事情を総合して判断するとした。

本件配布行為については、被告人が管理職的地位になく、職務の内容や権限に裁量の余地がなく、職務と全く無関係に、公務員により組織される団体の活動としての性格もなく行われたものであり、公務員による行為と認識し得る態様で行われたものでもないことから、政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるとはいえず、罰則規定の構成要件に該当しないと判断し、無罪とした原判決の結論を維持した。

最高裁は同日、厚生労働省の課長補佐であった職員が政党機関紙を配布した世田谷事件についても判断を示し、当該職員が指揮命令や指導監督等を通じて他の多数の職員の職務の遂行に影響を及ぼすことのできる地位にあったことから、政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるとして有罪とした。両事件は同一の判断基準を用いながら、公務員の地位と行為の態様の相違により結論が分かれた。

最高裁は、堀越事件・世田谷事件の判断が猿払事件大法廷判決の趣旨に適合するとし、判例変更ではないとの立場をとったが、学説上は、行為の個別事情を総合判断する点において、猿払事件の合理的関連性の基準から実質的に変化した判断枠組みが採られたとの評価が有力である。

神戸税関事件(最高裁第三小法廷判決昭和52年12月20日)

神戸税関職員であり労働組合役員であった職員らが、勤務時間中に抗議活動等を行ったことを理由に懲戒処分を受け、当該処分の取消しを求めた事件である。

最高裁は、公務員に懲戒事由がある場合、懲戒処分を行うかどうか、いかなる処分を選ぶかは懲戒権者の裁量に任されているとした上で、懲戒権者がした処分は、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、裁量権の範囲内にあるものとして違法とならないという審査基準を示した。裁判所が処分の適否を審査する際には、懲戒権者と同一の立場に立っていかなる処分を選択すべきであったかを判断し、その結果と実際の処分とを比較して軽重を論じるのではなく、裁量権の行使が社会観念上著しく妥当性を欠くと認められる場合に限って違法と判断すべきものとされた。

この基準は懲戒処分の裁量統制における基本的な判断枠組みであり、政治的行為を理由とする懲戒処分の適否が争われる場面でも、裁量権の逸脱・濫用の有無という観点からの審査が及ぶことになる。

補論 行政法上の重要論点

第36条に関連する懲戒処分の取消訴訟においては、懲戒処分の処分性、裁量統制の手法、判例の射程という3つの行政法上の論点が問題となる。

第1に、懲戒処分の処分性については、戒告、減給、停職、免職のいずれも職員の法律上の地位に直接影響を及ぼす行政庁の行為であり、抗告訴訟の対象となる処分に当たることに異論はない。

第2に、裁量統制の手法については、神戸税関事件判決が示した「社会観念上著しく妥当を欠き裁量権の濫用と認められる場合」という審査基準が確立している。この基準のもとでは、裁判所は懲戒権者の立場に代わって適正な処分を再決定するのではなく、裁量権の逸脱・濫用の有無のみを審査する。学説上は、この審査方法を判断過程審査(考慮すべき事項を考慮したか、考慮すべきでない事項を考慮していないかを審査する方法)によって実質化すべきであるという議論があり、裁量権濫用の判断に至る審査の密度については見解の対立がある。

第3に、判例の射程については、堀越事件判決が示した「政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる行為」という限定解釈が、国家公務員法上の刑罰規定の解釈にとどまらず、地方公務員法上の懲戒処分の場面にどこまで及ぶかが問題となる。堀越事件判決自体は国家公務員法第102条第1項という刑罰法規の構成要件解釈であり、罪刑法定主義の観点から限定解釈を要するという考慮が働いている。地方公務員法第36条には罰則規定がなく、違反の効果は懲戒処分にとどまるため、罪刑法定主義の直接の制約は生じない。しかし、懲戒処分も職員の政治活動の自由に対する事実上の抑止効果を持つ点では刑罰と共通する側面があり、学説上は、堀越事件・世田谷事件の判断枠組みを地方公務員の懲戒処分の場面にも基本的に妥当させるべきであるという見解が示されている。他方で、懲戒処分は刑罰と目的・性質・効果を異にするものであり、憲法第21条第1項が直接適用される場面ではないとして、懲戒処分の違法性を比例原則違反や差別禁止原則違反の有無に限定して判断すべきであるとする見解も存在する。この対立は、表現の自由という重要な人権の制約場面における司法審査の在り方をめぐる根本的な問題であり、第36条に基づく懲戒処分の適否を検討する際には常に意識しておく必要がある。

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