第49条から第49条の3までが審査請求の入口を定めるのに対し、第50条以下は入口を通った事案がどのように処理され、どこで裁判所につながるかを定める。第50条が審査の中身と裁決、第51条が手続の規則委任、第51条の2が訴訟との接続を担う。三か条は一続きの流れを構成するため、まとめて扱う。


第50条(審査及び審査の結果執るべき措置)

条文原文

第五十条 第四十九条の二第一項に規定する審査請求を受理したときは、人事委員会又は公平委員会は、直ちにその事案を審査しなければならない。この場合において、処分を受けた職員から請求があつたときは、口頭審理を行わなければならない。口頭審理は、その職員から請求があつたときは、公開して行わなければならない。

2 人事委員会又は公平委員会は、必要があると認めるときは、当該審査請求に対する裁決を除き、審査に関する事務の一部を委員又は事務局長に委任することができる。

3 人事委員会又は公平委員会は、第一項に規定する審査の結果に基いて、その処分を承認し、修正し、又は取り消し、及び必要がある場合においては、任命権者にその職員の受けるべきであつた給与その他の給付を回復するため必要で且つ適切な措置をさせる等その職員がその処分によつて受けた不当な取扱を是正するための指示をしなければならない。

趣旨・立法背景

地方公務員は労働基本権が大きく制約されている。争議権はなく、団体協約締結権もない。その代償として、任命権者から独立した第三者機関による準司法的な救済手続が用意された。第50条はその中核である。

「直ちに」という文言には意味がある。不利益処分を受けた職員は、身分や給与が不安定なまま置かれる。審査が長引けば救済制度そのものが機能しない。受理後の速やかな着手を法が命じているのは、この不安定状態を短くするためである。

口頭審理の位置づけも押さえておきたい。審理方式は書面審理と口頭審理があり、どちらによるかは本来審査機関の裁量に属する。ところが第50条第1項後段は、処分を受けた職員から請求があれば口頭審理を義務づけた。さらに公開についても職員の請求に係らしめた。行政上の不服申立手続において、当事者の請求だけで対審的手続と公開が確保される仕組みは珍しい。処分の当否を任命権者と職員が対等に争える場を保障する趣旨である。裏を返せば、職員から請求がない限り書面審理で足りる。

第2項は合議制機関の実務負担に配慮した規定である。人事委員会も公平委員会も3人の委員による合議体であり(第9条の2第1項)、証拠調べや期日進行のすべてを3人で行うのは現実的でない。そこで審査事務の一部を委員1人または事務局長に委ねる道を開いた。ただし裁決は委任の対象から明文で除かれている。処分を承認するか修正するか取り消すかという結論は、合議体としての判断でなければならないからである。

第3項は審査の出口を定める。裁決の類型は承認、修正、取消しの三つに限られる。加えて、必要がある場合には任命権者に対する是正指示が義務づけられる。給与の回復はその代表例として条文に例示されているにすぎず、指示の内容はこれに限られない。

用語解説

「審査」 審査請求の対象となった処分について、その適法性と妥当性を調べる作用をいう。裁判所の審理が違法性の有無に限られるのに対し、人事委員会・公平委員会は不当性、すなわち違法とまではいえないが妥当を欠く場合まで判断できる。この審査範囲の広さが、行政上の救済手続を経由させる実質的な理由になっている。

「口頭審理」 審査請求人本人または代理人と処分者側が同席し、主張と立証を口頭で行う方式をいう。証人尋問が行われることもあり、裁判所の口頭弁論に近い運用がとられている。

「書面審理」 当事者が提出した書面と証拠資料のみによって審理する方式をいう。職員からの請求がない場合の原則形態である。

「裁決」 審査請求に対する審査機関の最終判断をいう。第50条第3項が定める承認、修正、取消しがこれに当たる。裁決は審査請求人と処分者を拘束し、任命権者はこれに従う義務を負う。

「承認・修正・取消し」 承認は原処分をそのまま維持する判断、修正は処分の種類または量定を軽い方向に改める判断、取消しは原処分の効力を失わせる判断をいう。取消裁決があった場合、任命権者が改めて何らかの処分をしなくても、原処分は当初からなかったことになる。

「事務局長」 第12条により、人事委員会には事務局が置かれ、事務局長その他の事務職員が置かれる。公平委員会には事務職員が置かれるにとどまり、事務局が置かれるのは競争試験を行う公平委員会に限られる。したがって、通常の公平委員会では第2項の委任先は委員のみとなる。この点は条文だけを読んでいると見落としやすい。

「是正指示」 任命権者に対し、処分によって生じた不利益状態の回復を命じる行為をいう。遡及的な給与支給、勤務期間の通算、人事記録の訂正などが実務上の内容となる。

判例・裁判例

修正裁決の法的性質

最も基本となるのが、最高裁昭和62年4月21日第三小法廷判決(民集41巻3号309頁)である。公務員の懲戒処分について審査機関が行った修正裁決は、原処分を取り消して新たな処分をするものではなく、原処分の法律効果の内容を一定の限度のものに変更するにとどまる、と判示した。この理解から二つの帰結が導かれる。第一に、修正裁決がされても、変更後の懲戒処分の取消しを求める訴えの利益は消滅しない。第二に、取消訴訟の対象となるのは修正後の原処分であって、裁決そのものではない。

実務への影響は大きい。免職処分が停職に修正された職員が、なお処分を争いたい場合、訴えるべき対象は「修正された停職処分」であり、被告は任命権者の属する地方公共団体となる。裁決の取消しを求める訴えを提起すると、対象の誤りとして退けられる危険がある。

審査における実体判断の枠組み

懲戒処分の当否を判断する枠組みは、最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決(民集31巻7号1101頁、神戸税関事件)および最高裁平成24年1月16日第一小法廷判決(裁判集民事239号253頁)が示している。懲戒権者は処分をするか否か、いかなる処分を選ぶかについて裁量権を有し、その判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、またはこれを濫用したと認められる場合に違法となる。

この枠組みの適用について、直近で重要な判断が示された。最高裁令和7年9月2日第三小法廷判決(糸島市・市消防本部消防長事件 令和6年(行ヒ)第214号、同第241号)である。いずれも同一の消防本部に勤務していた消防職員に対する処分が争われた事案で、一方は停職6月、他方は懲戒免職であった。

免職事案(第241号)の事実関係は次のとおりである。小隊長の地位にあった職員が、平成15年頃から平成28年11月までの間、少なくとも10人の部下に対し、鉄棒に掛けたロープで身体を縛って懸垂させ、力尽きた後も数分間宙づりにしてさらに懸垂を指示する、熱中症の症状を呈するまで訓練を繰り返させる、倒れ込んだことへのペナルティと称してさらに過酷なトレーニングを課すといった行為に及んだ。日常的な暴言や、部下の家族を侮辱する発言も認定されている。第一審の福岡地方裁判所令和4年7月29日判決および控訴審の福岡高等裁判所令和6年1月24日判決は、逸脱の程度が特段大きいとまではいい難く、指導目的も認められるとして、免職は重きに失し違法であると判断した。

最高裁はこれを破棄した。指示や指導としての範ちゅうを大きく逸脱するもので、部下に傷害を負わせたか否かにかかわらず許容の余地はないとし、行為が部下への悪感情の赴くままに行われた部分が大きいことから酌むべき事情も認められないとした。さらに、消防組織においては職員間で緊密な意思疎通を図ることが職務遂行上重要であり、10人もの部下に十数年にわたり不適切な指導と発言を執拗に繰り返した行為が職場環境を甚だしく害し、組織の秩序と規律を著しく乱した点を看過できないと述べ、免職処分が社会観念上著しく妥当を欠くとはいえないと結論づけた。停職6月の事案(第214号)も同日に破棄され、いずれも請求棄却で確定している。

林道晴裁判官の補足意見は、原審が個々の行為を単体で評価して免職が重きに失すると判断した点を捉え、行為全体がもたらす悪影響を評価すべきであったのにこれを怠ったと指摘している。

同種の判断として、最高裁令和4年9月13日第三小法廷判決(長門市・市消防長事件、労働判例1277号5頁)がある。こちらは分限免職の事案であるが、職員間の意思疎通が住民の生命身体の安全確保に直結する消防組織の特性を重視した点で共通する。

人事委員会・公平委員会の審査は違法性にとどまらず不当性にも及ぶ。したがって裁判所の判断枠組みをそのまま用いる必要はない。もっとも、裁決が訴訟でどう評価されるかを見通すうえで、これらの判決が示す考慮要素の取り方は無視できない。個別行為の悪質性だけでなく、非違行為全体が組織と職場環境に及ぼす影響を評価する必要があるという点は、審査機関の判断にも処分者側の主張立証にも直結する。

改正の経緯

第50条の骨格は昭和25年の制定当初から変わっていない。文言面での大きな転換は、行政不服審査法の全部改正に伴う平成26年法律第69号(行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律)による改正であり、平成28年4月1日から施行された。

改正前の第1項は「不服申立てを受理したときは」と規定し、審査請求と異議申立ての二本立てを前提としていた。改正により異議申立てが廃止され、審査請求に一元化された。第2項も、改正前は「当該不服申立に対する裁決又は決定を除き」とし、委任先を「人事委員会の委員若しくは事務局長又は公平委員会の委員」と書き分けていたものが、現行では「当該審査請求に対する裁決を除き」「委員又は事務局長」に整理されている。

なお、第49条の2第3項により、この審査請求には行政不服審査法第2章の規定が適用されない。審理員による審理も、行政不服審査会への諮問も行われない。手続の準則は第50条、第51条、および各委員会の規則が担う。

令和8年4月1日現在、第50条の条文自体に変更はない。ただし、会計年度任用職員制度の導入や定年引上げの段階実施により、審査請求を行い得る職員の範囲や処分の類型には変化が生じている。

実務上の留意点

・口頭審理の請求は職員の権利である。審査機関が書面審理で足りると考えても、職員が請求した以上は口頭審理を行わなければならない。公開についても同様である。この請求権の存在を職員に周知しない運用は、後に手続の適正が争われる火種になる。

・委任の限界を誤らない。委任できるのは審査に関する事務の一部にとどまる。期日の指定、証拠の受領、争点整理などが典型である。裁決は合議体が行う。事務局を置かない公平委員会では委任先は委員に限られるため、規則で事務局長への委任を定めても機能しない。

・取消裁決の効果は自動的である。処分が取り消されれば、任命権者が復職の発令をしなくても職員は当初から処分を受けていなかった状態に戻る。給与の遡及支給、期末勤勉手当の再計算、退職手当の算定基礎期間の通算といった実務処理が連動する。是正指示はこれらを確実に履行させるための手段である。

・修正裁決後の争い方に注意する。前記昭和62年判決のとおり、争うべき対象は修正後の原処分である。裁決書を受け取った職員に対しては、出訴期間とあわせて対象の説明を要する。

執行停止の仕組みがない。行政不服審査法第2章が適用されないため、審査請求をしても同法に基づく執行停止は使えない。裁判所による執行停止は取消訴訟の提起が前提となるが、第51条の2の前置主義があるため、裁決前は原則として利用できない。処分の効力が審査期間中も継続する点は、職員への説明が必要になる場面が多い。

県費負担教職員の取扱い。市町村立学校の県費負担教職員については、地方教育行政の組織及び運営に関する法律施行令第7条による読替えにより、任命権者が属する地方公共団体、すなわち都道府県の人事委員会または公平委員会が審査機関となる。市町村の公平委員会に審査請求書が提出された場合の取扱いを、あらかじめ定めておきたい。

・適用が除外される職員。条件付採用期間中の職員と臨時的に任用された職員については、第29条の2第1項により第49条第1項および第2項ならびに行政不服審査法の規定が適用されない。処分説明書の交付も審査請求もできない。会計年度任用職員は一般職であり、常勤か非常勤かを問わず対象となる。

国家公務員法との比較

対応するのは国家公務員法第91条(調査)と第92条(調査の結果採るべき措置)である。

第91条は、審査請求を受理したときに人事院またはその定める機関が直ちに事案を調査すべきものとし、処分を受けた職員から請求があれば口頭審理を行い、その職員の請求により公開する旨を定める。口頭審理の請求権と公開請求権の構造は地方公務員法第50条第1項と同じである。異なるのは、地方公務員法が「審査」と表現するのに対し国家公務員法が「調査」と表現する点、および人事院が指名する職員に調査を行わせる仕組みを持つ点である。

第92条は結論部分を二つの項に分けて書く。第1項は、処分を行うべき事由のあることが判明したときに、人事院がその処分を承認し、またはその裁量により修正しなければならないと定める。第2項は、処分を受けるべき事由のないことが判明したときに、処分を取り消し、職員としての権利を回復するために必要かつ適切な処置をとり、不当な処置を是正すべきものとし、失った俸給の弁済を受けるよう指示しなければならないと定める。地方公務員法第50条第3項が承認、修正、取消しと是正指示を一項にまとめているのに対し、国家公務員法は事由の有無で場面を分けている。書き分けの違いはあるが、実質的な帰結は変わらない。

第92条第3項は、人事院の判定を最終のものとし、人事院規則の定めるところにより人事院によってのみ審査されるとする。地方公務員法では第8条第8項と第9項がこれに対応し、人事委員会・公平委員会の権限に属する事項の決定と処分は当該委員会によってのみ審査され、かつこの規定は裁判所に出訴する権利に影響を及ぼさないと定めている。


第51条(審査請求の手続等)

条文原文

第五十一条 審査請求の手続及び審査の結果執るべき措置に関し必要な事項は、人事委員会規則又は公平委員会規則で定めなければならない。

趣旨・立法背景

法律が定めるのは骨格だけであり、審査請求書の記載事項、代理人の選任、期日の指定と通知、証拠の申出、証人の喚問、裁決書の作成といった細目は規則に委ねられる。都道府県から町村まで規模も体制も大きく異なるため、統一的な法定になじまないという判断が背景にある。

注目すべきは「定めなければならない」という文言である。規則を制定するかどうかは各委員会の裁量ではなく義務である。第49条の2第3項によって行政不服審査法第2章の適用が排除されている以上、規則がなければ手続の準則が存在しない状態になる。制度が空転しないよう、制定を義務づけたものと解される。

第46条から第48条までの措置要求の規定においても、第48条が同じ構造で規則への委任を置いている。不利益処分の審査請求と勤務条件の措置要求という二つの救済ルートについて、法律は権限と効果を定め、手続は規則に委ねるという設計が一貫している。

用語解説

「人事委員会規則・公平委員会規則」 地方公務員法第8条に基づき、法律または条例によりその権限に属せしめられた事項について各委員会が制定する規則をいう。地方公共団体の長が定める規則とは別個のものである。

「審査請求の手続」 審査請求書の提出から裁決書の送達に至るまでの一連の進行をいう。取下げの取扱い、参加人の地位、口頭審理の期日運営なども含まれる。

「審査の結果執るべき措置」 第50条第3項の是正指示の内容と方法をいう。指示の形式、履行状況の報告徴収、任命権者への通知の方法などが規則事項となる。

「規則の準用」 公平委員会事務を他の地方公共団体の人事委員会に委託している団体や、共同設置の公平委員会を置く団体では、受託先または共同設置先の規則を準用する例が多い。委託関係にある団体では、自団体の規則で準用先を明示しておく必要がある。

判例・裁判例

第51条を正面から解釈した最高裁判例は見当たらない。規則への委任規定そのものが争点になりにくいためである。もっとも、規則が定める手続を履践しなかった場合に裁決が違法となるかという形で、間接的に問題となり得る。

行政不服審査法第2章が適用されない以上、審査手続の適正を測る物差しは第50条と規則しかない。口頭審理の請求があったのに書面審理で裁決した場合は第50条第1項違反であり、裁決の取消事由となる。規則が定める証拠調べの機会を与えなかった場合も、その瑕疵が結論に影響を及ぼす可能性があるときは同様に扱われることになろう。裁決が取り消されれば、審査機関は改めて審査をやり直すことになる。

前記最高裁昭和62年4月21日判決が示したとおり、裁決は原処分の効力を左右する。手続の瑕疵は結論の当否とは別に争点化するため、規則の遵守は審査機関にとって自己防衛でもある。

改正の経緯

第51条も平成26年法律第69号により文言が改められた。改正前は「不服申立ての手続及び審査の結果執るべき措置に関し必要な事項」と規定していたものが、審査請求への一元化に合わせて「審査請求の手続」に改まった。実質的な内容の変更はない。

各地方公共団体の規則も、平成28年4月1日の施行に合わせて改正されている。規則名を「職員の不利益処分に関する不服申立ての審査に関する規則」から「職員の不利益処分についての審査請求に関する規則」に変更した例が多い。規則の題名が旧法の用語のまま残っている団体は、点検の対象になる。

実務上の留意点

・規則の未整備は制度の空白を生む。公平委員会を置く小規模団体では、審査請求の事例が長期間ないまま推移することがある。事案が生じてから規則を制定するのでは、審査請求人に手続の予測可能性を与えられない。定期的な点検が求められる。

・上位法の改正との連動。行政不服審査法や地方公務員法の改正に伴う条項ずれが、規則に残っていることがある。引用条文の番号が現行法と食い違っていれば、その規則に基づく処理の適法性が争われる余地が生じる。

・教示との整合。処分説明書に記載する審査請求の方法や期間の教示は、規則の定めと一致していなければならない。第49条第4項が説明書への記載を義務づけている以上、規則改正の際は説明書の様式もあわせて見直す。

国家公務員法との比較

国家公務員法には第51条に直接対応する独立の委任規定が置かれていない。人事院は第16条に基づき人事院規則を制定する一般的権限を有しており、人事院規則13―1(不利益処分についての審査請求)が審査請求の手続を詳細に定めている。地方公務員法が各委員会に規則制定を義務づけたのは、審査機関が全国に多数存在し、国のように単一の機関が統一規則を持つ構造ではないからである。


第51条の2(審査請求と訴訟との関係)

条文原文

第五十一条の二 第四十九条第一項に規定する処分であつて人事委員会又は公平委員会に対して審査請求をすることができるものの取消しの訴えは、審査請求に対する人事委員会又は公平委員会の裁決を経た後でなければ、提起することができない。

趣旨・立法背景

審査請求前置主義を定める規定である。不利益処分を争う職員は、まず人事委員会または公平委員会の裁決を経なければ取消訴訟を提起できない。

前置を求める理由は三つある。第一に、人事行政には専門的技術的な判断が伴い、第三者機関による事前の判断が裁判所の審理に資する。第二に、行政庁に自己反省の機会を与え、自主的な解決を促す。第三に、違法性のみならず不当性まで審査できる機関を経由させることで、裁判所に持ち込むまでもなく救済される事案を吸収できる。

平成26年の行政不服審査法改正の際、不服申立前置の見直しが大規模に行われ、多くの法律で前置が廃止または縮小された。地方公務員法第51条の2は存置された。国家公務員法第92条の2も同様である。公務員の身分に関する紛争については、第三者機関の判断を経由させる合理性が引き続き認められたということである。

用語解説

「審査請求前置主義」 法律が、審査請求に対する裁決を経ることを取消訴訟の訴訟要件とする建前をいう。前置を欠いたまま提起された訴えは不適法として却下される。

「原処分主義」 行政事件訴訟法第10条第2項が定める原則で、処分の取消訴訟と裁決の取消訴訟の双方を提起できる場合、裁決の取消訴訟では原処分の違法を主張できないとするものをいう。裁決の取消訴訟で主張できるのは、審理手続の瑕疵のような裁決固有の違法に限られる。

「出訴期間」 行政事件訴訟法第14条第3項により、審査請求を経た場合の取消訴訟は、裁決があったことを知った日から6か月、裁決の日から1年が経過すると提起できなくなる。

「被告適格」 行政事件訴訟法第11条第1項により、被告は処分をした行政庁が所属する地方公共団体である。地方公務員法第8条の2は、人事委員会または公平委員会の処分もしくは裁決に係る訴訟について、当該委員会が地方公共団体を代表すると定めている。

判例・裁判例

訴訟の対象

前記最高裁昭和62年4月21日第三小法廷判決(民集41巻3号309頁)が実務上の出発点になる。修正裁決は原処分の法律効果の内容を一定の限度に変更するにすぎず、原処分を取り消して新たな処分をするものではない。したがって、修正裁決を受けた職員が争うべき対象は修正後の原処分である。この判断は原処分主義とも整合する。

前置の例外

行政事件訴訟法第8条第2項は、法律に審査請求前置の定めがある場合であっても、審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないとき、処分の執行または手続の続行による著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき、その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるときは、裁決を経ないで取消訴訟を提起できるとしている。地方公務員法第51条の2はこの適用を排除していない。審査が長期化した事案では、この例外が現実的な選択肢になる。

前置が不要な場面

第51条の2が対象とするのは「取消しの訴え」に限られる。処分の無効確認の訴えには前置は要求されない。国家賠償請求訴訟も、処分の効力を争うものではないため前置を要しない。ただし、無効確認の訴えは処分に重大かつ明白な瑕疵があることを要するため、実際に選択できる場面は限られる。

第29条の2第1項により審査請求ができない条件付採用期間中の職員と臨時的に任用された職員は、そもそも前置すべき手続を持たない。処分を争う場合は直ちに取消訴訟を提起することになる。

第49条第1項に規定する処分に当たらない行為も、審査請求の対象外である。職務命令、配置換のうち不利益を伴わないもの、内部的な指導などがこれに当たる。これらについては前置の問題自体が生じない。

実体判断への接続

前置を経て訴訟に至った場合、裁判所は前記最高裁令和7年9月2日判決が示した枠組みで処分の適法性を判断する。非違行為の悪質性のみならず、行為全体が組織と職場環境に及ぼす影響を評価すべきものとされた点は、審査段階での主張立証の組み立てにも影響する。裁決の理由中で組織への影響が検討されていない場合、訴訟段階でその不足が顕在化する。

改正の経緯

第51条の2は昭和37年の行政事件訴訟法制定に伴い、同法との接続を明確にするために整備された。その後、平成26年法律第69号により文言が改められた。改正前は「審査請求又は異議申立てをすることができるもの」「裁決又は決定を経た後でなければ」と規定していたが、異議申立ての廃止に伴い、審査請求と裁決に一本化された。

令和8年4月1日現在、条文に変更はない。

実務上の留意点

・教示の正確さ。処分説明書には審査請求ができる旨と期間を記載しなければならない(第49条第4項)。前置主義がある以上、この教示を誤ると職員の出訴機会を実質的に奪うことになる。

・二つの期間管理。審査請求は処分があったことを知った日の翌日から3か月以内(第49条の3)、取消訴訟は裁決があったことを知った日から6か月以内である。起算点も期間も異なる。裁決書の送達時に、訴訟の出訴期間を明示して教示する運用が望ましい。

・裁決の遅延リスク。審査が長期化すると、行政事件訴訟法第8条第2項第1号により裁決を待たずに出訴される可能性がある。審査機関としては、第50条第1項の「直ちに」の要請を含め、進行管理を意識せざるを得ない。

・訴訟における代表。地方公務員法第8条の2により、裁決に係る訴訟では人事委員会または公平委員会が地方公共団体を代表する。原処分の取消訴訟では任命権者側が対応するため、事案によって庁内の担当が変わる。あらかじめ整理しておきたい。

国家公務員法との比較

国家公務員法第92条の2は、第89条第1項に規定する処分であって人事院に対して審査請求をすることができるものの取消しの訴えは、審査請求に対する人事院の裁決を経た後でなければ提起することができないと定める。地方公務員法第51条の2と同一の構造である。審査機関が人事院か人事委員会・公平委員会かという違いにとどまる。

異なるのは、国家公務員法第92条第3項が人事院の判定を「最終のもの」と位置づけている点である。もっとも、同項は人事院内部での再審査の可否を述べたものであり、裁判所への出訴を妨げる趣旨ではない。地方公務員法第8条第9項が出訴権への影響を否定していることと同旨に解される。


国家公務員倫理法・同規程との関係

第50条から第51条の2までに対応する規定は、国家公務員倫理法にも国家公務員倫理規程にも置かれていない。同法は職務に係る倫理の保持を目的とする法律であり、不利益処分の事後救済手続を扱っていないからである。

関連するのは処分に至る前の段階である。国家公務員倫理法第26条は、任命権者が同法または同法に基づく命令に違反する行為があることを理由として懲戒処分を行おうとするときは、あらかじめ国家公務員倫理審査会の承認を得なければならないと定める。同法第28条は、審査会が違反行為の疑いを認めた場合に調査開始を決定できるものとし、任命権者は調査対象職員への懲戒処分を行おうとするときはあらかじめ審査会に協議しなければならないとする。

処分がされた後の不服申立ては、国家公務員法第90条以下による。国家公務員法第17条の2は、人事院の調査権限のうち職務に係る倫理の保持に関するものを倫理審査会に委任するとしつつ、第90条第1項の審査請求に係るものを委任の対象から明示的に除いている。処分前の関与は倫理審査会が担い、処分後の審査は人事院が担うという役割分担である。

地方公共団体には国家公務員倫理法に相当する法律がない。倫理条例と倫理規程を各団体が定める形をとる。倫理条例違反を理由とする懲戒処分も、審査請求の対象としては第49条第1項の不利益処分として扱われ、第50条以下の手続に乗る。処分前に外部機関の承認を要する仕組みは、条例で倫理審査会を設置している団体を除き、一般には置かれていない。


参考資料

参照判例

  • 最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決(民集31巻7号1101頁、神戸税関事件)
  • 最高裁昭和62年4月21日第三小法廷判決(民集41巻3号309頁、修正裁決の法的性質)
  • 最高裁平成24年1月16日第一小法廷判決(裁判集民事239号253頁)
  • 最高裁令和4年9月13日第三小法廷判決(労働判例1277号5頁、長門市・市消防長事件)
  • 最高裁令和7年9月2日第三小法廷判決(令和6年(行ヒ)第214号、同第241号、糸島市・市消防本部消防長事件)
  • 福岡地方裁判所令和4年7月29日判決(労働判例1279号5頁)
  • 福岡高等裁判所令和6年1月24日判決

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