条文(現行・令和6年改正後)

第一条の二 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。

② 国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。

本条は、平成11年(1999年)7月成立・平成12年(2000年)4月施行のいわゆる地方分権一括法(地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律)によって地方自治法に新設された規定であり、その後の条文に変更はない。令和6年(2024年)改正は第14章の新設(国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例)にとどまり、本条の文言自体には手が加えられていない。


1 趣旨・立法背景

機関委任事務制度の廃止と役割分担の明確化

地方分権一括法による改正以前、地方自治法は国と地方の役割分担について明示的な条文を欠いていた。都道府県の事務の7〜8割、市町村の事務の3〜4割を占めていた機関委任事務の下では、知事・市町村長は主務大臣や都道府県知事の指揮監督を受ける国の機関として位置づけられ、国と地方の関係は法律上「上下・主従」の構造を持っていた。

平成12年の改革により475本の法律が一括改正され、機関委任事務制度が廃止された。地方公共団体の事務は「自治事務」と「法定受託事務」に再編され、国と地方の関係は「対等・協力」へと転換した。第1条の2はこの転換を宣言する規定として新設された。

補充性の原則の法文化

本条第2項後段の「住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として」という表現は、行政学でいう「補充性の原則(subsidiarity)」を法文化したものである。欧州連合(EU)の意思決定では1992年のマーストリヒト条約以来この原則が明文化されており、地方分権推進委員会の審議においても意識的に参照された。地域の実情に精通した住民に最も身近な地方公共団体が行政を担い、それが困難な事務についてのみ上位の機関が補完的に関与するという考え方を、第1条の2は地方自治法の理念として明示した。


2 逐条解説

第1項 地方公共団体の役割

「住民の福祉の増進を図ることを基本として」

地方公共団体の行政運営の目的を「住民の福祉の増進」に定めた表現である。「福祉」は社会保障の意味ではなく、より広義の幸福・生活の全般的向上を指す。これは憲法第25条(生存権)の地方行政版としての意義を持つと同時に、地方公共団体が収益や効率のみを追求して住民サービスをないがしろにしてはならないことを宣言している。

「地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」

「自主的」とは、国の指示・命令に従って機械的に処理するのではなく、自らの判断と責任において行政を担うことを意味する。「総合的」とは、縦割りの省庁行政と対比されるもので、地域の実情を踏まえて福祉・教育・環境・産業・土木といった各分野を横断的・統合的に処理する役割を地方公共団体が担うことを意味する。「広く担う」という表現は、地方の担うべき行政の範囲を限定列挙せず、できる限り広く地方が担うべきとする立場を示す。

第2項 国の役割

第2項は、国が「重点的に担うべき」事務を3類型で列挙したうえ、役割分担の基本的考え方と地方の自主性・自立性への配慮義務を定める。

(1)国が重点的に担うべき事務の3類型

第一類型:「国際社会における国家としての存立にかかわる事務」 外交・防衛・通貨・出入国管理など、国家主権に直結する事務がこれに当たる。地方公共団体が個別に対応することが構造上不可能な分野である。

第二類型:「全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務」 食品衛生基準、労働基準、医薬品の承認制度など、地域ごとにばらばらであると国民生活に支障を来す基準設定の事務がこれに該当する。地方自治の基本的な準則(自治事務・法定受託事務の区分、国の関与の手続など)もこの類型に含まれる。

第三類型:「全国的な規模で若しくは全国的な視点に立って行わなければならない施策及び事業の実施」 国土全体に及ぶインフラ整備(新幹線・高速道路ネットワーク)、国立公園の管理、全国一律の社会保障制度の設計などが典型例である。「全国的な規模」は物理的な広がりに着目した基準であり、「全国的な視点」は特定地域の利害を超えた国全体の観点が求められるという基準である。

(2)住民に身近な行政はできる限り地方にゆだねる原則

上記3類型に属さない事務については、地方公共団体に積極的に委ねることを「基本」として役割分担を行うことを定める。この「基本」という表現は、絶対的な規範ではなく、解釈・立法・行政の指針となる原則規定を意味する。したがって、個別法によって国が一定の関与を留保することは排除されないが、その関与は第1条の2の趣旨に照らして必要最小限のものでなければならない(地方自治法第245条の3参照)。

(3)地方の自主性・自立性が十分に発揮されるようにする義務

「地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たって、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない」という文言は、国に対する義務規定である。「しなければならない」という命令的文言が用いられており、単なる訓示ではなく法的責務として位置づけられている。ただし、これに違反した国の立法行為が直ちに違憲・違法となるかについては、後述の通り司法審査の範囲という問題が残る。


3 用語解説

用語意味
地方公共団体普通地方公共団体(都道府県・市町村)と特別地方公共団体(特別区・組合等)の総称(地自法第1条の3)
住民の福祉社会保障に限らず、住民の生活水準の全般的向上を指す広義の概念
自主的国の指揮命令によらず、自らの判断と責任で行うこと
総合的縦割りを超えて各行政分野を地域単位で統合的に処理すること
補充性の原則より住民に身近なレベルの公的主体が処理できる事務は、上位機関が代わりに処理しないという原則
機関委任事務平成12年廃止。国の事務を地方公共団体の長が国の機関として処理する制度
自治事務地方公共団体が自らの責任と判断で処理する事務(地自法第2条第8項)
法定受託事務国が本来果たすべき役割に係る事務を法令により地方に委託した事務(地自法第2条第9項)
義務付け・枠付け国が法令で地方の事務処理の方法・基準を詳細に規制すること。第2次分権改革以降、見直しが進む
役割分担国と地方が相互の守備範囲を明確にして行政を分担すること

4 関連条文の関係

第1条の2は地方自治法の中で宣言的・基本原則的な位置を占め、以下の条文と密接に連動する。

第2条第13項は「国は、地方公共団体が地域の特性に応じてその事務を処理することができるよう特に配慮しなければならない」と定め、自治事務における国の配慮義務を具体化する。第245条の2(法律の根拠のない関与の禁止)・第245条の3(関与の基本原則)は、第1条の2の趣旨を「国の関与」の局面で手続的に担保する規定群である。令和6年改正で新設された第252条の26の4以下(重大影響事態における国の指示権)は、第1条の2の役割分担の基本に対する例外として機能する。


5 判例・裁判例

(1)辺野古訴訟(最高裁第一小法廷令和5年9月4日判決)

普天間飛行場代替施設の設計変更承認申請に対して沖縄県知事がした不承認処分について、国土交通大臣の裁決の適法性が争われた事件である。最高裁は、埋立承認事務が「法定受託事務」(公有水面埋立法第51条第1号・地自法第2条第9項第1号)に該当し、国が本来果たすべき役割に係る事務であって国においてその適正な処理を特に確保する必要がある高い公益性を持つと認定した。そのうえで、国土交通大臣が地自法第245条の7に基づく是正の指示を行うことができると判断し、沖縄県の上告を全員一致で棄却した。

この判決は、第1条の2第2項第一類型(国家の存立にかかわる事務)の射程と法定受託事務における国の是正権限の範囲を実践的に示したものとして位置づけられる。一方で、国地方係争処理委員会を通じた是正手続が実質的な審査機能を十分に果たせるかという制度論上の課題も浮かび上がらせた。

(2)国地方係争処理委員会の機能(制度概要)

地自法第250条の7以下が定める国地方係争処理委員会(総務省設置)は、第1条の2の役割分担の趣旨を手続的に担保する機関である。地方公共団体の長等が国の「是正の要求」「許可の拒否」その他公権力の行使に当たる関与に不服がある場合、同委員会に審査を申し出ることができる(第250条の13)。委員会が是正勧告を行っても国が従わない場合、地方公共団体は高等裁判所に訴訟を提起できる(第251条の5)。この一連の手続が、第1条の2が宣言する「対等・協力」関係の制度的担保として機能している。

(3)令和6年改正と第1条の2の緊張関係

令和6年6月19日成立の改正地方自治法は、第14章として「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と普通地方公共団体との関係等の特例」を新設した(第252条の26の4以下)。大規模災害・感染症まん延その他国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合に、閣議決定を経て各大臣が地方公共団体に対し具体的な対応措置を「指示」できるとする制度である。

この指示権は、個別法に根拠を有しない場合にも発動可能とされており、自治事務についても対象となりうる点で、第1条の2が定める地方の自主性・自立性の原則と緊張関係を生じさせうる。日本弁護士連合会や地方6団体の一部からは、地方自治の本旨(憲法第92条)との整合性について慎重な検討を求める意見が表明された。同改正の運用実態の監視は、地方公務員として第1条の2を実践的に理解するうえで欠かせない視点である。


6 地方公務員が第1条の2から読み取るべきこと

第1条の2は、地方公共団体の職員が「なぜ自分たちがこの事務を担っているのか」を説明する根拠条文である。国の通達に従うことが職務の中心であった機関委任事務時代とは異なり、現在の地方公共団体は自らの判断と責任で住民の福祉増進を追求する主体として位置づけられている。

この転換は、職員にとって次の2点を意味する。第一に、事務の処理に当たっては「国の方針に沿っていること」ではなく「住民の福祉の増進に資すること」が主たる判断基準となる。第二に、国の義務付け・枠付けに疑問を感じた場合、地方分権改革の提案募集制度(内閣府が毎年度実施)を通じて見直しを求めることが制度として可能であり、現に第2次分権改革以降、多数の規制緩和が実現している。

第1条の2の理念を形式上の宣言にとどめず、日々の事務処理の思考の出発点に置くことが、地方自治法の求める地方公務員像に合致する。


参考・関連情報


当事務所では、地方公共団体向けのコンプライアンス研修(行政法・地方自治法の実務応用)を提供しております。

中川総合法務オフィス(行政書士 中川恒信) 📞 075-955-0307 🌐 compliance21.com/contact/

Follow me!