一 条文

地方自治法第15条(昭和22年法律第67号)

第十五条 普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる。

② 普通地方公共団体の長は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、普通地方公共団体の規則中に、規則に違反した者に対し、五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。


二 趣旨・立法背景

1 規則制定権の根拠

地方自治法は、普通地方公共団体の自治立法権を条例(第14条)と規則(第15条)の二本立てで構成する。条例が議会の議決を要する民主的立法であるのに対し、規則は長が単独で制定できる執行機関の内部・外部準則である。この二元構造は、日本国憲法第94条が「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる」と定めたことを受けて、昭和22年の地方自治法制定時から採用された。

規則制定権を長に与えた理由は、議会の議決を経ることなく、長の執行権限に属する事務について迅速・柔軟に統一的な基準を設定できるようにする点にある。人事・財務・会計・公物管理など長の固有の執行領域では、執行の細目を随時定める必要があり、都度条例改正を求めることは非現実的である。

2 第2項(過料規定)の立法経緯

過料を規則に定めることを認める第2項の規定は、規則の実効性確保のために設けられた。昭和22年の原始地方自治法では現行と同様の過料規定が置かれており、その後の改正で過料の上限額が段階的に引き上げられ、現行の5万円に至っている(昭和38年改正で2万円、平成4年改正で現行5万円)。

条例違反の過料(第14条第3項)が最高5万円であることと同額に統一されており、長の規則と議会の条例との間で制裁の均衡が図られている。


三 用語解説

規則

普通地方公共団体の長が、自らの権限に属する事務の範囲で制定する自治立法。国の行政立法における府省令・規則に相当する。地方自治法上、長以外にも規則制定権が認められる機関があり(教育委員会規則・人事委員会規則・監査委員規則等)、これらは地方自治法第138条の4第2項に根拠を有する。本条にいう「規則」は長が制定するものに限られる。

規則の形式的効力は条例に劣位し、条例と規則が矛盾・抵触する場合は条例が優先する(後述「条例との権限分配」参照)。

法令に違反しない限りにおいて

国の法令(法律・政令・省令・告示等)および当該普通地方公共団体の条例・規則を含む既存の自治立法に抵触しない範囲で、という意味に解される。上位法規優先の原則(lex superior)の確認規定である。

権限に属する事務

長の職務権限に帰属する事務を指す。地方自治法第148条は「普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体の事務を管理し及びこれを執行する」と規定し、同法第149条以下が具体的な事務を列挙する。立法・監査・選挙管理など長以外の機関の専管事務については、長は規則を制定できない。

過料

行政上の義務違反に対して科される金銭的制裁であり、刑事罰(刑法上の罰金・科料)とは法的性質を異にする。過料は行政罰の一形態であって前科にはならず、刑事訴訟手続ではなく非訟事件手続法の定める裁判手続(地方自治法第255条の3)または行政機関による直接の徴収手続で執行される。

第2項の規則上の過料は、長が規則で定めた義務を名宛人が違反した場合に長が科する行政上の制裁であり、刑事罰とは峻別される。


四 解釈上の論点

1 条例と規則の権限分配

第15条は規則の制定対象を「長の権限に属する事務」に限定しており、住民の権利義務を直接制限・創設する事項については原則として条例によらなければならない(地方自治法第14条第2項)。この点、規則が住民の権利義務に関わる場合には条例との関係で違法性の問題が生じうる。

学説上は、①条例専属事項(住民の権利義務創設・制限には必ず条例が必要)と、②規則で定め得る事項(長の内部的・技術的事項)を区別する見解が通説である。具体的には、使用料・手数料の賦課基準は条例事項(地方自治法第225条・第228条)であるが、申請様式や事務処理の手続細目は規則で定めることができる。

2 規則の「法規性」

規則が法規(住民・行政機関双方を拘束する一般的・抽象的規範)としての性質を有するか否かは、その内容によって個別に判断される。長の規則の中でも、住民に対し申請義務・届出義務を課する場合は法規としての性質が認められ、憲法第94条の自治立法権の射程内にある。他方、庁内の事務処理手順を定める訓令・通達的な規則は行政内部規範にとどまり、住民に対する直接の拘束力をもたない。

3 過料と行政処分性

第2項に基づく過料の賦課決定が抗告訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法第3条第2項)に該当するかについては、地方自治法第255条の3が「過料の処分に不服がある者は、普通地方公共団体の長に対して異議申立てをすることができる」と定め、不服申立ての途を開いていた(現在は審査請求)。

最高裁は、行政機関が法令に基づき一方的に金銭的義務を賦課する行為は行政処分に当たると解しており(最判昭和39年10月29日民集18巻8号1809頁、行政処分性に関する一般的基準を示した判決)、過料賦課決定もこの射程に入るものと解されている。過料の賦課手続・執行手続については地方自治法第255条の3および地方自治法施行令が定める。


五 実務上の留意点

公告式・施行日

規則の制定・改廃は、条例と同様に公告式条例の定めるところにより公布しなければならない(地方自治法第16条)。施行日の定めがない場合は、公布の日から起算して10日を経過した日が施行日となる(同条第3項)。

規則の体系整備

長の規則と教育委員会規則・人事委員会規則等が同一事項について競合する可能性がある分野(例:個人情報保護・情報公開)では、それぞれの所管権限を確認した上で規則の体系を整備する必要がある。平成27年(2015年)の地方教育行政改正(いわゆる「教育委員会制度改革」)以降、総合教育会議を通じた教育行政と長の行政の連携が制度化されており、規則の所管整理も従前より重要性を増している。

過料規定の運用

規則の過料規定を実際に適用する際は、①当該義務が規則で明確に規定されていること、②違反の事実が客観的に認定できること、③比例原則(過料額の相当性)を充たすこと、の三点を確認する。過料は刑事罰ではないが、名宛人の財産権に直接影響する行政制裁であるため、適正手続の観点から弁明の機会付与を検討することが実務上望ましい(行政手続法第13条は過料に直接適用されないが、自治体の行政手続条例で別途定めている例がある)。


六 判例・裁判例

最高裁昭和37年5月30日大法廷判決(民集16巻5号1103頁)

地方公共団体の条例・規則に基づく行政制裁の法的性格を論じた文脈で参照される判決。国の法令と地方公共団体の自治立法の効力関係について、上位法規優先の原則を確認した。

最高裁昭和53年12月21日判決(民集32巻9号1723頁)

条例と規則の権限分配に関連し、住民の権利義務を規律する事項を条例で定める必要性を示した裁判例として引用される。

徳島市公安条例事件(最大判昭和50年9月10日刑集29巻8号489頁)

国の法令と条例(及び規則)の競合関係を判断する基準として「法令が当該事項について規定を置いていない趣旨が、地方公共団体が規制することを許容しているか否か」という二段階の判断枠組みを示した最重要判例。「法令に違反しない限りにおいて」(第15条第1項)の解釈基準として実務・学説ともに参照する。


七 関連条文

条文内容
憲法第94条地方公共団体の条例制定権(自治立法の憲法的根拠)
地方自治法第14条条例の制定権・罰則
地方自治法第16条条例・規則の公布・施行
地方自治法第138条の4第2項委員会・委員の規則制定権
地方自治法第149条長の担任事務
地方自治法第225条・第228条使用料・手数料(条例事項)
地方自治法第255条の3過料の処分に関する不服申立て
行政手続法第13条不利益処分と聴聞・弁明の機会付与

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