はじめに
本稿では、地方自治法第93条(普通地方公共団体の議会の議員の任期)、第94条及び第95条(町村総会)を逐条で解説する。第93条は議会の構成員である議員の任期に関する規定であり、第94条・第95条は、町村に限って議会そのものを置かず、有権者による総会を設けることを認める特例規定である。両者は条文上の位置は連続しているが、規律する対象が異なるため、本稿では二つの節に分けて解説する。
なお、地方公務員にとって、憲法第93条(議事機関としての議会の設置)や公職選挙法との関係は、地方公務員法における身分保障規定との対比で理解すると位置づけやすい。地方公務員法が職員個人の任期・身分を規律するのに対し、地方自治法93条以下は住民代表機関である議会そのものの構成原理を規律するという違いを押さえておけば足りる。
第一節 第93条(議員の任期)
条文原文
第九十三条 普通地方公共団体の議会の議員の任期は、四年とする。 2 前項の任期の起算、補欠議員の在任期間及び議員の定数に異動を生じたためあらたに選挙された議員の在任期間については、公職選挙法第二百五十八条及び第二百六十条の定めるところによる。
趣旨・立法背景
本条は、普通地方公共団体(都道府県及び市町村)の議会議員の任期を一律4年と定める規定である。地方公共団体の長の任期も同じく4年(地方自治法第140条)とされており、二元代表制の下で、住民の直接選挙により選ばれる長と議会議員の任期を揃えることで、定期的に民意を問う機会を確保する仕組みとなっている。
任期を法律で一律に定めることの意味は、条例による任期の伸縮を許さない点にある。議員の任期は住民自治の根幹に関わる事項であり、地方公共団体の自主性に委ねるのではなく、全国一律の基準として国会が法律で定めるべき事項とされている。
第2項は、任期の起算日、補欠選挙で選ばれた議員の在任期間、及び定数に異動が生じたために行われた選挙(いわゆる増員選挙)で選ばれた議員の在任期間について、地方自治法自体では定めず、公職選挙法第258条及び第260条に委任している。これは、選挙手続の技術的細目は選挙法制の一般法である公職選挙法に集約して規定した方が、制度の整合性を保ちやすいという立法技術上の理由による。
用語解説
普通地方公共団体とは、都道府県及び市町村を指し、特別地方公共団体(特別区、地方公共団体の組合、財産区等)と対比される概念である(地方自治法第1条の3)。
補欠議員とは、議員に欠員が生じた場合に行われる補欠選挙により選出された議員をいう。公職選挙法第260条は、補欠選挙により当選した議員の任期は、前任者の残任期間とする旨を定めている。したがって、補欠議員の任期は必ずしも4年とはならない。
増員選挙とは、議員定数の条例改正により定数が増加した場合に、増加した定数分の議員を選出するために行われる選挙をいう。この場合の議員の在任期間についても、公職選挙法第258条が、原則として一般選挙により選出された他の議員の任期満了時までとする旨を定めている。
任期の起算については、公職選挙法第258条により、一般選挙の場合は前任者の任期満了の日の翌日から起算するのが原則であるが、前任者の任期が満了する前に議会が解散された場合等は選挙の日から起算する扱いとなる。
改正法の内容や変化・最新の動向
第93条自体の条文は、地方自治法制定時(昭和22年)から実質的な文言変更を経ておらず、令和7年及び令和8年の一連の地方自治法改正においても、任期4年という基本原則そのものに変更は加えられていない。
もっとも、議員任期制度の運用面では、なり手不足問題を背景とした周辺制度の見直しが続いている。全国町村議会議長会が令和7年2月に公表した資料によれば、無投票当選及び定数割れが生じた町村議会は926団体中32.3パーセントに上り、無投票の団体を加えると全体の約6割に達するとされる無投票当選団体は全体の32.3パーセントであり、無投票町村を加えると全体の約6割に達する。任期そのものを短縮・延長する議論には至っていないが、4年に一度の選挙という制度の土台が、なり手不足によって空洞化しつつあるという問題意識が、後述する町村総会をめぐる議論とも密接に関連している。
任期制度に直接連動する形で、令和4年法律第101号による地方自治法改正では、議員の兼業禁止規定(第92条の2)が緩和され、年間の請負対価が政令で定める額(300万円)を超えない個人事業主等について、議員との兼業を認めることとされた議会の適正な運営を確保する観点から政令で定める額の範囲内で、個人による地方公共団体に対する請負が認められることとなった。これは議員の任期制度そのものの改正ではないが、なり手不足対策として、立候補のハードルを下げることで4年任期の議会を維持しやすくする狙いを持つ改正であり、第93条の実効性を支える周辺整備として位置づけられる。
また、令和5年法律第19号による地方自治法改正(令和6年4月1日施行)により、議会に関連する手続の一部についてオンラインで行うことが可能となった議会に関連する手続のうち書面で行うこととされているものについて、オンラインで手続を行うことを可能とする令和五年改正法が令和六年四月一日に施行された。任期の起算や補欠選挙の告示そのものが対象となるわけではないが、議員活動を支える手続基盤の整備という点で、任期制度を実質的に機能させるための環境整備の一環といえる。
裁判例としては、議員任期そのものの効力を争った近年の著名な最高裁判例は見当たらないが、議員の身分の得喪に関わる資格決定・当選訴訟等の裁判例は公職選挙法の枠組みで多数蓄積されている。任期の起算日や在任期間の算定を争う紛争は、地方自治法93条2項が指し示す公職選挙法258条・260条の解釈問題として処理されるため、実務上の疑義が生じた場合は、地方自治法単独ではなく公職選挙法の逐条解説及び関連通知を併せて参照する必要がある。
第二節 第94条・第95条(町村総会)
条文原文
第九十四条 町村は、条例で、第八十九条第一項の規定にかかわらず、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる。
第九十五条 前条の規定による町村総会に関しては、町村の議会に関する規定を準用する。
趣旨・立法背景
地方自治法第89条第1項は、普通地方公共団体に議会を置くことを原則とする。これは憲法第93条第1項が、地方公共団体に議事機関としての議会の設置を求めていることを受けた規定である。第94条は、この原則に対する例外として、町村に限り、条例により議会を置かず、選挙権を有する者による総会(町村総会)を設けることを認めている。
この制度の沿革は古く、明治21年の旧町村制第31条において、規模の小さい町村を対象に町村総会制度が設けられたのが起源である旧町村制第31条にて町村総会制度が新設され、小町村が対象となった。その後、明治44年の町村制全部改正を経て、戦後の地方自治法に引き継がれた。第89条が議会必置の原則を定めながら、第94条・第95条がその例外を認めているという構造は、小規模な町村における直接民主制の余地を残すという立法者の判断に基づくものであり、住民自治の理念に照らして、必ずしも議会という間接民主制の形式のみを絶対視しない趣旨を含んでいる。
第95条は、町村総会について町村議会に関する規定を準用する旨を定める。これにより、定足数、議決要件、会議の公開原則など、議会運営に関する規律の大枠が町村総会にもそのまま及ぶこととなる。もっとも、町村総会は有権者全員から構成される会議体であるため、議員選挙に関する規定など、性質上準用になじまない規定も存在し、この点は解釈に委ねられている。
用語解説
町村総会とは、当該町村の選挙権を有する者が一堂に会し、予算や条例の議決等、本来議会が担う議決権限を直接行使する会議体をいう。条文上、第94条では単に「総会」、第95条では「町村総会」と表記が分かれているが、実務上は後者の呼称が一般的に用いられる。
選挙権を有する者とは、公職選挙法上の選挙権を有する住民をいい、町村総会の構成員はこの選挙権者全員である。議会のように選挙によって選ばれた代表者ではなく、有権者本人が直接議決に参加する点に、この制度の直接民主制的な性格が表れている。
準用とは、ある事項について定められた規定を、性質の異なる別の事項に必要な修正を加えて当てはめることをいう。第95条により、町村議会に関する地方自治法上の諸規定(定足数、表決、会議公開の原則等)が町村総会に準用されるが、議員定数や議員選挙に関する規定など、町村総会の性質上そもそも当てはまらない規定は準用の対象外と解されている。
改正法の内容や変化・最新の裁判例・実例
第94条・第95条についても、条文の文言自体は現行法まで実質的な改正を経ていない。しかし、この制度をめぐる社会的関心は、平成29年(2017年)の高知県土佐郡大川村における検討をきっかけに大きく高まった。
大川村の和田知士村長は、平成29年6月、次期村議会議員選挙で立候補者が定数に満たない事態に備え、村議会を廃止して村総会(町村総会)を設置する検討を始める旨を表明した>人口減少による議員のなり手不足を背景に、2年後に迫った村議会選挙で立候補者が足りない事態に備え、総会の調査・研究を始める方針が示された。当時の大川村の人口は約400人で、離島を除く自治体としては全国で最も人口が少なく、平成27年の村議選では定数6人全員が無投票当選、議員の平均年齢も70歳を超えていた大川村の人口は約400人で、2015年の村議選では6人全員が前回と同じ顔ぶれで無投票当選し、議員の平均年齢も70歳を超えていた。
もっとも、大川村は同年9月、村総会の調査・研究を中断し、村議会を維持する方針に転じた。和田村長は11日の村議会で、村民総会の調査・研究について中断すると表明した。その背景には、総務省が有識者研究会を発足させて議員のなり手確保策や請負禁止規定の見直しを検討し始めたこと、高知県が大川村と共同で議会維持のための検討会議を設置したことなど、国・県レベルでの環境変化があった。総務省は有識者による研究会を発足させ、議員のなり手確保策や町村総会を弾力的に運営する可能性について検討を始めた。大川村議会維持対策検討会議による平成29年12月の中間取りまとめでは、議員報酬の実態や兼業規制の影響が具体的に整理され、請負禁止規定の緩和や議員報酬の見直しが今後の課題として示された。
その後の総務省「町村議会のあり方に関する研究会」(平成29~30年)は、なり手不足対策を主眼に、少数の専業的議員による「集中専門型」と、非専業の議員による「多数参画型」という二つの議会モデルを提起し、町村総会そのものについては、実効的な開催は困難であるとの評価を示した。これを受け、直接的な制度改正としては町村総会(第94条・第95条)自体ではなく、周辺制度である請負禁止規定(第92条の2)の緩和が先行して実現した。令和4年法律第101号により、議員個人による請負について、年間対価が政令で定める額(300万円)を超えない場合には兼業を認めることとされ、令和5年4月の施行後は、統一地方選挙を控えた小規模自治体における立候補環境の改善が図られている。自治体と継続的な取引がある個人事業主について、年間の取引額が300万円までなら兼業を認めることとされ、統一地方選を控え若い世代や女性の議員を増やす狙いもあった。
町村総会の合憲性については、平成29年の大川村の一件を受け、衆議院において「町村総会」にかかる地方自治法の合憲性に関する質問主意書が提出されている。同主意書は、憲法第93条第1項が地方公共団体に議事機関としての議会設置を求めているにもかかわらず、地方自治法が議会を置かない場合の規定を置いていることについて、政府の憲法適合性の見解を問うものであった。憲法では地方公共団体には議会を設置するとしながら、地方自治法で議会を置かない場合の規定を定めていることについて、違憲性を指摘する向きも見られる。この点、通説的な理解では、町村総会は有権者全員が直接に議事機関としての機能を果たす会議体であるから、憲法が求める「議事機関」の要件を、議会という代表制の形式によらずとも満たしうるものと整理されている。もっとも、この論点について最高裁判所が正面から判断を示した確定判例は現時点で存在せず、学説上の議論にとどまっている。
町村総会の実例は、地方自治法施行後は東京都八丈小島の旧宇津木村における昭和26年から昭和30年頃までの運用が唯一の事例であり、地方自治法制定前の事例としては神奈川県芦之湯村(現・箱根町の一部)の公民総会が挙げられる程度にとどまる。過去の実例としては旧町村制下の芦之湯村の事例と、地方自治法下における宇津木村の事例が報告されており、町村総会の設置はこの2例のみにとどまっている。大川村を含め、令和8年(2026年)現在に至るまで、地方自治法制定後に町村総会が新たに設置された例はない。
なり手不足問題そのものは解消しておらず、全国町村議会議長会の令和6年3月報告書「町村議会議員のなり手不足に潜む3つの危機」は、無投票・定数割れの増加が議会の政策立案機能や行政監視機能を損ない、二元代表制の趣旨そのものを揺るがしかねないと指摘している。大川村においても、令和7年時点で村長は、議員報酬の引上げや議会運営の柔軟化を含めた議会維持のための取組を継続する意向を示しており、村民総会の検討を提起した当時の真意は議会廃止そのものではなく、住民が議会の存立に当事者意識を持つことを促す狙いであったと振り返っている。村民総会を提起した真意は議会廃止が目的ではなく、村民がもっと自らの問題として議会について責任を持って考えていく必要があるという問題意識からの提起であった。
行政デジタル化との関係では、令和5年法律第19号による地方自治法改正(令和6年4月1日施行)により、議会に係る書面手続の一部がオンラインで行えるようになったが、この改正は町村議会に関する規定の見直しであり、第95条の準用を通じて町村総会にも及びうる。もっとも、本会議における出席・表決要件(定足数等)は現に議場にいることを前提とした規律であり、オンラインによる本会議開催は現行法上なお認められていない。町村総会についても、有権者が現実に一堂に会することを前提とした準用が及ぶため、大規模な有権者団を抱える町村では開催自体の実務的困難が指摘されている。
まとめにかえて
第93条は議員任期という議会の基本構造を、第94条・第95条は議会という制度そのものの代替形態を定める。両者は独立した制度でありながら、いずれも「なり手不足」という共通の政策課題を背景に、令和期に入って改めて注目を集めている点で軌を一にする。地方公務員としては、任期満了に伴う選挙事務の基礎知識として第93条を、また議会制度の存立に関わる論点として第94条・第95条の沿革と実例を押さえておくことが望ましい。
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