第76条の条文原文

第76条 選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の議会の解散の請求をすることができる。

2 前項の請求があつたときは、委員会は、直ちに請求の要旨を公表しなければならない。

3 第一項の請求があつたとき、委員会は、これを選挙人の投票に付さなければならない。

4 第七十四条第五項の規定は第一項の選挙権を有する者及びその総数の三分の一の数(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)について、同条第六項の規定は第一項の代表者について、同条第七項から第九項まで及び第七十四条の二から第七十四条の四までの規定は第一項の規定による請求者の署名について準用する。

趣旨・立法背景

第76条は、住民が地方公共団体の議会そのものを解散させることを請求できる権利を定めた規定である。地方自治法第13条第1項は「日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の解散を請求する権利を有する」と定め、第76条はこの権利を具体化する手続規定にあたる。

直接請求制度は、住民が選挙によって選んだ議員及び長による間接民主制を基本としつつ、議会が住民の意思から離れて機能不全に陥った場合の補完的な救済手段として設けられている。条例制定請求(第74条)及び事務監査請求(第75条)が個別の政策や事務執行を対象とするのに対し、議会解散請求は議会という機関そのものの存続を住民投票に委ねる点で、直接請求のうち最も重い効果を持つ請求類型である。このため、必要署名数は条例制定請求・事務監査請求の50分の1以上に対し、3分の1以上という高い基準が設定されている。

署名数の算定方法が選挙人総数に応じて段階的に緩和される仕組み(40万人超、80万人超の場合の特例)は、大規模な地方公共団体ほど3分の1という割合の絶対数が著しく大きくなり、実質的に請求権の行使が不可能になることを避けるため、昭和27年の地方自治法改正で導入された。指定都市や政令指定都市規模の自治体を念頭に置いた制度設計である。

用語解説

選挙権を有する者 地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する者を指す。公職選挙法上の選挙人名簿に登録されている者であり、日本国籍を有する満18歳以上の者で、当該自治体に一定期間以上住所を有することが要件となる。外国人は対象外である。

政令の定めるところにより 署名数の具体的な算定方法及び署名収集の手続細目は、地方自治法施行令第百十五条以下に委任されている。施行令は、選挙人名簿の登録者数を基準日においてどの時点で確定するか、署名収集期間の制限等を定める。

40万を超え80万以下の場合の算定式 選挙人総数をXとすると、X≤40万の場合はX×1/3、40万<X≤80万の場合は(X-40万)×1/6+40万×1/3、X>80万の場合は(X-80万)×1/8+40万×1/6+40万×1/3で必要署名数を算定する。選挙人数の増加に応じて必要割合が段階的に低下する仕組みである。

連署 署名を行う者が署名簿に自署する方式を指す。代筆は心身の故障等やむを得ない事由がある場合を除き認められず、代筆による署名は無効と判断される。

代表者 請求を行う住民の代表者であり、選挙管理委員会から請求代表者証明書の交付を受けた者に限られる。請求代表者証明書の交付申請、署名収集の委任、署名簿の提出等の一連の手続を主体的に行う。

第74条第5項から第9項までの準用 第74条は条例制定請求の規定であるが、第76条第4項により、選挙権を有する者の資格、代表者の資格に関する制限(公務員等の地位にある者が代表者になれない場合があること)、第74条の2から第74条の4までに定める署名審査・署名簿の縦覧・異議申出に関する手続が、議会解散請求の署名収集にもそのまま適用される。条例制定請求と議会解散請求は、必要署名数の基準こそ異なるが、署名収集と審査の実務手続は共通する。

解散請求から解散投票までの手続の流れ

  1. 請求代表者証明書の交付申請(選挙管理委員会に対して行う)
  2. 署名収集(証明書交付の告示日から、市町村は1ヵ月以内、都道府県は2ヵ月以内)
  3. 署名簿の提出と選挙管理委員会による署名審査
  4. 署名簿の縦覧(7日間、関係人による異議申出が可能)
  5. 選挙管理委員会による有効署名数の確定及び告示
  6. 法定署名数(選挙権を有する者の3分の1以上等)に達していれば本請求が成立し、選挙管理委員会は直ちに請求の要旨を公表する(第76条第2項)
  7. 選挙管理委員会は、請求受理の告示日から60日以内に、議会から弁明書を徴した上で解散の賛否投票を実施する(第76条第3項、地方自治法施行令)
  8. 投票において有効投票の過半数の同意があったときは、議会は解散する(第78条)

なお、議会解散請求は、当該議会議員の一般選挙のあった日から1年間、及び解散の賛否投票が行われた日から1年間は行うことができない(第79条)。これは、選挙によって示された住民の意思や、直近の解散投票の結果を一定期間尊重する趣旨の制限である。

実施状況 総務省「地方自治月報」第62号による調査

総務省は、地方自治制度の運用状況について「地方自治月報」として直接請求の実施件数を継続的に公表している。最新の第62号は令和5年4月1日から令和7年3月31日までの2年間を対象期間とする。同期間における議会解散請求の実施状況は次のとおりである。

都道府県分については該当事例がなく、市区町村分は4団体4件であった。

自治体請求受理年月日結果投票率
北海道江差町令和6年9月6日署名簿の提出なし
宮城県大郷町令和6年12月24日投票延期(後述)
山梨県道志村令和5年10月6日解散不成立(令和6年2月4日投票)84.63%
宮崎県川南町令和6年10月28日解散成立(令和7年2月9日投票)50.51%

山梨県道志村と宮崎県川南町は、いずれも署名審査を経て解散の賛否投票が実際に執行された事例であるが、結果は対照的である。

道志村の住民投票は令和6年2月4日に投開票され、反対624票、賛成521票、投票率84.63パーセントで解散は不成立となった。同村では令和3年7月の村長選を巡って村長の親族らが公職選挙法違反(詐偽投票)容疑で書類送検される事件が起きており、住民団体は当初村長の解職請求を目指していたが、村議会への請願が不採択となったことを受けて議会解散請求に転じた経緯がある。村議会議長は開票後、「大義のないリコール運動だったが、村民に冷静に判断していただいた」と述べている。

川南町の住民投票は令和7年2月9日に投開票され、賛成4,230票、反対1,768票、投票率50.51パーセントで解散が成立し、議会(定数13)は即日解散した。令和6年9月定例会で副町長選任の人事案が不同意とされたことや、中学校統合・新設計画を巡る議論不足を発端として住民グループが解散請求の手続に着手し、解散成立を受けて40日以内に町議会議員選挙が実施されることとなった。議会解散請求が成立した事例は、宮崎県内では平成14年の北浦町議会以来23年ぶり、全国でも平成24年の山梨県西桂町以来という稀少な事例である。

宮城県大郷町の事例は、議会解散請求の手続が訴訟に発展した実例である。同町ではサッカー場等を整備する地域振興策(スマートスポーツパーク構想)の予算案を町議会が否決したことを発端に、構想に賛成する住民団体が解散請求の署名を集め、町選挙管理委員会は有効署名数2,135人(法定署名数2,127人)として令和7年3月6日に請求を受理した。解散の賛否投票は同年4月20日に予定され、4月1日から期日前投票が開始されたが、4月8日、構想に反対する町議3名が一部署名の無効を主張して提起した訴訟において、仙台地方裁判所が裁決取消請求事件の判決確定に至るまで執行を停止する決定を出した。地裁は、死亡者2名分及び代筆要件を満たさない9名分の署名の有効性を否定し、有効署名数が法定署名数を下回る可能性が高いと判断した。町は期日前投票を中止し、4月18日に投票期日の延期を正式決定した。署名審査の結果(選挙管理委員会の決定)に対する不服申立てが、行政事件訴訟法上の取消訴訟及び執行停止の対象となり得ることを示す実例である。なお、構想自体は同年8月の町長選で構想推進派の現職町長が落選した後、事業者側が撤退する意向を示し、9月に中止が確定している。

条例制定請求・事務監査請求との実施状況比較

同一期間(令和5年4月1日から令和7年3月31日まで)における3類型の直接請求の実施件数を比較すると、利用頻度には明確な差が見られる。

請求類型必要署名数都道府県分市区町村分合計
条例制定又は改廃の請求(第74条)50分の1以上2件22件24件
事務監査請求(第75条)50分の1以上0件4件4件
議会解散請求(第76条)3分の1以上0件4件4件

条例制定請求は同期間に24件と最も多く利用されている。請求事項を見ると、原子力発電所の再稼働や延長運転の是非を問う住民投票条例、新庁舎・新文化ホール等の公共施設整備の賛否を問う住民投票条例の制定請求が大半を占め、特定の政策課題について住民投票という形で意思表示を求める手段として活用される傾向が読み取れる。新潟県の東京電力柏崎刈羽原子力発電所再稼働に関する県民投票条例制定請求では、有効署名数が143,196人に達しており、都道府県レベルでも大規模な署名収集が行われた事例として注目される。

事務監査請求は4件と少数であり、いずれも市区町村レベルでの個別事業(中学校統合、大学設置事業、職員処分、指定管理者選定等)の事務執行の適正性を問うものであった。岐阜県恵那市の事例では、監査の結果「違法・不当な点は認められなかった」として請求が実質的に退けられている。

議会解散請求は条例制定請求と比べて著しく件数が少ない。必要署名数が3分の1以上と、条例制定請求・事務監査請求の50分の1以上に比べて16.5倍の高さに設定されていることが、利用件数の差に直結していると考えられる。署名収集の負担の大きさに加え、議会という機関全体の解散という重大な効果を伴うため、住民が実際に請求に踏み切る事例自体が限られている。

3類型を通じて、都道府県レベルでの議会解散請求及び事務監査請求の実施例が同期間中ゼロであった点は、地方公務員として留意すべき実務上の特徴である。これらの直接請求制度は、人口規模の小さい市町村において、より身近な議会・行政への異議申立て手段として機能している実態がうかがえる。

補論 行政法学上の論点

解散請求の処分性と署名審査の不服申立て

選挙管理委員会が行う署名審査の結果(有効署名数の確定)は、住民の解散請求権の行使に対する判断であり、行政事件訴訟法上の「処分」に該当するかが論点となる。判例上、行政庁の行為が処分と認められるには、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、当該行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものであることが必要とされる(最判昭和39年10月29日民集18巻8号1809頁参照)。署名審査における有効・無効の決定は、住民の解散請求権という法律上の権利の行使要件を確定する効果を有するため、処分性が認められると解する見解が実務上は有力であり、大郷町の事例で執行停止が認められた経緯はこの理解と整合する。

74条準用規定の構造

第76条第4項が第74条第5項から第9項まで及び第74条の2から第74条の4までを準用する立法技術は、地方自治法における直接請求制度全体に共通する特徴である。条例制定請求、事務監査請求、議会解散請求、議員及び長の解職請求のいずれも、必要署名数の基準(50分の1以上か3分の1以上か)と請求先機関こそ異なるものの、署名収集の方法、代表者の資格制限、署名審査の手続、署名簿の縦覧、異議申出という手続的骨格は共通する。条文を個別に完結させず準用規定で構成することで、署名収集に関する手続規定の改正(例えば令和4年の地方自治法施行規則改正による署名収集の不正防止対応)が一括して全ての直接請求類型に反映される構造になっている。地方公務員が選挙管理委員会事務局で直接請求事務を担当する場合、第74条の本則規定と準用条文の対応関係を正確に把握しておく必要がある。

解散投票における過半数の意義

第78条は「解散の投票において過半数の同意があつたとき」に議会が解散すると定める。この過半数は、有効投票総数の過半数を意味し、投票率や選挙人総数に対する割合ではない。道志村では投票率84.63パーセントのもとで反対が賛成を上回り解散は不成立となり、川南町では投票率50.51パーセントのもとで賛成が反対を上回り解散が成立した。投票率が一定水準に達しない場合の取扱いについて、地方自治法上は特段の成立要件(最低投票率)が設けられていない。長の解職請求(第83条)における過半数の同意の解釈とも共通する論点であり、条例で定める住民投票(第74条に基づく個別設置型)における最低投票率制度の有無との対比で論じられることが多い。

まとめに代えて 実務上の留意点

地方公務員、特に選挙管理委員会事務局の担当者にとって、第76条に基づく議会解散請求は発生頻度が低い反面、いったん請求が行われると署名審査、縦覧、投票実施という一連の事務を限られた期間内に正確に遂行する必要がある。大郷町の事例が示すように、署名審査の結果に対して訴訟が提起され、投票自体が司法判断により停止される可能性もあるため、署名審査の過程及び判断根拠を文書として明確に記録しておくことが、後の争訟対応において重要となる。

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