地方自治法第150条に基づく内部統制制度が令和2年4月1日に施行されてから、6年が経過した。

都道府県と指定都市では方針の策定と体制の整備が進み、毎年度の評価報告書も公表されている。制度としては定着したように見える。

しかし現場では、別の段階の課題が生じている。整備した体制をどう機能させるか、評価をどう実質化するか、そして限られた人員でどこまでやるのかという問題である。

本稿では、制度の枠組みを整理したうえで、導入後に現れている実務上の課題と、その対応の方向を検討する。


1. 地方自治法150条が求めるもの

1.1 義務と努力義務

都道府県知事及び指定都市の市長は、財務に関する事務その他の事務の管理及び執行が法令に適合し、かつ、適正に行われることを確保するための方針を定め、これに基づき必要な体制を整備しなければならない(第150条第1項)。

指定都市の市長以外の市町村長については、同様の取組が努力義務とされている(同条第2項)。

つまり制度は、まず大規模団体が先行し、他の団体は自らの判断で取り入れていく構造をとっている。人口規模の小さい団体に一律の水準を強制するものではない。

1.2 何のための制度か

総務省「地方公共団体における内部統制制度の導入・実施ガイドライン」(平成31年3月)は、地方公共団体における内部統制を次のように位置づけている。

住民の福祉の増進を図ることを基本とする組織目標が達成されるよう、事務を執行する主体である長自らが、組織目的の達成を阻害する事務上の要因をリスクとして識別及び評価し、対応策を講じることで、事務の適正な執行を確保すること。

重要なのは、長自らが行うものとされている点である。担当課が作成した書面を長が承認するという構図ではない。

1.3 制度の流れ

段階内容
内部統制に関する方針を定める
方針を公表する
方針に基づき体制を整備する
毎会計年度、内部統制評価報告書を作成する
監査委員の審査に付す
監査委員の意見を付けて議会に提出する
公表する

評価報告書が議会に提出され、公表されるという点が、この制度の特徴である。内部の管理にとどまらず、議会と住民に対する説明責任の仕組みとして設計されている。

1.4 対象となる事務

法が対象とするのは、財務に関する事務その他総務省令で定めるものである。

このうち財務に関する事務は必須の対象となる。それ以外の事務を対象に含めるかどうかは、団体の判断による。

ガイドラインは、対象事務のうちリスクや費用対効果を踏まえて優先順位の低い業務については、体制が整備されず評価及び審査も行われないことがあり得るとしつつ、内部統制評価部局又は監査委員により当該業務に係る不備が把握された場合には、対象事務の範囲に含まれる以上、評価又は審査において考慮されることとなる、としている。

対象から外したことが、責任を免れる根拠にはならない。


2. 方針に何を書くか

方針は、内部統制についての組織的な取組の方向性を示す文書である。

ガイドラインは、方針に記載すべき事項として次のような点を挙げている。

  • 法第150条第1項又は第2項に規定する方針である旨
  • 内部統制の目的
  • 対象とする事務の範囲
  • 体制の整備に関する事項
  • 長の氏名

長の氏名を記載するという点には意味がある。長が自らの責任の下に定めたものであることを明らかにするためである。

方針は公表され、議会及び住民に対する説明責任を果たす資料となる。


3. 体制の整備——何を作るか

体制の整備とは、方針に基づいて組織体制を整えたうえで、組織内のすべての部署において、リスクに対応するための規則・規程・マニュアル等を策定し、それらを実際の業務に適用することをいう。

実務上、次の作業を伴う。

リスクの識別と評価

対象事務について、目的の達成を阻害する要因を洗い出す。財務事務であれば、支出負担行為の誤り、収入の未収、契約手続の不備、公金の亡失などが典型である。

識別したリスクについて、発生可能性と影響度を評価し、優先順位を付ける。

統制活動の設計

リスクごとに、それを低減する手続を定める。承認、照合、分離、記録、権限設定などである。

リスクと統制を対応づけた一覧表を作成する団体が多い。リスクコントロールマトリックスと呼ばれる。

評価の実施

整備状況の評価(設計されたとおりに手続が定められているか)と、運用状況の評価(定められたとおりに実施されているか)を行う。

この二段階の評価が、実務上最も負担の大きい部分である。


4. 他団体の取組事例

公表資料から確認できる範囲で、いくつかの類型を挙げる。

都道府県の例

大阪府は、地方自治法第150条第1項に基づく方針を策定し、内部統制の考え方と対象事務、体制について公表している。業務において起こり得る法令違反や不適正な行為をリスクとして捉え、その発生を防いでいく枠組みとして説明されている。

指定都市の例

堺市は、地方自治法第150条第1項の規定に基づき、内部統制の目的や対象とする事務等について方針を策定し、公表している。

努力義務団体の例

総務省が令和4年10月に公表した調査結果には、指定都市以外の市町村の状況が記載されている。そこには次のような対応が見られる。

第150条第2項に基づく導入はハードルが高いと判断し、制度に準じた形で導入した中核市の例。法第150条第2項に基づく仕組みと抵触する部分があったため、法の趣旨を最大限に汲みつつ、独自の内部統制制度を構築した町の例。当面は独自の業務マニュアル等で対応するとした団体の例。

努力義務団体においては、法に基づく方針を策定するか、自主的な取組にとどめるかという選択が生じている。

留意点

法第150条第2項に基づいて方針を策定すれば、義務付け団体と同じ枠組みに乗ることになる。評価報告書の作成、監査委員の審査、議会への提出という一連の手続が伴う。

したがって努力義務団体では、体制を整えることそのものよりも、その後の毎年度の事務負担に耐えられるかが判断の分かれ目となる。

【内部統制の研修時に私に相談された事例】

 (1)指定都市:複数の指定都市で内部統制の研修を行ってきた。人口が200万人台のところもあれば、100万人未満のところもある。3点を指摘しておく。①課題:どの地方公共団体でも共通していたのは「形骸化」の悩みである。②対応:毎年のように人事で担当者が変わるので、その都度、内部統制研修やフレームワークの見直しが必要であることを指摘してきた。③結果:監査委員の報告書を読むと改善している組織もあれば横ばいのところもある。なぜか、「内部統制研修」の名前でなくて、「コンプライアンス研修」の名前で依頼が来ることが多い。いまだに抵抗感があるのか。
 (2)中核市:2回連続してやった。しかし、現場への浸透はまだまだこれからである。総務省のガイドラインに基づいているが都道府県などを念頭に置いた記述は人口が30万人ほどの自治体では負担が大きく、また数名の担当者が実務全部を負担していて内部統制では現場の理解がなかなか進まない。少なくとも人口が40万人以上の団体は、努力義務団体でいいのか。市長に義務付けしないと現場で何度も聞いたが「うちの市長は内部統制の理解もないしやる気もない。」となる。


5. 導入後に生じている課題

制度の枠組みは明快である。問題はその先にある。

5.1 評価が書類の確認に終わる

整備状況の評価と運用状況の評価は、いずれも「定められたとおりか」を確認する作業である。

これが形式化すると、規程が存在することの確認と、決裁書に押印があることの確認で終わる。押印があっても、実質的な確認が行われたかどうかは分からない。

日本システム技術事件では、注文書と検収書の形式面を確認する部署が置かれていた。しかし偽造された書類は、形式面では正常に見えた。形式の確認は、形式を整えた不正を発見できない。

5.2 リスクの識別が過去の事例に偏る

リスクの洗い出しを行うと、過去に発生した事故や、他団体で報道された事案が中心となりやすい。

しかし、まだ起きていないリスクこそが問題である。新規に開始した事業、システムを更新した業務、外部委託に切り替えた事務——ここに識別されていないリスクが残る。

5.3 人事異動により知見が蓄積しない

自治体特有の課題である。

内部統制の担当者が2〜3年で異動する。前任者が積み上げた判断の経緯が引き継がれず、毎年度、同じ水準の作業を一から繰り返すことになる。

評価対象事務の選定理由、リスク評価の根拠、不備と判断した基準——これらが文書として残っていなければ、翌年度の担当者は前年の報告書を写すことしかできない。

5.4 事務負担への疑問

毎会計年度、評価を行い報告書を作成し、監査委員の審査を受け、議会に提出する。この一巡には相応の工数を要する。

その負担に見合う効果が実感されなければ、制度は「やらされる作業」になる。そうなった時点で、内部統制は目的ではなく手続になる。

【現場での相談で受けた事:研修講師に言う事ではないのではないかと思ったが敢えて述べると「内部統制は必要なの?」であった。監査制度があり、議会のチェックがあり、自らも行政評価をしているのに、なんで必要なのか?であった。COSOのコンプライアンス、リスクマネジメントの基本的な価値からやり直す必要があることを責任者に研修の帰り際に告げた。】


6. 最大の論点——第2線をどう置くか

6.1 三線モデルから見た自治体の構造

企業のリスク管理では、三線モデルという枠組みが用いられる。

第1線が業務を執行する部門、第2線が独立した立場から牽制と支援を行う管理部門、第3線が独立して検証する内部監査部門である。

自治体に当てはめると、第1線は各部局、第3線は監査委員および監査委員事務局に相当する。

問題は第2線である。

内部統制を所管する課(総務課、行政管理課、コンプライアンス推進課など)が第2線に当たるが、専任の人員は多くの団体で数名にとどまる。数十の部局を、数名で牽制することは物理的に不可能である。

6.2 1.5線という現実解

この制約に対する現実的な対応が、第1線の内部に牽制機能を置く方法である。各部局にコンプライアンス推進担当を配置し、第2線の機能の一部を担わせる。1.5線と呼ばれる。

金融庁は令和元年6月公表の「コンプライアンス・リスク管理に関する傾向と課題」において、事業部門の内部に牽制のための職員を置く取組を、いわゆる「第1.5の防衛線」として紹介している。

同時に脚注で、導入すること自体が高度なリスク管理を意味するわけではなく、管理部門の機能や人員の削減を伴う場合にはかえって弊害が生じ得る、と指摘している。

自治体において1.5線を採る場合、次の条件が満たされなければ機能しない。

所属部局長を経由せずに上位へ報告できる経路を、規程に明記できること。

これが確保できなければ、部局にとって不都合な事実は部局長の判断で止まる。担当者の勇気に期待する設計は、成り立たない。

1.5線の導入可否を判断する枠組みについては、別稿で12項目のチェックリストとして整理している。

6.3 監査委員との関係

第3線に当たる監査委員は、内部統制評価報告書の審査を行う。

ここで論点となるのが、審査の深度である。長が作成した報告書の記載を確認するにとどまるのか、評価の前提となったリスク識別の妥当性まで踏み込むのか。

監査委員の監査には、経済性・効率性・有効性の観点、いわゆる3Eの視点が求められる。内部統制の審査においても、統制の存在の確認だけでなく、その統制が費用に見合う効果を上げているかという視点があり得る。

もっとも、踏み込みすぎれば政策judgmentへの介入となる。この境界の設定は、監査委員事務局にとって難しい判断である。


7. 努力義務団体はどうすべきか

指定都市以外の市町村では、法に基づく方針を策定するかどうかの判断が必要となる。

判断材料を整理すると次のようになる。

法第150条第2項に基づき方針を策定する場合

  • 評価報告書の作成、監査委員の審査、議会への提出、公表の一連の手続が伴う
  • 総務省ガイドラインの枠組みをそのまま適用できる
  • 議会と住民に対する説明責任の仕組みが制度として整う
  • 毎年度の事務負担が固定的に生じる

自主的な取組にとどめる場合

  • 手続の負担は小さい
  • 団体の規模と実情に応じた柔軟な設計が可能
  • ガイドラインの基本的枠組みは参考として利用できる
  • 制度としての継続性が担保されにくい

総務省は、ガイドラインにおける内部統制の基本的な枠組みは、一般的な内部統制の概念や考え方と、それらを地方公共団体において実施する場合の適用について説明したものであり、すべての地方公共団体に共通するものとしている。

したがって、方針を策定しない場合であっても、ガイドラインの枠組みに沿って取り組むことは可能である。

実務的には、いきなり全庁展開を目指すよりも、リスクの大きい財務事務から段階的に対象を広げる方が現実的である。公金の取扱い、契約事務、補助金の交付——これらは事故が生じた場合の影響が大きく、着手の優先度が高い。


8. 体制を点検する視点

自団体の内部統制が形骸化していないかを確認するための視点を挙げる。

方針について

  • 方針の内容を、各部局の職員が説明できるか
  • 対象事務の範囲を決めた理由が、文書として残っているか

体制について

  • 内部統制を所管する課は、各部局から独立した立場で意見を述べられるか
  • 各部局に担当者を置いている場合、所属長を経由しない報告経路があるか
  • その経路が実際に使われた実績があるか

評価について

  • リスクの識別は、過去の事例の列挙にとどまっていないか
  • 新規事業、システム更新、外部委託化した事務が対象に含まれているか
  • 運用状況の評価は、書類の存在確認を超えているか
  • 不備と判断する基準が、年度をまたいで一貫しているか

継続性について

  • 判断の経緯が、担当者の異動後も引き継がれる形で記録されているか
  • 評価に要する工数が、担当課に集中していないか

是正について

  • 前年度に指摘された不備は、実際に改善されたか
  • 改善の確認は、誰が行っているか

9. まとめ

  • 地方自治法第150条は、都道府県知事及び指定都市の市長に内部統制の方針策定と体制整備を義務づけ、その他の市町村長には努力義務としている
  • 制度は、方針の策定・公表、体制の整備、毎年度の評価報告書の作成、監査委員の審査、議会への提出、公表という流れをとる
  • 総務省ガイドラインの枠組みは、努力義務団体においても参考として利用できる
  • 導入後の課題は、評価の形式化、リスク識別の偏り、人事異動による知見の断絶、事務負担への疑問に整理できる
  • 自治体における最大の構造的課題は、第2線に相当する部門の人員が不足していることである。1.5線の設計が現実的な選択肢となるが、報告経路の複線化が前提となる

参考資料


自治体の内部統制に関する研修・ご相談

制度の枠組みは、総務省のガイドラインに詳しく示されている。しかしガイドラインは、人員をどう配置するかまでは書いていない。

数名の担当課で数十の部局を牽制するという構造的な制約に、どう対応するか。各部局に担当者を置く場合、その独立性をどう担保するか。所属長を飛び越えて報告できる経路を、規程にどう書き込むか。

これらは、団体ごとの組織構成、人事異動の周期、議会との関係を踏まえなければ設計できない。

中川総合法務オフィスは、全国850回を超える公務員研修の実績と、大規模地方公共団体における1.5線体制の構築支援を通じて、この判断を重ねてきた。

職員向け研修内部統制とは何か、自部署のリスクをどう洗い出すか。一般職向け/管理職向け
幹部・管理職向け研修長の責任、第2線の独立性、評価の実質化
監査委員事務局向け評価報告書の審査、3Eの観点、越権とならない範囲
体制診断現行体制の点検、1.5線導入の可否判断
方針・規程の整備支援方針の策定・改訂、報告経路の設計

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