地方自治法第六章第七節「請願」は、第124条と第125条の二か条だけで構成される。短い節である。しかし、この二か条は住民が議会に直接働きかける唯一の法定手段を定めており、憲法第16条が保障する請願権が地方議会でどう形になるかを決めている。

条文を読むと意外に素っ気ない。第124条は提出の方式だけを定め、何を請願できるか、議会がどう審査するか、請願者に結果をどう知らせるかは書かれていない。第125条も、採択した請願を関係機関に送付し報告を請求することが「できる」とするにとどまる。空白の大部分は各議会の会議規則が埋めている。

この構造を知らないまま条文だけを読むと、請願制度の実際が見えない。逆に、自分の議会の会議規則だけを見ていると、どこまでが法律の要求でどこからが議会の判断なのかが分からなくなる。令和6年4月に請願のオンライン提出が可能となり、各議会が会議規則の見直しに取りかかっている今、この境界を確認しておく値打ちがある。


1 条文原文

条文は令和8年9月3日施行の現行法による。

第124条(請願書の提出)

第百二十四条 普通地方公共団体の議会に請願しようとする者は、議員の紹介により請願書を提出しなければならない。

第125条(採択請願の送付と報告の請求)

第百二十五条 普通地方公共団体の議会は、その採択した請願で当該普通地方公共団体の長、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会若しくは公平委員会、公安委員会、労働委員会、農業委員会又は監査委員その他法律に基づく委員会又は委員において措置することが適当と認めるものは、これらの者にこれを送付し、かつ、その請願の処理の経過及び結果の報告を請求することができる。

関連条文

本節の解釈に直接かかわる規定を併せて掲げる。

日本国憲法第十六条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

請願法(昭和二十二年法律第十三号)

第一条 請願については、別に法律の定める場合を除いては、この法律の定めるところによる。

第二条 請願は、請願者の氏名(法人の場合はその名称)及び住所(住所のない場合は居所)を記載し、文書でこれをしなければならない。

第五条 この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない。

第六条 何人も、請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

第124条と第125条にも法令上の見出しは付されていない。


2 趣旨・立法背景

2-1 憲法第16条の請願権と地方議会

憲法第16条は、何人も平穏に請願する権利を有し、請願をしたためにいかなる差別待遇も受けないと定める。損害の救済、公務員の罷免、法律・命令・規則の制定改廃その他の事項について、国や地方公共団体の機関に希望を述べる権利である。

請願権は、代議制が十分に機能していなかった時代に、国民が権利を守る手段として発達した。源流は英国議会にあり、その後アメリカやフランスの憲法、19世紀の欧州の立憲主義的憲法に取り入れられた。日本では明治期に建白が増え、明治15年に請願規則が定められたが、行政上の不服申立てと混同されたため明治23年に廃止された。大日本帝国憲法は第30条と第50条で請願を規定し、議院には請願委員会が置かれていた。

政治上の言論の自由が確立し、選挙を通じた意思表明が可能になると、請願権の相対的な比重は下がった。それでも議会を経由する請願は多くの国で存続している。選挙は数年に一度しか行われず、争点も包括的である。個別の事柄について、選挙の間に住民が議会に直接働きかける経路は、代議制を補完する機能を持ち続けている。

2-2 請願法との関係

請願法第1条は、請願については別に法律の定める場合を除いてこの法律の定めるところによるとする。地方自治法第124条は、議会に対する請願について提出の方式を定めた別の法律の定めであり、この部分については請願法第2条や第3条ではなく第124条が適用される。

請願法が議会への請願に及ばなくなるわけではない。第5条の誠実処理義務と第6条の差別待遇禁止は、議会に対する請願についても妥当する。採択するかどうかは議会の判断に委ねられるが、受理した請願を放置することは誠実な処理といえない。

2-3 なぜ議員の紹介を要するのか

第124条が議員の紹介を要件としたのは、議会の審議の対象となる請願に一定の絞り込みをかけるためである。議会が扱える事項かどうか、審査に値する内容かどうかを、まず議員の判断で確かめる仕組みになっている。

同時に、この要件は請願権の行使に障害を設けるものでもある。紹介してくれる議員を見つけられなければ請願書は提出できない。国会についても同じ要件が置かれており(国会法第79条)、紹介議員制度の存否は請願制度の運用を大きく左右する。ドイツ連邦議会のように議員の紹介を要しない制度を採る国もある。

この要件が実務にもたらした帰結が、陳情という慣行である。

2-4 陳情という慣行の位置

陳情は地方自治法に根拠を持たない。紹介議員を得られなかった者、あるいは紹介を求めるつもりのない者が議会に文書を提出するとき、その文書は第124条の請願書ではない。法律上の受理義務もない。

ところが実務では、陳情を請願と同様に扱う運用が広く行われている。標準的な会議規則は、陳情書またはこれに類するもののうち、その内容が請願に適合するものは請願書の例により処理すると定める。紹介議員の有無という形式的な差異によって、住民の訴えが門前払いになることを避ける工夫である。

もっとも、陳情を請願と同様に扱うかどうかは各議会の判断であり、扱いにはばらつきがある。請願と同様に扱わない陳情について、所管委員会のみで審査する議会、議長が預かるだけの議会、全議員に配付するにとどめる議会がある。陳情は請願権の行使ではなく事実上の行為であるという整理が、この裁量の幅を生んでいる。

2-5 第125条の趣旨

請願を採択しても、議会自身が実施できることは限られている。条例の制定改廃であれば議会が議決できるが、個別の行政上の措置を求める請願は、執行機関が動かなければ実現しない。

第125条は、採択した請願のうち執行機関において措置することが適当と認めるものを関係機関に送付し、処理の経過と結果の報告を請求できるとした。採択という議会の意思表示を、執行機関の行動に接続させる規定である。

国会については、国会法第81条第2項が、内閣は採択請願の処理の経過を毎年議院に報告しなければならないと定める。報告は内閣の義務である。これに対し地方自治法第125条は、報告を「請求することができる」という書き方をとった。議会が請求しなければ報告は来ない。この違いは実務の手順に直結する。

2-6 令和5年改正とオンライン化

令和5年法律第19号(令和5年5月8日公布、令和6年4月1日施行)は、議会に関連する手続のうち地方自治法が文書で行うこととしているものをオンラインで行えるとする第138条の2を新設した。

総務省の令和5年5月8日付け通知(総行行第191号・総行給第23号)は、第138条の2第1項の対象として第109条第6項・第7項、第112条第1項・第3項および第124条が該当するとしている。請願書の提出がオンライン化の対象であることが、通知によって明示された。

同通知は併せて、請願書の提出をオンラインにより行うことを可能とした場合であっても、文書等によって請願が行われたときは従前のとおりこれを受理する必要があるとする。オンライン化は提出方法の追加であって、文書による請願を排除するものではない。

さらに同改正の附則第15条により、請願をオンラインで行えるようになったことに伴い、マイナンバーカードの電子証明書の有効性を確認することができる者として地方公共団体の議会が追加された。議会が署名検証を行える仕組みが制度の側で整えられたことになる。

2-7 令和7年・令和8年改正における扱い

令和8年法律第27号(令和8年9月3日施行)および令和8年法律第62号(令和8年7月17日施行)を含め、令和7年から令和8年にかけての改正で第124条と第125条の条文は変更されていない。


3 文理解釈

3-1 「請願しようとする者」(第124条)

請願者の資格に限定はない。憲法第16条が「何人も」と定めていることから、当該団体の住民に限られず、区域外の者、法人、未成年者、外国人も請願できると解される。

実務の手引でも、請願は誰でも提出できるとされる例が多い。これに対し陳情については、市民、すなわち市内に居住し勤務しまたは通学する者、市内に事務所を有する団体の代表者に限るといった制限を設ける議会がある。請願が憲法上の権利の行使であり、陳情が事実上の行為であるという性格の差が、資格要件の差として現れている。

請願の対象事項にも法律上の限定はない。もっとも、当該団体の権限に属しない事項、裁判中の事件に関する事項、他人を誹謗する内容のものは、審査に付さないか不採択とする運用が行われている。これは条文の要件ではなく、議会が審査の対象として適当かを判断した結果である。

3-2 「議員の紹介により」(第124条)

紹介議員の人数について条文に定めはない。1人の紹介で足りる。

紹介の方法は会議規則が定める。標準的な会議規則は、紹介議員が請願書の表紙に署名または記名押印すると定める。紹介を取り消すには議長の許可を要し、会議の議題となった請願については議会の承認を要する。

紹介議員は、紹介したことによって請願の内容に賛成したものとみなされるわけではない。審査に付す価値があると判断して議会の審議の場に載せる役割である。もっとも、標準的な会議規則は、委員会が審査のため必要があると認めるときは紹介議員の説明を求めることができ、紹介議員はこの要求に応じなければならないと定めている。紹介には説明責任が伴う。

誰が紹介議員になれるかについて法律上の制限はない。議長、副議長、所管の常任委員会の委員は紹介議員にならないという申合せを置く議会があるが、これは法律の要求ではなく各議会の運用である。

3-3 「請願書を提出しなければならない」(第124条)

請願は文書によることを要する。口頭による請願は第124条の請願ではない。

請願書の記載事項は条文に定めがなく、会議規則が定める。標準的な会議規則は、日本語で請願の趣旨、提出年月日、請願者の住所を記載し、請願者が署名または記名押印することを求める。法人の場合は趣旨、提出年月日、法人の名称と所在地を記載し、代表者が署名または記名押印する。請願書の提出は平穏に行わなければならないという規定も置かれている。憲法第16条の「平穏に」という文言が、会議規則の水準で具体化されている。

請願の撤回については、会議の議題となったものを除き、請願者が議長の承認を得て撤回できると定める会議規則が一般的である。

提出先は議会である。議長宛てに提出する運用が通例であり、受理の判断は議長が行う。

3-4 「その採択した請願で」(第125条)

第125条が働く前提は、議会が請願を採択したことである。不採択とした請願、継続審査となった請願、会期中に議決に至らず第119条により廃案となった請願は対象にならない。

採択という議決の方法は条文に定めがない。第116条第1項の一般原則により、出席議員の過半数で決する。

実務では、採択と不採択の間に中間的な態様が設けられている。請願の一部について適当と認める一部採択、趣旨は理解できるが現時点では実施が難しいとする趣旨採択がこれにあたる。これらは法律上の概念ではなく、会議規則または申合せに基づく運用である。標準的な会議規則は、委員会の審査結果を採択すべきものと不採択とすべきものに区分して報告するとしており、中間的な態様は想定されていない。

一部採択や趣旨採択をした場合に第125条の送付ができるかという問題が生じる。採択した部分について送付するという扱いが実務で行われているが、趣旨採択が第125条にいう「採択」に当たるかは条文からは一義的に定まらない。送付の可否を含めて会議規則または申合せで整理しておく必要がある。

3-5 送付先の列挙(第125条)

送付先として掲げられているのは、長、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会または公平委員会、公安委員会、労働委員会、農業委員会、監査委員、その他法律に基づく委員会または委員である。

第121条の出席義務者の列挙とよく似ているが、同じではない。第121条は長と各委員会の代表者等を名指しし、委任または嘱託を受けた者を加えるのに対し、第125条は機関そのものを送付先とする。教育委員会については、第121条が教育長を出席義務者とするのに対し、第125条は教育委員会を送付先とする。送付は機関に対して行う行為であり、出席は人が行う行為であるという違いが、文言に表れている。

列挙は「法律に基づく委員会又は委員」に限られる。条例に基づく附属機関は送付先ではない。附属機関に関する請願を採択した場合、送付先はその附属機関を所管する執行機関となる。

議会自身が措置すべき請願は、第125条の送付の対象ではない。条例の制定改廃を求める請願を採択したのであれば、議会が条例案を審議することになる。国や他の機関に対して意見を述べるべき内容であれば、第99条の意見書の提出につながる。採択請願の処理は、第125条の送付だけで完結するわけではない。

3-6 「措置することが適当と認めるもの」(第125条)

送付するかどうかは議会の判断である。採択したすべての請願を送付しなければならないわけではない。

標準的な会議規則は、委員会が採択すべきものと報告する請願のうち、関係機関への送付や処理の経過と結果の報告請求が適当なものについてはその旨を付記するとしている。送付と報告請求の要否を委員会の審査段階で判断する仕組みである。

3-7 「送付し、かつ、…報告を請求することができる」(第125条)

条文の構造を正確に読む必要がある。送付も報告請求も「できる」という書き方であり、どちらも議会の裁量に委ねられている。

「かつ」で結ばれているため、報告の請求は送付と併せて行うものと読める。送付しないまま報告だけを請求することは、この条文の枠組みの外にある。

報告請求を受けた執行機関が報告をしないときの効果は定められていない。報告を強制する手段も罰則もない。議会が報告を促す手段としては、第98条第1項の検査、第100条第1項の調査、第121条による出席要求といった他の権限を用いることになる。

報告の期限も条文にない。次の定例会までに書面で報告を求めるといった運用を申合せで定めている議会がある。

3-8 請願の採択に法的拘束力はあるか

採択は議会の意思表示であり、執行機関を法的に拘束しない。採択された請願の内容を執行機関が実施しなくても、違法となるわけではない。

請願者の側から見ても同じである。請願権は請願をする権利であって、採択を求める権利ではない。後述する東京高等裁判所の判決が示すとおり、請願者には審理を求める権利も採否や結果の通知を求める権利も生じないと解されている。

もっとも、採択は政治的な意味を持つ。住民代表機関である議会が公に賛意を示した事実は、執行機関の判断に影響を与える。第125条が送付と報告請求の仕組みを置いたのは、この政治的な効果を手続の面から支えるためである。

3-9 特例一部事務組合における読替え

第287条の2第7項は、特例一部事務組合について第124条の読替えを定める。同条中「議員」とあるのは「特例一部事務組合の構成団体の議会の議員」と、「請願書」とあるのは「当該構成団体の議会に請願書」と読み替える。

特例一部事務組合は、規約で定めるところにより、その議会を構成団体の議会をもって組織することとした一部事務組合である(第287条の2第1項)。固有の議会を持たないため、請願は構成団体の議会に対して行い、紹介議員も構成団体の議会の議員となる。組合固有の議会がない場合に請願の経路をどう確保するかという問題に、読替規定が答えている。


4 用語解説

請願とは、国または地方公共団体の機関に対し、損害の救済、公務員の罷免、法律・命令・規則の制定改廃その他の事項について希望を述べる行為をいう。憲法第16条が権利として保障する。

陳情とは、議員の紹介を得ずに議会に提出される希望の申出をいう。地方自治法に根拠はなく、会議規則または申合せにより請願の例によって処理されることが多い。

紹介議員とは、請願書に署名または記名押印して請願を議会に取り次ぐ議員をいう。1人で足りる。

請願文書表とは、受理番号、請願者の住所と氏名、請願の要旨、紹介議員の氏名、受理年月日を記載して議長が作成し議員に配布する文書をいう。会議規則に基づく。

採択とは、請願の内容が適当であり実現を図るべきものと議会が認める議決をいう。

一部採択とは、請願の一部について採択する扱いをいい、趣旨採択とは、請願の趣旨は理解できるが現時点では実施が困難なものについて用いる扱いをいう。いずれも法律上の概念ではなく、会議規則または申合せに基づく。

みなし採択とは、同一会期中に同一内容の議案が既に可決または否決されている場合などに、請願について改めて採否を決しない扱いをいう。議会によって用語と運用が異なる。

送付とは、採択した請願を関係機関に送ることをいい、第125条が議会の裁量として定める。

処理の経過及び結果の報告の請求とは、送付した請願について執行機関がどう対応したかの報告を求めることをいい、第125条が送付と併せて行えるとする。


5 判例・裁判例

5-1 請願法第5条の性格を示した東京高判平成23年6月8日

東京高等裁判所判決平成23年6月8日(平成23年(行コ)第30号、原審・千葉地方裁判所平成22年(行ウ)第15号)は、請願の法的性格について次の判断を示した。

請願をしても、請願者と官公署の間に特別な公法上の法律関係は生じない。請願は官公署に対する希望や意見の陳述にとどまる。請願者には、審理を求める権利や、採否および結果の通知を求める権利は生じない。請願法第5条の誠実処理義務は、官公署の事務処理上の行為規範にとどまるものであり、受理した官公署が請願者に対して請願処理手続上の義務を負うものではない。

この判断は、請願権の内容を限定的に捉えるものである。請願をする行為は憲法上保護されるが、請願が受理された後の処理について請願者が法的な請求権を持つわけではない。議会が請願を不採択としたこと、審査が遅れたこと、結果を通知しなかったことを理由に、請願者が議会を相手に訴訟を起こしても、請求の根拠を欠くことになる。

実務の側から見ると、この判断は結果通知の運用が法律上の義務ではないことを意味する。多くの議会が請願者の代表者に審査結果を文書で通知しているのは、法律に命じられているからではなく、制度への信頼を保つための自主的な取組である。

5-2 請願権侵害を認めた東京高判令和元年4月10日

東京高等裁判所判決令和元年4月10日(平成29年(ネ)第4726号)は、請願権侵害を理由とする国家賠償請求を認め、国に528万円の支払を命じた。国が上告しなかったため確定している。

事案は、会社の元代表取締役が、随意契約の廃止を求める政治活動と東京湾第二海堡の保存を求める請願活動に関して、国土交通省の担当官から圧力を受けたとして国家賠償を求めたものである。判決は、関東地方整備局の担当官らの行為が請願権等を侵害し、会社への介入にとどまらず元代表取締役個人に対する違憲・違法な制裁にも当たるとした。

請願を理由とする差別待遇の禁止は、憲法第16条後段と請願法第6条が定める。請願権の内容として、請願をする行為そのものは厚く保護されるという対照が、5-1の判断と並べて見えてくる。採否を求める権利はないが、請願をしたことを理由に不利益を受けない権利はある。

地方議会の場面に置き換えれば、請願をした住民や紹介をした議員に対して執行機関が不利益な取扱いをすれば、この判決の射程に入りうる。請願に関わった事業者を入札から排除する、紹介議員の選挙区に対する施策を不利に扱うといった行為である。議会事務局の職員が直接関わる場面は少ないが、執行機関の側で請願への対応を検討する際には押さえておくべき判断である。

5-3 最高裁判例の状況

第124条と第125条について、条文の解釈を正面から示した最高裁判所の判例は見当たらない。紹介議員の要件の意味、陳情を請願と同様に扱う運用の適法性、趣旨採択と第125条の関係、報告請求に応じない執行機関の責任といった論点は、いずれも最高裁の判断が示されていない。

議会の請願の審査は議会内部の手続であり、第125条の送付と報告請求は議会と執行機関の関係に属する。いずれも訴訟類型を見いだしにくく、司法判断が積み上がらない構造にある。この分野の解釈は、行政実例と各議会の運用の蓄積に依拠している。


6 会議規則による具体化と実務データ

6-1 標準会議規則が埋める空白

法律が定めるのは、議員の紹介により請願書を提出すること(第124条)と、採択請願の送付と報告請求(第125条)だけである。残りは会議規則が定める。標準的な市議会会議規則の構成は次のとおりである(条番号は議会により異なる)。

会議規則の規定内容
請願書の記載事項等日本語による記載、請願の趣旨、提出年月日、請願者の住所、署名または記名押印、法人の場合の取扱い、紹介議員の署名または記名押印、紹介の取消し、平穏な提出、請願の撤回
請願文書表の作成及び配布議長が作成し議員に配布。受理番号、請願者の住所氏名、請願の要旨、紹介議員の氏名、受理年月日を記載
請願の委員会付託議長が所管の常任委員会または議会運営委員会に付託。付託の必要がないと認めるときは付託しない。特別委員会への付託。2以上の委員会の所管にまたがる場合の取扱い
紹介議員の委員会出席委員会は審査のため必要があれば紹介議員の説明を求めることができ、紹介議員は応じなければならない
請願の審査報告採択すべきものと不採択とすべきものに区分し、意見を付けて議長に報告。送付と報告請求が適当なものはその旨を付記
請願の送付並びに処理の経過及び結果報告の請求採択請願のうち送付すべきものを送付し、報告を求めることに決まったものは報告を請求
陳情書の処理陳情書またはこれに類するもののうち内容が請願に適合するものは請願書の例により処理

法律の二か条が、会議規則では七つの条文に展開されている。議会事務局が請願を処理するとき、手順の根拠はほぼすべて会議規則にある。第124条と第125条を読んで手順を組み立てようとしても足りない。

6-2 都道府県議会における請願と陳情の傾向

請願と陳情の受理件数と採択率について、都道府県議会を対象に分析した研究がある(五ノ井健・小川寛貴「都道府県議会における請願と陳情」LEC会計大学院紀要第21号)。平成3年から平成30年までの期間を対象とした分析から、次の傾向が示されている。

請願と陳情の受理件数は長期的に減少傾向にある。陳情の受理件数は都道府県全体でも多くの議会でも請願より多い。採択率は請願の方が陳情より高い傾向があり、陳情の採択率は議会ごとの平均では平成12年代以降おおむね5パーセント前後である。

制度面の運用も一様ではない。請願の閉会中受理を認めない議会があり、委員会付託の締切日は開会日以前、開会日当日、開会後と議会によって大きく分かれる。陳情の採否を決定しない議会もある。

紹介議員を要しない陳情の方が件数が多く、紹介議員を要する請願の方が採択率が高いという対照は、紹介議員制度の機能を考えるうえで示唆的である。議員の紹介を経ることが、審査に値する内容への絞り込みとして働いているとも読める。

6-3 陳情の取扱いのばらつき

全国市議会議長会「市議会の活動に関する実態調査結果(令和7年中)」によれば、請願と同様の扱いをしなかった陳情が1件以上あった市は735市である(令和6年中は734市)。815市のうち9割前後の市で、請願と同様に扱わない陳情が存在している。

その処理の状況として、735市のうち所管委員会のみの審査とした市が64市(8.7パーセント)、その他(議長預かり等)が246市(33.5パーセント)と集計されている。

なお、同調査の請願の処理状況の表については、公開PDFからの機械的な読み取りで列と数値の対応を確定できなかった。採択・一部採択・趣旨採択・不採択・取下げ・審議未了・継続審査の各件数は、原表を直接確認する必要がある。本稿では読み取りが確実な数値に限って紹介している。

6-4 オンライン提出の動き

第138条の2による手続のオンライン化に対応して会議規則または委員会条例を改正済みの市は215市(26.4パーセント)であり、改正等を行った143市のうち請願の提出をオンライン化した市は68.5パーセント、陳情の提出は67.1パーセントである(いずれも令和7年12月31日現在)。

請願のオンライン化には固有の難しさがある。横浜市会が令和7年9月25日に市会運営委員会で了承した資料は、請願には請願者と紹介議員が複数となる場合があり、電子署名は個人単位の仕組みであるため、複数人の真意確認等の方法の検討が必要であるとして、請願のオンライン提出を継続検討としてきた経緯を記している。

同市会は陳情のオンライン提出を令和6年4月に試行し、問題がなかったと評価した。陳情の提出件数に占めるオンライン提出の割合は令和6年度が31.3パーセント、令和7年度の一部集計で29.5パーセントであり、土日や夜間の提出もあって利便性が向上したとされる。令和7年9月25日に陳情の本格実施と請願の試行が了承された。

請願のオンライン提出について同市会が採る方法は、紹介議員が複数の場合は少なくとも1人が事前に議会局へ届け出ることとし、提出後に議会局がすべての紹介議員に紹介の意思を確認するというものである。この確認が署名および押印に代わる真正性の確認となり、請願者と紹介議員の署名押印は不要とされる。紹介の取下げは、委員会付託前は議長の許可、付託後は議会の許可によるとされている。

請願書の署名または記名押印を会議規則が求めている以上、オンライン提出を可能にするには、署名に代わる確認方法を会議規則または規程の水準で定める必要がある。横浜市会の例は、電子署名によらず議会局による意思確認で代替するという設計を示したものである。


7 施行令・施行規則の関連規定

7-1 請願に関する政省令の規定はない

地方自治法施行令と地方自治法施行規則を全文検索したところ、「請願」「陳情」「紹介」の語はいずれも一度も現れない。第124条と第125条を受けて手続や様式を定めた政令・省令の規定は存在しない。

請願書の記載事項、請願文書表の様式、委員会付託の手続、送付と報告請求の方法は、すべて各議会の会議規則が定めている。住民の権利行使に関わる手続でありながら、国は様式を定めていない。直接請求の各種書類について施行規則が別記様式を定めているのと対照的である。

その理由は、請願が議会の内部手続として処理されることに求められる。条例制定の直接請求(第74条)が選挙管理委員会を経由し署名の審査を伴う手続であるのに対し、請願は議会が受理して議会が審査する。国が全国統一の様式を定める必要がなく、議会の自律に委ねられている。

7-2 第138条の2第1項の対象としての第124条

政省令が請願に直接触れていないという整理には、令和6年4月1日以降、一つの例外が加わった。

第138条の2第1項は、議会等に対して行われる通知のうちこの章の規定において文書等により行うことが規定されているものについて、総務省令で定めるところにより電子情報処理組織を使用する方法により行うことができるとする。総務省の令和5年5月8日付け通知は、この項の対象として第109条第6項・第7項、第112条第1項・第3項および第124条が該当するとしている。

第124条が第138条の2第1項の対象となる以上、請願のオンライン提出には施行規則第12条の2の3から第12条の2の9までの規定が適用される。具体的には次のとおりである。

施行規則第12条の2の3は、使用すべき電子情報処理組織を、議会等の使用に係る電子計算機と、議会等に対して通知を行う者の使用に係る電子計算機であって議会等の電子計算機と電気通信回線を通じて通信できる機能を備えたものとを電気通信回線で接続したものと定める。

施行規則第12条の2の4第1項は、通知を行う者が、議会等の定めるところにより、議会等の指定する電子計算機に備えられたファイルに記録すべき事項または文書等により行うときに記載すべきこととされている事項を入力して通知を行わなければならないとする。請願書に記載すべき事項を会議規則が定めているのであれば、その事項を入力することになる。

同条第2項は、通知を行う者が電子署名を行い、電子証明書と併せて送信しなければならないとしつつ、ただし書で、議会等の指定する方法により通知を行った者を確認するための措置を講ずる場合はこの限りでないとする。横浜市会が議会局による紹介意思の確認をもって署名押印に代える設計を採ったのは、このただし書に拠るものと理解できる。総務省は令和6年1月19日付けの通知で、このただし書の本人確認措置として、主体認証による確認のほか、アクセスログや電子メール送付等のプロセスの記録を活用した確認も考えられるとし、各通知の主体や性質等を総合的に勘案して本人からの通知であることを確認できる方法とするよう求めている。

施行規則第12条の2の9は、これらに定めるもののほか必要な事項は議会等が定めるとする。請願のオンライン提出の具体的な手順を定めるのは、最終的には各議会である。

7-3 附則第15条による電子証明書の確認主体の追加

令和5年法律第19号の附則第15条により、請願をオンラインで行えるようになったことに伴い、マイナンバーカードの電子証明書の有効性を確認することができる者として地方公共団体の議会が追加された。

電子署名による請願の提出を受けるには、議会が送られてきた電子証明書の有効性を確認できなければならない。改正前はその立場にある者として議会が位置づけられていなかったため、附則で手当てされた。第124条という一か条のオンライン化が、他の法律の改正を伴ったことになる。

もっとも、前項のとおり施行規則第12条の2の4第2項ただし書により議会が指定する本人確認措置によることも認められている。電子署名を用いるかどうかは議会の選択であり、横浜市会のように電子署名を用いない設計も成り立つ。附則第15条は、電子署名による提出を選ぶ議会のために道を開いた規定である。


8 実務上の処理手順

8-1 請願書を受理するとき

提出された文書が請願書か陳情書かを確認する。紹介議員の署名または記名押印があれば請願書である。ないものは陳情書として扱い、内容が請願に適合するものであれば請願書の例により処理する。

請願書については、記載事項が会議規則の要件を満たしているかを確認する。日本語で記載されているか、請願の趣旨が明らかか、提出年月日と請願者の住所が記載されているか、請願者の署名または記名押印があるか、法人の場合は名称と所在地が記載され代表者が署名または記名押印しているか、紹介議員の署名または記名押印が表紙にあるかを点検する。

受理した日を記録し、受理番号を付す。議長が請願文書表を作成し、議員に配布する。

請願者の資格に住民要件を課すことはできない。区域外の者、法人、未成年者、外国人からの請願も受理する。当該団体の権限に属しない事項を内容とする請願について、受理を拒むのではなく、審査の結果として不採択とする扱いが安全である。

8-2 委員会に付託するとき

議長が請願文書表の配布とともに所管の常任委員会または議会運営委員会に付託する。付託の必要がないと認めるときは付託しない。2以上の委員会の所管にまたがる場合は、2以上の請願が提出されたものとみなす扱いが会議規則に置かれている。

委員会が紹介議員の説明を求める場合は、日程を調整する。紹介議員は説明の要求に応じなければならない。請願者に意見陳述の機会を設けている議会では、委員会の開催日に合わせて日程を定め、発言できる者の範囲(請願者本人または共同請願の代表者、委員会が認める補助者1人など)を確認する。

8-3 採択したとき

委員会の審査報告を受けて、本会議で採否を議決する。出席議員の過半数で決する。

採択した請願について、第125条の送付をするかどうか、報告の請求をするかどうかを決する。委員会の審査報告にその旨の付記があれば、それに沿って処理する。

送付先は、長、教育委員会その他の法律に基づく委員会または委員のうち、措置することが適当と認められる機関である。条例の制定改廃を求める内容であれば、送付ではなく議会自身が条例案を審議する。国や他の機関に意見を述べるべき内容であれば、第99条の意見書の提出を検討する。

報告を請求するときは、報告の期限と方法を併せて示す。次の定例会までに書面で報告を求める運用が行われている。報告を強制する手段はないため、期限を明示しておくことが実務上の担保となる。

8-4 請願者への通知

請願者への結果通知は法律上の義務ではない。東京高等裁判所判決平成23年6月8日が示すとおり、請願者には採否や結果の通知を求める権利は生じないと解されている。

もっとも、通知をしなければ請願者は結果を知る手段を持たない。議長から請願者の代表者に文書で通知する運用が広く行われている。送付した場合はその旨、報告を請求した場合はその旨も併せて伝え、報告が届いたら改めて知らせるかどうかを議会の方針として定めておく。

8-5 オンライン提出を導入するとき

会議規則が請願書に署名または記名押印を求めている以上、オンライン提出を可能にするには署名に代わる確認方法を定める必要がある。電子署名によるか、施行規則第12条の2の4第2項ただし書に基づき議会が指定する本人確認措置によるかを選択する。

請願者が複数の場合、紹介議員が複数の場合の真意確認の方法を設計する。横浜市会の例では、紹介議員のうち少なくとも1人が事前に議会局へ届け出て、提出後に議会局がすべての紹介議員に紹介の意思を確認する方法が採られている。

文書による請願は従前のとおり受理する必要がある。オンライン提出のみを認める運用はできない。

付託締切後に署名者が追加されたり文書が差し替えられたりした場合の扱いも、あらかじめ整理しておく。紙の資料と電子データを併用する間は、議員控室に配付した資料の差し替えという手作業が生じる。


9 昇任試験で問われる論点

第124条では、議員の紹介が必要であること、紹介議員は1人で足りること、請願書は文書によること、請願者の資格に住民要件がないことを押さえる。憲法第16条が「何人も」と定めていることを根拠として説明できると説得力が増す。

請願と陳情の区別は定番である。請願は憲法第16条が保障する権利の行使であり地方自治法第124条が提出方式を定める。陳情は地方自治法に根拠を持たず、会議規則が請願の例により処理する旨を定めることで扱われる。紹介議員の有無が形式的な区別であり、陳情については住民要件を課す議会があることまで書き分けられると差がつく。

第125条では、送付と報告請求がいずれも議会の裁量であること、送付先が法律に基づく委員会または委員に限られること、報告を強制する手段がないことを整理する。国会法第81条第2項が内閣の報告を義務としているのに対し、地方自治法が「請求することができる」としている違いは、比較の素材として使いやすい。

請願の採択に法的拘束力がないことも問われやすい。採択は議会の意思表示であって執行機関を拘束せず、請願者にも採否や結果の通知を求める権利は生じない。東京高等裁判所判決平成23年6月8日まで挙げられれば厚みが出る。

論文では、住民が議会や執行機関に働きかける手段を体系的に整理させる設問が考えられる。第74条の条例制定改廃の直接請求、第75条の事務監査請求、第76条以下の解散・解職請求、第242条の住民監査請求、第242条の2の住民訴訟、そして第124条の請願を並べ、請求権者の要件、必要な署名数、法的効果の有無によって整理する。請願が署名数の要件を持たず誰でも行えるかわりに法的拘束力を欠くこと、直接請求が厳格な要件を課すかわりに議会への付議を強制することという対照を示すと、制度の設計意図が浮かび上がる。


10 国の制度との簡単な対比

国会法第79条は「各議院に請願しようとする者は、議員の紹介により請願書を提出しなければならない」と定める。地方自治法第124条とほぼ同一の文言である。紹介議員制度は国と地方で共通している。

審査の手続については違いがある。国会法第80条第1項は、請願は各議院において委員会の審査を経た後これを議決すると定め、同条第2項は、委員会において議院の会議に付するを要しないと決定した請願は会議に付さないが、議員20人以上の要求があるものは会議に付さなければならないとする。地方自治法にはこれに相当する規定がなく、委員会付託の要否も本会議に付するかどうかも会議規則が定める。

採択後の処理も異なる。国会法第81条第1項は、採択した請願で内閣において措置するを適当と認めたものは内閣に送付するとし、同条第2項は、内閣は前項の請願の処理の経過を毎年議院に報告しなければならないと定める。報告は内閣の義務である。地方自治法第125条は送付と報告請求をいずれも議会の裁量としており、議会が請求しなければ報告が来ない。住民の請願がその後どう扱われたかを追跡する仕組みは、国会の方が強い。

国会法第82条は「各議院は、各別に請願を受け互に干預しない」と定める。二院制に固有の規定であり、地方議会には対応する規定を置く必要がない。

採択率については、衆議院で約31パーセント、参議院で約29パーセント(第1回から第118回国会までの累計)という数値が国立国会図書館の調査資料に示されている。地方議会の請願の採択率と比較する際の目安になる。

地方公務員法との関係では、請願法第6条と憲法第16条後段が定める差別待遇の禁止が、職員の服務との接点を持つ。請願に関わった住民や事業者に対して職員が不利益な取扱いをすれば、地方公務員法第32条の法令遵守義務に反し、第29条の懲戒の対象となりうる。東京高等裁判所判決令和元年4月10日が国家賠償責任を認めた事案は、この種の行為が現実に問題となることを示している。


11 参考資料


◆自治体研修850回超の行政書士が、係長・課長昇任試験の論文を1本から添削します。 https://compliance21.com/promotion-examination-lg/

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