1 条文原文

令和8年12月1日施行の公益通報者保護法(平成16年法律第122号。令和7年法律第62号による改正後)第12条は、次のとおりである。

(公益通報対応業務従事者の義務) 第十二条 公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない。

第12条を読むために不可欠な関連条文を併せて掲げる。

(事業者がとるべき措置) 第十一条 事業者は、第三条第一項第一号及び第六条第一項第一号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(第十二条において「公益通報対応業務」という。)に従事する者(第十二条において「公益通報対応業務従事者」という。)を定めなければならない。

(通報者探索の禁止) 第十一条の三 第二条第一項各号に定める事業者は、正当な理由がなく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為をしてはならない。

第二十二条 第十二条の規定に違反して同条に規定する事項を漏らした者は、三十万円以下の罰金に処する。

なお、両罰規定である第23条は、その各号において第21条第1項及び同条第2項のみを掲げており、第22条は掲げていない。


2 令和7年改正における第12条の位置づけ(新旧の対照)

2-1 条文自体は無改正

項目令和2年改正法(現行・令和4年6月1日施行)令和7年改正法(令和8年12月1日施行)
守秘義務の条文番号第12条第12条(変更なし)
守秘義務の条文内容従事者・元従事者に対し、正当な理由なく公益通報者を特定させる事項を漏らすことを禁止同一文言(改正なし)
違反に対する罰則の条文番号第21条第22条(旧第21条を繰下げ)
罰則の内容30万円以下の罰金30万円以下の罰金(変更なし)
両罰規定なし第23条を新設。ただし対象は第21条第1項・第2項のみで、第22条は対象外

2-2 条文が動かないのに実務が動く三つの理由

条文が無改正であっても、第12条をめぐる実務環境は令和8年12月1日を境に大きく変わる。理由は三点である。

第一に、守秘義務の射程が実質的に広がる。第12条が保護するのは「公益通報者」であるところ、令和7年改正は第2条第1項第3号を新設し、特定受託業務従事者(フリーランス)及びフリーランスであった者を公益通報者の範囲に加えた。第11条第1項が定める公益通報対応業務は「第三条第一項第一号及び第六条第一項第一号に定める公益通報」を対象とし、フリーランスによる1号通報もこれに含まれる。したがって、業務委託先の個人事業主から内部窓口に通報が寄せられた場合、その者を特定させる事項は第12条の客体となる。労働者と役員だけを想定した従来の窓口規程は、この点で更新を要する。

第二に、従事者を定める義務そのものが行政処分と刑事罰で担保されるようになった。第15条の2により、内閣総理大臣(権限は第19条により消費者庁長官へ委任)は従事者指定義務違反に対して勧告し、従わない場合は命令でき、命令違反には第21条第2項第1号の罰金と第23条の両罰が及ぶ。第16条第1項の立入検査も新設された。従事者を「置かない」という消極的対応は、これまで以上に高い代償を伴う。

第三に、第11条の3(通報者探索の禁止)が新設され、第12条と対になる規律が事業者側にも課された。従来は「漏らす側」だけが名宛人であったが、これからは「探す側」にも明文の禁止が及ぶ。両者の関係は後述する。


3 趣旨・立法背景

3-1 民事ルールから刑事ルールへ

消費者庁の逐条解説は、第12条の趣旨を次の筋道で説明する。

平成16年制定当時の原始法は、公益通報者を保護するための民事ルールを中心に構成されていた。解雇の無効や不利益取扱いの禁止という規律は、通報者と労働契約関係にある事業者を名宛人とする。そのため、事業者内部で通報を受け付ける担当者個人のように、通報者と労働契約関係にない者については規定が置かれず、担当者による通報者情報の漏えいも規律の外に置かれていた。

しかし、通報者が誰であるかが知られると、不利益取扱いを受ける可能性が現実化するだけでなく、特定されたという事実そのものが通報者を不安にさせる。その結果として1号通報が躊躇され、事業者が自ら法令違反を是正する機会が失われる。

第11条により事業者に体制整備義務を課しても、周知や研修による実効性確保には限界がある。そこで令和2年改正は、担当者個人に対して直接に漏えい禁止義務を課し、これに刑事罰を接続する構造を採った。

3-2 なぜ「従事者」に限定したのか

第11条第1項は、従事者以外の者が公益通報対応業務に事実上関与することを禁じてはいない。職制上のレポーティングライン、すなわち上司や同僚に対して不正行為を告げた場合であっても、1号通報の要件を満たせばその者は公益通報者として保護される。

もっとも、従事者は事業者によって特に指定され、常に通報を受ける可能性があるとの意識を持つ立場にある。これに対して非従事者は、通常業務における報告・連絡・相談の一環として不正を認知するにとどまる。非従事者による漏えいを一律に刑事罰の対象とすれば、部下や同僚からの報告内容を第三者と共有すること全般に萎縮効果が生じ、通常業務の遂行に支障が生ずる。

この衡量の結果として、刑事罰付き守秘義務の名宛人は従事者及び元従事者に限定された。非従事者による通報者特定情報の漏えいについては、第11条第2項に基づく事業者の措置として、内規で懲戒その他の措置の対象とすることにより防止を図る整理となっている。指針の解説も、窓口担当者以外の上司等が従事者に指定されていない場合であっても、範囲外共有を防止する体制の対象にはなると明記する。

3-3 罰則が30万円にとどまる理由と、その帰結

第22条の法定刑は30万円以下の罰金であり、拘禁刑を含まない。参考として、国家公務員法第100条第1項違反の罰則(同法第109条第12号)及び地方公務員法第34条第1項違反の罰則(同法第60条第2号)は、いずれも1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金である。刑法第134条第1項の秘密漏示罪は6月以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金である。

法定刑の水準は、抑止力としての限界を意味する。したがって実務上の重心は、刑事罰そのものよりも、①民事上の損害賠償責任、②懲戒処分、③行政上の公表・レピュテーション、④取締役の善管注意義務違反に基づく責任追及、といった多層的な帰結に置かれる。この点は第9節で扱う。


4 用語解説

新任担当者が最初につまずく語を、条文上の位置とともに整理する。

用語定義の所在内容
公益通報対応業務第11条第1項の括弧書第3条第1項第1号及び第6条第1項第1号に定める公益通報(いわゆる1号通報=内部公益通報)を受け、通報対象事実を調査し、その是正に必要な措置をとる業務
公益通報対応業務従事者(従事者)第11条第1項の括弧書公益通報対応業務に従事する者として事業者が定めた者
内部公益通報受付窓口指針の定義内部公益通報を部門横断的に受け付ける窓口
公益通報者を特定させる事項指針の解説の脚注公益通報をした人物が誰であるかを認識することができる事項。「認識」とは、刑罰法規の明確性の観点から、公益通報者を排他的に認識できることを指す
範囲外共有指針の定義公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為
通報者探索指針の定義(第11条の3)公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為
労働者等第2条第1項第4号の括弧書労働者又は派遣労働者

「範囲外共有」は法律上の用語ではなく指針上の概念である点に注意を要する。第12条違反は「範囲外共有」の一部を刑事罰で切り取ったものであり、両者は重なりつつも一致しない。範囲外共有のほうが概念として広い。


5 要件の逐語的解釈

第12条は、①主体、②客体、③行為、④違法性阻却事由(正当な理由)の四つの要素から成る。消費者庁逐条解説と「従事者に関するQ&A」に即して順に検討する。

5-1 主体──「公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者」

主体は、事業者が第11条第1項に基づき従事者として定めた者に限られる。ここから三つの実務論点が導かれる。

第一に、「事業者が定めた」ことが前提となる以上、指定を受けていない者は、たとえ通報者を特定させる事項を知り得たとしても第12条の主体にならない。他方で、指針は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行い、かつ当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を従事者として定めなければならないと規定する。指定すべき者を指定していない状態は、第11条第1項違反として行政措置の対象になる。指定漏れは、担当者を第12条の適用外に置くと同時に、事業者を制裁の射程に置く。

第二に、指定は「その者自身に明らかとなる方法」で行う必要がある。指針は、書面による指定を例示し、従事者の地位に就くこと、それに伴い第12条の守秘義務が課されること、第22条の罰則の適用対象となり得ることが本人に明らかとなる方法によることを求める。消費者庁Q&Aは、個人名を明示した書面の交付のほか、内部公益通報受付窓口の担当者になること及び当該担当者が従事者であることを記載した書面の交付も方法として挙げる。部署・チーム・役職といった属性単位の指定も可能であるが、その場合でも本人への明示が要る。

第三に、外部委託先も主体となる。窓口業務を外部の弁護士等に委託した場合、その弁護士等が公益通報者を特定させる事項を伝達されるのであれば、従事者として定める必要がある。指針の解説の脚注も、範囲外共有等を防止すべき対象に外部委託先が含まれ、外部委託先が従事者として定められる場合もあると明記する。

取締役・監査役についても注意を要する。消費者庁Q&Aは、事業者の業務執行全般に責任を負う取締役や、業務の適法性等の監査を業務とする監査役が内部公益通報の報告を受ける場合に、対応業務へ主体的に関与せず重要部分にも関与しないと評価されることは基本的に想定しがたいとし、通報者を特定させる事項を含む形で報告を受けるのであれば原則として従事者に指定する必要があるとの整理を示す。取締役会・監査役会への報告フローを設計している事業者は、この整理を前提に指定範囲を見直すべきである。

「従事者であった者」が主体に含まれる点も見落とせない。異動・退職・委託契約終了によって従事者の地位を離れても、従事者であった期間に知り得た事項に係る守秘義務は、期限の定めなく課される。消費者庁Q&Aが明示するとおりである。定年退職した元コンプライアンス部長が、退職後の会食で過去の通報者名を口にすれば、第12条違反となり得る。

5-2 客体──「公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるもの」

客体は二重の限定を受ける。

第一の限定は「公益通報対応業務に関して知り得た」である。逐条解説は、これを公益通報対応業務を実施することにより知ることができた事項と解し、業務とは無関係に知ることができた事項、例えば社員食堂等でたまたま見聞した事項は該当しないとする。刑法第134条第1項の「その業務上取り扱ったことについて知り得た」に関する解釈(隣家や飲食店等でたまたま見聞した事項は含まれない)を参照した整理である。

第二の限定は「公益通報者を特定させるもの」である。逐条解説は、当該事項を知った者(その者を通じて知った者を含む)において、公益通報をした人物が誰であるかを認識することができる事項を意味するとし、「認識」を排他的な認識と解する。刑罰法規の明確性という罪刑法定主義上の要請に由来する限定である。

具体的な当てはめは次のとおりとなる。

  • 氏名・社員番号など人物に固有の事項は典型例である。
  • 一般的な属性であっても、他の事項と照合することで排他的に特定できるなら該当する。逐条解説は、通報対象事実が生じた部門に女性従業員が1人しかいない場合、性別のみでも該当するとする。Q&Aは、大阪支店の女性社員が1名のみの会社において「大阪支店の女性が内部通報を行った」という情報が該当するとの例を挙げる。
  • 通報の内容それ自体が該当する場合がある。逐条解説は、直接の担当者である公益通報者以外に知り得ない事項である場合を挙げる。「あの帳簿の記載を見た者しかいない」という内容は、氏名を伏せても名指しに等しい。
  • 逆に、氏名等を含む情報を伝えた場合であっても、公益通報があったことを伝えていなければ、公益通報と当該人物を結び付けて認識できないため、該当しない。この帰結が、後述する調査手法の設計に直結する。

5-3 行為──「漏らす」

逐条解説は、国家公務員法第100条第1項の「漏ら」すの解釈を参照し、一般に知られていない事実を一般に知らしめること、又は知らしめるおそれのある行為をすることをいうとする。範囲は広い。

  • 方法は問わない。文書でも口頭でもよい。
  • 作為・不作為を問わない。漏えいの黙認も含まれる。通報記録を施錠せず放置し、第三者が閲覧できる状態を放置する行為は、不作為による漏えいとして評価され得る。
  • 相手方は不特定多数に限らない。特定の1人に対する開示であっても、その者を通じて広く流布されるおそれがある以上、漏えいに当たる。Q&Aは、上司・同僚などの他の労働者や、社外の知人・家族に知らせることも「漏らす」に該当するとする。

家族への口外が明示的に挙げられている点は、研修教材に必ず盛り込むべき事項である。「守秘義務は社外秘の話だ」という理解は誤りであり、社内の上司への報告こそが最も頻度の高い違反類型である。

5-4 「正当な理由」──違法性阻却の4類型

逐条解説は、「正当な理由」を、公益通報者を特定させる事項を漏らす行為に違法性がないと考えられる場合と定義する。消費者庁「従事者に関するQ&A」Q10は、次の4類型を挙げる。

  1. 公益通報者本人の同意がある場合
  2. 法令に基づく場合
  3. 調査等で必要な範囲において従事者間で情報共有する場合
  4. 調査又は是正措置の実施に際し、従事者の指定を受けていない者(例えば通報対象事実に係る業務執行部門の関係者等)に対し、公益通報があったことも含めて公益通報者を特定させる事項を伝えなければ、調査又は是正措置を実施することができない場合

各類型について、実務上の留意点を述べる。

第1類型(本人同意)。同意は、対象範囲と目的を特定して取得する必要がある。地方公共団体向けガイドラインは、通報者等の特定につながり得る情報を情報共有が許される範囲外に開示する場合には書面・電子メール等による明示の同意を取得すること、その際には開示する目的及び情報の範囲並びに開示によって生じ得る不利益について明確に説明することを求める。「調査に必要なら関係者に伝えてもよいか」という漠然とした確認は、同意として脆弱である。指針の解説は、ハラスメント事案等で被害者と公益通報者が同一の事案において、被害者の心情に配慮しつつ、書面等により同意の有無について誤解のないよう同意を得ることが望ましいとする。

第2類型(法令に基づく場合)。捜査機関からの捜査関係事項照会(刑事訴訟法第197条第2項)、裁判所の文書提出命令、監督官庁の報告徴収などが典型である。会社法上の監査役の調査権・報告徴求権に基づく情報提供もこれに含まれる。ただしQ&A Q12は、監査業務遂行上の支障がない限り、公益通報者を特定させる事項を情報提供の範囲から外すなど、共有される範囲を限定することが望ましいとし、加えて、当該情報提供により監査役が従事者に指定すべき条件を満たした場合には従事者に指定する必要があるとする。「法令に基づくから丸ごと開示してよい」という運用は適切でない。

第3類型(従事者間共有)。無限定ではない。同一案件に関与しない従事者への共有は認められない。従事者という地位は共有の許可証ではなく、案件単位の必要性が要件である。

第4類型(非従事者への伝達がやむを得ない場合)。逐条解説は、ハラスメント事案において刑法犯等に該当する行為が行われたため当該通報が公益通報に該当する場合等において、公益通報者が通報対象事実に関する被害者と同一人物である等のために、調査等を進めるうえで公益通報者の排他的な特定を避けることが著しく困難であり、当該調査等が法令違反の是正等に当たってやむを得ないものであるときに、正当な理由が認められるとする。要件は「著しく困難」かつ「やむを得ない」であり、便宜的な情報共有を許すものではない。

そして、この第4類型と隣り合う位置に、要件を満たすまでもなく問題が解消する経路がある。逐条解説は、非従事者に対し、公益通報があったことは伝えずに公益通報者の氏名等を含む情報を提供して調査を依頼する場合は、そもそも公益通報者を特定させる事項を漏らしたことにならないと述べる。実務上は、「正当な理由」を主張して踏み込むより先に、この経路が使えないかを検討するのが順序である。


6 第11条の3(通報者探索の禁止)との関係

令和7年改正で新設された第11条の3は、事業者に対し、正当な理由なく公益通報者を特定することを目的とする行為を禁止する。第12条との違いを整理する。

比較項目第12条(守秘義務)第11条の3(通報者探索の禁止)
名宛人従事者・元従事者(個人)第2条第1項各号に定める事業者
禁止される行為通報者を特定させる事項を漏らすこと(情報の流出)通報者を特定することを目的とする行為(情報の探索)
規模による差なし。従事者である以上、事業者の規模を問わないなし。全事業者が対象
罰則第22条(30万円以下の罰金)なし
私法上の効果明文なし(民法第709条等による)明文なし(第11条の2第2項のような無効規定は置かれていない)

両条は情報の「出口」と「入口」を規律する関係にある。第11条の3の「正当な理由」について、指針の解説は、通報者探索が原則として許容されず、正当な理由は限定的な場合にとどまるべきであるとしたうえで、匿名の通報について、通報者が具体的にどのような局面で不正を認識したのか等を特定したうえでなければ必要な調査や是正ができない場合に、公益通報に対応する際、第12条の規定により守秘義務を負う従事者が通報者の特定につながる事項を問うことは該当し得る、との例を示す。

この例示の構造に注目すべきである。探索の正当化は、探索する主体が第12条の守秘義務を負う従事者であることを前提に組み立てられている。従事者以外の者が「調査に必要だから」と通報者を探る行為は、この例示の枠外にある。従事者指定を怠っている組織では、正当な理由が認められる余地そのものが狭くなる。


7 罰則構造の精密な理解

7-1 第22条の構造

第22条は、第12条違反行為者を30万円以下の罰金に処する。要点は次のとおりである。

  • 故意犯である。過失による漏えい、例えばメールの誤送信は、故意が認められない限り第22条の構成要件を満たさない。もっとも、過失による漏えいであっても民事責任・懲戒責任・第11条第2項の体制整備義務違反の評価からは免れない。
  • 非親告罪である。通報者の告訴を要しない。
  • 両罰規定の対象外である。第23条第1項は第21条第1項及び第2項のみを掲げる。従事者が漏えいしても、法人が第22条により処罰されることはない。事業者の責任は、第11条をめぐる行政措置と民事責任に振り分けられる構造である。
  • 公訴時効は3年である。罰金のみを法定刑とする罪であるため、刑事訴訟法第250条第2項第6号による。起算点は漏えい行為時であり、漏えいが発覚した時ではない。ただし公訴時効の完成は、守秘義務そのものの消滅を意味しない。前述のとおり、従事者であった期間に知り得た事項に係る守秘義務は期限の定めなく続く。

7-2 公務員における競合

一般職の地方公務員が従事者に指定されている場合、通報者を特定させる事項の漏えいは、第12条違反であると同時に、地方公務員法第34条第1項の守秘義務違反にもなり得る。同法第60条第2号の法定刑は1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金であり、第22条より重い。一個の行為が二個の罪名に触れる場合として、刑法第54条第1項前段の観念的競合により、重い罪の刑で処断される整理となる。国家公務員についても、国家公務員法第100条第1項・第109条第12号との関係で同様に考えられる。

自治体の研修では「30万円の罰金」だけが強調されがちであるが、公務員である従事者にとっての現実的な制裁は地方公務員法による刑事責任と懲戒処分である。この点を正確に伝えるべきである。

7-3 個人情報保護法との接続

公益通報者を特定させる事項は、通常、個人データに当たる。従事者が意図的にこれを漏えいさせた場合、不正の目的をもって行われたおそれがある個人データの漏えい等として、個人情報保護法第26条に基づく個人情報保護委員会への報告及び本人への通知の対象となり得る(同法施行規則第7条第3号)。行政機関等については同法第68条が対応する。事業者側には同法第24条の従業者監督義務もある。

第12条違反の事案は、公益通報者保護法の問題として処理して終わりにはならない。個人情報保護法上の報告義務の履行期限(速報3〜5日以内、確報30日以内)を踏まえた初動設計が要る。


8 判例・裁判例

第22条(旧第21条)の適用事例として公表されたものは、令和8年8月時点で確認できない。もっとも、通報者を特定させる情報の管理を怠った事案は、民事訴訟において繰り返し断罪されてきた。第12条の解釈は、これらの蓄積を背景に読むべきである。

8-1 オリンパス事件(東京高判平成23年8月31日 労働判例1035号42頁、上告審・最判平成24年6月28日)

営業社員が、上司による取引先従業員の引抜き行為を社内のコンプライアンス室(ヘルプライン)に通報したところ、3度にわたる配置転換を受けた事案である。

第一審(東京地判平成22年1月15日)は請求を棄却したが、控訴審は判断を覆した。控訴審は、コンプライアンス室が通報者の秘密を守ることなく通報者を明らかにして関係者から事情を聴取したこと、その後、通報を含む一連の言動を問題視し、業務上の必要性とは無関係に、主として個人的な感情に基づき、いわば制裁的に配転命令がされたことを認定し、配転命令を人事権の濫用として無効とし、会社及び上司に損害賠償の支払を命じた。最高裁は会社の上告を棄却し、判断が確定した。

事案の核心は、通報窓口の責任者が通報メールを通報対象者である上司に転送したという点にある。令和8年12月1日施行法の下で同じ行為が行われれば、当該責任者は従事者として第12条違反に問われ、第22条の罰金の対象となる。加えて、会社は第11条第2項の体制整備義務違反を問われ、通報者に対する不利益取扱いは第3条第1項違反として第21条第1項の直罰の対象となり、法人には第23条第1項第1号により3000万円以下の罰金が科され得る。同一の事実関係に対する法的評価が、20年で決定的に変わったことになる。

なお、当時の判決は、通報者が不正競争防止法違反を明示的に指摘した証拠がないことを理由に、公益通報者保護法上の公益通報には当たらないと判断している。法の保護が及ばない領域で救済が図られた事案であり、この間隙を埋めることが法改正の課題であり続けた。

8-2 京都市(児童相談所職員)事件(大阪高判令和2年6月19日 労働判例1230号56頁)

京都市児童相談所に勤務していた職員が、性的虐待事案の相談が放置された疑いを内部通報するに際し、その裏付けとして要保護児童の個人情報を含む相談記録を外部に持ち出した行為等について、停職3日の懲戒処分を受け、その取消しを求めた事案である。

大阪高裁は、記録の持ち出し等の一部行為が懲戒事由に該当することを認めつつ、停職3日は重きに失するとして処分を取り消した。公務員に対する懲戒処分における裁量権の逸脱・濫用の判断枠組みとして、神戸税関事件(最三小判昭和52年12月20日 民集31巻7号1101頁・労働判例288号22頁)が引用されている。最高裁は令和3年1月に市の上告受理申立てを退け、職員の勝訴が確定した。

第12条の解説においてこの裁判例を取り上げる意義は、二方向にある。一つは、通報者側が証拠資料を持ち出す行為の是非という論点が、通報対応体制の設計次第で回避可能であるという点である。組織が通報者情報を守り、証拠の提出方法を安全に設計していれば、通報者が自ら資料を外部へ持ち出す動機は小さくなる。もう一つは、通報を契機とする懲戒処分は、事後的に裁量権の逸脱として取り消されるリスクを常に伴うという点である。

8-3 トナミ運輸事件(富山地判平成17年2月23日 労働判例891号12頁)

ヤミカルテルを報道機関等に通報した従業員が、その後、長期にわたり教育研修所での隔離的処遇や昇格差別を受けた事案である。裁判所は不法行為の成立を認め、損害賠償を命じた。通報から不利益取扱いまでの期間が長期に及んだ点に特徴があり、令和7年改正が導入した第3条第3項の推定規定(通報から1年以内の解雇・懲戒は公益通報を理由とするものと推定)が及ばない領域の問題を示唆する。通報者の匿名性が最初の段階で守られていれば発生しなかった類型である。


9 企業における内部通報の実例と、そこから導かれる設計

9-1 実態調査が示す構造的リスク

消費者庁「令和5年度 民間事業者等における内部通報制度の実態調査報告書」(令和6年4月公表)は、常時使用する労働者数300人超の事業者1905者のうち92パーセントが内部通報制度を導入していると回答したこと(平成28年度調査では82パーセント)、300人以下の事業者1488者のうち47パーセントが導入していると回答したこと(前回26パーセント)を報告する。

第12条との関係で注視すべきは、従事者指定義務に関する回答である。同調査では、回答事業者2373者のうち11パーセントが「知っているが、担当者を指名していない」と回答し、その理由として最も多かったのが「上司などに情報が共有されており、特段、不都合もないため」であり、約半数を占めた。

この回答は、従事者を指定しない理由として述べられているが、内容としては範囲外共有が常態化していることの自認にほかならない。上司に情報が共有されている状態を「不都合がない」と評価する組織文化は、第12条が防止しようとした事態そのものである。令和8年12月1日以降、この状態は第11条第1項違反として勧告・命令・立入検査の対象となり、同時に、指定されていない担当者が漏えいしても第12条による刑事責任を問えないという保護の空白を生む。

9-2 企業で頻出する漏えい類型と対策

実務で繰り返される類型を、対策とともに示す。

第一類型は、調査依頼メールに通報の経緯を書いてしまう場合である。「〇〇部から通報があり、△△の件を確認したい」という一文が、通報者を特定させる。対策は、逐条解説が示す考え方、すなわち公益通報があったことを伝えなければ通報者と当該人物を結び付けて認識できないという整理を運用に落とし込むことである。指針の解説は、調査の端緒が公益通報であることを関係者に認識させない工夫として、抜き打ちの監査を装うこと、該当部署以外の部署にもダミーの調査を行うこと、定期的な監査・職場環境調査・上司等による人事面談などの機会と合わせて調査を行うこと、核心部分ではなく周辺部分から調査を開始すること、組織内のコンプライアンス状況に関する匿名アンケートを全ての労働者等・特定受託業務従事者・役員を対象に定期的に行うことを挙げる。

第二類型は、システム設定に起因する漏えいである。指針の解説は、外部窓口への送信であることに起因して通報メールが上司等に同報される設定になっていないかを確認すべきことに触れる。窓口メールアドレスの転送設定・共有メールボックスの権限設定・グループウェアの自動アーカイブは、施行日前に必ず点検すべき対象である。あわせて、メール本文への記載ではなくパスワード付きの添付ファイルを利用すること、記録・資料に記載される関係者の固有名詞を仮称表記・マスキングにすることが挙げられている。

第三類型は、経営陣への報告における漏えいである。取締役会・監査役会への報告で通報者を特定させる事項を含めるのであれば、報告を受ける役員を従事者に指定する必要があるというのが消費者庁の整理である。指定を避けたいのであれば、報告内容から通報者を特定させる事項を除く設計に切り替えるほかない。

第四類型は、退職者・異動者による漏えいである。従事者であった者の守秘義務は無期限であるから、従事者を離れる際の解除通知に、義務が継続する旨を明記して署名を得る運用が有効である。

第五類型は、外部窓口と自社との情報授受における漏えいである。指針の解説は、外部窓口を設ける場合の推奨として、公益通報者を特定させる事項は、通報者を特定したうえでなければ必要性の高い調査が実施できない等のやむを得ない場合を除き、公益通報者の書面や電子メール等による明示的な同意がない限り事業者に対しても開示しないこととする措置を挙げる。委託契約書に、この開示制限と従事者指定の事実を書き込むべきである。

9-3 ハラスメント窓口との統合運用における危険

ハラスメント相談窓口と内部公益通報受付窓口を統合している事業者は多い。しかし、ハラスメント対応は被害者の特定を前提に進むのに対し、公益通報対応は通報者の匿名性維持を原則とする。設計思想が逆である。

刑法犯等に該当するハラスメント行為の通報は公益通報に該当し得るところ、被害者と通報者が同一である場合、調査の過程で通報者の排他的特定を避けることが著しく困難となる。この場合に「正当な理由」が認められ得ることは前述のとおりであるが、その前段として、指針の解説は、被害者の心情に配慮しつつ、書面等により同意の有無について誤解のないよう当該公益通報者から同意を得ることが望ましいとする。

統合窓口を採る場合は、受付時に、当該相談を公益通報として取り扱うか否かを判定するステップを設け、公益通報として取り扱う場合の同意取得書式を別途用意しておくべきである。


10 地方公共団体における適用

10-1 地方公共団体も「事業者」である

法第2条第1項の「事業者」には国及び地方公共団体が含まれる。したがって、常時使用する労働者数300人超の地方公共団体は第11条第1項の従事者指定義務を負い、指定された職員は第12条の守秘義務と第22条の罰則の対象となる。ただし第20条により、第15条から第16条までの規定(助言・指導、勧告・命令、報告徴収・立入検査)は国及び地方公共団体には適用されない。第23条第1項第1号の両罰規定も、同条第2項により国及び地方公共団体には適用されない。

行政措置が及ばないことは、自治体が緩やかな規律に服することを意味しない。第12条は個人に対する規定であるから、自治体職員である従事者にはそのまま適用される。制度の実効性は、住民監査請求、住民訴訟、議会による調査、国家賠償請求、そして第三者調査委員会という経路で担保される。

10-2 地方公共団体向けガイドラインの要求水準

「公益通報者保護法を踏まえた地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(内部の職員等からの通報)」(平成29年7月31日、令和8年5月29日最終改正、消費者庁)は、地方自治法第245条の4第1項に基づく技術的助言として、次を求める。

従事者の配置及び育成については、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行い、かつ当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を従事者として定めること、従事者を定める際には書面による指定など、従事者の地位に就くこと(それに伴い法第12条に定める守秘義務が課されること及び法第22条に定める罰則の適用対象となり得ることを含む)が本人に明らかとなる方法によること、公益通報対応業務に必要な適性及び能力を有する者を従事者とすること、従事者に対して教育・研修を十分に行い、公益通報対応業務の内容及び公益通報者を特定させる事項の取扱いについて特に十分に教育を行うこととする。

範囲外共有等の防止については、職員等が範囲外共有を防ぐための措置をとり、範囲外共有が行われた場合には適切な救済・回復の措置をとること、第11条の2第1項の正当な理由がある場合を除いて通報妨害行為を行うことを防ぐ措置をとること、第11条の3の正当な理由がある場合を除いて通報者探索を行うことを防ぐ措置をとることを求める。加えて、通報又は相談への対応に関与した者(付随する職務等を通じて秘密を知り得た者を含む)が秘密を漏らしてはならないこと、知り得た個人情報の内容をみだりに他人に知らせ又は不当な目的に利用してはならないことを徹底することを求める。

さらに国の行政機関向けガイドラインと同様の構造で、情報を共有する範囲及び共有する情報の範囲を必要最小限に限定すること、通報者等の特定につながり得る情報(氏名・所属等の個人情報のほか、調査が通報を端緒としたものであること、通報者等しか知り得ない情報等を含む)を調査等の対象となる事業者に対して開示しないこと、範囲外に開示する場合には書面・電子メール等による明示の同意を取得すること、同意取得の際には開示する目的及び情報の範囲並びに開示によって生じ得る不利益を明確に説明すること、通報者等本人からの情報流出を防ぐため情報管理の重要性を本人に十分理解させることが挙げられている。

通報者等の保護としては、範囲外共有・通報妨害行為・通報者探索を行った職員等、正当な理由なく通報又は相談に関する秘密を漏らした職員等、知り得た個人情報の内容をみだりに他人に知らせ又は不当な目的に利用した職員等に対し、行為態様・被害の程度その他の情状等を考慮して懲戒処分その他適切な措置をとることを求める。

人員・予算の制約への配慮も置かれている。専用の窓口設置が困難な団体は、秘密保持及び個人情報保護に留意したうえで、職員倫理の保持や労務環境の確保など類似の目的で設置された既存窓口を活用でき、単独設置が困難な団体は、協議会の設置、機関等の共同設置、事務の委託又は代替執行等により、他の地方公共団体と連携して窓口を設置できる。小規模自治体にとっては、この共同設置の枠組みが第12条を実効化する現実的な選択肢となる。

10-3 兵庫県文書問題──通報者探索と特定が現実に起きた事例

令和6年3月、兵庫県の元西播磨県民局長が、知事に関する複数の疑惑を記載した文書を報道機関等に配布した。同年4月には、同内容の通報が県の公益通報制度を通じて行われた。

令和6年9月に県が設置した第三者委員会(元裁判官3名を含む弁護士6名で構成)は、令和7年3月19日に報告書を公表した。報告書は、当該文書の配布が公益通報に該当すると認定したうえで、県が告発文書をめぐって通報者探しを行ったこと、文書を作成した元局長の公用パソコンを回収したことを、公益通報者保護法に違反する行為であると結論づけた。文書で疑惑を指摘された知事及び元副知事が調査に関与したことを極めて不当と評価し、通報者を探索した理由として挙げられた「誹謗中傷の拡大を阻止すること」については、指針が示す「やむを得ない場合」に該当しないと指摘した。処分理由の一つを告発文書の作成・配布としたことについても、その部分について行われた懲戒処分は効力を有しないと判断している。

自治体の実務担当者が読み取るべき論点は三つある。

第一に、通報者探索の動機が「組織防衛」や「誹謗中傷対策」として語られる点である。探索を行う者の主観においては、それは常に正当な業務として現れる。だからこそ、正当な理由の判断を個人の裁量に委ねず、内部規程で事前に手続化しておく必要がある。

第二に、通報の対象者が調査に関与する構造の危険である。指針は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に係る公益通報対応業務に関して、組織の長その他幹部に関係する事案についてはこれらの者からの独立性を確保する措置をとることを求め、事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置(利益相反の排除)も求める。地方公共団体向けガイドラインも同旨を定める。首長に関する通報を受け付ける経路を、首長から独立して設計しているかが問われる。

第三に、外部公益通報(2号通報・3号通報)に対する取扱いである。指針の解説は、法第2条第1項に定める行政機関等や、被害の発生・拡大の防止に必要と認められる者に対する公益通報についても、範囲外共有・通報妨害行為・通報者探索が防止される必要があり、同様の措置がとられる必要があるとする。国の行政機関向けガイドライン及び地方公共団体向けガイドラインも、独立性の確保、利益相反の排除、不利益取扱いの防止、範囲外共有・通報妨害・通報者探索の防止措置等について、内部公益通報以外の公益通報に対する対応においても同様の措置等をとる必要があると注意を促す。「窓口に来ていない通報だから体制の外」という整理は成り立たない。


11 指針及び指針の解説の読み方

第11条第4項に基づき定められた指針(令和3年内閣府告示第118号。令和8年3月31日一部改正・内閣府告示第15号)と、その解説(令和3年10月13日消費者庁。令和8年3月31日最終改正、令和8年12月1日施行)は、第12条を運用に翻訳する媒介となる。

指針の解説は、指針の各規定について、①指針本文、②指針の趣旨、③指針を遵守するための考え方や具体例、④その他に推奨される考え方や具体例、という四層で記述する。③は指針遵守のために参考となる考え方及び具体的取組例であり、④は指針遵守を超えて事業者が自主的に取り組むことが期待される推奨事項である。この区別を踏まえずに④の記載を義務として社内に説明すると、過剰な負担を招く。逆に、③の記載を推奨事項として扱えば、体制整備義務違反の評価を受けかねない。

第12条に直接かかわる指針の規定は、次の三つである。

第一は「従事者として定めなければならない者の範囲」(指針第3の1)である。その趣旨として、第11条第2項で体制整備等を求め、同条第1項で従事者を定める義務を課した趣旨は、公益通報者を特定させる事項について第12条により守秘義務を負う従事者に慎重な管理を行わせるためである、と説明されている。従事者指定義務は、第12条の適用対象者を確定するための装置として位置づけられている。

第二は「従事者を定める方法」(指針第3の2)である。その趣旨として、従事者は第12条において刑事罰により担保された守秘義務を負う者であり、公益通報者を特定させる事項を慎重に取り扱い、予期に反して刑事罰が科される事態を防ぐため、自らが刑事罰で担保された守秘義務を負う立場にあることを明確に認識している必要がある、とされる。指定の書面化は、通報者保護のためであると同時に、従事者本人を不意打ちの刑事責任から守るための手続でもある。

第三は「従事者に対する教育に関する措置」(指針第4の2(5))である。指針本文は、従事者に対して公益通報対応業務の内容及び公益通報者を特定させる事項の取扱いについて特に十分に教育を行うことを求める。解説は、従事者指定の際も含め定期的な実施や実施状況の管理を行うなどして、通常の労働者等及び役員と比較して特に実効的に行うことを求め、第12条の守秘義務の内容のほか、通報の受付・調査・是正に必要な措置等の各局面における実践的なスキルについても教育することを挙げる。教育内容は、公益通報対応業務に従事する頻度等の実態に応じて異なり得るとされている。

そして「範囲外共有、通報妨害及び通報者探索の防止に関する措置」(指針第4の2(2))が、第12条の周辺を面で固める。解説は、範囲外共有を防ぐ措置として、記録・資料を閲覧・共有できる者を必要最小限に限定してその範囲を明確に確認すること、記録・資料を施錠管理すること、専用の電話番号や専用メールアドレスを設けること、勤務時間外に個室や事業所外で面談すること、記録の保管方法やアクセス権限等を規程で明確にすること、公益通報者を特定させる事項の秘匿性に関する社内教育を実施することを挙げる。電磁的に管理している場合の情報セキュリティ上の対策として、閲覧可能者の必要最小限への限定と、操作・閲覧履歴の記録を挙げる。

懲戒処分に関する留意も置かれている。解説は、範囲外共有が行われた事実の有無を慎重に確認し、範囲外共有を実際に行っていない者に対して誤って懲戒処分その他の措置を行うことのないよう留意する必要があるとする。漏えいの犯人捜しが、それ自体として新たな人権侵害を生む危険を指摘したものである。


12 経過措置

第12条をめぐる時間的適用関係は、令和7年改正法(令和7年法律第62号)の附則によって定まる。

附則第1条は、この法律を公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとし、ただし附則第8条の規定は公布の日から施行するとする。施行日は令和7年政令第408号により令和8年12月1日と定められた。

附則第2条は経過措置の原則を定め、新法の規定(罰則を除く)は、附則に特別の定めがある場合を除き、施行前にされた旧法第2条第1項に規定する公益通報にも適用するとする。

附則第7条は罰則に関する経過措置を定め、施行前にした行為及び附則第6条第1項によりなお従前の例によることとされる場合における施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例によるとする。

第12条に即して整理すると、次のようになる。

  • 第12条の本文は無改正であるため、行為規範としての内容に断絶はない。令和8年12月1日をまたいで継続する通報案件について、従事者の守秘義務が一時的に途切れることはない。
  • 附則第2条により、新法第12条は施行前にされた公益通報にも適用される。令和8年11月に受け付けた通報について、令和8年12月以降に従事者が通報者名を漏らせば、新法第12条違反となる。
  • 罰則については附則第7条により、施行前にした漏えい行為には旧法第21条が、施行後にした漏えい行為には新法第22条が適用される。法定刑はいずれも30万円以下の罰金であり、量刑上の差はない。差異は適用条文の表示にとどまる。
  • 附則第2条が「罰則を除く」と留保していることには、遡及処罰の禁止(憲法第39条前段)の趣旨が現れている。
  • 従事者指定に関しても連続性がある。令和4年6月1日以降に指定された従事者は、令和8年12月1日をもって指定が失効するものではない。ただし、フリーランスからの通報が新たに公益通報対応業務の対象に含まれること、報告を受ける役員の指定範囲の見直しが必要になり得ることを踏まえ、施行日に合わせて指定書面を再交付し、義務の内容を改めて確認する運用が望ましい。

13 実務チェックリスト

13-1 民間事業者向け

指定の適正化について。

  • 内部公益通報受付窓口の担当者を全員、書面により従事者として指定しているか。
  • 指定書面に、従事者の地位に就くこと、第12条の守秘義務が課されること、第22条の罰則の適用対象となり得ることを明記しているか。
  • 調査部門・是正措置部門のうち、通報者を特定させる事項を伝達される者を、必要が生じた都度、従事者として指定する手続を規程化しているか。
  • 外部委託先(弁護士、通報受付事業者)を従事者として指定し、その旨を委託契約に明記しているか。
  • 通報者を特定させる事項を含む報告を受ける取締役・監査役を、従事者として指定しているか。指定しないのであれば、報告内容から当該事項を除く設計になっているか。
  • フリーランス(特定受託業務従事者)及び業務委託終了後1年以内の元フリーランスからの通報を、公益通報対応業務の対象として位置づけているか。

守秘の実装について。

  • 通報受付用のメールアドレスに、上司等への自動転送・同報設定が残っていないか。
  • 通報記録の保管場所とアクセス権限を規程で明確にし、閲覧可能者を必要最小限に限定しているか。操作・閲覧履歴を記録しているか。
  • 記録・資料における通報者及び関係者の固有名詞について、仮称表記・マスキングの運用を定めているか。
  • 調査依頼を行う際に、調査の端緒が公益通報であることを伝えない手順を標準化しているか。抜き打ち監査・定期監査との併合・周辺部分からの着手といった手法を、調査マニュアルに具体的に記載しているか。
  • 通報者本人の同意を取得する際の書式を用意し、開示先・開示範囲・目的・生じ得る不利益を説明する欄を設けているか。
  • ハラスメント窓口と統合している場合、公益通報該当性の判定ステップと、被害者兼通報者からの同意取得手順を設けているか。

教育と検証について。

  • 従事者に対する教育を、指定時及び定期に実施し、実施状況を記録しているか。教育内容に第12条の主体・客体・行為・正当な理由の4要素を含めているか。
  • 家族・社外の知人への口外も「漏らす」に当たること、退職後も守秘義務が無期限に続くことを、教育教材に明記しているか。
  • 従事者が異動・退職する際に、守秘義務の継続を確認する書面を取得しているか。
  • 範囲外共有が生じた場合の救済・回復措置の手順(通報者への説明、不利益取扱いの監視、加害者への処分)を定めているか。
  • 個人情報保護法第26条に基づく報告・通知の要否判断を、初動フローに組み込んでいるか。

13-2 地方公共団体・国の行政機関向け

  • 常時使用する労働者数が300人を超えるか否かを算定し、従事者指定が義務か努力義務かを確定しているか(第11条第3項)。300人以下であっても、努力義務として指定を行う方針を明示しているか。
  • 従事者の指定を、書面(内部規程・要綱・辞令等)により、第12条の守秘義務と第22条の罰則を明記して行っているか。
  • 内部公益通報受付窓口を、全部局の総合調整を行う部局又はコンプライアンスを所掌する部局等に設置しているか。外部に弁護士等を配置した窓口を併設するよう努めているか。
  • 組織の長その他幹部に関係する事案について、これらの者からの独立性を確保する措置をとっているか。首長・副首長に関する通報の受付経路が、これらの者から独立しているか。
  • 事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置(利益相反の排除)を、通報対応の各段階で確認しているか。
  • 出先機関等を置いている場合、当該出先機関においても適切に通報対応を行うための周知・体制整備を行っているか。
  • 単独での窓口設置が困難な場合、協議会の設置、機関等の共同設置、事務の委託又は代替執行等の活用を検討したか。
  • 通報者等の特定につながり得る情報(氏名・所属等のほか、調査が通報を端緒としたものであること、通報者等しか知り得ない情報を含む)を、調査等の対象となる部署に開示しない運用としているか。
  • 範囲外共有・通報妨害行為・通報者探索を行った職員、正当な理由なく秘密を漏らした職員に対する懲戒処分その他の措置を、内部規程(条例を含む)に定めているか。
  • 匿名通報についても、可能な限り実名通報と同様に取り扱い、通報者と窓口担当者との間で情報の伝達を行い得る仕組みを整備しているか。
  • 地方公務員法第34条第1項の守秘義務と第12条が競合し得ること、地方公務員法第60条第2号の法定刑が第22条より重いことを、従事者研修で説明しているか。
  • 外部公益通報(2号通報・3号通報)についても、範囲外共有・通報妨害・通報者探索の防止措置を同様に及ぼす運用としているか。
  • 内部規程(条例を含む)を、令和8年3月31日改正後の指針及び指針の解説、並びに令和8年5月29日最終改正の地方公共団体向けガイドラインに整合させたか。

14 次回予告

次回は第13条(行政機関がとるべき措置)を扱う。通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関が、2号通報を受けた場合に負う調査義務と措置義務、体制整備義務の内容、犯罪捜査・公訴との関係(刑事訴訟法の適用)を、第20条の適用除外規定との対比を含めて解説する。第12条が事業者内部の情報管理を規律したのに対し、第13条は行政機関側の受け皿を規律する。2号通報を受ける立場にある自治体の所管課にとって、実務上の負荷が最も大きい条文である。


参考資料一覧

法令・告示

  • 公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号。令和8年3月31日一部改正・内閣府告示第15号)

行政資料

  • 消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(令和3年10月13日。令和8年3月31日最終改正、令和8年12月1日施行)
  • 消費者庁「逐条解説 公益通報者保護法」第12条(公益通報対応業務従事者の義務)
  • 消費者庁「従事者に関するQ&A」Q1からQ13
  • 消費者庁「公益通報者保護法を踏まえた地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(内部の職員等からの通報)」(平成29年7月31日。令和8年5月29日最終改正)
  • 「公益通報者保護法を踏まえた国の行政機関の通報対応に関するガイドライン(内部の職員等からの通報)」(平成17年7月19日関係省庁申合せ。令和8年5月29日最終改正)
  • 消費者庁「公益通報ハンドブック」改正法準拠版
  • 消費者庁「令和5年度 民間事業者等における内部通報制度の実態調査報告書」(令和6年4月)
  • 消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)の概要」

判例・裁判例

  • オリンパス事件・東京高判平成23年8月31日 労働判例1035号42頁(上告審・最判平成24年6月28日)
  • 京都市(児童相談所職員)事件・大阪高判令和2年6月19日 労働判例1230号56頁
  • 神戸税関事件・最三小判昭和52年12月20日 民集31巻7号1101頁、労働判例288号22頁
  • トナミ運輸事件・富山地判平成17年2月23日 労働判例891号12頁

調査報告書

  • 兵庫県「第三者調査委員会 調査報告書」(令和7年3月19日)

◆通報窓口を受任中。希望組織はまず問い合わせを。https://compliance21.com/contact/

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