一 条文原文

消防法第10条

指定数量以上の危険物は、貯蔵所(車両に固定されたタンクにおいて危険物を貯蔵し、又は取り扱う貯蔵所(以下「移動タンク貯蔵所」という。)を含む。以下同じ。)以外の場所でこれを貯蔵し、又は製造所、貯蔵所及び取扱所以外の場所でこれを取り扱つてはならない。ただし、所轄消防長又は消防署長の承認を受けて指定数量以上の危険物を、十日以内の期間、仮に貯蔵し、又は取り扱う場合は、この限りでない。

② 別表第一に掲げる品名(第十一条の四第一項において単に「品名」という。)又は指定数量を異にする二以上の危険物を同一の場所で貯蔵し、又は取り扱う場合において、当該貯蔵又は取扱いに係るそれぞれの危険物の数量を当該危険物の指定数量で除し、その商の和が一以上となるときは、当該場所は、指定数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱つているものとみなす。

③ 製造所、貯蔵所又は取扱所においてする危険物の貯蔵又は取扱は、政令で定める技術上の基準に従つてこれをしなければならない。

④ 製造所、貯蔵所及び取扱所の位置、構造及び設備の技術上の基準は、政令でこれを定める。

消防法第11条

製造所、貯蔵所又は取扱所を設置しようとする者は、政令で定めるところにより、製造所、貯蔵所又は取扱所ごとに、次の各号に掲げる製造所、貯蔵所又は取扱所の区分に応じ、当該各号に定める者の許可を受けなければならない。製造所、貯蔵所又は取扱所の位置、構造又は設備を変更しようとする者も、同様とする。

一 消防本部及び消防署を置く市町村(次号及び第三号において「消防本部等所在市町村」という。)の区域に設置される製造所、貯蔵所又は取扱所(配管によつて危険物の移送の取扱いを行うもので政令で定めるもの(以下「移送取扱所」という。)を除く。) 当該市町村長

二 消防本部等所在市町村以外の市町村の区域に設置される製造所、貯蔵所又は取扱所(移送取扱所を除く。) 当該区域を管轄する都道府県知事

三 一の消防本部等所在市町村の区域のみに設置される移送取扱所 当該市町村長

四 前号の移送取扱所以外の移送取扱所 当該移送取扱所が設置される区域を管轄する都道府県知事(二以上の都道府県の区域にわたつて設置されるものについては、総務大臣)

② 前項各号に掲げる製造所、貯蔵所又は取扱所の区分に応じ当該各号に定める市町村長、都道府県知事又は総務大臣(以下この章及び次章において「市町村長等」という。)は、同項の規定による許可の申請があつた場合において、その製造所、貯蔵所又は取扱所の位置、構造及び設備が前条第四項の技術上の基準に適合し、かつ、当該製造所、貯蔵所又は取扱所においてする危険物の貯蔵又は取扱いが公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがないものであるときは、許可を与えなければならない。

③ 総務大臣は、移送取扱所について第一項第四号の規定による許可をしようとするときは、その旨を関係都道府県知事に通知しなければならない。この場合においては、関係都道府県知事は、当該許可に関し、総務大臣に対し、意見を申し出ることができる。

④ 関係市町村長は、移送取扱所についての第一項第四号の規定による許可に関し、当該都道府県知事又は総務大臣に対し、意見を申し出ることができる。

⑤ 第一項の規定による許可を受けた者は、製造所、貯蔵所若しくは取扱所を設置したとき又は製造所、貯蔵所若しくは取扱所の位置、構造若しくは設備を変更したときは、当該製造所、貯蔵所又は取扱所につき市町村長等が行う完成検査を受け、これらが前条第四項の技術上の基準に適合していると認められた後でなければ、これを使用してはならない。ただし、製造所、貯蔵所又は取扱所の位置、構造又は設備を変更する場合において、当該製造所、貯蔵所又は取扱所のうち当該変更の工事に係る部分以外の部分の全部又は一部について市町村長等の承認を受けたときは、完成検査を受ける前においても、仮に、当該承認を受けた部分を使用することができる。

⑥ 製造所、貯蔵所又は取扱所の譲渡又は引渡があつたときは、譲受人又は引渡を受けた者は、第一項の規定による許可を受けた者の地位を承継する。この場合において、同項の規定による許可を受けた者の地位を承継した者は、遅滞なくその旨を市町村長等に届け出なければならない。

⑦ 市町村長等は、政令で定める製造所、貯蔵所又は取扱所について第一項の規定による許可(同項後段の規定による許可で総務省令で定める軽易な事項に係るものを除く。)をしたときは、政令で定めるところにより、その旨を国家公安委員会若しくは都道府県公安委員会又は海上保安庁長官に通報しなければならない。

消防法第11条の2

政令で定める製造所、貯蔵所若しくは取扱所の設置又はその位置、構造若しくは設備の変更について前条第一項の規定による許可を受けた者は、当該許可に係る工事で政令で定めるものについては、同条第五項の完成検査を受ける前において、政令で定める工事の工程ごとに、当該製造所、貯蔵所又は取扱所に係る構造及び設備に関する事項で政令で定めるもの(以下この条及び次条において「特定事項」という。)が第十条第四項の技術上の基準に適合しているかどうかについて、市町村長等が行う検査を受けなければならない。

② 前項に規定する者は、同項の検査において特定事項が第十条第四項の技術上の基準に適合していると認められた後でなければ、当該特定事項に係る製造所、貯蔵所若しくは取扱所の設置又はその位置、構造若しくは設備の変更の工事について、前条第五項の完成検査を受けることができない。

③ 第一項に規定する者は、同項の検査において第十条第四項の技術上の基準に適合していると認められた特定事項に係る製造所、貯蔵所若しくは取扱所の設置又はその位置、構造若しくは設備の変更の工事につき、前条第五項の完成検査を受けるときは、当該特定事項については、同項の完成検査を受けることを要しない。

主要な下位法令

危険物の規制に関する政令(昭和34年政令第306号)

第二条 法第十条の貯蔵所は、次のとおり区分する。 一 屋内の場所において危険物を貯蔵し、又は取り扱う貯蔵所(以下「屋内貯蔵所」という。)/二 屋外にあるタンク(第四号から第六号までに掲げるものを除く。)において危険物を貯蔵し、又は取り扱う貯蔵所(以下「屋外タンク貯蔵所」という。)/三 屋内にあるタンク(次号から第六号までに掲げるものを除く。)において危険物を貯蔵し、又は取り扱う貯蔵所(以下「屋内タンク貯蔵所」という。)/四 地盤面下に埋没されているタンク(次号に掲げるものを除く。)において危険物を貯蔵し、又は取り扱う貯蔵所(以下「地下タンク貯蔵所」という。)/五 簡易タンクにおいて危険物を貯蔵し、又は取り扱う貯蔵所(以下「簡易タンク貯蔵所」という。)/六 車両……に固定されたタンクにおいて危険物を貯蔵し、又は取り扱う貯蔵所(以下「移動タンク貯蔵所」という。)/七 屋外の場所において第二類の危険物のうち硫黄……又は第四類の危険物のうち第一石油類(引火点が零度以上のものに限る。)、アルコール類、第二石油類、第三石油類、第四石油類若しくは動植物油類を貯蔵し、又は取り扱う貯蔵所(以下「屋外貯蔵所」という。)

第三条 法第十条の取扱所は、次のとおり区分する。 一 専ら給油設備によつて自動車等の燃料タンクに直接給油するため危険物を取り扱う取扱所……(以下これらの取扱所を「給油取扱所」という。)/二 店舗において容器入りのままで販売するため危険物を取り扱う取扱所で次に掲げるもの イ 指定数量の倍数……が十五以下のもの(以下「第一種販売取扱所」という。) ロ 指定数量の倍数が十五を超え四十以下のもの(以下「第二種販売取扱所」という。)/三 配管及びポンプ並びにこれらに附属する設備……によつて危険物の移送の取扱いを行う取扱所……(以下「移送取扱所」という。)/四 前三号に掲げる取扱所以外の取扱所(以下「一般取扱所」という。)

第七条の二 法第十一条第一項第一号の政令で定める取扱所は、第三条第三号に掲げる取扱所とする。

第八条 法第十一条第五項の規定による完成検査(以下「完成検査」という。)を受けようとする者は、その旨を市町村長等に申請しなければならない。 2 市町村長等は、前項の規定による申請があつたときは、遅滞なく、当該製造所等の完成検査を行わなければならない。 3 市町村長等は、完成検査を行つた結果、……それぞれ定める技術上の基準(法第十一条の二第一項の検査(以下「完成検査前検査」という。)に係るものを除く。)に適合していると認めたときは、当該完成検査の申請をした者に完成検査済証を交付するものとする。

第八条の二 法第十一条の二第一項の政令で定める製造所、貯蔵所又は取扱所は、液体の危険物を貯蔵し、又は取り扱うタンク(以下「液体危険物タンク」という。)を有する製造所等(容量が指定数量以上の液体危険物タンクを有しない製造所及び一般取扱所を除く。)とする。 2 法第十一条の二第一項の政令で定める工事は、液体危険物タンク(製造所又は一般取扱所に係る工事にあつては、容量が指定数量以上の液体危険物タンク)の設置又は変更の工事とする。

出典:e-Gov法令検索「消防法」(昭和23年法律第186号)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC1000000186 、同「危険物の規制に関する政令」(昭和34年政令第306号)https://laws.e-gov.go.jp/law/334CO0000000306

二 趣旨・立法背景

第三章「危険物」は第10条から第16条の9までで構成され、その入口に置かれているのが第10条と第11条である。第10条は危険物を扱う場所を限定し、第11条はその場所の設置を許可にかからせる。場所の限定が先に来る順序には理由がある。危険物による災害は、物そのものの性状よりも、それが置かれた場所の位置・構造・設備によって拡大の度合いが決まる。法は物の規制ではなく場所の規制という形式を選んだのであり、第10条第1項が禁止するのは危険物の所持や使用ではなく、許された場所以外での貯蔵と取扱いである。

もっとも、この構造は制定当初からのものではない。昭和23年法律第186号の制定時、第10条は「市町村條例で定める数量以上の危險物は、貯藏所以外の場所でこれを貯藏し、又は取り扱つてはならない」と定め、ただし書で「その定めた数量の三十倍未満のものについて、所轄消防長又は消防署長の指定する安全な場所に、十日以内に限つて、これを仮に貯藏する場合」を除外していた。規制の閾値となる数量は市町村条例に委ねられ、貯蔵所の位置・構造・設備の制限も市町村条例事項であった。設置許可は第10条ではなく旧第12条に置かれ、「貯藏所を設置しようとする者は、市町村條例の定めるところにより市町村長の許可を受けなければならない」とされていた。現行第11条の位置にあった旧第11条は、「市町村條例で定める数量以上の危險物は、所轄消防長又は消防署長の許可を受けた場合を除く外、日出前又は日沒後においてこれを取り扱つてはならない」という、夜間の取扱いを禁ずる規定であった。

ここから現在の姿に至るまでに、四つの転換がある。

第一は昭和25年法律第186号である。第10条第1項中の「市町村条例」が「別表」に改められ、閾値となる数量が法律の別表に移された。あわせて「貯蔵し、又は」の下に「製造所、貯蔵所及び取扱所以外の場所でこれを」が加えられ、貯蔵のみを対象としていた規制が取扱いにも及ぶこととなった。製造所と取扱所という施設類型が法律上に現れたのもこのときである。

第二は昭和34年法律第86号である。第10条第3項・第4項の委任先が市町村条例から政令に改められ、技術上の基準が全国一律の政令基準となった。同時に「第十一条を次のように改める」として第11条が全面改正され、設置・変更の許可(当時の許可権者は市町村長と都道府県知事の二区分)、完成検査を受けた後でなければ使用できない旨、地位承継と届出という現在の骨格が置かれた。旧第11条の夜間取扱い禁止はこの改正で姿を消している。危険物規制が市町村条例の集合から国の統一規制へ移った分水嶺がこの年である。

第三は昭和40年法律第65号である。第10条第1項中の「別表で定める数量」が「指定数量」に改められ、ただし書も「所轄消防長又は消防署長の承認を受けて指定数量以上の危険物を、十日以内の期間、仮に貯蔵し、又は取り扱う場合は、この限りでない」と改められた。制定時にあった「三十倍未満」という量的上限と「指定する安全な場所」という場所の事前指定が廃され、個別の承認に置き換わっている。第10条第2項の倍数合算規定もこのときに整備された。同じ改正で第11条の次に二条が加えられ、旧第11条の2(貯蔵・取扱いに係る危険物の種類又は数量の変更届)と旧第11条の3(貯蔵・取扱基準違反に対する命令)が設けられた。

第四は昭和49年法律第64号である。第11条第1項が全面改正され、配管による移送の取扱いを行う移送取扱所が施設類型として法律上に現れた。許可権者は現行の四区分となり、二以上の都道府県の区域にわたる移送取扱所については自治大臣(現在の総務大臣)が許可権者とされた。同じ改正で、総務大臣が許可をしようとするときの関係都道府県知事への通知と意見申出(第3項)、関係市町村長の意見申出(第4項)、公安委員会等への通報(第7項)が加えられている。配管という線状の施設は一の市町村の区域で完結しないため、市町村消防の原則をそのままあてはめることができない。移送取扱所の登場が許可権限の重層化をもたらしたのである。

これらに続く二つの改正は、昭和49年12月18日に発生した三菱石油水島製油所の重油流出事故を直接の契機とする。まず昭和50年法律第84号(石油コンビナート等災害防止法)の附則が、消防法第11条第2項中の「適合する」を「適合し、かつ、当該製造所、貯蔵所又は取扱所においてする危険物の貯蔵又は取扱いが公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがない」に改めた。許可の基準に、技術上の基準への適合とは別の実質的評価が加わったのであり、昭和34年の全面改正以後、許可基準に加えられた唯一の実体的要件がこれである。注意すべきは、この改正が消防法の改正法によってではなく、別の法律の附則によって行われた点である。消防法の条文沿革を改正法の表題だけで追うと見落とす箇所である。

次に昭和51年法律第37号が、第11条の次に完成検査前検査(新第11条の2)と危険物保安技術協会への審査委託(新第11条の3)を加え、旧第11条の2を第11条の4、旧第11条の3を第11条の5に繰り下げた。あわせて第三章の二として危険物保安技術協会が新設され、第14条の3の保安検査が整備されている。水島の事故は、完成した施設を外から検査するだけでは、基礎・地盤や溶接部といった完成後には確認できない部位の欠陥を捕捉できないことを示した。工事の工程ごとに検査を差し込むという発想がここから生まれ、第11条の2となった。現行第11条の2が条数の上では第11条の直後にありながら、第11条より十七年遅れて成立した規定であることは、この繰下げの経過を踏まえないと読み取れない。

その後、昭和63年法律第55号が指定数量の定めを別表から政令に移し(第9条の4)、別表を品名欄と性質欄による性状区分の形式に改めた。これに伴い第10条第2項の文言が整理され、第11条の4第1項の届出事項が「種類又は数量」から「品名、数量又は指定数量の倍数」に改められている。平成13年法律第98号は別表第一第五類にヒドロキシルアミンとヒドロキシルアミン塩類を加え、附則で既存施設の届出と許可取得に関する経過措置を置いた。

三 文理解釈

第10条第1項の二つの禁止

第10条第1項は一文のうちに性質の異なる二つの禁止を含む。貯蔵については「貯蔵所……以外の場所」が禁止され、取扱いについては「製造所、貯蔵所及び取扱所以外の場所」が禁止される。禁止される場所の範囲が貯蔵と取扱いで異なっており、貯蔵のほうが狭い。製造所と取扱所は、危険物を取り扱うために設けられた施設であって、貯蔵のための施設ではない。したがって製造所や取扱所において指定数量以上の危険物を貯蔵する行為は、文理上、第10条第1項前段に触れる。実務上は、製造所や取扱所が設置許可を受ける際に貯蔵し又は取り扱う危険物の最大数量が申請事項とされており(危険物の規制に関する政令第6条第1項第4号)、許可の内容として取り扱われる量が特定されるため、この非対称が独立して問題となる場面は限られる。しかし屋内貯蔵所の保有空地にドラム缶を置くような、許可の内容から外れた置き方は、許可を受けた施設の内部であっても第10条第1項の問題として処理される。消防庁危険物保安室の「危険物施設違反処理マニュアル」が、許可施設内で許可された貯蔵の態様を離れた事例を第10条第1項の違反処理基準に含めているのは、この文理に沿う。

括弧書きが移動タンク貯蔵所を貯蔵所に含めている点にも意味がある。車両に固定されたタンクは移動するため、「場所」という概念になじまない。しかし法はこれを貯蔵所の一類型として第10条第1項の括弧書きで取り込み、以後の条文で「貯蔵所」という語が移動タンク貯蔵所を含むことを宣言している。第11条の5第2項や第16条の3第4項が移動タンク貯蔵所を別扱いしているのは、この取り込みを前提に、管轄の所在が動く施設の特性を調整したものである。

ただし書の承認権者

ただし書の承認権者は「所轄消防長又は消防署長」である。第11条第1項の許可権者である「市町村長等」ではない。第3条第1項の定義により、消防本部を置かない市町村においては消防長は市町村長と読み替えられる。したがって消防本部及び消防署を置かない市町村の区域では、仮貯蔵・仮取扱いの承認権者は市町村長であり、同じ区域に製造所等を設置する場合の許可権者は都道府県知事(第11条第1項第2号)である。承認と許可で行政庁が分かれる。さらに、承認を受けずに指定数量以上の危険物を貯蔵している者に対する除去命令の権限者は「市町村長等」とされている(第16条の6第1項)。承認権者と命令権者が一致しない構造であり、消防本部を置かない市町村では、市町村長が承認を所管し、都道府県知事が無承認状態への命令を所管することになる。

「十日以内の期間」は承認一回についての上限である。期間を更新する規定はない。震災時のように十日では収まらない場合の取扱いについては、消防庁が平成25年10月3日消防災第364号・消防危第171号「震災時等における危険物の仮貯蔵・仮取扱い等の安全対策及び手続きについて」により、承認を繰り返すことで対応することが考えられるとしつつ、無制限に認めず必要な期間に留めること、平常時の繰り返し承認は制度の趣旨から抑制的に扱うべきことを示している。法文に期間更新の仕組みがないため、承認の反復という運用で埋めている部分であり、反復の限界は条文からは導けない。

第10条第2項の倍数合算

第2項は、品名又は指定数量を異にする二以上の危険物を同一の場所で貯蔵し又は取り扱う場合に、それぞれの数量を当該危険物の指定数量で除した商の和が一以上となるときは、その場所を指定数量以上の危険物を貯蔵し又は取り扱っているものとみなす。単独では指定数量に達しない複数の危険物を並べることによる規制の回避を封じる規定である。「同一の場所」の範囲について法文は定義を置いていない。みなし規定であるから、第1項の禁止も、第11条第1項の許可の要否も、第2項の計算結果に従って決まる。

第11条第1項の許可と四区分

第1項前段が設置、後段が「位置、構造又は設備」の変更である。危険物の品名・数量・指定数量の倍数のみを変更し位置・構造・設備を変更しない場合は、許可ではなく第11条の4第1項の十日前までの届出で足りる。許可を要する変更と届出で足りる変更の境界が、位置・構造・設備という三語に置かれている。

各号の振り分けは、移送取扱所以外とそれ以外で論理が異なる。移送取扱所以外については、消防本部及び消防署を置く市町村の区域なら当該市町村長、それ以外の区域なら都道府県知事となる。市町村消防の原則と、消防本部を持たない市町村の執行力を補う都道府県の役割分担がそのまま現れている。移送取扱所については、一の消防本部等所在市町村の区域のみに設置されるものは当該市町村長(第3号)、それ以外は都道府県知事、二以上の都道府県にわたるものは総務大臣(第4号)となる。ここで第1号が括弧書きで除外する「移送取扱所」は、危険物の規制に関する政令第7条の2により第3条第3号に掲げる取扱所と定義されている。

第4号の許可は域外に影響を及ぼすため、第3項と第4項が意見申出の経路を開く。第3項は総務大臣が許可をしようとするときの関係都道府県知事の意見申出、第4項は関係市町村長の意見申出である。第3項には総務大臣の事前通知義務があるが、第4項には通知の仕組みがない。市町村長は自ら許可の動向を把握して意見を申し出る立場に置かれている。なお、許可後の段階では第12条の4が関係市町村長に必要な措置を講ずべきことの要請権を与え、知事等に調査義務と結果通知義務を課している。許可前は意見申出、許可後は措置要請という二つの経路が用意されている。

第11条第2項の二つの要件

第2項は市町村長等に「許可を与えなければならない」と命ずる。要件を満たせば許可を与える義務が生じる覊束的な規律である。その要件は二つある。第一に、位置・構造及び設備が第10条第4項の技術上の基準に適合すること。第二に、当該施設においてする危険物の貯蔵又は取扱いが公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがないこと。前者は政令の数値基準への当てはめであり、後者は評価を伴う判断である。昭和50年法律第84号の附則が後者を加える前は、許可基準は技術上の基準への適合のみであった。

第二の要件が加わっても、条文は「許可を与えなければならない」のままである。行政庁の側に広い裁量を与える構造にはなっていない。したがって、法令に根拠のない要件を許可の条件として要求することは、第2項の覊束性と整合しない。隣接住民の同意書の提出を許可の前提として求める実務が過去に存在したことは、後述の最高裁判例の事実関係から読み取れる。

第11条第5項の完成検査と仮使用

第5項本文は、設置又は変更をしたときは完成検査を受け、技術上の基準に適合していると認められた後でなければ使用してはならないと定める。使用開始の時点を行政の確認に係らしめる規定である。完成検査の申請、遅滞なく検査を行う義務、完成検査済証の交付は危険物の規制に関する政令第8条が定める。

ただし書の仮使用は、変更の場合に限られる。設置の場合には適用がない。対象は「当該変更の工事に係る部分以外の部分の全部又は一部」である。工事中の部分を使うことを認める制度ではなく、工事に関係しない部分を先に使うことを認める制度である。この区別は、給油取扱所の一部を改造しながら営業を続ける場面などで実務上の意味を持つ。このただし書は昭和46年法律第97号によって当時の第11条第3項に加えられたものであり、昭和49年法律第64号による項の繰下げに伴って第5項ただし書となった。第16条の3(当時)の引用が「第十一条第三項ただし書」から「第十一条第五項ただし書」に改められた改め文から、この経過を確認できる。

第11条第6項の地位承継

譲渡又は引渡があったときは、譲受人又は引渡を受けた者が許可を受けた者の地位を承継する。承継は法律上当然に生ずるのであり、行政庁の承認や認可を要しない。届出は承継の効力要件ではなく、承継が生じた事実を行政庁に知らせる義務である。「遅滞なく」であって期限の日数は定められていない。

第11条の2の三つの項

第1項が完成検査前検査の受検義務、第2項が特定事項について適合と認められるまで完成検査を受けられないこと、第3項が適合と認められた特定事項については完成検査を要しないことを定める。第2項と第3項は表裏の関係にある。完成検査前検査に合格しなければ完成検査の手前で止まり、合格すればその部分は完成検査の対象から外れる。

対象となる施設は液体危険物タンクを有する製造所等であり、容量が指定数量以上の液体危険物タンクを有しない製造所及び一般取扱所は除かれる(危険物の規制に関する政令第8条の2第1項)。工程と特定事項の対応は同条第3項が各号で定め、同条第5項が検査の呼称を置く。容量千キロリットル以上の屋外タンク貯蔵所の液体危険物タンクの基礎及び地盤に関する工事の工程については基礎・地盤検査、タンク本体に関する工事の工程については水張検査又は水圧検査および溶接部検査、岩盤タンクのタンク本体に関する工事の工程については岩盤タンク検査である。水張検査又は水圧検査に合格した者にはタンク検査済証が交付される(同条第7項)。水張検査と水圧検査については、市町村長等以外の他の行政機関も行うことができる(同令第8条の2の2)。

四 用語解説

指定数量 危険物についてその危険性を勘案して政令で定める数量をいう(第9条の4第1項)。具体的な数量は危険物の規制に関する政令第1条の11および別表第三が定める。第10条第1項の禁止と第11条第1項の許可の要否を分ける閾値であり、この数量未満の危険物は第三章の適用を受けず、市町村条例による規制(第9条の4)に委ねられる。

指定数量の倍数 製造所等において貯蔵し又は取り扱う危険物の数量を当該危険物の指定数量で除して得た値をいい、品名又は指定数量を異にする二以上の危険物を貯蔵し又は取り扱う場合にはそれぞれの値の和をいう(第11条の4第1項)。許可の申請事項(同令第6条第1項第5号)であるほか、販売取扱所の種別(同令第3条第2号)、危険物保安監督者の選任を要しない施設の範囲(同令第31条の2)、公安委員会等への通報を要する施設の指定(同令第7条の3)など、多数の規定の基準として用いられる。

製造所、貯蔵所、取扱所 危険物を製造する施設、貯蔵する施設、取り扱う施設をいう。製造所は政令に区分の定めがなく、貯蔵所は危険物の規制に関する政令第2条が七区分、取扱所は同令第3条が四区分を定める。これらを総称して同令第6条が「製造所等」と呼ぶ。

市町村長等 第11条第1項各号に定める市町村長、都道府県知事又は総務大臣をいう(第11条第2項)。第三章および第三章の二における許可、検査、命令等の権限主体である。消防本部及び消防署の設置・廃止や市町村の廃置分合によってこの行政庁に変更が生じた場合の処分の効力等については、第16条の7と同令第41条の2が特例を置く。

仮貯蔵・仮取扱い 所轄消防長又は消防署長の承認を受けて、指定数量以上の危険物を十日以内の期間、製造所等以外の場所で貯蔵し又は取り扱うことをいう(第10条第1項ただし書)。

仮使用 変更の許可を受けた製造所等について、変更の工事に係る部分以外の部分の全部又は一部を、完成検査を受ける前に市町村長等の承認を受けて使用することをいう(第11条第5項ただし書)。総務大臣が行う移送取扱所の仮使用の承認を受けようとする者は、危険物の規制に関する政令第40条第1項の表(五)により七千三百円の手数料を国に納める(第16条の4第1項)。

特定事項 完成検査前検査の対象となる、製造所等に係る構造及び設備に関する事項で政令で定めるものをいう(第11条の2第1項)。液体危険物タンクの基礎及び地盤に関する事項、漏れ及び変形に関する事項、溶接部に関する事項、岩盤タンクのタンク構造に関する事項が、工事の工程に対応して定められている(危険物の規制に関する政令第8条の2第3項)。

五 改正の経緯と内容

改正法令主な内容
昭和23年法律第186号(制定)第10条で市町村条例の定める数量以上の危険物の貯蔵所以外での貯蔵を禁止し、三十倍未満・十日以内・消防長等の指定する安全な場所での仮貯蔵を除外。旧第11条で日出前・日没後の取扱いを禁止。旧第12条で貯蔵所設置の市町村長許可
昭和25年法律第186号第10条第1項・旧第11条の「市町村条例」を「別表」に改め閾値を法定化。製造所及び取扱所を加え、取扱いを規制対象に明記。別表を全面改正
昭和34年法律第86号第10条第3項・第4項の委任先を市町村条例から政令に変更。第11条を全面改正し、設置・変更の許可(市町村長/都道府県知事の二区分)、完成検査、地位承継と届出を創設。旧第11条の夜間取扱い禁止を削除
昭和40年法律第65号「別表で定める数量」を「指定数量」に改め、第10条第1項ただし書を承認制に変更(三十倍未満・場所の事前指定を廃止)。第10条第2項の倍数合算を整備。第11条の次に二条(旧第11条の2・旧第11条の3)を追加
昭和46年法律第97号第11条第3項(当時)に仮使用承認のただし書を追加
昭和49年法律第64号第11条第1項を全面改正し移送取扱所を創設、許可権者を四区分化(自治大臣を含む)。第3項・第4項の意見申出、第7項の公安委員会等への通報を追加。項の繰下げに伴い仮使用承認のただし書が第5項ただし書となる
昭和50年法律第84号(石油コンビナート等災害防止法)附則第11条第2項の許可基準に「公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがない」ことを追加
昭和51年法律第37号第11条の2(完成検査前検査)と第11条の3(危険物保安技術協会への審査委託)を新設。旧第11条の2を第11条の4、旧第11条の3を第11条の5に繰下げ。第三章の二(危険物保安技術協会)と第14条の3(保安検査)を創設
昭和63年法律第55号指定数量を政令委任(第9条の4)、別表を性状区分の形式に改正。第10条第2項の文言を整理。第11条の4第1項の届出事項を「品名、数量又は指定数量の倍数」に改正
平成13年法律第98号別表第一第五類にヒドロキシルアミン及びヒドロキシルアミン塩類を追加。附則で既存施設の許可取得及び届出に関する経過措置
令和4年法律第68号刑法等の一部を改正する法律の施行に伴い、第41条以下の「懲役」を「拘禁刑」に改正

六 法的性格と解釈上の論点

第11条の2に罰則がない構造

第11条の2第1項は検査の受検を義務づけるが、この義務に違反した者を処罰する規定は第九章に置かれていない。第44条第4号は第14条の3第1項・第2項の保安検査および第17条の3の2の検査を拒み、妨げ、又は忌避した者を対象とするが、完成検査前検査は列挙されていない。第12条の2第1項各号の許可取消し・使用停止事由にも第11条の2は挙げられていない。

これは立法の欠落ではなく、制度の設計である。第11条の2第2項が、特定事項について適合と認められるまで完成検査を受けることができないと定めているため、完成検査前検査を受けない者は完成検査に進めない。完成検査を受けなければ第11条第5項により施設を使用できず、使用すれば第42条第1項第3号により六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処される。手続の流れを遮断することで実効性を確保し、罰則は最終段階の使用行為に集約する構造である。罰則の有無だけを見て規制の強弱を判断すると、この設計を読み誤る。

両罰規定における落差

第45条は法人に対する罰金刑の額を三段階に分ける。第10条第1項の違反(無承認の貯蔵・取扱い)は第41条第1項第3号に当たり、同条の罰則は一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金であるが、第45条第2号により法人には三千万円以下の罰金刑が科される。これに対し第11条第1項の違反(無許可の設置・変更)は第42条第1項第2号に当たり、第45条第3号により法人に科されるのは各本条の罰金刑、すなわち五十万円以下にとどまる。法人に対する制裁の上限が六十倍違う。

許可施設の外で危険物を扱う行為と、許可を受けずに施設を造る行為とを比べれば、前者のほうが危険が顕在化しやすく、かつ事業者が組織的な判断で行う余地が大きい。第45条第2号が第41条第1項第3号と第5号(消防用設備等の設置命令違反)のみを取り出して三千万円としているのは、この二つを事業者の組織的な違反として重く見る判断である。もっとも、第11条第1項の違反は許可取消しや使用停止(第12条の2第1項第1号)という行政処分に接続しており、罰金額の落差は行政上の措置と刑事罰の役割分担として理解されるべきものである。

第11条第6項の届出義務と両罰の不適用

第11条第6項後段の届出を怠った者は第44条第8号により三十万円以下の罰金又は拘留に処される。ところが第45条第3号が掲げるのは「前条第一号、第三号、第十一号、第十二号若しくは第二十二号」であり、第8号は含まれていない。法人の従業者が業務に関して届出を怠っても、法人に罰金刑が科されることはない。第12条の6の用途廃止届、第12条の7第2項の危険物保安統括管理者の選任届、第13条第2項の危険物保安監督者の選任届も同じく第44条第8号に集約されており、同様に両罰の対象外である。危険物施設に関する届出義務の全体が、法人処罰の射程から外れている。

承認・許可・命令の権限の分散

第10条第1項ただし書の承認は所轄消防長又は消防署長、第11条第1項の許可は市町村長等、承認又は許可を受けない貯蔵・取扱いに対する除去命令は市町村長等(第16条の6第1項)である。消防本部及び消防署を置く市町村では消防長等と市町村長が同一の市町村の機関であるが、消防本部を置かない市町村では、承認は市町村長、許可と除去命令は都道府県知事という分かれ方になる。危険物の規制を都道府県知事が担う区域において、仮貯蔵・仮取扱いの入口だけが市町村長の手に残る構造であり、承認の運用と許可の運用を同一の行政庁が見通すことができない。第16条の7が行政庁の変更に伴う特例を政令に委ねているのは、権限の所在が区域の消防体制によって動くことを前提とした調整である。

第11条第2項の覊束性と附款

「許可を与えなければならない」という文言は、要件が満たされた場合の許可義務を定める。許可に条件や期限といった附款を付すことができるかは、条文からは直接導かれない。第11条第2項が二つの要件を限定列挙し、それ以外の考慮を許していないことからすれば、法令上の要件を超える負担を申請者に課す附款は、その適法性に疑義が生ずる。隣接住民の同意書の提出を求める取扱いは、第2項の要件のいずれにも対応しない。

許可処分の成立時点

許可は申請者に対する行政処分であるから、行政庁の内部で許可の意思決定がされただけでは成立しない。外部への表示と、名宛人への告知又は到達が必要である。この点を正面から判断したのが次に述べる最高裁判例であり、完成検査済証やタンク検査済証の交付が政令上明記されているのに対し、許可については書面の交付が政令に明記されていないことと対照をなす。許可書の作成と交付の管理が、処分の成立そのものに関わる。

七 裁判例

最高裁判所第一小法廷昭和57年7月15日判決

消防法第11条第1項の規定に基づく給油取扱所の変更許可処分が、行政処分として有効に成立していないとされた事例である。

事案は次のとおりである。給油取扱所の所有者が第11条第1項の変更許可を申請したところ、消防本部側は隣接住民の同意書の提出を許可の条件として求め、申請者はこれに応じなかった。他方で消防本部側は、元売会社等の懇請を受けて昭和48年3月31日付の許可書の写しを作成し、元売会社側に交付した。この写しは通商産業局長に提出され、昭和47年度の変更枠の確保に用いられた。申請者本人に対しては許可書の原本が交付されていない。申請者は、変更許可処分の存在及び効力の確認、不作為の違法確認、同意書提出義務の不存在確認を求めて訴えを提起した。

最高裁は、「行政処分が行政処分として有効に成立したといえるためには、行政庁の内部において単なる意思決定の事実があるかあるいは右意思決定の内容を記載した書面が作成・用意されているのみでは足りず」、名宛人である相手方の受領を要する行政処分の場合は「さらに右処分が相手方に告知され又は相手方に到達すること」を要するとした。そして、許可書の写しの交付は通商産業局長との関係で変更枠を確保するための外観を作る目的でされたものであって、「被上告人に対する許可処分の外部的意思表示がされたものとみることはできない」とし、「被上告人に対する有効な許可処分は存在していないというほかはない」と結論づけた。主位的請求のうち処分の存在及び効力の確認請求は棄却され、不作為の違法確認の訴えと同意書提出義務の不存在確認の訴えは、前提となる処分が存在しないため訴えの利益を欠くとして却下された。原判決及び第一審判決を取り消し、予備的請求については神戸地方裁判所に差し戻している。

判決は同意書提出を求める取扱いそのものの適法性を判断していない。処分が存在しないことを理由に、同意書提出義務の不存在確認の訴えを却下したためである。もっとも、事実認定の中で「隣接住民の同意書を提出すべき旨を記載すると前記変更の枠が流れてしまうので」という経緯が示されており、同意書の要求が許可書の記載から意図的に落とされていたことが認定されている。法令に根拠のない要求が、記載すれば不都合を生ずるものとして扱われていた事実関係である。

この判決の実務的な意味は二つある。第一に、許可は許可書の交付によって名宛人に到達して初めて成立する。内部決裁の完了や起案書の作成では足りない。第二に、申請者以外の第三者に対して許可の外観を示す書面を交付する行為は、申請者に対する処分の成立をもたらさない。許可書の写しの交付先と交付の目的を文書管理上明らかにしておく必要がある。

裁判例が乏しい理由

第10条から第11条の2までの規定については、公表された裁判例が多くない。その理由は規定の構造に求められる。第11条第2項は要件を満たせば許可を与えなければならないとする覊束的な規律であるから、行政庁の判断の幅をめぐる争いが生じにくい。第11条の2には罰則も行政処分も付されていないため、違反が訴訟に至る経路がない。第10条第1項の違反は第41条第1項第3号の罰則の対象であるが、違反処理の第一段階として第16条の6の除去命令が置かれており、命令への従順によって事案が終結する場合が多い。刑事事件として処理される場合も、拘禁刑一年以下・罰金百万円以下という法定刑の事件が判例集に収録される頻度は高くない。裁判例の少なさは紛争の不存在を意味せず、紛争が訴訟の外側で処理される仕組みが働いていることを示している。

八 実務上の留意点

違反処理の順序

消防庁危険物保安室の「危険物施設違反処理マニュアル」は、違反の類型ごとに措置の順序を定めている。指定数量以上の危険物を製造所等以外の場所で貯蔵し又は取り扱う違反(第10条第1項)については、第一段階の措置として第16条の6第1項の除去命令等を置き、履行期限は原則として即時とする。引火点が百度以上の第四類の危険物のみを保有する油圧設備や潤滑油設備のように危険性が低い事例については警告を先に行い、是正されなければ速やかに除去命令に移る。これに対し、位置・構造又は設備を許可を受けずに変更した違反(第11条第1項後段)については、警告、使用停止命令、許可取消しという順序をとる。同じ第三章の違反でありながら、場所の違反は即時の命令、施設の違反は段階的な処分という違いがある。

第16条の6第1項の命令に従わない場合は、同条第2項が準用する第16条の3第5項により行政代執行法に基づく代執行の対象となる。命令をしたときは第11条の5第4項の準用により標識の設置その他総務省令で定める方法による公示を要する。命令は可能な限り書面によること、交付は直接手渡し又は本人の委任を受けた者への交付若しくは配達証明郵便によることが同マニュアルに示されている。

告発を前提とする類型として、第16条の6の命令違反、無承認貯蔵の反復、人的・物的被害が大きいか又はそのおそれがある無承認貯蔵が挙げられている。告発を行う場合は、違反者の特定、違反事実、情状、社会的影響の把握が必要であり、事前に捜査機関と協議することとされている。

仮貯蔵・仮取扱いの事前準備

平成25年10月3日消防災第364号・消防危第171号は、電気・建設・製造・石油関係の事業者や官公庁など申請が想定される者に、あらかじめ安全対策を検討させ、消防機関との間で実施計画を協議・合意しておくことの有用性を示し、「仮貯蔵・仮取扱い実施計画書」の様式例を掲げている。発災直後で申請の時間がない場合や交通が困難な場合には電話等による申請を認め、原則として事前計画のあるものに限るとしつつ、事後の現場確認を基本とする。通信・交通が困難で緊急避難的な貯蔵・取扱いが実態として行われている場合には、消防機関が覚知後速やかに安全確認を行い、安全が確保されると認めるときは承認を行うことが望ましいとされている。指定数量未満の臨時的な貯蔵・取扱いには承認手続を要しないが、防火指導の際に同ガイドラインを参考にすることが求められている。

企業の側から見れば、災害時に燃料の緊急供給や代替設備の運用が必要となる事業所については、平時に実施計画書を作成して所轄消防署と協議しておくことが、承認までの時間を左右する。災害が起きてから制度を調べる段階では間に合わない。

工程管理と完成検査前検査

液体危険物タンクを設置又は変更する工事では、完成検査前検査の工程が工事の順序を規定する。基礎及び地盤に関する工事の工程、配管その他の附属設備を取り付ける前のタンク本体に関する工事の工程という形で、検査を受ける時点が工事の進行上の特定の段階に固定されている。配管を取り付けた後では水張検査・水圧検査および溶接部検査を受けられない。工程表の作成段階で検査の申請時期を組み込まなければ、やり直しが生ずる。

高圧ガス保安法の特定設備検査に合格したタンク、労働安全衛生法第38条の検査に合格したタンク等については、危険物の規制に関する政令第8条の2第4項が完成検査前検査の一部の規定の適用を除外する。他法令の検査との重複を避ける規定であり、調達するタンクの検査履歴を確認しておくことで検査の負担が変わる。

変更時の仮使用の範囲

仮使用の承認は変更の工事に係る部分以外の部分についてのみ得られる。工事区域とそれ以外の区域を図面上で明確に区分し、物理的にも区画して申請する必要がある。工事区域に含まれる設備を稼働させれば第11条第5項本文違反となり、第42条第1項第3号の罰則および第12条の2第1項第2号の許可取消し・使用停止の対象となる。

届出の失念

地位承継の届出(第11条第6項)、用途廃止の届出(第12条の6)、品名・数量・指定数量の倍数の変更の届出(第11条の4第1項)は、いずれも第44条第8号の罰則を伴う。事業譲渡や会社分割に伴って危険物施設の帰属が変わる場面では、許可の名義が従前のままになっていることが少なくない。承継は法律上当然に生ずるため、届出をしなくても地位の移転自体は有効であるが、以後の許可申請、完成検査の申請、保安監督者の選任届の名義が実体と食い違い、立入検査の場面で是正を求められることになる。倍数変更の届出は「変更しようとする日の十日前まで」という事前の届出であり、事後の届出では義務を履行したことにならない。

統計からみた危険物施設の現況

令和6年版消防白書によれば、令和5年中の危険物施設における火災事故は243件、流出事故は468件、合計711件であった。同白書は、危険物施設における火災事故及び流出事故の件数が平成6年から増加に転じ、平成19年以降は高い水準で横ばいの状況が続いていると指摘している。施設数が減少傾向にある中で事故件数が横ばいであることは、一施設あたりの事故発生率が上昇していることを意味する。設備の経年化と保安を担う人員の減少が背景にある。許可と完成検査は施設の生涯の入口の手続にすぎず、第12条の維持義務、第14条の3の保安検査、第14条の3の2の定期点検が稼働期間を通じて機能しなければ、入口の審査の意味は薄れる。

参考文献・資料


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