地方公務員法(以下「地公法」という。)第63条から第65条までは、いずれも退職管理に関する制裁を定める規定である。第38条の2から第38条の7までが行為規範を定め、その最も悪質な違反に刑罰を科すのが第63条、比較的軽い違反に金銭的制裁を科すのが第64条、そして各団体が条例で独自の金銭的制裁を設けることを認めるのが第65条という三層構造になっている。

本稿は、令和8年4月1日現在の現行法に基づく解説である。第63条の法定刑が「拘禁刑」となっているのは、刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第68号)が令和7年6月1日に施行され、懲役と禁錮が拘禁刑に一本化されたことによる。


1 条文原文

第63条

第六十三条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑に処する。ただし、刑法(明治四十年法律第四十五号)に正条があるときは、刑法による。

一 職務上不正な行為(当該職務上不正な行為が、営利企業等に対し、他の役職員をその離職後に、若しくは役職員であつた者を、当該営利企業等若しくはその子法人の地位に就かせることを目的として、当該役職員若しくは役職員であつた者に関する情報を提供し、若しくは当該地位に関する情報の提供を依頼し、若しくは当該役職員若しくは役職員であつた者を当該地位に就かせることを要求し、若しくは依頼する行為、又は営利企業等に対し、離職後に当該営利企業等若しくはその子法人の地位に就くことを目的として、自己に関する情報を提供し、若しくは当該地位に関する情報の提供を依頼し、若しくは当該地位に就くことを要求し、若しくは約束する行為である場合における当該職務上不正な行為を除く。次号において同じ。)をすること若しくはしたこと、又は相当の行為をしないこと若しくはしなかつたことに関し、営利企業等に対し、離職後に当該営利企業等若しくはその子法人の地位に就くこと、又は他の役職員をその離職後に、若しくは役職員であつた者を、当該営利企業等若しくはその子法人の地位に就かせることを要求し、又は約束した職員

二 職務に関し、他の役職員に職務上不正な行為をするように、又は相当の行為をしないように要求し、依頼し、若しくは唆すこと、又は要求し、依頼し、若しくは唆したことに関し、営利企業等に対し、離職後に当該営利企業等若しくはその子法人の地位に就くこと、又は他の役職員をその離職後に、若しくは役職員であつた者を、当該営利企業等若しくはその子法人の地位に就かせることを要求し、又は約束した職員

三 前号(地方独立行政法人法第五十条の二において準用する場合を含む。)の不正な行為をするように、又は相当の行為をしないように要求し、依頼し、又は唆した行為の相手方であつて、同号(同条において準用する場合を含む。)の要求又は約束があつたことの情を知つて職務上不正な行為をし、又は相当の行為をしなかつた職員

第64条

第六十四条 第三十八条の二第一項、第四項又は第五項の規定(同条第八項の規定に基づく条例が定められているときは、当該条例の規定を含む。)に違反して、役職員又はこれらの規定に規定する役職員に類する者として人事委員会規則で定めるものに対し、契約等事務に関し、職務上の行為をするように、又はしないように要求し、又は依頼した者(不正な行為をするように、又は相当の行為をしないように要求し、又は依頼した者を除く。)は、十万円以下の過料に処する。

第65条

第六十五条 第三十八条の六第二項の条例には、これに違反した者に対し、十万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。


2 趣旨・立法背景

平成26年改正による新設

第63条から第65条までは、地方公務員法及び地方独立行政法人法の一部を改正する法律(平成26年法律第34号)によって新設され、退職管理に関する一連の規定とともに平成28年4月1日から施行された。それ以前の地公法には、いわゆる天下りをめぐる行為を直接に規律する条文が存在せず、公務員の再就職に関する住民の不信に対して、地方自治法上の一般的な財務規律や刑法の賄賂罪で対応するほかなかった。

改正の直接の背景には、国家公務員法等の一部を改正する法律(平成19年法律第108号)による国家公務員の再就職等規制の導入がある。国では、他の職員に関する再就職のあっせん、在職中の求職活動、退職者による古巣への働きかけの三つを類型化して規律し、第三者機関である再就職等監視委員会による監視制度を設けた。地方についても、団体ごとの事情を踏まえつつ同様の枠組みを整備する必要があるとされ、平成26年改正に至った。

第63条の趣旨

第63条が処罰の対象とするのは、職務の公正な執行と再就職の利益とが取引された場面である。金銭の授受があれば刑法の賄賂罪で捉えられるが、現金が一切動かず、「便宜を図る代わりに退職後のポストを用意してほしい」という約束だけが交わされる場合には、その約束が賄賂と評価できるかをめぐって処罰の間隙が生じうる。第63条は、この間隙を埋め、再就職ポストの要求や約束それ自体を独立の犯罪として構成した。

法定刑は3年以下の拘禁刑であり、罰金との選択刑を定める第60条や第61条と異なり、財産刑の選択肢がない。行為の悪質性を金銭で償わせる性質のものではないという立法判断の表れである。

括弧書きによる除外の読み方

第63条第1号の括弧書きは、条文の中でも特に読みにくい部分である。ここでは「職務上不正な行為」から次の二つの類型が除かれている。

  • 他の役職員または元役職員を営利企業等やその子法人のポストに就かせる目的で、当該者の情報を提供し、ポストの情報提供を依頼し、あるいはポストに就かせるよう要求・依頼する行為(あっせん型)
  • 自分が離職後に営利企業等やその子法人のポストに就く目的で、自己の情報を提供し、ポストの情報提供を依頼し、あるいはポストに就くことを要求・約束する行為(求職型)

除外の理由は、対価とされる行為と見返りの行為が同一の行為に重なってしまうことを避ける点にある。もしあっせん行為や求職行為そのものを「職務上不正な行為」に含めると、一個のあっせん行為が「不正な行為」であると同時に「その見返りとしての要求」にもなり、条文が循環してしまう。第63条が処罰しようとしているのは、契約の相手方選定や許認可といった実体的な職務行為の歪みであり、括弧書きはその照準を明確にする役割を果たしている。

なお、この括弧書きは国家公務員法の同旨規定の構造を踏襲したものである。国では在職中のあっせんと求職活動が法律で直接禁止されているのに対し、地公法にはこれに相当する一般的な禁止規定が置かれておらず、第38条の6第1項に基づく各団体の措置に委ねられている。この構造の違いは、後述の実務上の留意点にも関わる。

ただし書と刑法との関係

柱書のただし書は、「刑法に正条があるときは、刑法による」と定める。第63条は刑法の賄賂罪に対して補充的な位置にあり、同一の行為が加重収賄罪(刑法第197条の3)やあっせん収賄罪(同法第197条の4)の構成要件を満たす場合には、刑法が適用される。

この関係を理解するうえで押さえておきたいのが、賄賂の目的物は財物に限られず、人の需要や欲望を満たすに足りる利益であればよいという判例法理である。就職のあっせんも賄賂となりうるため、退職後のポストの約束が賄賂と評価される事案では、第63条ではなく刑法の賄賂罪が適用されることになる。第63条の実際の適用場面は、ポストの提供が賄賂と評価するに足りる具体性や利益性を欠く場合などに限られてくる。

第64条の趣旨

第64条は、第38条の2が定める再就職者の働きかけ規制に違反した者への制裁である。禁止される働きかけは、再就職した元職員が、古巣の役職員に対し、再就職先やその子法人と当該団体との間の契約等事務について、職務上の行為をするよう、またはしないよう要求・依頼する行為をいう。原則として離職前5年間の職務に関するものについて離職後2年間が規制対象となり、在職中に自ら決定した契約や処分については期間の定めなく規制される。

第64条が対象とするのは、このうち「不正な行為をするように、又は相当の行為をしないように要求し、又は依頼した者」を除いた部分である。つまり、働きかけの内容自体は不正でないもの、たとえば「うちの見積りをよく見てほしい」といった程度の依頼が該当する。これに対し、不正な行為を求める働きかけは第60条により1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象となる。行為の悪質性に応じて秩序罰と刑罰を書き分けた構造である。

第65条の趣旨

第65条は、第38条の6第2項に基づいて再就職情報の届出義務を条例で課した場合に、その違反者に対する過料を条例で定めることを認める規定である。

ここで見落としてはならないのが、地方自治法第14条第3項が、条例で科すことのできる過料の上限を5万円以下としている点である。第65条はこの上限に対する特則として、10万円以下の過料を可能にしている。届出義務の実効性を確保するために、一般則より重い制裁を許容したものと解される。

もっとも、第65条は「設けることができる」という任意規定であり、条例で届出義務を課すかどうか、課したうえで過料の規定を置くかどうかは、各団体の判断に委ねられている。

令和4年法律第68号による拘禁刑への統一

第63条の法定刑は、新設当初は「三年以下の懲役」であった。刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第68号)により懲役と禁錮が拘禁刑に一本化され、令和7年6月1日以降の行為には拘禁刑が適用される。刑期の上限に変更はなく、量刑の実質が変わるものではないが、条文を引用する際は現行の文言に従う必要がある。


3 用語解説

役職員 : 地方公共団体の執行機関の組織、議会の事務局または特定地方独立行政法人の職員、および特定地方独立行政法人の役員をいう(第38条の2第1項)。

営利企業等 : 営利企業と、営利企業以外の法人をいう。ただし、国、国際機関、地方公共団体、行政執行法人、特定地方独立行政法人は除かれる(第38条の2第1項)。公益財団法人や社会福祉法人も含まれる点に注意を要する。

子法人 : 再就職先である営利企業等が経営を支配している法人として政令で定めるものをいう。再就職先そのものではなく子会社に迂回する形での脱法を防ぐために規定されている。

契約等事務 : 再就職先である営利企業等またはその子法人と当該地方公共団体との間で締結される契約に関する事務と、当該営利企業等またはその子法人に対する行政手続法第2条第2号に規定する処分に関する事務をいう。

職務上不正な行為 : 職務上してはならない行為をすることをいう。法令に明白に反する行為に限られず、裁量権が与えられている行為であっても、その裁量を対価との関係で不当に行使したと評価される場合には該当しうる。

相当の行為をしないこと : 職務上当然にすべき行為をしないことをいう。証拠品を押収すべき場面で押収を取りやめる、必要な指導や監督を意図的に行わないといった不作為がこれに当たる。

拘禁刑 : 令和7年6月1日に施行された改正刑法により、懲役と禁錮を統合して創設された自由刑。改善更生に必要な作業や指導を柔軟に組み合わせられる点に特徴がある。

過料 : 行政上の秩序罰であり、刑罰ではない。前科とならず、刑事訴訟法上の手続によらない。第64条の過料は法律に基づくものとして裁判所が科すのに対し、第65条に基づく条例上の過料は地方公共団体の長が科す(後述)。

人事委員会規則 : 人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則をいう(第38条の2第1項)。第64条の「役職員に類する者」の範囲は、この規則で定められる。


4 第63条各号の行為類型

行為主体対価とされる職務行為要求・約束の内容
第1号職員本人自らが職務上不正な行為をすること・したこと、または相当の行為をしないこと・しなかったこと自らが離職後にポストに就くこと、または他の役職員・元役職員をポストに就かせること
第2号職員本人他の役職員に不正な行為を要求・依頼・教唆すること・したこと第1号と同じ
第3号働きかけを受けた側の職員第2号の要求または約束があったことを知りながら、現に不正な行為をし、または相当の行為をしなかったこと(要求・約束は不要)

第1号と第2号は、いずれも要求と約束のみを行為態様としており、単なる「依頼」は含まれていない。これに対し、第2号の前段(他の役職員への働きかけ)や第38条の2の働きかけ規制では「依頼」も明示されている。この書き分けは条文を読むうえでの着眼点となる。

第3号は、要求や約束を自ら行っていない職員を対象とする点で異質である。第2号の職員から不正な行為を求められた側が、その裏に再就職の取引があることを知りながら応じた場合に成立する。「情を知つて」という主観的要件が加重されているのは、取引の存在を認識していない職員まで処罰の網にかからないようにするためである。


5 退職管理に関する制裁の全体像

違反の内容制裁根拠
元職員が現職職員に働きかけをした場合(不正な行為を求めた場合を除く)10万円以下の過料第64条
元職員が現職職員に不正な行為をするよう働きかけた場合1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金第60条第4号から第7号まで
職員が元職員の働きかけに応じて不正な行為を行った場合1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金第60条第8号
職員が働きかけを受けた事実を人事委員会(公平委員会)へ届け出なかった場合懲戒処分の対象第38条の2第7項
職員が不正な行為の見返りとして、他の職員や元職員の再就職を営利企業等に要求・約束した場合3年以下の拘禁刑第63条第1号・第2号
職員が不正な行為の見返りとして、自らの再就職を営利企業等に要求・約束した場合3年以下の拘禁刑第63条第1号・第2号
取引を知りながら不正な行為に応じた職員3年以下の拘禁刑第63条第3号
条例に基づく再就職情報の届出義務に違反した場合条例で定めた10万円以下の過料第65条

(総務省自治行政局公務員部「地方公務員の退職管理の適正の確保について」の整理をもとに、拘禁刑への改正を反映して作成)


6 判例・裁判例

第63条から第65条までの適用が公表された事例

平成28年4月1日の施行以降、第63条の罪による起訴や有罪判決、第64条または第65条に基づく過料の裁判が公表された例は、判例集および裁判所の裁判例検索において確認できない。第63条が刑法の賄賂罪に対して補充的な位置にあり、金銭の授受を伴う典型的な汚職事案は加重収賄罪や受託収賄罪で立件されることが、適用例の乏しさの一因と考えられる。適用例がないことは、規定が機能していないことを意味するのではなく、行為規範として抑止的に働いていることの現れとも読める。

参考となる刑法上の判例

第63条の解釈にあたっては、賄賂罪に関する次の判例が手がかりとなる。

大審院明治43年12月19日判決 : 賄賂の目的物は財物に限られず、人の需要または欲望を満たすに足りる一切の利益がこれに当たるとした。就職のあっせんも賄賂となりうるという理解の基礎をなす判例であり、第63条柱書ただし書が働く場面を画する。

最高裁昭和36年1月13日判決(刑集15巻1号113頁) : 情交という非財産的利益も賄賂となりうるとした。無形の利益に対する賄賂罪の適用範囲を示した事例である。

最高裁昭和40年10月19日判決 : 刑法第197条にいう公務員の職務とは、公務員がその地位に基づいて取り扱う一切の執務をいい、独立の決裁権があることを要しないとした。第63条の「職務上不正な行為」を検討する際にも、決裁権者でない担当者の事務が広く含まれることの根拠となる。

最高裁昭和29年9月24日決定 : 被疑者の要望に応じて証拠品の押収を取りやめた警察官の事案について、「相当の行為をしなかった」場合に当たるとした。第63条にいう不作為型の理解に資する。

最高裁昭和43年10月15日決定 : あっせん収賄罪の成立には、公務員が積極的に地位を利用してあっせんすることまでは必要でないが、少なくとも公務員としての立場であっせんすることを要し、単なる私人としての行為では足りないとした。第63条第2号が「職務に関し」他の役職員に働きかける場面を要件としていることと共通の発想に立つ。

最高裁昭和58年3月25日決定 : 一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後に、前の職務に関して賄賂を供与した場合であっても、供与の当時に受供与者が公務員である以上は贈賄罪が成立するとした。人事異動や離職の前後をまたぐ利益供与の評価にあたって参照される。

国における再就職等規制違反の実例

地方に先行して規制が導入された国においては、違反の認定例が積み重ねられている。第63条や第64条が想定する行為のイメージをつかむうえで参考になる。

平成25年3月、再就職等監視委員会は、前国土交通事務次官が元同省職員の再就職を目的として所管の財団法人にポストの空き状況を照会した行為について、国家公務員法第106条の2に違反するとの認定を行った。同委員会の発足以来初めての違反認定であり、金銭の授受を伴わない情報のやり取りであっても規制の対象となることを示した事例である。

平成29年に明らかになった文部科学省の再就職等問題では、同省人事課を中心とする組織的なあっせん構造の存在が指摘された。同省は再就職等問題調査班を設置して全職員および退職者への調査を実施し、平成29年3月30日に「文部科学省における再就職等問題に係る調査報告(最終まとめ)」を公表している。在職中の求職活動、退職者を介した情報のやり取り、監視委員会への虚偽報告といった複数の類型の違反が認定され、多数の職員が懲戒処分を受けた。

いずれの事案も刑事罰の適用には至っていないが、金銭の授受がなくとも、情報提供や照会という行為の段階で規制違反が成立しうることを実務に示した。地方においても、退職者の再就職を「世話する」慣行が残っている場合には、第38条の2以下の規制および第63条の存在に照らして点検が必要となる。


7 実務上の留意点

罰金刑の選択肢がないことの帰結

第63条の法定刑は拘禁刑のみであり、罰金刑がない。略式命令は罰金または科料を科す場合に限られるため、第63条の罪は略式手続で処理することができず、公判請求を経ることになる。

さらに、拘禁刑に処せられた者は第16条第1号の欠格条項に該当し、第28条第4項により当然に失職する。刑の全部の執行を猶予された場合であっても、猶予期間が満了して刑の言渡しが効力を失うまでは「その執行を終わるまで」の状態が続くため、失職の効果は避けられない。退職手当の支給制限の対象ともなる。

なお第16条第3号は、人事委員会または公平委員会の委員の職にあって第60条から第63条までに規定する罪を犯し刑に処せられた者を欠格事由としている。第63条の罪は、この特別の欠格事由の対象にも含まれている。

法律上の過料と条例上の過料で手続が異なる

第64条と第65条はいずれも10万円以下の過料であるが、科す主体と手続が異なる。この違いは実務上の分岐点となる。

項目第64条の過料第65条に基づく条例上の過料
根拠法律条例
科す主体裁判所地方公共団体の長
手続非訟事件手続法に基づき、検察官の意見を聴いて決定地方自治法第255条の3により、あらかじめ告知し弁明の機会を付与
不服申立て異議の申立て、即時抗告審査請求、取消訴訟
上限額の根拠第64条第65条(地方自治法第14条第3項の5万円の特則)

第64条の過料事件について、地方公共団体の側は裁判所に対して事実を通知する立場に立つ。任命権者による調査(第38条の4)の結果を踏まえ、通知の要否と時期を判断することになるため、調査記録の作成と保存が実務の要点となる。

条例整備の点検項目

第38条の6第2項に基づいて再就職情報の届出義務を課す条例を制定する場合、総務省は、届出の対象者、届出が必要な場合、義務付け期間、届出事項、届出の手続と様式を条例で定めるべき事項として示している。第65条の過料規定を置くかどうかは、これらに加えて検討する事項となる。

留意すべきは、届出義務が既に職員でなくなった者に対して義務を課すものである点である。総務省も、対象者の範囲と義務付け期間は制度の趣旨に照らして合理的な範囲にとどめるべきとしている。過料の規定を置く場合には、義務の内容が明確であり、対象者に周知される仕組みが備わっていることが前提となる。

特定地方独立行政法人の役員への適用

第63条第3号が地方独立行政法人法第50条の2の準用に言及しているとおり、退職管理の規制は特定地方独立行政法人の役員にも及ぶ。公立大学法人や公営企業型の法人を設置している団体では、法人側の規程整備と職員研修が漏れやすい。設立団体の人事担当部門と法人の総務部門との間で、規制の適用範囲について認識を共有しておく必要がある。

現場で起こりやすい場面

  • 退職を控えた管理職が、所管する事業者に対して自らの再就職の意向を伝える場面
  • 人事担当部署が、退職予定者の履歴を外郭団体や事業者に情報提供する場面
  • 再就職した元職員が、古巣の後輩に対して入札や検査の運用について照会する場面

第三の場面は第38条の2の働きかけ規制に直結し、働きかけを受けた職員には人事委員会または公平委員会への届出義務が生じる。届出を怠れば懲戒処分の対象となる。第一および第二の場面は、地公法上の一般的な禁止規定がないため、各団体が第38条の6第1項に基づいて講じる措置や倫理条例、内部規程の設計にかかっている。国の枠組みをそのまま前提にすると判断を誤るため、自団体の条例と規程を確認したうえで対応することが求められる。


8 国家公務員法との比較

観点地方公務員法国家公務員法
在職中の他の職員へのあっせん法律上の一般的禁止規定なし。各団体の措置に委ねる(第38条の6第1項)第106条の2で直接禁止
在職中の求職活動同上第106条の3で直接禁止
退職者による働きかけ第38条の2で禁止第106条の4で禁止
監視機関任命権者が調査し、人事委員会(公平委員会)が監視(第38条の3から第38条の5まで)内閣府の再就職等監視委員会
再就職情報の届出条例で任意に義務付け(第38条の6第2項)法律上の届出義務
見返り型の要求・約束への刑罰第63条(3年以下の拘禁刑)同旨の罰則あり

最大の相違は、在職中のあっせんと求職活動について、国が法律で直接禁止しているのに対し、地方では各団体の措置に委ねられている点である。地公法第63条は、この禁止規定を欠いたまま、見返り型の要求と約束という最も悪質な部分だけを刑罰で捕捉する構造になっている。第63条第1号の括弧書きが国の条文構造を踏襲しつつ、地方では働く場面が限られるのは、この差に由来する。

なお、地方公務員に適用される倫理法制については、国家公務員倫理法に相当する統一的な法律が存在しない。同法は国家公務員のみを対象としており、地方公務員の職務に係る倫理の保持は各団体の倫理条例と倫理規程に委ねられている。退職管理の分野でも、この不在が各団体の自主的な制度設計の余地と、団体間の取扱いの差を生んでいる。


9 昇任試験対策のポイント

  • 第63条の法定刑は3年以下の拘禁刑であり、罰金との選択刑ではない。第60条(1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)との違いが問われやすい。
  • 第63条には「刑法に正条があるときは、刑法による」というただし書があり、刑法の賄賂罪に対して補充的に適用される。
  • 第64条の過料は、働きかけの内容が不正な行為でない場合に限られる。不正な行為を求めた働きかけは第60条の刑罰の対象であり、過料ではない。
  • 第64条の過料は裁判所が科し、第65条に基づく条例上の過料は地方公共団体の長が科す。科す主体の違いは頻出の論点である。
  • 第65条の10万円という上限は、地方自治法第14条第3項が定める条例上の過料の上限5万円に対する特則である。
  • 第38条の2第7項の届出義務違反は、罰則ではなく懲戒処分の対象である。
  • 第63条第3号は、要求や約束をした側ではなく、取引の存在を知りながら不正な行為に応じた側を処罰する規定である。

論文式では、退職管理の制度全体を、行為規範(第38条の2から第38条の7まで)と制裁(第60条、第63条から第65条まで)の二層構造として整理し、そのうえで自団体の条例に触れる構成が説得力を持つ。


参考資料

  • 総務省自治行政局公務員部高齢対策室「地方公務員の退職管理の適正の確保について」
  • 衆議院「地方公務員法及び地方独立行政法人法の一部を改正する法律」(平成26年法律第34号)
  • 内閣府再就職等監視委員会「国家公務員法の再就職等規制の概要」
  • 内閣官房内閣人事局「国家公務員が知っておかなければならない 再就職に関する規制」
  • 文部科学省「文部科学省における再就職等問題に係る調査報告(最終まとめ)」(平成29年3月30日)
  • 裁判所「過料決定についてのQ&A」
  • 一般財団法人地方自治研究機構「自治体法務Q&A 再就職者による依頼等の規制の適用範囲」

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