採用試験は「全ての国民に対して平等の条件で公開」されなければならない(第18条の2)。しかし現実の試験には、年齢の上限があり、免許資格の保有が求められ、試験区分ごとの区別がある。門を広く開けという原則と、実際には条件が付されているという事実は、どう折り合うのか。その接点を規律しているのが第19条である。本条は令和8年4月1日現在の現行法として、昇任試験にも準用される(第21条の4第4項)。
1 条文原文
(受験の資格要件)
第十九条 人事委員会等は、受験者に必要な資格として職務の遂行上必要であつて最少かつ適当な限度の客観的かつ画一的な要件を定めるものとする。
2 趣旨・立法背景
2-1 成績主義を入口で支える規定
地方公務員法は、職員の任用を受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づいて行わなければならないとする(第15条)。この成績主義(メリット・システム)が機能するためには、能力を競う場そのものが広く開かれていなければならない。第18条の2が採用試験の公開平等を定めるのは、そのためである。
ところが、受験資格を厳しく設定すれば、公開平等の原則は容易に骨抜きになる。試験を形式上は誰にでも開きながら、受験資格の段階で特定の属性を持つ者を締め出せば、実質的には閉じた試験になってしまう。第19条は、この抜け道を封じるために置かれた。受験資格を定める権限を認めつつ、その権限に外枠をはめる規定である。
第13条の平等取扱いの原則、第18条の2の公開平等、第19条の資格要件の限定は、三つで一組の仕組みを構成している。入口を絞る作用を持つのは第19条だけであり、だからこそ本条には限定の文言が重ねて置かれている。
2-2 三つの縛り
条文は、受験資格に対して次の三つの制約を課している。
第一に、職務の遂行上必要であること。受験資格は、その職の職務内容と結び付いていなければならない。保健師の職に保健師免許を求めるのは職務との関連が明白である。他方、職務と無関係な属性を条件にすることは、この段階で許されない。
第二に、最少かつ適当な限度であること。職務との関連が一応認められる要件であっても、必要を超えて広く設定してはならない。関連性があれば何でも要件にできるわけではなく、目的達成に必要な最小限にとどめることが求められる。「最少」に加えて「適当な」が置かれているのは、単に数を絞ればよいのではなく、限度の設定自体が職務に照らして相当でなければならないという意味である。
第三に、客観的かつ画一的であること。要件は、外形的に判定でき、受験者ごとに判断が揺れないものでなければならない。試験実施機関の主観的評価に委ねられる条件、たとえば人物の印象や思想信条に関わる事柄を受験資格の段階に持ち込むことは、この要素に反する。受験資格は誰が当てはめても同じ結論になる形で示され、能力の実質的な判定は試験本体(第20条)で行う。この役割分担が本条の眼目である。
2-3 「定めるものとする」の意味
本条は「定めることができる」ではなく「定めるものとする」と書かれている。受験資格を全く定めないことも、逆に無限定に定めることも、法は予定していない。試験区分に応じて必要な要件を設定する作業自体が、人事委員会等に課された職務である。
同旨の国家公務員法の規定と比べると、地方公務員法の書きぶりの特徴が見えてくる。
| 事項 | 地方公務員法 | 国家公務員法 |
|---|---|---|
| 受験の資格要件 | 第19条「定めるものとする」 | 第44条「定めることができる」 |
| 限度の表現 | 職務の遂行上必要であつて最少かつ適当な限度 | その職務の遂行に欠くことのできない最小限度 |
| 採用試験の公開平等 | 第18条の2 | 第46条 |
| 受験の阻害と情報提供の禁止 | 第18条の3 | 第41条 |
| 採用試験の目的 | 第20条 | 第45条 |
国家公務員法が「欠くことのできない」という強い表現を用いるのに対し、地方公務員法は「必要であつて最少かつ適当な」とする。地方公共団体では職種の幅が広く、免許資格職や技能労務職を含めて多様な試験を実施する必要があるため、絶対的な不可欠性まで求めない書き方が採られたものと理解されている。もっとも、必要最小限を求める規範としての性格は共通である。
3 用語解説
新任者が最初につまずきやすい語を整理する。
- 人事委員会等 第17条の2第3項が定める略語である。人事委員会(第9条第2項の競争試験等を行う公平委員会を含む)を置く団体ではその委員会を指し、人事委員会を置かない団体では任命権者を指す。町村など人事委員会を置かない団体では、受験資格を定めるのは任命権者自身である。
- 受験の資格要件 採用試験を受験するために備えていなければならない条件をいう。年齢、免許資格、職務経験、試験区分に対応する能力水準などが典型である。
- 職務の遂行上必要 当該職に就いた者が現実に行う職務内容との間に、説明可能な結び付きがあることをいう。抽象的に「公務員として望ましい」という程度では足りない。
- 最少かつ適当な限度 必要を満たす範囲で最も狭い設定をすること。文字は「最小」ではなく「最少」である。
- 客観的 書類や証明によって外形的に確認でき、判定者の裁量が入り込まないこと。
- 画一的 すべての受験者に同一の基準が同一に適用されること。
- 採用試験と選考 第17条の2により、職員の採用は競争試験によることが原則であり、人事委員会規則(人事委員会を置かない団体では条例)で定める場合に選考によることができる。第19条は文言上、採用試験の受験資格を対象とする。選考の場合も第13条の平等取扱いの原則は当然に及ぶため、選考の受験要件を設計する際に本条の考え方が参照される。
- 欠格条項(第16条)との違い 第16条は法律が定める絶対的な事由であり、該当すれば職員となることも試験を受けることもできない。第19条は、試験実施機関が職ごとに定める相対的な要件である。両者は性質も定める主体も異なる。
- 標準職務遂行能力 第15条の2第1項第5号の用語であり、職制上の段階の標準的な職の職務を遂行する上で発揮することが求められる能力として任命権者が定めるもの。第20条は、採用試験の目的をこの能力と適性の判定に置いている。受験資格は、この判定を行う前段階の入場条件にすぎない。
4 改正の経緯
4-1 制定当初の第19条
昭和25年の制定当初、第19条は三項構成であった。第1項が競争試験の公開平等と受験阻害の禁止、第2項が受験資格の要件、第3項が昇任試験の受験範囲の制限である。現行の第19条は、この旧第2項に由来する。
4-2 平成26年法律第34号による再編
人事評価制度の導入と退職管理の適正確保を柱とする平成26年法律第34号(平成28年4月1日施行)により、任用に関する規定が大きく組み替えられた。旧第19条の内容は次のように分解された。
| 改正前 | 改正後 |
|---|---|
| 旧第19条第1項前段(公開平等) | 第18条の2 |
| 旧第19条第1項後段(受験阻害と情報提供の禁止) | 第18条の3 |
| 旧第19条第2項(受験の資格要件) | 第19条 |
| 旧第19条第3項(昇任試験の受験範囲) | 第21条の4第3項 |
これに伴い、条文の主語が「人事委員会」から「人事委員会等」に改められた。同じ改正で第17条の2が新設され、人事委員会を置かない団体では任命権者が人事委員会等として受験資格を定めることが条文上明確になった。文言も「最少且つ適当の限度の客観的且つ画一的要件」から「最少かつ適当な限度の客観的かつ画一的な要件」へと現代語化されたが、規範の内容に変更はない。見出しも「受験資格」から「受験の資格要件」に改められている。
なお、この改正の際の政府提出法案には、受験資格を定める主体を「任命権者等」に改める別の改正条項も含まれていたが、その部分は成立していない。現行法の主語は「人事委員会等」である。
4-3 その後の周辺改正
第19条それ自体は平成28年4月1日以降、令和8年4月1日現在まで改正されていない。もっとも、受験資格をめぐる周辺の法状況は動いている。
- 平成29年法律第29号(令和2年4月1日施行) 会計年度任用職員の制度が導入され、第22条の2が新設された。臨時的任用の要件も厳格化された。
- 令和元年法律第37号 成年被後見人と被保佐人に係る欠格条項が第16条から削除された。第19条の外側にある入口の制限が一つ取り除かれたことになる。
- 令和3年法律第63号(令和5年4月1日施行) 定年の段階的引上げに伴い、定年前再任用短時間勤務職員の制度(第22条の4)が設けられた。この採用は選考によるため、第19条の直接の対象ではない。
- 令和4年法律第67号(令和7年6月1日施行) 懲役と禁錮が拘禁刑に一本化された。第16条第1号は「拘禁刑以上の刑に処せられ」と読むことになり、第18条の3に違反した者に対する第61条第3号の罰則も拘禁刑に改められている。
5 実務上の留意点
5-1 受験資格の年次点検
総務省自治行政局公務員部公務員課は、毎年度、各都道府県総務部と各指定都市総務局および各人事委員会事務局あてに「地方公共団体の職員の公正な採用について」と題する事務連絡を発出している。直近のものは令和8年3月19日付である。
令和7年3月25日付の事務連絡は、採用試験又は選考が標準職務遂行能力と適性の有無の判定を目的とすること、採用試験が受験資格を有する全ての国民に平等の条件で公開されなければならないことを確認したうえで、受験申込書や面接カードなどの採用関係書類、面接時の質問、適性検査において、本籍地・出生地、思想信条、病歴、性的指向・性自認、家族の職業といった標準職務遂行能力と適性の判定に必要のない事項を把握することは、第13条の平等取扱いの原則に反しているとの疑念を受けかねないと指摘している。あわせて、合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の身体検査や健康診断は就職差別につながるおそれがあるとし、非常勤職員を含めた全職種の採用試験と選考について点検すること、都道府県内の市区町村や一部事務組合にも趣旨を徹底することを求めている。
この点検作業は、第19条の三つの縛りをそのまま実務に落としたものと読める。受験資格に掲げた条件を一つずつ取り上げ、その職の職務内容と結び付けて説明できるかを検証することが、担当課の実務となる。
5-2 国籍要件
明文の規定は置かれていない。政府は昭和28年3月25日の内閣法制局見解以来、公務員に関する当然の法理として、公権力の行使または公の意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍を必要とすると解しており、旧自治省は昭和48年にこの法理が地方公務員にも当てはまるとの立場を示した。
昭和48年以降、阪神間の市町を皮切りに一般事務職の国籍条項を撤廃する団体が現れ、その後全国に広がった。他方で、課長級以上の職や公権力の行使に直結する職について国籍要件を維持する団体も残っている。
令和6年6月4日付の政府答弁書(内閣参質213第145号)は、公権力の行使または公の意思の形成への参画に携わる公務員には日本国籍を必要とするとの従来の立場を維持しつつ、外国籍職員の採用は地域の実情に応じて自主的かつ適切に行われるべきものであり、国として一般的な指針を設ける考えはないとした。国籍要件を置くかどうか、置くとしてどの職に置くかの判断は、各団体が第19条の枠内で自ら説明責任を負う事柄として残されている。
5-3 年齢要件
多くの団体が試験区分ごとに年齢の上限を設けている。第19条の下では、年齢の区切りもまた職務の遂行上の必要から説明されるべき要件である。長期的な人材育成の見通しや職務の身体的負荷といった理由が挙げられることが多いが、その理由がどの職にも一律に当てはまるわけではない。
近年は上限の緩和が進んでいる。総務省は就職氷河期世代を対象とする採用の支援に関する情報を集約しているほか、令和6年度には「会計年度任用職員の職務経験を有する者が受験可能な中途採用試験の取組事例」を、令和7年度には「会計年度任用職員の経験を活かす採用試験等の取組事例集」を取りまとめて公表している。年齢や職務経験に関する要件を見直すことは、人材確保の課題であると同時に、第19条が求める必要最小限の点検そのものでもある。
5-4 学歴要件と免許資格
いわゆる大学卒業程度、高等学校卒業程度という区分は、多くの団体で試験問題の程度を示す表示として用いられており、卒業の事実を受験資格とはしていない。学歴そのものを要件とすれば、職務の遂行上の必要をその都度説明しなければならなくなるためである。
これに対し、医師、保健師、保育士、獣医師といった免許資格職では、免許の保有が職務の遂行に不可欠であり、要件とすることに問題はない。実務上の論点は、受験時点での保有を求めるか、採用時までの取得見込みを含めるかである。取得見込みを排除する扱いは、養成課程の在学者を一律に締め出すことになるため、必要最小限といえるかを検討しておきたい。
5-5 障害のある受験者への対応
障害者の雇用の促進等に関する法律は、募集および採用について障害者であることを理由とする差別を禁止し(第34条)、募集および採用に当たって障害者からの申出に応じた合理的配慮の提供を求めている(第36条の2)。地方公共団体は、率先して障害者を雇用する責務を負う立場にある(同法第6条)。
受験資格に、通勤や職務遂行に介助を要しないことを条件として掲げる例が過去にはみられた。こうした条件は、合理的配慮を提供すれば職務の遂行が可能な者を入口で排除するものであり、職務の遂行上必要な最少限度といえるかという第19条の観点からも、合理的配慮の提供義務との整合という観点からも、維持は困難である。点字や拡大文字による受験、時間延長、活字印刷文への対応といった受験上の配慮を、どの試験でどこまで用意するかも、あわせて整理しておく必要がある。
5-6 居住要件
採用後にその市町村内に居住することを受験資格として掲げると、住所という職務外の事情によって受験の機会を制限することになる。災害対応の即応性など具体的な必要が説明できる職を除き、受験資格ではなく採用後の要請として扱うのが穏当である。
6 判例・裁判例
第19条それ自体の解釈を正面から示した最高裁判所の判例は、公表されていない。本条は試験実施機関の内部的な作用を規律する規定であり、受験資格の設定が争われる場合も、憲法第14条第1項の平等原則や労働基準法第3条の均等待遇の問題として構成されることが多いためである。以下では、受験資格の適法性が正面から争われた事案として、最も重要なものを取り上げる。
6-1 東京都管理職選考受験資格確認等請求事件
最高裁判所大法廷平成17年1月26日判決(民集59巻1号128頁、平成10年(行ツ)第93号)。
事案は次のとおりである。特別永住者である在日韓国人の女性が、東京都に保健婦(当時)として採用された。その後、課長級の職に就くための管理職選考を受験しようとしたところ、東京都は、日本国籍を有しないことを理由に受験資格を認めず、受験申込書の受取りを拒否した。女性は、受験資格の確認と国家賠償法第1条第1項に基づく慰謝料の支払いを求めて出訴した。
第一審の東京地方裁判所平成8年5月16日判決は請求を棄却したが、控訴審の東京高等裁判所平成9年11月26日判決は受験拒否を違法とし、東京都に40万円の支払いを命じた。
最高裁判所は原判決のうち東京都敗訴部分を破棄し、控訴を棄却した。判示事項は、地方公共団体が日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることと労働基準法第3条および憲法第14条第1項との関係、ならびに東京都が管理職に昇任するための資格要件として日本の国籍を有することを定めた措置が労働基準法第3条および憲法第14条第1項に違反しないとされた事例である。
裁判要旨は、地方公共団体が、公権力の行使に当たる行為を行うことなどを職務とする地方公務員の職と、これに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築した上で、日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは、労働基準法第3条と憲法第14条第1項に違反しないとする。判決は、住民の権利義務を直接形成しその範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い、または重要な施策に関する決定を行いもしくはこれに参画することを職務とする地方公務員を公権力行使等地方公務員と呼び、国民主権の原理に基づき、原則として日本の国籍を有する者がこれに就任することが想定されているとした。裁判官滝井繁男と裁判官泉徳治の反対意見が付されている。
本判決は昇任のための選考の受験資格に関する事案であり、第19条ではなく管理職任用制度の合理性が判断の対象である。しかし、受験資格の設定が試験実施機関の裁量に属するとしても、その内容は職務の性質との関連において審査されるという判断の構造は、第19条の運用にそのまま接続する。受験資格を置く側が、当該職の職務内容に立ち返って要件を正当化しなければならないという点で、本条の実務にとって最も参照価値の高い判例である。
6-2 関連する下級審の状況
受験資格そのものの適法性を争う訴訟は多くない。受験を拒否された者は職員としての地位を有しないため、第49条以下の不利益処分に関する審査請求の対象とならず、争う場合は国家賠償請求などの形をとることになる。この構造も、第19条に関する裁判例が蓄積しにくい一因である。試験の実施をめぐる紛争の大半は、受験資格の段階ではなく、合否判定や採用内定の取消しの局面で現れている。
7 参考資料
- 総務省「地方公共団体の職員の公正な採用について」(令和8年3月19日事務連絡、令和7年3月25日事務連絡ほか)
- 総務省自治行政局公務員部「勤務条件・採用試験等」(採用試験関係の通知と取組事例集を掲載)
- 最高裁判所大法廷平成17年1月26日判決(民集59巻1号128頁)裁判所ウェブサイト裁判例検索
- 参議院「参議院議員神谷宗幣君提出地方自治体職員の国籍に関する質問に対する答弁書」(内閣参質213第145号、令和6年6月4日)
- 総務省「地方公務員法等の一部を改正する法律案新旧対照条文」(平成26年法律第34号関係)
- 厚生労働省「公正な採用選考をめざして」
第19条は、条文としては一文しかない。しかし、受験案内の一行一行がこの一文の適用結果であると考えれば、毎年の受験資格の見直しは法の運用そのものである。自団体の受験案内を開き、掲げられた条件のそれぞれについて、その職の職務内容から説明できるかを確かめることをお勧めしたい。
◆自治体研修850回超の行政書士が、係長・課長昇任試験の論文を1本から添削します。 https://compliance21.com/promotion-examination-lg/


