1 条文原文

1-1 本条

(教示) 第十四条 前条第一項の公益通報が誤って当該公益通報に係る通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有しない行政機関に対してされたときは、当該行政機関は、当該公益通報者に対し、当該公益通報に係る通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関を教示しなければならない。

一項のみ、一文のみの条文である。公益通報者保護法の実体規定のうち、平成16年の制定時から令和8年12月1日施行の現在に至るまで、条文番号の繰下げを除いて一字も改められていない数少ない規定の一つである。

1-2 直接関係する周辺条文

第14条は「前条第一項の公益通報」という参照から始まる。したがって第13条第1項を並べなければ読めない。

(行政機関がとるべき措置) 第十三条 通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関は、公益通報者から第三条第一項第二号及び第六条第一項第二号に定める公益通報をされた場合には、必要な調査を行い、当該公益通報に係る通報対象事実があると認めるときは、法令に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。

その第13条第1項が受ける通報の入口を定めるのが、労働者等についての第3条第1項第2号と、役員についての第6条第1項第2号である。

二 通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合又は通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると思料し、かつ、次に掲げる事項を記載した書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。次号ホにおいて同じ。)を提出する場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等に対する公益通報 イ 公益通報者の氏名又は名称及び住所又は居所 ロ 当該通報対象事実の内容 ハ 当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する理由 ニ 当該通報対象事実について法令に基づく措置その他適当な措置がとられるべきと思料する理由

二 次のいずれかに該当する場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等に対する公益通報 イ 調査是正措置(善良な管理者と同一の注意をもって行う、通報対象事実の調査及びその是正のために必要な措置をいう。次号イにおいて同じ。)をとることに努めたにもかかわらず、なお当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合 ロ 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人(事業を行う場合におけるものを除く。)の財産に対する損害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

「処分」「勧告等」「行政機関等」の語義は第2条第1項が定めている。

当該通報対象事実について処分(命令、取消しその他公権力の行使に当たる行為をいう。以下同じ。)若しくは勧告等(勧告その他処分に当たらない行為をいう。以下同じ。)をする権限を有する行政機関若しくは当該行政機関があらかじめ定めた者(次条第一項第二号及び第六条第一項第二号において「行政機関等」という。)

そして「行政機関」の外延は第2条第4項が定める。

4 この法律において「行政機関」とは、次に掲げる機関をいう。 一 内閣府、宮内庁、内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項若しくは第二項に規定する機関、デジタル庁、国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する機関、法律の規定に基づき内閣の所轄の下に置かれる機関若しくはこれらに置かれる機関又はこれらの機関の職員であって法律上独立に権限を行使することを認められた職員 二 地方公共団体の機関(議会を除く。)

最後に、第14条の履行を担保する行政措置が公的部門に及ばないことを示す第20条を掲げる。

(適用除外) 第二十条 第十五条から第十六条までの規定は、国及び地方公共団体には、適用しない。


2 新旧対照と改正の位置づけ

2-1 令和7年改正は第14条に触れていない

令和7年法律第62号は、直罰規定の新設、立証責任の転換、フリーランスの追加、通報妨害及び通報者探索の禁止など、この法律の全体像を大きく書き換えた。しかし第14条には手が加えられていない。消費者庁「公益通報ハンドブック(改正法(令和8年12月施行)準拠版)」に収録された条文の改正沿革注記も、第14条については「(令二法五一・旧第十一条繰下)」のみを掲げ、第13条に付されている「(令二法五一・旧第十条繰下・一部改正、令七法六二・一部改正)」のような令和7年改正の注記を置いていない。

項目平成16年制定時令和2年法律第51号令和7年法律第62号
条文番号第11条第14条へ繰下げ変更なし
条文本文現行と同一変更なし変更なし
章の所属第三章(事業者がとるべき措置等)同左同左
参照先条文前条(旧第10条)第1項前条(第13条)第1項同左(第13条第1項の内部で引用条項が改まったのみ)

第13条第1項及び第2項は、令和7年改正で「第三条第二号及び第六条第二号」が「第三条第一項第二号及び第六条第一項第二号」に改められた。第14条は第13条第1項を「前条第一項」と包括的に参照しているため、参照先の内部改正を自動的に取り込み、条文自体を書き換える必要がなかった。立法技術としての包括参照の効用がよく表れている。

2-2 二十年間変わらなかったことの意味

条文が変わらないことには二通りの理由があり得る。第一は、規定が完成しており改める必要がない場合。第二は、機能不全が認識されていながら手当ての優先順位が上がらない場合である。第14条については、後述する三つの空白(保護要件・移送・制裁)が制定当初から指摘されてきたにもかかわらず、令和2年改正でも令和7年改正でも議題の中心に上がらなかった。制度の実務上の重心が、ガイドライン、Q&A、各行政機関の訓令・要綱という法律より下位の規範に移されてきたためである。第14条を読む際は、条文の一文だけでなく、この下位規範の層をあわせて見る必要がある。


3 趣旨と立法背景

3-1 制度が前提とする「通報者の無知」

第3条第1項第2号の2号通報は、「当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等」に対してされたときに限り保護される。通報先を誤れば、法律上の保護は及ばない。ところが、どの行政機関がどの法律について処分又は勧告等をする権限を有するかは、個別法令と行政組織法令の組合せによって定まる。所属先の法令違反を目にした一人の労働者が、その配分を正確に把握していることは期待できない。

第14条は、この構造的な情報の非対称を、行政の側の作為義務によって埋めようとする規定である。制度の設計思想としては、通報者に対して「正しく調べてから通報せよ」と要求するのではなく、「どこかの行政機関に届けば足り、そこから先は行政が案内する」という接続を用意した点に特色がある。消費者庁「公益通報ハンドブック(改正法(令和8年12月施行)準拠版)」も、行政機関に通報があった場合の説明として、通報が誤って権限を有しない行政機関に対してされた場合には、その行政機関が正しい行政機関を通報者に教示しなければならないことを図解で示している。

3-2 行政法上の教示制度の系譜

「教示」という語は、行政法において確立した制度概念である。行政不服審査法は第82条第1項で、不服申立てをすることができる処分を書面でする場合に、処分庁が不服申立てをすることができる旨、審査請求をすべき行政庁及び審査請求をすることができる期間を書面で教示すべきことを定める。行政事件訴訟法第46条も、取消訴訟の被告とすべき者、出訴期間等の教示を定める。いずれも、行政の内部構造を知らない私人が救済ルートを取り違えることのないよう、行政の側に情報提供義務を課す仕組みである。

第14条はこの系譜に連なる。ただし、行政不服審査法が誤教示・不教示の場合の救済まで用意しているのに対し、第14条は教示義務を課すだけで終わっている。この差異は後述する。

3-3 国会の附帯決議とガイドラインの位置

平成16年の法制定に際し、衆議院内閣委員会の附帯決議は、公益通報を受けた行政機関がとるべき対応についてガイドラインの作成等により適切な対応を確保すべきことを指摘した。消費者庁の公益通報者保護制度Q&A(令和8年5月29日時点)は、国の行政機関向けガイドライン及び地方公共団体向けガイドラインがこの附帯決議を踏まえて作成されたものであり、前者が関係省庁間の申合せ、後者が地方自治法第245条の4第1項に基づく技術的な助言として策定されていることを説明している。第14条の運用実務は、法律ではなくこのガイドラインの層で具体化されている。


4 用語解説

初めてこの条文に接する担当者のために、語を分解しておく。

教示——行政機関が私人に対し、法律関係に関する一定の事項を知らせる行為。法的効果を生じさせる意思表示ではなく、事実の告知(観念の通知)である。したがって行政処分ではなく、教示それ自体の取消しを求める抗告訴訟は成り立たない。

処分——第2条第1項が「命令、取消しその他公権力の行使に当たる行為」と定義する。営業許可の取消し、業務停止命令、改善命令などが典型である。

勧告等——同項が「勧告その他処分に当たらない行為」と定義する。行政指導、公表、助言などを含む。処分に至らない働きかけの権限しか持たない行政機関も「権限を有する行政機関」となり得る。

権限を有しない行政機関——当該通報対象事実について、処分の権限も勧告等の権限も持たない行政機関を指す。処分権限はないが勧告権限はある、という機関はここに含まれない。

誤って——通報者の側に、通報先を選択する過程での認識の齟齬があった状態を指す。故意に権限のない機関へ送りつけたことまで要求するものではない。

2号通報——第3条第1項第2号及び第6条第1項第2号に定める、権限を有する行政機関等に対する公益通報。消費者庁のQ&Aで用いられている呼称である。

行政機関検索システム——消費者庁が公益通報者保護制度ウェブサイトに設けている「公益通報の通報先・相談先 行政機関検索」。法律名やキーワードから、処分又は勧告等をする権限を有する行政機関を調べることができる。


5 要件と効果の分解

5-1 「前条第一項の公益通報」——対象となる通報

第14条が対象とするのは、第13条第1項が掲げる通報、すなわち第3条第1項第2号及び第6条第1項第2号に定める公益通報である。ここに二つの読み方の分岐がある。

第一の読み方は、通報の宛先が権限を有する行政機関であることまで含めて「前条第一項の公益通報」と解するものである。この読み方によれば、権限を有しない行政機関に届いた通報はそもそも第13条第1項の通報ではなく、第14条は空振りに終わる。条文全体が意味を失うため、採り得ない。

第二の読み方は、通報者・不正の目的の不存在・通報対象事実といった第3条第1項第2号及び第6条第1項第2号の実体要件を満たす通報を指し、宛先の適否は第14条自身が「誤って……権限を有しない行政機関に対してされたとき」として切り出していると解するものである。条文の文理からも、この読み方が自然である。

実務への含意は明快である。第14条の教示義務は、届いた通報が結果として保護要件を満たすかどうかを確定させる前に発生する。受け付けた行政機関は、通報者が労働者に当たるか、真実相当性があるか、といった判断を経る前に、まず自らに権限がないことを認識した時点で教示すべきことになる。

5-2 「誤って」——通報者の主観をどこまで問うか

「誤って」の一語は、通報者が権限配分を取り違えたという事実状態を示すにとどまる。行政機関の側に、通報者の主観を審査する権限も義務もない。通報者が権限の所在を承知のうえで、あえて情報提供の趣旨で権限なき機関に届けた場合であっても、教示を拒む理由にはならない。

厚生労働省における外部の労働者等からの通報に対する事務手続に関する訓令は、権限を有する他の行政機関を遅滞なく教示すべき旨を定めたうえで、通報者が教示を望まない場合、匿名による通報であるため通報者への教示が困難である場合その他やむを得ない理由がある場合を除く、との但書を置いている。国及び地方公共団体向けガイドライン(外部の労働者等からの通報)も、受付時の説明について同旨の除外を定め、その除外が教示にも及ぶことを明記している。教示義務の解除事由は、通報者の意思と物理的な連絡可能性に限られる、というのが実務の到達点である。

5-3 「権限を有しない行政機関」——判断の単位

権限の有無は、行政機関の単位で判断される。ここで注意すべきは、「行政機関」の単位が組織法上どこまでの粒度を指すかである。第2条第4項第1号は府省庁等とその置かれる機関、及び法律上独立に権限を行使することを認められた職員を挙げ、同項第2号は地方公共団体の機関(議会を除く)を挙げる。

したがって、同一の府省の内部で所管課が異なるにすぎない場合は、第14条の教示の問題ではなく、内部の取次ぎの問題である。消費者庁における外部の労働者等からの通報等への対応手続に関する訓令は、通報・相談窓口が受け付けた通報について、適切な主管課に取り次ぐこと(内部処理)と、他の行政機関を教示すること(第14条の履行)とを、同一条文の中で二つの号に書き分けている。国の行政機関の内部規程を設計する際は、この区別を条文上明示しておくと運用が安定する。

地方公共団体においては、市長事務部局、教育委員会、公営企業などが別個の機関を構成する。同一の地方公共団体の内部であっても機関が異なれば形式的には第14条の場面になり得るが、住民から見て一つの自治体である以上、内部の連携によって処理することが実質的な要請に適う。

5-4 「当該行政機関は」——義務の名宛人

義務を負うのは、通報が届いた当の行政機関である。教示義務は第13条第2項の体制整備義務とは異なり、権限を有しない行政機関にも及ぶ。消費者庁の制度解説も、権限を有しない行政機関に課される義務として教示義務を掲げている。

ここに第13条との対照がある。第13条第1項の調査・措置義務と第2項の外部通報対応体制整備義務は、いずれも「処分又は勧告等をする権限を有する行政機関」を名宛人とする。これに対し第14条は、権限を持たないことを理由に何もしないという選択肢を封じるための規定である。国の全府省庁、都道府県、市町村、特別区のすべてが、自らの所管外の通報を受け取る可能性を前提に、第14条の履行体制を持たなければならない。

5-5 「教示しなければならない」——義務の内容と水準

法文は義務の履行方法、期限、書面性のいずれも定めていない。この空白をガイドラインが埋めている。

国及び地方公共団体向けガイドライン(外部の労働者等からの通報)は、通報の受付段階について、通報内容となる事実について当該行政機関(当該地方公共団体)が権限を有しないときは、権限を有する行政機関を、通報者に対し、遅滞なく教示する、と定める。「遅滞なく」が実務上の期限の目安となる。

教示の水準について、消費者庁の行政機関向けQ&A(外部の労働者等からの通報)は、通報者が何度も行政機関の間を行き来することがないよう、具体的な通報内容及び教示先に関する資料等に基づき適切な行政機関を紹介することが望まれる、としている。法律名を告げるだけ、あるいは「当庁の所管ではない」と述べるだけでは、この水準に達しない。求められているのは、当該事案について実際に権限を行使できる機関の特定である。

教示先の調べ方についても同Q&Aは指針を示しており、消費者庁ウェブサイトの「公益通報の通報先・相談先 行政機関検索」ページで検索できること、不明な点は消費者庁の公益通報者保護制度相談ダイヤル(一元的相談窓口)に問い合わせることも可能であることを案内している。教示義務を負う行政機関の側にも、国の一元的な照会先が用意されている。

5-6 受理後に権限がないと判明した場合

第14条の文理は、通報が「誤って……されたとき」に教示義務が生ずるとしており、受付の時点を想定した書きぶりになっている。しかし実務では、いったん受理して調査を進めた後に、他の行政機関に権限があることが判明する場合がある。

国及び地方公共団体向けガイドライン(外部の労働者等からの通報)は、この場面を「受理後の教示」として独立に定める。通報事案の受理後において、当該行政機関ではなく他の行政機関が処分又は勧告等をする権限を有することが明らかになったときは、権限を有する行政機関を、通報者に対し、遅滞なく教示するものとし、さらに、当該教示を行う行政機関は、適切な法執行の確保及び利害関係人の営業秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において、自ら作成した当該通報事案に係る資料を通報者に提供する、としている。

受理後の教示に資料提供が付加されている点は見落とされやすい。通報者は、最初の行政機関で説明と資料提出を済ませている。そこから改めて別の行政機関に一から説明し直すことになれば、通報を断念する誘因になる。自ら作成した資料を通報者に渡すという運用は、この負担を軽減するための工夫である。消費者庁の訓令第12条、文部科学省外部公益通報対応要綱も同旨の定めを置いている。

5-7 権限を有する行政機関が複数ある場合

消費者庁の行政機関向けQ&A(外部の労働者等からの通報)は、通報を受けた行政機関に処分又は勧告等を行う権限がなく、他に権限を有する行政機関が複数存在する場合は、通報を受けた行政機関は、通報者に対し、それら複数の行政機関を教示することになる、としている。一つに絞る必要はなく、絞れば通報者の選択肢を狭めることになる。

これに対し、通報を受けた行政機関自身が権限を有する場合には、その行政機関が自ら調査を行い、措置をとることとすれば足り、他の権限を有する行政機関を教示する必要は必ずしもない、とされている。第14条は権限を有しない機関の義務であるから、当然の帰結である。

なお、通報者の側の保護要件については、消費者庁の公益通報者保護制度Q&Aが、1つの通報対象事実について複数の行政機関が処分又は勧告等をする権限を有している場合には、その複数の行政機関のいずれに2号通報をしてもよく、複数の行政機関に2号通報をすることもできる、と整理している。

5-8 犯罪行為に関する通報と捜査機関の教示

通報された事実に刑罰規定違反がうかがわれ、警察が対処することが適切と考えられる一方で、当該行政機関も処分又は勧告等をする権限を有する場合がある。消費者庁の行政機関向けQ&Aは、この場面について、捜査機関を教示することも考えられるが、そのような教示を行った場合であっても、当該行政機関が法に基づく義務を履行する必要がなくなるわけではない、と注意を促している。

捜査機関への案内は、第13条第1項の調査・措置義務からの離脱を意味しない。第13条第3項が犯罪の捜査及び公訴について刑事訴訟法の定めるところによるとしているのは、捜査・公訴の手続に第13条第1項及び第2項が及ばないという趣旨であって、行政機関の行政上の権限行使まで免除するものではない。教示を、事案を手放す口実に用いてはならない。


6 第14条が抱える三つの空白

6-1 保護要件の空白——誤った宛先への通報は2号通報にならない

第3条第1項第2号は、通報先を「当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等」と限定している。権限を有しない行政機関への通報は、この文言に当たらない。したがって、教示を受けるまでの通報は、それ自体としては2号通報として保護されない。

この点は制度の急所である。労働者が誤った役所に通報し、その事実が勤務先に伝わって不利益な取扱いを受けたとしても、第3条第1項第2号による保護は直ちには及ばない。第3条第1項第3号(その他の外部通報先)の該当性を検討する余地はあるが、同号は真実相当性に加えてイからヘまでのいずれかの事由を要求しており、要件は格段に重い。

もっとも、令和7年改正で新設された第11条の3(通報者探索の禁止)については、事情が異なる。消費者庁の公益通報者保護制度Q&Aは、第3条第1項各号の要件を満たしていなかったとしても、第2条第1項に規定する「公益通報」を行った「公益通報者」であれば、通報者探索の禁止の規定は適用される、と明示している。第2条第1項の「公益通報」の定義には権限を有する行政機関への通報が含まれるものの、誤って権限なき機関に通報した場合の扱いについては、なお解釈の余地が残る。事業者としては、通報先の適否を自ら判定して探索行為を正当化する発想を持つべきではない。

実務的な帰結は次のとおりである。通報者は、教示を受けたら、教示された行政機関に対して改めて通報しなければ、2号通報としての保護を確保できない。行政機関は、教示を行う際に、この点を通報者に伝えることが望ましい。教示さえ受ければ最初の通報が遡って保護されるかのような誤解を残すと、通報者が救済の機会を失う。

6-2 移送の空白——行政不服審査法との構造比較

行政不服審査法は、誤った教示があった場合の救済を法律自体に組み込んでいる。同法第22条は、処分庁が誤って審査請求をすべき行政庁でない行政庁を審査請求すべき行政庁として教示した場合において、その教示された行政庁に書面が提出されたときは、当該行政庁が書面を処分庁又は審査庁に送付し、その旨を審査請求人に通知しなければならないとし、送付されたときは、初めから審査庁に審査請求がされたものとみなす、という効果まで定める。同法第83条は、教示をしなかった場合に処分庁に不服申立書を提出できる仕組みを置く。

公益通報者保護法には、これに対応する規定がない。権限なき行政機関に届いた通報を権限機関へ送付する法定の仕組みも、送付によって当初の通報時点に遡って2号通報がされたものとみなす規定も存在しない。第14条が用意したのは、通報者に対して行き先を教えるという一方向の情報提供だけである。

この空白を、実務は情報提供という形で部分的に埋めている。消費者庁の訓令第8条第2項は、他の行政機関を教示する場合において、通報等に個人の生命、身体、財産その他の利益に重大な影響を及ぼす可能性のある内容が含まれているときは、通報等に関する秘密保持に留意しつつ、個人情報の保護に関する法令等に従い、当該他の行政機関に当該内容について情報提供をすることができる、と定める。同訓令第12条第2項も受理後の教示について同旨を定める。ただしこれは「できる」規定であり、しかも情報提供の対象は事案の内容であって、通報者の地位を移すものではない。通報者が改めて権限機関に通報する必要は残る。

6-3 制裁と救済の空白

第14条には罰則がない。第21条から第24条までの罰則規定はいずれも第14条を掲げていない。行政措置も及ばない。第15条(助言及び指導)、第15条の2(勧告及び命令等)、第16条(報告及び検査)は、いずれも第11条に係る事業者の義務を対象としており、第14条の履行状況を対象としていない。加えて第20条が、これらの規定を国及び地方公共団体には適用しないと定めている。

教示は処分ではないから、教示の懈怠について審査請求や取消訴訟を提起することもできない。行政事件訴訟法上の不作為の違法確認の訴えも、法令に基づく申請に対する処分の不作為を対象とするものであり、教示の懈怠はこれに当たらない。

残る救済手段は二つである。第一は、消費者庁の公益通報者保護制度相談ダイヤル(一元的相談窓口)への苦情申出である。同窓口は、公益通報に関する行政機関の不適切な対応があった場合の苦情に関する相談として、不当に通報を受理又は教示しない場合、明白に通報を放置された場合、秘密情報を漏洩された場合を明示的に受付対象に掲げている。教示の懈怠が国の一元的窓口の受付類型に列挙されていることは、この問題が現に生じていることの裏返しでもある。

第二は、国家賠償法第1条第1項に基づく損害賠償請求である。ただし、行政機関の権限不行使が国家賠償法上違法と評価されるための判断枠組みは厳格である。最高裁は宅地建物取引業法に基づく監督処分権限の不行使について、最判平成元年11月24日民集43巻10号1169頁において、当該権限の不行使が著しく不合理と認められるときでない限り国家賠償法上違法の評価を受けないとした。その後、最判平成16年4月27日民集58巻4号1032頁(筑豊じん肺訴訟)、最判平成16年10月15日民集58巻7号1802頁(水俣病関西訴訟)は、規制権限の趣旨・目的、被侵害利益の重大性、予見可能性、結果回避可能性等に照らして権限不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くときに違法となるとの枠組みを示し、実際に国及び県の責任を認めた。

教示の懈怠にこの枠組みを当てはめるとすれば、教示をしなかったことと通報者に生じた損害との因果関係が壁になる。教示があれば正しい機関に通報が届き、調査が行われ、被害が防止されたという連鎖を立証することは容易でない。第14条の履行を法的責任の脅威によって確保することは、現実には期待しにくい。


7 判例・裁判例

7-1 第14条を直接適用した公刊裁判例

第14条を正面から適用し、教示義務違反を理由に法的責任を認めた公刊裁判例は見当たらない。消費者庁が実施している公益通報等に関する裁判例の収集・分析業務の成果物にも、第14条を争点とする事案は収録されていない。前節で述べたとおり、教示の懈怠のみを取り出して争う訴訟形式が乏しいことが背景にある。

このことは、第14条が守られているという意味ではない。争われないだけである。行政機関の側から見れば、第14条の遵守は訴訟リスクによってではなく、組織内部の規範と職業倫理によって支えられている。内部規程の整備と研修が実質的な担保となる。

7-2 通報先の選択が保護の分水嶺となった裁判例

第14条の背景にある問題、すなわち通報先の選択が通報者の運命を左右するという構造は、公益通報者保護法制定前後の内部告発裁判例に繰り返し現れている。

トナミ運輸事件(富山地判平成17年2月23日労判891号12頁)は、運送会社の従業員が同業他社との運賃協定について公正取引委員会及び報道機関に情報を提供したところ、長期にわたり昇進・昇格から排除された事案である。裁判所は、告発内容の公益性と手段の相当性を検討したうえで、会社の処遇を違法と評価し損害賠償を命じた。通報先の選択が相当であったか否かが判断の枢要部分を占めている。

大阪いずみ市民生活協同組合事件(大阪地堺支判平成15年6月18日労判855号22頁)も、生活協同組合の職員が理事長の公私混同を内部で問題提起し、その後外部に情報を出したことに対する解雇等の効力が争われ、解雇が無効とされた事案である。ここでも、いかなる順序でどこに問題を持ち込んだかが、正当性判断の中心にあった。

公益通報者保護法は、これらの判例が個別に行っていた利益衡量を、通報先ごとの保護要件という形で類型化した。その類型化の副作用として、宛先を誤った通報が要件の網から落ちるという事態が生ずる。第14条は、この副作用を行政の作為によって緩和しようとする規定として位置づけられる。

7-3 行政機関に通報した後の不利益取扱いに関する裁判例

消費者庁が公表した令和4年度の公益通報等に関する裁判例の収集・分析業務の一覧表には、都道府県警の捜査費等不正支出問題を告発した警察官に対する説得行為、配置換え及び勤勉手当の減額の措置等が社会通念上著しく不合理であるとして違法とされ、慰謝料100万円の支払が命じられた事例が収録されている。行政機関を舞台とする通報について、通報後の処遇が司法審査に服することを示す例である。

行政機関は、外部の労働者等からの通報を受け付ける立場であると同時に、自らも事業者として内部の職員等からの通報を受け付ける立場に立つ。消費者庁の行政機関向けQ&A(全般)も、行政機関が事業者としての立場、権限を有する行政機関としての立場、民間事業者の取組を促進支援する主体としての立場という複数の役割を担うことを整理している。第14条は第二の立場に関する規定であるが、第一の立場での対応の質が問われる場面と地続きである。


8 ガイドライン及びQ&Aによる具体化

8-1 国の行政機関向けガイドライン(外部の労働者等からの通報)

同ガイドラインは「3.通報への対応」の冒頭に「(1)通報の受付と教示」を置く。その④が第14条の具体化である。通報内容となる事実について、当該行政機関が権限を有しないときは、権限を有する行政機関を、通報者に対し、遅滞なく教示するものとされている。

同ガイドラインは、①で、各行政機関に通報があったときは、法及び本ガイドラインの趣旨を踏まえ、誠実かつ公正に通報に対応しなければならず、正当な理由なく通報の受付又は受理を拒んではならない、と定める。教示の前提として、受付そのものを拒まないことが求められている。「所管外なので受け付けられない」という応対は、この規定に反する。

②は、通報を受け付けたときに、通報に関する秘密は保持されること、個人情報は保護されること、通報受付後の手続の流れ等を通報者に対し説明すべきことを定めたうえで、通報者が説明を望まない場合、匿名による通報であるため通報者への説明が困難である場合その他やむを得ない理由がある場合はこの限りでないとし、この除外が④の教示及び(3)の教示・資料提供にも同様に及ぶことを括弧書きで明示している。

(3)の「受理後の教示」については前述のとおりである。

8-2 地方公共団体向けガイドライン(外部の労働者等からの通報)

地方公共団体向けガイドラインも、同一の構造を採る。「(1)通報の受付と教示」の④は、通報内容となる事実について、当該地方公共団体が権限を有しないときは、権限を有する行政機関を、通報者に対し、遅滞なく教示する、と定める。「(3)受理後の教示」も、通報事案の受理後において、当該地方公共団体ではなく他の行政機関が処分又は勧告等をする権限を有することが明らかになったときの教示と資料提供を定めている。

国の行政機関向けガイドラインとの相違は、受理・不受理の通知に関する語尾である。国の行政機関向けガイドラインが「通知しなければならない」とするのに対し、地方公共団体向けガイドラインは「通知する」としている。前者が関係省庁間の申合せ、後者が地方自治法第245条の4第1項に基づく技術的な助言であるという法的性格の差を反映したものである。もっとも、教示に関する④及び(3)は、いずれも「教示する」で統一されている。

消費者庁の行政機関向けQ&A(全般)は、国の行政機関向けガイドラインに記載されている事項については基本的に各省庁が定める内部規程に盛り込む必要があるのに対し、地方公共団体向けガイドラインに記載されている事項については基本的に各地方公共団体が定める内部規程に盛り込むことが望ましい、と整理している。自治体においては、この「望ましい」を実際に規程へ落とし込むかどうかが、運用の質を分ける。

8-3 行政機関向けQ&A(外部の労働者等からの通報)の該当箇所

令和8年5月29日時点の公益通報者保護制度Q&Aは、第14条に関して連続する五問を置いている。

  • Q12:本法に規定されている「教示」(本法第14条)はどのように行えばよいですか。
  • Q13:「教示」(本法第14条)をするための、処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等は、どのようにして調べればよいですか。
  • Q14:消費者庁ウェブサイトの「公益通報の通報先・相談先 行政機関検索」ページでは、通報先が市町村となっている法律が少ないようですが、記載されている法律以外の通報に関して市町村は通報先にならないと考えてよいですか。
  • Q15:ある通報の内容について、処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等が複数存在する場合、どのように対応(本法第14条「教示」を含む。)すればよいですか。
  • Q16:ある行政機関に通報された事実について、刑罰規定に違反していることが伺われ、警察が対処することが適切だと考えられますが、通報された事実について当該行政機関も処分又は勧告等をする権限を有しています。どのように対処すればよいですか。

さらにQ29が、行政機関に対し外部の労働者等からの通報があった場合における、受付・受理・(受け付けた行政機関に権限等がなかった場合における)教示の先後関係を扱っている。受付は通報を受けること、受理は調査又は措置を行う必要性があるものとして受け付けることであり、両者は段階が異なる。権限がない場合の教示は、受理の判断を待たずに行うべき性質のものである。

Q14の回答は、自治体担当者にとって見落とせない内容を含む。同ページは公益通報の対象となる犯罪行為等を規定する法律をベースに作成しており、通報先となり得る行政機関を網羅したものではないこと、対象法律の中には各都道府県の条例により都道府県から市町村へ処分又は勧告等をする権限が移されている場合があり、これらは各都道府県によって適用範囲が異なるため同ページでは全国に共通して適用される範囲のみを掲載していること、市町村を含む各行政機関は自らの有する処分又は勧告等をする権限を踏まえて適切に2号通報に対応する必要があること、が示されている。検索システムに自らの名が出ていないことは、権限がないことの証明にはならない。

8-4 指針及び指針の解説との関係

事業者の体制整備義務については、法第11条第4項に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号。令和8年3月31日一部改正内閣府告示第15号)と、その運用を示す指針の解説(令和3年10月13日消費者庁。令和8年3月31日最終改正)が置かれている。指針の解説は、指針本文、指針の趣旨、指針を遵守するための考え方や具体例、指針を遵守するための取組を超えて事業者が自主的に取り組むことが期待される推奨事項に関する考え方や具体例、という四層構造で記述される。

第14条の教示義務については、これに対応する指針が存在しない。第13条第2項の外部通報対応体制整備義務についても指針は策定されていない。消費者庁のQ&Aは、その理由として、2号通報に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置は、通報対象事実に係る法律の規定による権限の行使に関わるものであり、一義的には処分又は勧告等をする権限を有する各行政機関で判断されるべき事項であることから、内部公益通報対応体制の整備等とは異なり指針を策定することとされておらず、各行政機関はそれぞれの実情等も勘案して法が求める措置を講ずる必要がある、と説明している。第14条についても同じ理が妥当する。

ただし、指針の解説が定める措置の射程は、第14条と無縁ではない。指針の解説は、組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置、公益通報対応業務の実施に関する措置、公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置について、内部公益通報受付窓口以外にも、従事者ではない上司等に対する内部公益通報、2号通報及び3号通報についても、一定の場合には同様の措置をとるべきものとしている。行政機関に対する2号通報が事業者の知るところとなったとき、事業者はこれを内部公益通報と同様に扱う必要がある。教示を経て権限機関に届いた通報が事業者に照会として現れる場面が、まさにこれに当たる。

8-5 各行政機関の内部規程における実装例

消費者庁——外部の労働者等からの通報等への対応手続に関する訓令は、第6条第2項で、受け付けた通報等の内容について処分又は勧告等をする権限を他の行政機関が有するときは、当該権限を有する他の行政機関を通報者等に対して遅滞なく教示する旨を定める。第8条第1項は、通報・相談窓口が受け付けた際にとるべき措置として、第1号に適切な主管課への取次ぎ、第2号に他の行政機関の教示その他適切な措置を掲げ、内部処理と教示を書き分けている。第12条は受理後の教示を定め、資料の提供と、重大な影響を及ぼす可能性がある内容についての他機関への情報提供を規定する。第16条第3項は、通報等への対応の各段階として通報等の受付、教示、調査、措置及び通報者等への結果通知を列挙し、教示の段階においても秘密保持と個人情報保護を遵守すべきことを明示している。

厚生労働省——外部の労働者等からの通報に対する事務手続に関する訓令は、他の行政機関の所管する法律に係る通報又は相談である場合その他主管課が権限を有しない場合における教示について、通報者が教示を望まない場合、匿名による通報であるため通報者への教示が困難である場合その他やむを得ない理由がある場合を除く、との但書を明示的に置いている。

文部科学省——外部公益通報対応要綱は、通報事案の受理後において他の行政機関が処分又は勧告等をする権限を有することが明らかになったときの遅滞ない教示と、支障がない範囲での自ら作成した資料の通報者への提供を定めている。

北海道——公益通報等の処理に関する要綱(外部の労働者等からの通報)は、要件審査の結果、通報対象事実等について知事が処分又は勧告等の権限を有しないことが明らかになった場合は、処分又は勧告等の権限を有する行政機関を遅滞なく通報者に教示する、と定める。要件審査という自治体独自の手続段階に教示を組み込んでいる例である。

自治体が内部規程を作成する際は、これらの実装例のうち、受付段階の教示、受理後の教示、資料提供、教示段階における秘密保持、の四点を最低限盛り込むことが実務的な出発点となる。


9 運用の実態——数字が示す第14条の比重

消費者庁が公表している「消費者庁で受け付ける公益通報等の運用状況」は、第14条の実務上の比重を示す数少ない公開データである。

年度受付総数受理数(合計)受付から受理・不受理の連絡までの平均日数
2022年度390通73件4.81日
2023年度510通68件2.17日
2024年度521通77件5.98日
2025年度689通106件8.03日

受付事案の概要として、消費者庁は、同庁に行政指導・行政処分の権限がある事案のほか、当庁の所管外の事案(犯罪事実に関する事案、勤務先の労働条件・ハラスメント等に関する事案、地方公共団体に処分等の権限がある事案、一般消費者としての消費生活に関する相談など)が寄せられることも多く、割合としては所管外が約8割であり、こうした事案については適切な所管行政庁や相談窓口などを教示している、と説明している(2024年度及び2025年度の記載)。

この数字の読み方は二通りある。

一つは、第14条の教示こそが行政機関の通報窓口の主たる業務であるという読み方である。消費者庁のような、公益通報者保護法を所管し制度の周知を最も熱心に行っている機関ですら、届く通報の約8割が所管外である。地方公共団体の窓口においても同様の構造が生じていると考えるべきである。教示を例外的な事務と位置づけた体制設計は、実態と乖離する。

もう一つは、通報先を誤る通報者がこれだけ存在するという読み方である。2025年度の受付総数689通のうち約8割が所管外であれば、五百通以上が教示を要した計算になる。制度の入口で通報者が迷っている以上、行政機関検索システムの改善や周知の強化とあわせて、教示の質を上げることが制度全体の実効性を左右する。

なお、受付から受理又は不受理の連絡までの平均日数は2023年度の2.17日から2025年度の8.03日へと伸びている。受付総数の増加に対応が追いついていない可能性を示唆する数字であり、教示についても「遅滞なく」の水準を維持できているかを点検する契機となる。

消費者庁は、法解釈や通報先に関する相談を受け付ける公益通報者保護制度相談ダイヤル(一元的相談窓口)を設けており、その受付対象に、公益通報に関する通報先(権限を有する行政機関の特定が難しい通報事案)に関する相談と、公益通報に関する行政機関の不適切な対応があった場合の苦情に関する相談(不当に通報を受理又は教示しない場合、明白に通報を放置された場合、秘密情報を漏洩された場合)を掲げている。教示に困った行政機関も、教示を受けられなかった通報者も、同じ窓口に照会できる構造になっている。


10 地方公共団体における適用

10-1 自治体は「権限を有しない行政機関」になりやすい

地方公共団体の機関(議会を除く)は第2条第4項第2号により「行政機関」に当たる。住民に最も近い窓口であるがゆえに、自治体には所管外の通報が集中する。市役所の窓口に、勤務先の残業代未払いや、産業廃棄物の不法投棄や、金融商品の不正販売に関する話が持ち込まれる。そのほとんどについて、当該市町村は処分又は勧告等をする権限を持たない。

権限の所在は、法律ごと、事務の区分ごとに細分化されている。担当者が押さえておくべき典型的な配分を挙げる。

分野権限を有する行政機関の典型
食品衛生法(営業許可・監視指導)都道府県知事、保健所を設置する市の市長、特別区の区長
廃棄物処理法(一般廃棄物)市町村長
廃棄物処理法(産業廃棄物)都道府県知事、政令で定める市の長
旅館業法都道府県知事、保健所を設置する市の市長、特別区の区長
労働基準法・労働安全衛生法労働基準監督署長、都道府県労働局長(国の機関。市町村に権限なし)
建設業法(監督処分)国土交通大臣又は許可をした都道府県知事
貨物自動車運送事業法・道路運送法国土交通大臣(地方運輸局長等への委任)
独占禁止法公正取引委員会(地方公共団体に権限なし)
景品表示法(措置命令)内閣総理大臣(消費者庁長官)及び都道府県知事
特定商取引法主務大臣及び都道府県知事
介護保険法(指定・指導監督)都道府県知事(居宅サービス等)、市町村長(地域密着型サービス等)

同じ「廃棄物」でも一般廃棄物か産業廃棄物かで教示先が変わり、同じ「食品衛生」でも保健所設置市かどうかで変わる。教示は、法律名の判定と事務配分の判定という二段階の作業を要する。

10-2 条例による権限移譲という変数

前述のQ14が指摘するとおり、対象法律の中には、各都道府県の条例により都道府県から市町村へ処分又は勧告等をする権限が移されている場合がある。事務処理の特例に関する条例(地方自治法第252条の17の2)による移譲がその典型である。移譲の範囲は都道府県ごとに異なるため、全国共通の検索システムには反映されない。

自治体の通報窓口は、自らの団体が条例により移譲を受けている事務の一覧を、公益通報の観点から棚卸ししておく必要がある。棚卸しを怠ると、二つの誤りが生ずる。第一に、自らに権限があるにもかかわらず所管外として教示してしまう誤り。第二に、権限がないにもかかわらず抱え込み、調査を進めた末に受理後の教示に至る遅延である。いずれも通報者の負担となる。

10-3 三つの立場の切り分け

消費者庁の行政機関向けQ&Aは、公益通報者保護制度において行政機関が、内部の職員等から当該行政機関内部の法令違反行為等に関する通報を受け付ける「事業者」としての立場、所管の事業者に勤務する外部の労働者等から法令違反行為に関する通報を受け付ける「権限を有する行政機関」としての立場、民間事業者の取組を促進支援する主体としての立場のそれぞれに基づく役割を果たすことが求められる、と整理している。

第14条は第二の立場の周縁に位置する。すなわち、権限を有する行政機関としての通報受付体制を持つ自治体が、その体制の中で所管外の通報を受け取ったときの処理を定める。ここで実務上の混乱が起きやすいのは、内部の職員等からの通報窓口と外部の労働者等からの通報窓口を兼ねている場合である。消費者庁のQ&Aは、組織の実態に応じて内部公益通報受付窓口及び2号通報の受付窓口が他の窓口(行政相談窓口やハラスメント通報・相談窓口等)を兼ねることは可能としている。兼ねること自体は差し支えないが、内規において、受け付けた通報が内部由来か外部由来か、自団体に権限があるか否か、という二軸で処理を分岐させる手順を明文化しておくことが求められる。

一部事務組合についても、消費者庁のQ&Aは、事業者としての内部通報対応に係る対応体制の整備等と、外部通報対応に係る対応体制の整備の二種類を実施する必要があるとしている。構成団体との権限関係を踏まえた教示先の整理が要る。

10-4 教示は住民サービスの一部でもある

第14条が対象とするのは公益通報者であり、一般住民からの情報提供ではない。しかし、窓口に届いた段階で両者を区別することは困難である。国及び地方公共団体向けガイドライン(外部の労働者等からの通報)が、法に基づく公益通報以外の通報についても、一定の場合には公益通報に準ずる通報として法第13条第1項に規定する必要な調査を行い、通報対象事実又はその他の法令違反の事実があると認めるときは法令に基づく措置その他適当な措置をとるものとし、さらに各行政機関が法令遵守を図るため法に基づく公益通報以外の通報を受け付けることができるとしているのは、この現実を踏まえたものである。

教示の運用も同様に考えるのが実際的である。公益通報該当性を判定してから教示するのではなく、所管外と分かった時点で適切な行政機関を案内する。この運用は、行政手続法第36条の3(処分等の求め)の申出先を誤った住民への対応とも整合する。同条の申出は、法令に違反する事実の是正のためにされるべき処分又は行政指導をする権限を有する行政庁又は行政機関に対して行うものとされており、宛先を誤れば同条の申出とならない。同条には教示の規定が置かれていないため、公益通報者保護法第14条の運用に合わせて案内することが、住民の便益に資する。


11 企業実務への含意

11-1 民間事業者にも「教示」の発想がある

第14条は行政機関の義務を定めるものであり、事業者には適用されない。しかし、同じ発想が事業者側の実務にも組み込まれている。

消費者庁の公益通報者保護制度Q&Aは、内部公益通報受付窓口には該当しない通報窓口(非内部公益通報受付窓口)を別途設ける場合について、通報者が通報先の窓口が内部公益通報受付窓口であるか、これに該当しない窓口であるかを明確に認識・理解できることが必要であるとし、事業者が講ずべき措置の一つとして、非内部公益通報受付窓口を内部公益通報受付窓口と誤解して通報してきた通報者に対し内部公益通報受付窓口を教示することを挙げている。行政機関における第14条と同型の作為が、事業者にも求められている。

複数の窓口を持つ企業は、この点を内部規程に落とし込んでおくべきである。ハラスメント相談窓口、監査部門のホットライン、労働組合、お客様相談室など、通報が入り込み得る経路をすべて洗い出し、それぞれについて、内部公益通報受付窓口への案内をどのタイミングでどのように行うかを定める。

11-2 通報先の案内が通報妨害にならないよう設計する

令和7年改正で新設された第11条の2は、正当な理由がなく、公益通報をしない旨の合意をすることを求めること、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げることその他の行為によって、公益通報を妨げることを禁じ、これに違反してされた合意その他の法律行為を無効とする。

消費者庁のQ&Aは、「まずは上司に通報」「内部公益通報受付窓口へ通報するには、その前に、上司への通報が必須」「優先順位としてまずは上司に通報すべき」というような案内は公益通報者保護制度の趣旨にそぐわないため避けるべきものと考えられるとし、外部公益通報を禁じたり、まず内部公益通報をするよう公益通報の順序を強制したりすることは通報妨害に該当し得るとともに、そのような内部規程を作成した場合は3号通報の保護要件である「役務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合」(第3条第1項第3号ニ)にも該当し得ると整理している。

教育研修において行政機関への通報先を紹介すること自体は、通報妨害ではない。むしろ、消費者庁の行政機関検索システムの存在を従業員に周知することは、法及び指針に定める周知義務の一環として位置づけられる。避けるべきなのは、順序を強制する言い回しである。「まず社内窓口へ、それでも解決しなければ行政へ」という順序表現を、「社内窓口、行政機関、その他の外部通報先のいずれにも通報できる」という並列表現に改めるだけで、リスクは大きく下がる。

11-3 行政機関から照会が来たときに何をしてはならないか

教示を経て権限を有する行政機関に通報が届けば、事業者に対する調査や照会という形で現れることがある。この局面で事業者が犯しやすい誤りが、通報者探索である。

第11条の3は、第2条第1項各号に定める事業者が、正当な理由がなく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為をしてはならない、と定める。消費者庁のQ&Aは、表面上は別の目的を掲げつつ実際には通報者探索目的で調査していたのであれば正当な理由のない通報者探索に該当し得るとし、通報者探索目的を有しながらこれを秘匿したうえでアンケート等を利用して調査を行う行為も該当し得るとしている。行政の立入調査を受けた直後に「誰が話したのか」を洗い出す社内調査は、典型的な違反類型となる。

同時に事業者は、指針の解説が求める「同様の措置」を講ずる必要がある。消費者庁のQ&Aは、権限を有する行政機関等に対して行われた外部公益通報について、当該行政機関等による調査が実施され、かつ、当該行政機関等が事業者内部の労働者及びフリーランス等しか知り得ない事情を把握していることが判明した場合を、事業者が2号通報の存在を認知する端緒の例として挙げている。認知した以上、通報対象事実についての調査及び是正等の対応が必要と判断されるときは、組織の長その他幹部からの独立性の確保、公益通報対応業務の実施、利益相反の排除の各措置を、内部公益通報受付窓口で受け付けた場合と同様に講じなければならない。

やるべきこと(是正のための調査)とやってはならないこと(通報者の特定)が、同じ情報を出発点として同時に要求される。この切り分けを担当者任せにせず、内部規程と研修で明文化しておくことが、第11条の3違反を避ける最も確実な方法である。

11-4 通報者側の視点を持つ意義

自社の従業員が行政機関に通報し、宛先を誤り、教示を受けて改めて通報し直す。この経路をたどる間、当該従業員は、最初の通報が保護されるのかどうかを知らないまま不安を抱えている。企業のコンプライアンス部門が、社内で解決できる問題を社内で解決できていれば、この経路自体が生じない。

第14条の運用実態が示す「所管外が約8割」という数字は、行政の側から見れば教示の負担であるが、事業者の側から見れば、内部通報制度が機能していれば外に出なかったかもしれない通報の総量でもある。第11条第2項の体制整備義務を、罰則回避のための形式的な整備として捉えるか、この総量を減らすための実質的な仕組みとして捉えるかで、企業の到達点は変わる。


12 経過措置と適用関係

第14条は令和7年改正で変更されていないため、施行日前後で条文の内容に断絶は生じない。もっとも、適用関係については確認しておくべき点が二つある。

第一に、令和7年改正法附則第2条は、この法律による改正後の公益通報者保護法の規定(罰則を除く。)は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前にされたこの法律による改正前の公益通報者保護法第2条第1項に規定する公益通報にも適用する、と定めている。第14条は罰則ではないため、令和8年12月1日より前にされた公益通報についても改正後の第14条が適用される。第14条の内容が変わっていない以上、実務上の差異は生じない。

平成16年制定時の附則第1条が、この法律の施行後にされた公益通報について適用する、として遡及適用を否定していたのと比べると、令和7年改正の適用範囲の設計は大きく異なる。改正法の各規定を検討する際は、この附則第2条の一般原則をまず確認する習慣を持つべきである。

第二に、第14条の運用を支えるガイドラインは、令和8年5月29日付けで一部改正されている。改正後のガイドラインは、フリーランス等を含む通報者の範囲の拡大を反映しており、教示の対象となる通報者の外延も広がっている。施行日を待たずにガイドラインが先行して改正されているため、自治体及び国の行政機関は、令和8年12月1日までに内部規程の改正を完了させる必要がある。


13 実務チェックリスト

13-1 民間事業者向け

  • 内部公益通報受付窓口と、それ以外の相談窓口(ハラスメント、監査、お客様相談等)の区別を、従業員が認識できる形で周知しているか
  • 内部公益通報受付窓口でない窓口に公益通報が届いた場合に、内部公益通報受付窓口を案内する手順を内部規程に定めているか
  • 周知資料において、通報先を社内窓口・行政機関・その他の外部通報先の並列として説明しているか。順序を強制する表現が残っていないか
  • 消費者庁の「公益通報の通報先・相談先 行政機関検索」の存在を、従業員向けの周知に含めているか
  • 行政機関からの調査・照会を受けた際に、通報者を特定する目的の社内調査を行わない旨を内部規程に明記し、研修で徹底しているか
  • 2号通報の存在を認知した場合に、内部公益通報受付窓口で受け付けた場合と同様の措置(独立性の確保、調査・是正の実施、利益相反の排除)をとる手順を定めているか
  • 退職者及び特定受託業務従事者(フリーランス)に対しても、通報先に関する周知を行っているか

13-2 国の行政機関・地方公共団体向け

  • 外部の労働者等からの通報を受け付ける窓口を設置し、正当な理由なく受付又は受理を拒まない旨を内部規程に明記しているか
  • 自らに権限がないと判明した場合の教示について、「遅滞なく」の期限とともに内部規程に定めているか
  • 受理後に他の行政機関に権限があると判明した場合の教示と、自ら作成した資料の通報者への提供を、内部規程に定めているか
  • 教示を要しない場合(通報者が教示を望まない場合、匿名により教示が困難な場合その他やむを得ない理由がある場合)を内部規程に明示しているか
  • 教示先を特定する際、法律名を告げるだけでなく、当該事案について実際に権限を行使できる機関を特定する運用としているか
  • 権限を有する行政機関が複数ある場合に、その全部を教示する運用としているか
  • 犯罪行為に係る事案について捜査機関を教示した場合であっても、自らの第13条第1項の義務が残ることを担当者に理解させているか
  • 消費者庁の行政機関検索システムと公益通報者保護制度相談ダイヤルを、教示先調査の手順として内部規程又は事務マニュアルに位置づけているか
  • 自団体が条例による事務処理の特例で移譲を受けている事務を棚卸しし、検索システムに掲載されていない権限の有無を把握しているか
  • 教示の段階においても、通報に関する秘密の保持と個人情報の保護を遵守すべきことを内部規程に明記しているか
  • 個人の生命、身体、財産その他の利益に重大な影響を及ぼす可能性がある内容について、他の行政機関へ情報提供する手順を定めているか
  • 教示の件数と内容を記録し、年度ごとに集計・点検する仕組みを設けているか
  • 内部の職員等からの通報窓口と外部の労働者等からの通報窓口を兼ねている場合に、通報の由来と権限の有無で処理を分岐させる手順を明文化しているか
  • 令和8年5月29日付けで一部改正された国及び地方公共団体向けガイドラインの内容を、令和8年12月1日までに内部規程へ反映する工程表を作成しているか

14 次条への接続

第14条をもって第三章(事業者がとるべき措置等)は終わる。次の第15条からは第四章(雑則)に入り、内閣総理大臣による助言及び指導、勧告及び命令等、報告及び検査という行政措置の系列が始まる。令和7年改正の目玉の一つである命令と刑事罰の導入は、この第15条の2に置かれた。第13条及び第14条が行政機関を名宛人とし、その履行が制裁によって担保されていないのと対照的に、第15条以下は事業者を名宛人とし、罰則までの階梯を備えている。この非対称をどう評価するかは、次回の第15条(助言及び指導)の解説で扱う。


参考資料

  • 消費者庁「公益通報ハンドブック(改正法(令和8年12月施行)準拠版)」
  • 公益通報者保護法を踏まえた国の行政機関の通報対応に関するガイドライン(外部の労働者等からの通報)
  • 公益通報者保護法を踏まえた地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(外部の労働者等からの通報)
  • 消費者庁「公益通報者保護制度Q&A」(令和8年5月29日時点)
  • 公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号。令和8年3月31日一部改正内閣府告示第15号)
  • 公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説(令和3年10月13日消費者庁。令和8年3月31日最終改正)
  • 消費者庁における外部の労働者等からの通報等への対応手続に関する訓令(平成29年消費者庁訓令第44号。令和4年5月30日最終改正)
  • 厚生労働省における外部の労働者等からの通報に対する事務手続に関する訓令
  • 文部科学省外部公益通報対応要綱
  • 北海道「公益通報等の処理に関する要綱(外部の労働者等からの通報)」
  • 消費者庁「外部の労働者からの公益通報等」(消費者庁で受け付ける公益通報等の運用状況に関する公表)
  • 消費者庁「公益通報の通報先・相談先 行政機関検索」
  • 消費者庁「公益通報者保護制度相談ダイヤル(一元的相談窓口)」
  • 消費者庁「行政機関における公益通報者保護法に係る対応の徹底について」(令和7年5月22日)
  • 消費者庁「公益通報等に関する裁判例の収集・分析業務」裁判例一覧表
  • 最判平成元年11月24日民集43巻10号1169頁
  • 最判平成16年4月27日民集58巻4号1032頁
  • 最判平成16年10月15日民集58巻7号1802頁
  • 富山地判平成17年2月23日労判891号12頁
  • 大阪地堺支判平成15年6月18日労判855号22頁

◆通報窓口を受任中。希望組織はまず問い合わせを。https://compliance21.com/contact/

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